イスラム強硬派、インドネシアの政治を変える」

イスラム強硬派、インドネシアの政治を変える」

  • WSJ日本版
  • 更新日:2017/09/18
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インドネシアの市場町チアンジュールで公務員を対象にした新たな規則が導入された。朝の礼拝の出欠を確認するため、モスクでの拇印(ぼいん)を義務づけるというもので、地区長のイルバン・リバノ・ムクタル氏(36)が命じた。同氏はさらに、町内を対象に午後10時以降は外出禁止としたい考えで、警察を使って10代の少年少女が親の同伴なしで出歩くのを防ぐ構えだ。

選挙で選ばれた同氏は主流派の世俗政党に所属する。趣味は旅行とロック鑑賞で、英国のロックバンド「コールドプレイ」が好きだという。最近は政治で成果を出す上でイスラム教が鍵になっていると話す。

強硬派のイスラム教グループは、インドネシアの民主制度を利用してイスラム法(シャリア)に基づく新法を普及させようとしている。慈善・布教活動を通じて住民の支持を集めるというやり方だ。

こうした勢力の台頭により、穏健なイスラム国家として知られるインドネシアが、中東諸国を連想させる政治色の強いイスラム国家へと徐々に姿を変えつつある。

ムクタル氏は「私はプサントレン(イスラム寄宿塾)出身ではないので(イスラム)文化に習熟する必要がある。コーラン(イスラム教の聖典)を朗唱し、ロックも歌うつもりだ」と述べた。

イスラム教徒人口が世界最大のインドネシアには、キリスト教徒など異教徒の権利を守る法律がある。同国には民主主義が根付いており、その開放経済はトヨタ自動車やサムスン電子といった海外企業を引き寄せる。

近年は強硬派のイスラム防衛戦線(FPI、Islamic Defenders Front)などがイスラム法に基づく400超の法律の導入を後押ししてきた。その中には姦通者への罰則、女性のスカーフ着用義務、女性の夜間外出制限などがある。

こうした法律は保守色を強める世論に支持されている。先月には、儒教寺院に立つ高さ約30メートルの像が(偶像崇拝を禁じる)イスラムの伝統を侮辱しているとの抗議を受け、当局がそれを覆い隠す事態となった。この1年にはジャワやスマトラでイスラム教伝来前の民話の登場人物をかたどった像を保守派グループが破壊する事件も起きている。

インドネシアでは以前よりもスカーフを着用した女性をよく見かけるようになった。また政府統計によると、サウジアラビアにあるイスラム教の聖地メッカへの巡礼に参加する許可証の発行が30年待ちとなっている。2000年には2年も待てば取得できていた。

18年には全国各地で地方選が実施され、19年には大統領選も控える。政治アナリストや現地指導者の間では、イスラム教保守派の躍進を予想する声もある。穏健派のジョコ・ウィドド大統領の対立候補と目される人物らは、すでに強硬路線に傾きつつある。ジャカルタに拠点を置く紛争政策分析研究所のシドニー・ジョーンズ所長は「長期戦の様相」と語る。

勢力拡大に成功している強硬派グループの1つがFPIだ。4月のジャカルタ州知事選では、ジョコ氏の側近で華人(中国系住民)のキリスト教徒、バスキ・チャハヤ・プルナマ知事の再選阻止にFPIが一役買った。

FPIなどの保守派グループは、プルナマ氏がイスラム教を侮辱する発言を行ったとして、同氏の訴追を求める大規模デモを実施した。最終的にプルナマ氏は選挙で敗れ、現在は宗教冒涜罪で2年間の禁錮刑に服している。

ジョーンズ氏は「(ジャカルタ州)知事選がFPIをかつてないほど強大な勢力にした」とし、FPIが政治の黒幕になるなど誰も予想していなかったと述べた。

FPIが描く将来像ははっきりしている。「最終目標は(インドネシアを)シャリア国家にすることだ」とFPIの広報担当は述べた。実現すれば、アルコールや婚外性交に関する規則に違反すると、むち打ちの刑に処されることになる。

プルナマ氏への抗議デモに参加した他のグループは、キリスト教徒が多い華人の経済的影響力の大きさを問題視している。「インドネシア・ウラマー協議会ファトワ保護国民運動」の指導者バクティアル・ナシル氏は、インドネシアも隣国のマレーシアのように先住民族に対する優遇措置を導入すべきだと述べた。

ジョコ氏の考えに詳しい関係者によると、プルナマ氏に対する抗議デモが同国史上最大級の規模にまで拡大したことはジョコ氏にとって「不意打ち」だった。

ジョコ氏は反プルナマ派としばらく距離を置いていたが、プルナマ氏の政治生命が危うくなり始めると反プルナマ派の礼拝集会に参加した。

ジョコ政権は最近、カリフ(預言者ムハンマドの後継者)を中心とするイスラム国家樹立を掲げる「解放党(ヒズブット・タフリル)」を非合法化した。ジョコ氏は8月に議会で行った施政方針演説で、他の宗教を尊重するという建国以来の理念に基づいて団結するよう国民に呼びかけた。

警察当局は現在、女性支持者とわいせつなメッセージや画像をやりとりしていた疑いでFPI創設者のリジク・シハブ氏を捜査している。この捜査の根拠法となった反ポルノ法は、FPIの働きかけなどで2008年に成立したものだ。サウジアラビアに逃亡中のシハブ氏は違法行為を否定している。

