ロールス・ロイス「ファントム」はなぜ最高峰であり続けるのか

ロールス・ロイス「ファントム」はなぜ最高峰であり続けるのか

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2022/08/07
No image

ロールス・ロイスが売れている。2021年の販売台数は5500台を上回った。これは同社史上最高の記録で、現CEOのトーステン・ミュラー・オートヴェスが就任した13年前と比較すると約5倍の数字となる。それも、継続的に値上げをしているのに、だ。

「顧客の平均年齢は43歳。理想的な年齢だ」とミュラー氏は語る。ロールス・ロイスといえば成功者のクルマ、中でも”おかかえ運転手つき”の”ショーファーカー”のイメージも強く、オーナーの年齢層は高いかと思いきや、その実態はだいぶ異なる。

その要因は、車種の拡充だ。2016年に2ドアのクーペ「ドーン」を、2018年にはニーズの高まるSUV「カリナン」を発売するなど、「自分で運転したい」層に応えたことが大きい。また、2016年から展開する「BLACK BUDGE」と呼ばれる黒にこだわったシリーズが特に若者に受けているという。

不動の最高峰

それでもやはり、ロールス・ロイスといえば「ファントム」だ。ブランドの最高峰として、もっといえば”世界最高のクルマ”として頂点に君臨し続けている。常に完璧を求め、改良が繰り返されるなか、2022年5月、8代目ファントム・シリーズIIの新型が発表された。

No image

6月、そのローンチを記念して、南仏で各国メディアを集めたイベントが開催された。テーマは「ファントム・ランデブー(Phantom Rendezvous)」。モナコを見下ろすメイボーン・リヴィエラ・ホテルを拠点に、世界屈指のリゾート地コート・ダ・ジュールで、ファントムのあるライフスタイルを体験するというものだ。

実は、ロールス・ロイスはコート・ダ・ジュールに縁がある。アーティストや富裕層がこぞって集うようになった20世紀初頭、創業者の一人であるヘンリー・ロイス卿がこの地に別荘を建設。毎年冬を過ごし、ときにイギリスからエンジニアやデザイナーを呼んで、クルマづくりに取り組むこともあったという。

No image

ヘンリー・ロイス卿

その歴史ある地で感じられる、ファントムの世界観とは。今回、それを知る手助けとして9つの体験が用意されており、Forbes JAPANは、アートとワインの2つのプログラムに参加した。

アーティストたちの憩いの場

アート体験は、ピカソやシャガールなど、20世紀の巨匠たちが愛した城壁の村「サン・ポール・ド・ヴァンス」を、専門ガイドとともに巡るというものだ。

メインは、マーグ財団美術館。アートディラーだったマーグ夫妻が1964年に創設したもので、海沿いから内陸に20分ほど進むと、豊かな自然に調和するように、ルイ・コルビュジエの弟子ホセ・ルイ・セルトが手掛けた建築が現れる。

No image

ガイド曰く、「単なる美術館ではなく、アーティストにとってのスタジオでもあった」というこの場所には、夫妻の友人でもあったミロやジャコメッティの彫刻、この場で制作されたシャガールの大作などが点在。光、風、音、この土地の気候も感じながら、リラックスした気持ちでそれらに出会うと、アートが本来身近なものであると再認識させられる。

中世の面影が残る村の中心部は、車が入れない徒歩エリアだ。坂のアップダウンが続くが、ショップやギャラリーが並び、散歩が楽しい。小道にプルメリアやジャスミンが咲き誇る様子に、タイから参加したエディターは、「フォトジェニックがすぎる」と連写していた。

No image

歩いてまわるサン・ポール・ド・ヴァンスの中心地(筆者撮影)

「詩人ジャック・プレヴェールが住んでいた家は、いまはAirbnbになっていて、300ユーロほどで泊まれる」「シャガールのお墓には、訪れたユダヤ教徒は石を置いていく」と、豆知識が溢れ出るファトゥさんは、フランスの文化歴史を熟知している政府公認のガイド。同じ時間を過ごすのでも、その情報があるとないで濃度が違う。

冷たいペリエで喉を潤したあとに尋ねたのは、かつて”ピカソの遊び場”と言われたレストラン・ホテルの「ラコンブルドール」。通常はクローズしている時間に、3代目夫人が案内してくれたのだが、オープンテラスを抜けて建物に入ると、そこは別世界。歴史と文化が入り混じる空間に、ピカソ、マティス、カルダーなどの作品がこともなげに飾られていた。

No image

異国情緒漂うエントランスの奥の壁にはピカソのポートレート(筆者撮影)

さらに奥には、小さくもセンスの良いプール。今でも、ジョージ・クルーニーやレオナルド・ディカプリオなどセレブやアーティストが訪れる”隠れ家”というのも納得だ。

ワインセラーという知の宝庫

ワイン体験の舞台は、世界中から富裕層が集まるモナコ・モンテカルロの「ホテル・ドゥ・パリ」。その地下13mに位置する巨大なワインセラーだ。通常公開されていな場所へ専用のエレベーターで降りると、「冷房なしでも一年中14℃に保たれている」という、ひんやりと、少し湿度のある空間が広がっていた。

