「人気アイスは64円、ケーキも和菓子もあり」急成長"スイーツ界のユニクロ"を待ち受ける3つのリスク

「人気アイスは64円、ケーキも和菓子もあり」急成長"スイーツ界のユニクロ"を待ち受ける3つのリスク

  • PRESIDENT Online
  • 更新日:2021/10/18

全国展開する菓子メーカー・シャトレーゼが好調だ。それはなぜか。死角はないのか。経営コンサルタントの鈴木貴博さんは「ビジネスモデルはユニクロに似ている。だが、いずれ3つのリスクに直面するだろう」という――。

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写真=時事通信フォトシャトレーゼ本社=2021年1月25日、山梨県甲府市 - 写真=時事通信フォト

ビジネスモデルはユニクロに似ている

シャトレーゼが絶好調です。ロードサイドでみかけるあのワイン色の屋根のお菓子屋さんです。売上高は10期連続の増収で、一昨年から始めた都心業態のYATSUDOKIも顧客の心をつかんでいます。読者のみなさんもシャトレーゼのアイスクリームや焼き菓子がお好きな方は多いのではないでしょうか。

コロナ禍でも躍進を続けるシャトレーゼの秘密とは何なのか。そしてシャトレーゼの今後に死角はないのか。経営コンサルタントの視点で分析してみたいと思います。

さて、最初にシャトレーゼがどのような会社なのか、シャトレーゼをご存知ない読者の方にもわかるように説明したいと思います。工場直営のお菓子屋さんで、お店で売っているお菓子はアイスクリーム、焼き菓子、和菓子からケーキまで約400種類。最大の特徴は「おいしいお菓子が安い」こと。人気のアイスクリームは1本あたり64円ですし、田舎パイやシャトーレザン、フィナンシェといった焼き菓子も価格はおおむね100円前後とお値打ちです。

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画像=筆者撮影シャトレーゼの焼き菓子。おいしいお菓子が安く手に入るところが消費者ニーズに合致 - 画像=筆者撮影

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画像=筆者撮影高級業態YATSUDOKIで販売していたケーキの久助。おいしさは変わらずお得感は大きい - 画像=筆者撮影

「お菓子業界のユニクロだ」と言うと理解はしやすいかもしれません。ビジネスモデル的には一見ユニクロに似ています。ユニクロは他の多くのアパレル企業と違って自社で商品を開発し自社店舗で売ります。卸や小売店を介さない分、買いたたかれたり、生産見込みと需要予測を見誤ったりといったことが起きにくい。そしてとにかくよい商品を安い価格で提供できる。似ているのはこの点だけですが、ビジネスとしての外見はシャトレーゼとユニクロは確かによく似ています。

お菓子を安く提供する「5つの条件」

シャトレーゼでなぜおいしいお菓子を安く提供できているのか。まずこのビジネスモデルの秘密を解明してみましょう。

お菓子を安く提供するビジネスモデルは論理的には5つあります。

①安い材料を使う
②安く仕入れられるように取引先から買いたたく
③おいしくて安い商品設計をする
④安く製造できるように生産ラインを工夫する
⑤サプライチェーン管理をしっかりしてロスの発生を防ぐ

世の中の大半の大規模小売業は①と②に力をいれます。たとえばメーカーに対して、

「店頭で78円で販売できるシュークリームを作りなさい」

と圧力をかけるわけです。「作れないなら他をあたるから」と言われ、力関係が弱くて安く買いたたかれるメーカーは、利益を削り、安い材料や本物に見えるイミテーション原材料を使ってなんとか大手チェーンからの要望をクリアできるようにする。これが世の中の安い商品の基本です。

大手スーパーのお菓子よりも材料費は高いかもしれない

シャトレーゼの面白い点は①と②が真逆で、実は大手スーパーで売っているお菓子よりも材料費は高いかもしれない点です。「おいしいお菓子を安く」という考え方の中でも「おいしい」に力を入れすぎているせいで、原材料コストを下げにくい構造なのですが、それを容認しています。

有名な例は、草餅に使うよもぎを社員が摘みに行くという話です。よもぎは普通のお菓子メーカーは問屋から買うのですが、着色してあるうえに香りがよくない。山梨県に本社があるシャトレーゼでは「だったら山から採ってこよう」といって、山主さんと交渉して旬のシーズンに社員が一年分のよもぎを山に摘みに行く。当たり前ですが原材料コストは高くなります。