ジョコ氏はイスラム教穏健派グループに対し、より寛容な同国の伝統復活に向けた取り組みに参加するよう呼びかけている。1926年創設のイスラム団体「ナフダトゥル・ウラマー(イスラム学者の覚醒)」は、シハブ氏を批判したことでFPIに襲撃された人々に保護施設を提供している。

インドネシアのイスラム教徒がより厳格な方向に傾倒し始めたのは約20年前のことだ。1万8000の島々からなるインドネシアでは長年、強力な中央政府が強硬派少数勢力を監視してきた。独裁体制を敷いたスハルト政権が98年に崩壊すると、地方分権を進めて独裁体制の再来を防いできた。

同じ頃、サウジアラビアは数億ドルを投じてインドネシア国内にモスクや学校を建設し、イスラム原理主義を輸出した。FPI創設者のシハブ氏は、サウジが資金を拠出したジャカルタのイスラム大学に入学し、その後サウジでも学んだ。

強硬派の多くはスマトラ島北部のアチェ州を模範例とみなす。17万人近くの死者が出た04年のスマトラ島沖地震・津波の後、インドネシア政府はアチェ州の自治権拡大を容認し、迅速な復興を後押しした。アチェ州がイスラム法を導入したのはその後のことだ。同法は15年にさらに厳しくなり、アルコール販売や同性愛行為など、さまざまな背徳行為に対するむち打ち刑を認めた。

インドネシアでは今のところ、イスラム法に基づく刑法を導入しているのはアチェ州だけだ。世論調査のデータは少ないが、米調査機関ピュー・リサーチ・センターが13年に行った調査によると、同国のイスラム系住民の72%はイスラム法の原則を全国に適用することが望ましいと回答した。インドネシアで台頭する保守派の宗教グループの中で最も顕著な例がFPIだ。

FPIの当初の活動は、ジャカルタ市内のバーを破壊し、異教徒の排除を訴える落書きを残すといったものだった。米国の外交官らはFPIについて、警察の代わりに売春宿などの違法業者から賄賂を徴収する自警団のような存在だったと話している。FPIの広報担当は、警察と「兄弟」のような協力関係にあることを認めたが、それが資金源になっているとの見方は否定した。

その後、FPIは戦略を見直し、活動の場をもっと広げ、フェイスブックなどのソーシャルメディアでアピール対象を増やしていった。その多くは10代の若者や青年だった。

FPIが活動の場を全国に広げたのは2000年代半ばで、インドネシア版プレイボーイ誌に対する抗議行動を展開したのが始まりだ。12年にはレディー・ガガのジャカルタ公演を中止に追い込み、13年にはミス・ワールドの開催地をジャカルタからバリ島(住民はヒンドゥー教徒が中心)に変更させた。

同じ13年にはFPIのロビー活動が奏功し、最高裁がアルコール類の販売を認める大統領令を無効とし、地方当局がアルコール類の販売を禁止することを認めた。インドネシアは15年、コンビニエンスストアでのアルコール類の販売を禁じた。それが一因となり、同国でセブンイレブンを運営する企業は今年、全国160店余りの営業停止を決めた。

FPIの指導者、ノベル・バムクミン氏は「バーの破壊はまだ続けていると強調しておきたい」と話す。ただ、FPIは勢力拡大のためソーシャルメディアを活用しててきたとし、「今はより多くの人にわれわれの声を届けられる」と語った。

FPIは6日、イスラム系少数民族ロヒンギャへのミャンマー政府の対応に抗議するデモをジャカルタで開催した。

FPIは現在、インドネシア全34州のうち30州に事務所を構える。礼拝集会で定期的に資金を集め、慈善事業で国民の支持を取り付けている。

バンテン州セラン市にあるスルタン・アグン・ティルタヤサ大学のファタハ・スレイマン副学長は、こうした慈善活動が多くの地域でイスラム教の価値を高めているとし、「政治家はそれに従う以外の選択肢がほぼない」と述べた。セラン市もFPIの影響力が大きい地域だ。

FPIはキリスト教徒であるプルナマ氏を知事職から追いやる方法を以前から模索していた。同氏が昨年、異教徒の指導者を否定するコーランの一節に言及する形で軽口をたたくと、FPIが宗教冒涜罪に当たるとして同氏を刑事告発した。

FPIはジャカルタでのデモ実施を支援し、あるデモでは推定50万人を動員してみせた。

4月のジャカルタ知事選に向けた選挙戦が始まると、FPIはアニス・バスウェダン氏を支持。元大学学長の同氏は穏健派として知られていたが、同性愛者の権利などの社会問題に保守的な姿勢を取るとFPIに約束し、支持獲得にこぎ着けた。

知事選はアニス氏が圧勝し、同氏の政治的な助言者であるプラボウォ・スビアント氏は、勝利に貢献したFPIに公然と謝意を表明した。14年の大統領選でジョコ氏と争ったプラボウォ氏は、19年の次期大統領選に出馬する可能性がある。

FPIは現在、西カリマンタン州知事選に注力している。来年に任期満了となるキリスト教徒の現職知事の後任に、イスラム教保守派を据えたい考えだ。

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