金正恩、さあ、どう応える?米大統領の対話呼びかけ

金正恩、さあ、どう応える?米大統領の対話呼びかけ

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  • 更新日:2017/11/13
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“ロケットマン”などと揶揄してきた相手にトランプ米大統領が真剣に対話を呼びかけた。11月8日、韓国国会で行った演説で、金正恩・朝鮮労働党委員長に対し、「はるかによい未来への道を提示する」と述べ、核開発断念を強く求めた。武力行使の準備を整えていることも強調したが、当面、交渉による解決を目指すという大統領の方針が鮮明になった。これに金正恩がどう応えるか。呼びかけに応じて交渉のテーブルにつくのか。拒否して新たな挑発に出るのか。いくつかのシナリオが考えられる。

現時点でのベストは、もちろん交渉開始だ。しかし、北朝鮮と米国の立場は根本的に異なるから、ことは簡単ではない。米国は、「完全かつ再開不可能、検証可能な核開発の放棄」を求めている。北朝鮮は核拡散防止条約(NPT)の核保有国として認め、北朝鮮の体制を米国が容認、保証することを要求し続けている。

(Win McNamee/Getty Images)

「核開発凍結」という妥協案も

隔たりは大きいが、北朝鮮が真剣に交渉に望むなら、何らかの妥協案が浮上するだろう。米朝双方はこれまでもニューヨークの北朝鮮国連代表部を通じた「ニューヨーク・チャネル」を通じて接触を保ってきた。今年春には、米国務省のジョセフ・ユン北朝鮮担当特別代表がオスロで、北朝鮮外務省の崔善姫(チェ・ソンヒ)米州局長と会っている。チェ局長は北朝鮮外務省の中で、政策決定に関与できる唯一の人物といわれており、こうしたルートはきわめて効果的だ。
実際、妥協案として、米国は頻繁に行っている韓国との合同軍事演習を中止し、北朝鮮はこれを受けて、核開発を「凍結」するーという解決プランが浮上している。

11月9日の米紙ワシントン・ポスト電子版は、ユン代表が核実験、ミサイル発射実験を60日間行わないことを交渉の条件とする方針を、シンクタンクの会合で明らかにしたと報じた。北朝鮮が最後にミサイル実験を強行した9月15日から、すでに60日近くが経っていることを念頭に置いた発言だろう。

米国にとって、北朝鮮の「核凍結」は交渉開始の条件だけでなく、交渉の目的、得るべき物でもあることが、ユン発言からうかがえる。

しかし、「凍結」という目標で交渉が進むかと言えば、予断を許さない。「凍結」に関して、米国に苦い経験があるからだ。1994年の米朝枠組み合意で、北朝鮮が核開発の「凍結」に同意したものの、2002年になって一方的に破棄してきた経緯がある。「今回もだまされるのか」と、米国の世論は反発するだろうし、議会はそうした妥協に同意しないだろう。

今回、交渉が始まった場合は、6カ国協議など多国間協議ではなく、米朝2国間の直接交渉になる可能性が強い。6カ国協議が事実上、失敗に終わった経験からだ。

議長国だった中国が、次回も何らかの重要な役割を担おうと、干渉してくる可能性がある。中国の北朝鮮への影響力を考慮すれば、無視できず、また、最近、北朝鮮との関係を深めているロシアも独自の思惑から、やはりモノを言ってくるだろう。

交渉開始によって、現在の緊張状態は大幅に緩和されようが、中国やロシアの動きも勘案しなければならない。日韓両国の協力も不可欠だが、両国の関係は終始、ぎくしゃくしている。こうした難しい事情を抱えて、交渉を展開していくのは容易ではない。

新たな挑発にも、武力行使は困難?