「おいしい」お菓子の原材料として卵や生乳の品質を一定にするために契約農場を確保したり、材料の天然水をわざわざ水源から運んだり、安全を優先するために添加物を入れなかったりとシャトレーゼは基本的には原材料コストが上がるようなことばかりしています。

「5年生の子供と30代の両親が一緒に食べる」ような商品

それなのになぜおいしくて安くなるかというと、経営学的な秘密があって、上記でいえば③~⑤が非常にうまくいっているのです。ここを順に見ていきましょう。

まず③の「おいしくて安い商品設計をする」ですが、シャトレーゼの商品設計は顧客視点で見るとターゲットがはっきりしています。あきらかに「庶民にとっておいしくて安い」ことを目指しています。典型的なターゲット顧客シーンのことをマーケティング用語でペルソナと言いますが、ペルソナ的には「庶民的な5年生の子供と30代の両親が一緒に食べて“おいしいね”と会話する」ような場面にフィットする商品です。

お菓子というものはおいしく作ろうと思えばいくらでもおいしくなります。一流のパティシエは、チョコレートはフランスのヴァローナから仕入れたりバターはエシレを使ったりと原材料の価格に糸目をつけません。しかし「庶民のおいしい」は市販のチョコでも十分においしいものです。

その点でシャトレーゼのお菓子は「庶民がおいしいと思うお菓子を設計する」ことにきちんとフォーカスしています。シャトレーゼで人気のアイスもターゲットが違うのだから、高価格帯アイスのハーゲンダッツと原材料比が違って構わないわけです。

製造直販モデルだからロスの発生を防ぎやすい

④の「安く製造できるように生産ラインを工夫する」は、そもそもシャトレーゼは工場であるという点から理解するといいでしょう。お菓子は手作りをすると非常に手間暇がかかるものですが、工程を工夫すれば同じ風合いを機械で再現できるようになる。ここはやり方を誤ると機械化や機械に向いた材料を選択することで味が落ちたりするのですが、シャトレーゼは「おいしい」を優先している分、味を落とさずに機械化する生産工程改良が得意な様子です。

そしてユニクロと同じ製造直販モデルであることから、⑤「サプライチェーン管理をしっかりしてロスの発生を防ぐ」の部分についても、一般のスーパーと違ってサプライチェーン上のロスが出ないように管理がしやすい。このように③~⑤が機能していることで①と②に手を染めなくてもシャトレーゼのお菓子は十分においしくて安いのです。

もうひとつシャトレーゼのビジネスモデルで面白い点を挙げてみます。これはユニクロとは決定的に違う点なのですが、上流の契約農家から下流のFCオーナーまでコモン(共同体)というべき経済共同体が出来上がっているという点です。

人の力を強みにした「共同体」ができあがっている

ひとことで言うと、コモンとは企業をオーナーの持ち物ではなく、関係するすべての人々の共有財産のように扱うという、経済学の理想の概念です。コモンの中ではお互いに協力しあうとともに、お互いがよくばることなくお互いに相応の利益が残るようなフェアな関係性を目指す。シャトレーゼはこれができています。その理由としては、シャトレーゼが上場していないことが決定的に重要だと思います。

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写真=iStock.com/Wand_Prapan※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Wand_Prapan

この契約農家やFCとコモンを形成するという経営形態は、現代的な経営戦略とは決定的に発想が異なります。

現代的な経営戦略理論の最大の発見は「利益は競争相手から勝ち取るよりも、優越的立場を利用して取引先や従業員から勝ち取るほうが容易である」というものです。1980年代にこの発見が広まったことで、21世紀の資本主義社会ではほとんどの企業が大手取引先からの優越的立場に苦しめられながら活動をしています。

同じ製造販売モデルのユニクロは、上場企業であるがゆえにその視線は徹底的に顧客(消費者)と株主の利益に向いています。しかしシャトレーゼの場合はオーナーの視線が顧客、従業員、取引先(契約農家やFCオーナー)に等分に向けられている。それゆえにコモンに所属する人の力がうまく集結できているところに特徴があります。

