「俺は“セイジの息子”だ」ドラゴンズの頼れる助っ人、A・マルティネスと名古屋の会社員との深くて温かい物語

「俺は“セイジの息子”だ」ドラゴンズの頼れる助っ人、A・マルティネスと名古屋の会社員との深くて温かい物語

  • 文春オンライン
  • 更新日:2022/05/14

奮闘する立浪ドラゴンズにとって欠かせない存在になっているのが、若きキューバ人選手たちだ。

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NPB屈指の剛腕クローザーへと成長したライデル・マルティネス、今年からセットアッパーの重責を担うジャリエル・ロドリゲス、そして選手の大量離脱によってピンチを迎えたヤクルト戦で2試合連続の決勝ホームランを放ったアリエル・マルティネス。非常に頼もしく、心強い助っ人たちである。

彼らは全員25歳。それぞれ20代前半でキューバ政府から派遣されて来日し、ドラゴンズに育成選手として入団。ドラゴンズは彼らを一軍で活躍できる選手に育て上げた。

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A・マルティネス

“キューバの至宝”オマール・リナレスの入団以来、ドラゴンズとキューバとの結びつきは深い。今年もフランク・アルバレスとギジェルモ・ガルシアという2人の若者が入団した(ちなみに主砲のダヤン・ビシエドもキューバ出身だが、彼は亡命しているので入団ルートが異なる)。

キューバとの結びつきは球団の努力が大きいが、その一方で、選手と名古屋の人々の草の根レベルの交流もある。

“アリエルの世話人”を自称するのが、冨田征治さん。名古屋在住の会社員だ。昨年11月にアリエルのSNSにアップされた家族写真は、冨田さんがセッティングしたもの。アリエルが遠征で不在時、カミラ夫人と一緒に1歳のお子さんのための託児所とプリスクール探しに奔走したこともあった。

名古屋出身の冨田さんは子どもの頃からドラゴンズファン。海外赴任で野球から離れていた時期もあったが、06年に帰国してからはドラゴンズ熱が再燃。16年にフィリピンに赴任したときは、地元のドラゴンズ応援団体に即座に入会した。「その国に馴染むのは、地元で趣味の友達を作るのが一番なんです」と冨田さん。帰国後はナゴヤドームに通い詰める日々が続いた。

アリエルとの交流はSNSがきっかけだった。アリエルが支配下登録されたとき、スペイン語でお祝いのDMを送ったところ、すぐに返事が届いたという。冨田さんにはこんな思いがあった。

「自分が海外で10年ほど平和に暮らせて、しっかり仕事ができたのは、その国々の人が助けてくれたからだという思いが強くありました。フィリピンで幼い子どもを含めた家族と暮らせたのも、地元のヘルパーさんやドライバーさんたちが助けてくれたおかげです。何かの縁で名古屋に住んでくれている外国人の方にも、地元の人間がちょっと手をさしのべることで生活が楽しくなったり、困りごとを助けたりできるかもしれない。だから、キューバから名古屋に来てプレーしているアリエルたちのことが気になって応援していたので、支配下登録がすごく嬉しくて思わずメッセージを送ったんです」

アリエルからの返事に驚いた冨田さんは、英語とスペイン語を織り交ぜてメッセージのやりとりを続け、緊急事態宣言とまん延防止等重点措置が明けたタイミングでアリエルとカミラ夫人に初めて対面。「“本当に来てくれた!”と鳥肌が立ちました。そのときはキューバの話で盛り上がりましたね」(冨田さん)。

アリエルたちが気持ちよくプレーするために何でもしたい

名古屋のキューバレストランを探して教えたりしているうちに、どんどん仲良くなっていったアリエルと冨田さん。やがてライデルとジャリエルとの交流も生まれていった。

「彼らはメンタリティが日本人に似ているような気がします。最初はけっこうシャイでしたが、近づいていくうちにだんだん心を開いてくれて、その後は人間関係をすごく大事にしてくれます」

とにかくアリエルたちが気持ちよくプレーするために、できることは何でもしたいと語る冨田さん。キューバから来日したアリエルとライデルが2週間の隔離生活を強いられていたときは、彼らにリクエストを聞いてテイクアウトしたステーキを玄関先まで届けたことも。ほかにも頼まれごとは数限りない。「お互いや家族へのサプライズ演出を手伝ったこともたくさんありましたね」(冨田さん)。