もうひとつのシナリオは、北朝鮮がトランプ提案を拒否し、新たなミサイル発射や核実験を強行してくることだ。この可能性が高いとみる専門家は少なくない。トランプ大統領の今回の提案が真剣だっただけに、そうなれば、大統領はメンツをつぶされる。

武力行使の可能性も強まるが、代償は甚大なものがある。「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ大統領だから、日本や韓国の被害など気にしないという懸念もあり、米上院外交委員会の超党派の有力メンバーが近く、大統領の権限を制約する方法について議論するとも伝えられている。

武力行使は、誰にとっても避けたいところだが、北朝鮮が米国本土に到達するような射程のミサイル実験を強行したり、米に何らかの被害を与えたりするような事態になれば、一気に現実味を帯びる。ただ、当面は在韓米軍への大幅な兵力増派という形で威嚇、牽制を強めるとみるべきだろう。

ダンマリなら“日干し”に

もうひとつの可能性は、金正恩がトランプ提案に、イエスともノーともいわず、無視を決め込むことだ。この場合は、米国も攻撃のきっかけがつかめず、現在の緊張状態が継続する。決め手をつかみあぐねた米国は、いまの制裁を継続、強化して、北朝鮮が“日干し”寸前になるまで待つしか手段がなくなる。核、ミサイル開発に関して北朝鮮と取引を行っている中国企業の制裁もいっそう強化するだろう。

しかしながら、制裁というのはいつの場合でも、罪のない市民を苦しめることになりかねず、米国としては慎重にならざるを得ない。こうしてみてくると、いずれの展開になろうとも、米国にとっては困難な途であることが理解できよう。

トランプ大統領方針変更の謎

今回のトランプ大統領の韓国国会での演説は、これまでとは大いに趣が異なっていた。韓国の繁栄をたたえ、北朝鮮の採ってきた政策がいかに無謀、誤りであるかを指摘、政策を変更すれば、これまでの行きがかりを捨て、支援を惜しまないと明言、寛容さを示した格調高い内容だった。国連総会という公式の場でさえ、「ロケットマン」と金正恩委員長を揶揄したことに比べれば、違いは大きい。スピーチライターをつとめる、スティーブン・ミラー上級顧問を同行させ、推敲を重ねた演説という。

疑問は、これまで話し合いを排するかのような態度を採ってきたトランプ大統領がなぜ、今、方針を転換したのかだ。

「北朝鮮が2カ月近く挑発行為を控えているのでチャンスとみた」「政権内でマティス国防長官やマクマスター大統領補佐官ら武力行使慎重派の意見に耳を傾けた」「外交的解決を求めている中国やロシアの顔を立てた」ーなどと、さまざまな見方がなされている。

いずれの見方もそれなりに正しいのだろうが、外交政策に何の素養もなく、その時の気分で物を言うトランプ氏が、再び態度を変えるのではないかという懸念も米国内にはないわけではない。そうなれば解決はもはや覚束なくなるが、そういう状況の中で、日本はどうすべきか。

日本に解決案提示を求める声も

安倍首相は当初、「話し合いの時期ではない」として、その可能性を否定してきたが、最近は「北朝鮮が、“政策を変更しますから話し合いをしましょう”といってくる状況を作らなければならない」(総選挙前の日本記者クラブでの党首記者会見)とニュアンスを変えている。話し合いでの解決機運を察知し、それを支持するということだろう。

しかし、支持するだけでは、大統領が方針を変えた場合、煮え湯を飲まされかねない。大統領と緊密な関係をもつ首相なのだから、ここは、むしろ積極的な役割を担うべきだろう。実のところ、米国内にもそういう期待が存在する。

米国の朝鮮半島問題専門家の一人はこういう。「トランプ大統領は、安倍首相のいうことに耳を傾ける。首相が何らかの解決に向けた具体的なプランを練って大統領に示してみてはどうか」。この専門家は、韓国、中国に呼びかけて、3国合同での提案がベストとしながらも、中韓両国と日本との関係から実現困難なら、日本独自でプランを作るべきと主張している。

可能かどうかは別として、遠い地域のことではなく、自らの安全保障に大きな影響を持つ問題で、そうした試みをしてみても、決して“身の程知らず”とはいえまい。むしろいまの日本にはそういう責任があるし、総選挙に大勝して政権基盤を強めた首相にとっても望むところだろう。

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