シャトレーゼの本拠地のある山梨はそもそも武田信玄の領地だった場所ですが、シャトレーゼの場合も「人は城、人は石垣、人は堀」を地でいく、人の力が強みとなるコモン(共同体)ができあがっているのです。

未来に直面するであろう「3つのリスク」

さて、このように目下経営が絶好調のシャトレーゼですが、死角はないのでしょうか。私も未来予測専門の経営コンサルタントなので、シャトレーゼが未来に直面するであろう3つのリスクについて予測してみたいと思います。

①YATSUDOKIビジネスモデルの不成立

最初にお断りしておきますと私はシャトレーゼの都心新業態であるYATSUDOKIの商品は大好きです。たぶんシャトレーゼよりも気に入っています。なにしろおいしいのです。

先日も山梨産とおぼしきシャインマスカットがふんだんに使われたホールケーキを、2600円で買って帰ったのですが、とにかくお得です。上の部分だけでなく2層目の生クリームの中にもシャインマスカットがふんだんに挟まれているうえに、生クリームは「タカナシでいえば35ではなくおそらく47の方で間違いない」と思えるくらい濃厚なものを使っています。普通の洋菓子店なら2600円というのは原価じゃないかと思うぐらいの商品です。

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画像=筆者撮影高級業態店であるYATSUDOKIのシャインマスカットをふだんに使ったホールケーキ。2600円でだいたい4人分くらいのサイズ - 画像=筆者撮影

もともとシャトレーゼは店舗コストが低い郊外ロードサイドで成立する業態だったため、都心部の居住者から出店を望む声が大きかったようです。

とはいえ都心部でシャトレーゼモデルだとコスト的に難しい。そこでワンランク上の高級感を出したお菓子の新業態で勝負しようというのが、このYATSUDOKI業態です。銀座を皮切りに自由が丘、新宿御苑など都心部に展開を始め、少なくとも2019年から直近まで経営は順調のようです。

強力なライバル「セブン‐イレブン」

しかし私の目には「このYATSUDOKIビジネスモデルは成立しないのではないか」と思えて仕方ありません。理由は本来のシャトレーゼの優位性が生かされないリスクがあるからです。

おいしいものを安く作るのがシャトレーゼの強みです。本来、都心部で別ビジネスモデルをするとしたら、論理的にはどのようなターゲットがありうるでしょう?

A.富裕層から見ておいしい
B.中流層から見て安くておいしい、庶民にとっての贅沢

このどちらかでしょう。都内の高級洋菓子店は基本的にAがターゲットですがそこはシャトレーゼが選んでいない様子です。論理的にはBということですが、そこには強力なライバルがいます。セブン‐イレブンです。

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画像=筆者撮影YATSUDOKIの焼き菓子。シャトレーゼの焼き菓子と比べるとワンランク上のおいしさを実現できている - 画像=筆者撮影

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画像=筆者撮影セブンプレミアムとセブンカフェの焼き菓子。「中流にとってのおいしくて安い」「庶民にとっての贅沢」を実現している - 画像=筆者撮影

シャトレーゼが「庶民にとって安くておいしい」だとすれば、セブンプレミアムのお菓子、たとえば博多通りもんジェネリックと呼ばれる「ミルク餡まん」や銀のぶどうの「シュガーバターの木」は「中流にとって安くておいしい」「庶民の贅沢商品」として成功しています。過去20年間のセブン‐イレブンの研鑽で、この市場に非常に強力な優位性が築かれてきました。

セブンは「安くておいしい方法論」を完全制覇している

そのセブンプレミアムのお菓子と比較して、YATSUDOKIのお菓子は商品設計的にずぬけているようには思えない。まだ事業開始から2年目でこういうことを言うのは酷だと思いますが、現時点での現実はそうでしょう。

最初から高級原料をふんだんに使ったシャインマスカットのホールケーキは当然おいしいが、YATSUDOKI向けのフィナンシェやマドレーヌは、ブルボンが製造するセブンカフェのフィナンシェを超えるほどの特徴はありません。

そして本当の問題は、この障壁を抜ける解がないかもしれないということです。なぜならセブンは先ほどの「安くておいしい」を成立させるための方法論の中で①~⑤までを完全制覇しているからです。

一方のYATSUDOKIは無添加と本物の材料に縛られながらセブンを超えなければいけない。その観点からYATSUDOKIは店舗数を増やすほどに「中流にとって安くておいしい」「庶民の贅沢商品」のゴールが遠ざかるリスクを抱えての船出の最中だと私は思います。