No image

そこにずらりと並ぶのは、約35万本のワイン。20年経っても「まだまだ若い」ものもあれば、5年にして「そろそろ」のものあり、3桁万円のものもあれば、数千円ほどの手頃なものもある。その中から「ready to drink」なもののみがワインリストに載り、レストランのゲストに届く。

それを決めるのがセラーを守る8人のソムリエだ。この日案内してくれたフィリップさんはこの道42年のベテラン。購入時の記憶、年別のワインの知識、日頃のテイスティングなど、「すべて頭の中にある」情報から導き出しているという。

セラーの一角は、モナコ公国のアルベール2世のコレクションになっており、「購入したなかで熟成に向きそうなもののみを、数本ずつ保管している。晩餐会などのシーンに、彼の指示でのみ開けることができる」そうだ。

No image

モナコ・モンテカルロの「ホテル・ドゥ・パリ」のソムリエ、フィリップさん(筆者撮影)

テイスティングでは、シャンパーニュ1種とブルゴーニュのシャルドネを3種。どんな気候の年だったか、どんな温度が適温か、どんな料理とのマリアージュが楽しめるか……説明を聞きながら、葡萄畑やディナーテーブルが頭に浮かんだ。

最高峰のクルマが保証する乗り心地

さて、ファントム シリーズⅡについて。グローバル・コミュニケーション・ディレクターのリチャード・カーター氏によれば、「完璧な車をより良くするのは難しい」かつ「顧客はむしろ変更を望んでいない」ことから、デザイン、機能ともに7代目からの改良は非常に限られたものとなった。

特徴的なのが、正面のパンテオン・グリルのアップデートだ。グリル自体が光るイルミネーション機能を搭載したこと、グリル上部にポリッシュ仕上げの水平方向のラインを施したことで、「RR」バッジと「スピリット オブ エクスタシー」と呼ばれるマスコットが、より目立つようになった。

No image

より存在感が増したファントムの車体は、全長×全幅×全高=5762×2018×1646mm、ホイールベース3552mm。香水の町グラースへの道中でテストドライブをする機会があったが、その大きさや2560kgという重量を感じさせない、想像以上に軽いハンドルに驚いた。

後部座席の体験はこれ以上ない贅沢だ。その乗り心地は「魔法の絨毯」や「地上の飛行機」と例えられるが、山道のバンプも軽やかにこなし、カーブも滑らかに、まさに浮いているかのように進む。

No image

左右各席に収納式の大型モニターとテーブル、センターアームレストの奥には冷蔵庫が備えられている。この日はシャンパングラスとともにボランジェが冷えていた。足元にはウールのカーペットが敷かれ、座席にはマッサージ機能もついている。

今回、改良点よりも強調されたのが、ロールス・ロイスならではの「ビスポーク」だ。色やパーツのカスタマイズはもちろん、インテリアに使う素材などは、すでにあるチョイスの中から選ぶのではなく、例えば織物や絵柄など、ないものをつくるところから始まるのだから想像を超えている。

特徴的なのが、ギャラリーと呼ばれるダッシュボートのガラス空間だ。そこには、ウッド、ガラス、ダイヤモンド、ゴールド、羽など、顧客が望むありとあらゆる素材を使い、唯一無二のアートを表現できる。こうして「世界で最高なだけでなく、顧客にとって最高」のクルマが実現できるというわけだ。

No image

南アフリカの国宝的アーティストEsther Mahlangu氏が手掛けたギャラリー

数年前、スタートトゥデイの前澤友作氏がオーダーした、エルメス仕様のファントム「Oribe」が話題になったが、ロールス・ロイスが直接ブランドとコラボレーションすることはない。すべては「顧客のリクエストであればあり得る」のだと言う。

すべて英国グッドウッドで”手作り”されているロールス・ロイスは、生産台数が限られており、そもそも納車までに2年はかかる。それが特殊なビスポークとなると、デザイナーが「オーダーのバックグラウンドを知るために」顧客を尋ねる、あるいは顧客がグッドウッドを訪れるなどでミーティングを重ね、4年を要することもあるという。

最もラグジュアリーな”プロダクト”

ファントム・ランデブーでは、ディナーやランチの場でデザイナーやエンジニア、広報などと話す機会があったが、その全員の語る内容が似ているのが印象的だった。ミュラー氏もインタビューで「みんな同じことを言うと思うけれど」と言っていたが、ブランドを誇りに思い、常に最高を求め、できる限りオーナーを理解しようとする姿勢が浸透しているからなのだろう。

No image

期間中、メイボーン・リヴィエラ・ホテルの中庭には2台のファントムが展示されていた

鮮明に覚えているのが、「ファントムは、世界で最もラグジュアリーなプロダクト」という言葉だ。クルマというカテゴリーに縛られない、プロダクトにおける最高峰。オーナーの中には、それをディスプレイするギャラリーを持つ人もいると聞けば、まさにアートピースだ。ロールス・ロイスというアーティストに作品を依頼する感覚とも言えるだろうか。

その際には、今回体験したようなアートや自然、専門家との対話がインスピレーションとなるだろうし、ビスポークのプロセス自体もまた、ひとつの体験として顧客自身を豊かにするものになるのだろう。

そして、こうした顧客とのコミュニケーションにより、ロールス・ロイスの創造や技術も極められていく。この関係こそが、ファントムを”最高峰”たらしめる理由なのかもしれない。

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加