カミラ夫人から「セイジ、写真館を予約したいんだけど」と頼まれたのは昨年10月末のこと。11月3日に撮りたいとのことだったが、七五三のためどこも予約でいっぱい。冨田さんが名古屋じゅうの写真館に電話をかけまくったところ、幸運にもひとつだけキャンセルが出た。当日はアリエル一家を送っていき、写真館との通訳をしつつ、「着物を着たい」というアリエルのリクエストに応えるため、冨田さんの奥さんが和服のチョイスと着付けを手伝った。

「僕は彼らから何かを頼まれるのが嬉しいんです。アリエルだけでなく、ライデルとジャリエルにも“何でも頼んでくれ”と言っています」

用事があればアリエルたちが住んでいるマンションを訪れることもある。

「彼らは同じマンションに住んでいますが、いつもつるんでいるわけではないですね。お互いに意外と素っ気なかったりします。だけど、誰かがキューバ料理をつくると、ふらっと食べに来たりする。アリエルの部屋にある大きなソファーに3人並んで座っているところを見て、可愛いなぁと思ったこともありました(笑)。アリエルは英語が話せますが、ライデルとジャリエルはスペイン語しか話せないので全部アリエルが通訳してくれます」

アリエル、ライデル、ジャリエルの素顔

もちろん、3人の素顔もよく知っている。

「アリエルは謙虚で落ち着いたインテリ、ライデルは物静かでシャイ、ジャリエルはちょっと悪ガキ(笑)。部屋の様子が彼らの性格を表しているかもしれません。アリエルの部屋はきっちり整理されていて、記念のユニフォームなどもきれいに飾られています。そうそう、アリエルはゲームオタクで自宅には大きなゲーミングチェアもありますよ。ライデルの部屋もきれいですが、そもそも物があまりない。ジャリエルの部屋にはアマゾンの箱がワイルドに積み重ねて置いてあります。ジャリエルは会うといつも頭がボサボサなんです(笑)」

冨田さんが住むマンションはバンテリンドームと彼らのマンションの中間地点にあるため、試合後にアリエルが食事に立ち寄ることもしばしば。ちなみに近所にはビシエドも住んでいるとか。「ビシエドとはたまにコンビニで会います。話しかけると気さくに立ち話をしてくれて、本当にいい人ですよ」(冨田さん)。ビシエドはとにかく家族ファーストなので、アリエルたちとプライベートを一緒に過ごすことはほとんどないらしい。

「3人は家族のような存在」

アリエル、ライデル、ジャリエルはいつもドラゴンズと名古屋への愛着を口にしているという。昨シーズンオフ、契約切れで流出が噂されていたライデルだったが、冨田さんはシーズン中に彼の本音を聞いていた。

「“俺はドラゴンズが好きだ。自分を育ててくれたドラゴンズに恩義を感じている。ドラゴンズに残ることを一番に考えたい”とはっきり言ってくれました。それを聞いたときは、すごく嬉しかったですね」

「3人はもう家族のような存在」と話す冨田さん。アリエルもカミラ夫人も冨田さんを「日本のお父さん」と呼び、冨田さんはライデルのことを「イーホ(スペイン語で“息子”)」と呼ぶ。アリエルは寄せ書きサインに「Son of SEIJI(征治の息子)」と書いてくれた。

「できれば、いつまでも名古屋に住み続けてほしいけど、それは僕の勝手な願望。彼らには素晴らしい人生を歩んでほしい。名古屋にいい思い出ができてくれると嬉しいですね」

そう言って微笑む冨田さん。遠く離れたキューバから異国にやってきた若者たちが、孤独に負けず、名古屋の街に溶け込んで野球に専念できるのは、球団関係者、チームメイトだけでなく、彼のような“市井の協力者”の存在がとても大きいはずだ。

キューバと名古屋は1万2000キロも離れているが、人々の心の距離はとても近い。だからこそ、アリエル、ライデル、ジャリエルがこんなにも活躍できるのだろう。

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(大山 くまお)

大山 くまお

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