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写真=iStock.com/Travel Wild※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Travel Wild

強力なリーダーシップを失うリスク

②商品多様化リスク

シャトレーゼの強みは人にあるという話をさきほどしました。具体的にはシャトレーゼでは権限移譲が進んでいて、社内では150人の責任者がプレジデントと呼ばれ、それぞれの役割の最高責任者として機能しています。これはシャトレーゼの社内ではプレジデント制と呼んでいる制度です。

よく言えばこの体制は人の強みを最大化する仕組みといえるのですが、弱点としてはプロダクトアウト型経営に陥りやすいというリスクがあります。「おいしくて安い」という共通項を離れて味が多様になったり価格帯が多様になったりする。もともとメーカー色の強い企業はこのリスクと常に隣り合わせです。その理由は、作り手というものはつねに工夫をしたいからです。

実際、私自身シャトレーゼの商品を食べていて、同じカテゴリーでもこれはおいしいけれどもこれはおしくないという製品がたくさんあると思っています。シャトレーゼの店内には400の商品があるそうですが、商品点数が多いのはそもそもプロダクトアウト型の企業の特徴です。これから商品数がさらに増えていき消費者の好みから離れていくリスクを伴います。

それを制御するのはシャトレーゼの場合、87歳の創業会長ということになるわけですが、この仕組みはそのような強力なリーダーシップがあって成立する仕組みだという点が課題です。呪いをかけるつもりは毛頭ありませんが、武田信玄がいなくなったことであれだけ盤石だった武田家は滅びます。息子の武田勝頼が武将としての評価が高かったにもかかわらずです。人が強みの企業には常に、人が代わることによる未来のリスクは存在しているのです。

「資本主義的ではない」コモンは維持が難しい

③コモン(シャトレーゼ経済共同体)の維持リスク

シャトレーゼの独特の強みとして、仕入れ先、FCオーナーなど取引先との運命共同体としてのコモンができあがっていることがあります。これは他の企業をよせつけない強みとして機能する一方で、将来その維持ができなくなるリスクを内包しています。

理由はこのコモンは資本主義的ではないからです。

現代社会の大企業は基本的に資本主義システムの中で最適化を目指す競争をしています。シャトレーゼほどの企業規模になれば本当は株式を上場して資本市場から資金調達をしたほうがその規模を運営維持しやすいものです。

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写真=iStock.com/phongphan5922※写真はイメージです - 写真=iStock.com/phongphan5922

しかしそれをやるとコモンが成立しなくなります。なぜなら企業として株主を最重視しなければならなくなるからです。コモンが崩壊することがわかっているからシャトレーゼは上場しない。それはそうでしょう、シャトレーゼほどの優良企業が上場すれば利益を求める外国人投資家があっという間に株を買い集め、シャトレーゼは資本構成としては外資企業になってしまいます。

未来の指導者に運命は委ねられている

そもそもシャトレーゼの共同体経営は資本主義社会の異端であり、ポジティブに言えば実験的な成功例です。本来、コモンはすばらしいものになるはずだと予想されていた一方で、そのような理想のコモンを実現した社会は外部にはほとんどないのです。

実はコモンをめざした社会の際たるものは、20世紀に次々と誕生した共産主義国家です。それらの国々でコモンが成立できなかった最大の理由は、権力者が腐ってくるからです。私の知る限り、コモンが唯一成立できたのはカストロが率いたキューバだけだと思っています。

今から10年後、25年後といった未来のシャトレーゼを誰が率いているのか、誰にもわからないかもしれません。シャトレーゼの経営計画が着々と進めば、その頃には日本国内の店舗よりも海外の店舗の方が多くなる。言い換えればコモンはアジア全体に広がるでしょう。その未来のシャトレーゼが今のような「機能するコモン」を維持できているのかどうかは、そのときの指導者次第でしょう。そしてそれは非常に難易度の高い、経営課題なのです。

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鈴木 貴博(すずき・たかひろ)
経営コンサルタント
1962年生まれ、愛知県出身。東京大卒。ボストン コンサルティング グループなどを経て、2003年に百年コンサルティングを創業。著書に『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』など。
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鈴木 貴博

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