装甲車、警察はなぜ自衛隊のものを流用しないのか 独自開発を必要とした理由

装甲車、警察はなぜ自衛隊のものを流用しないのか 独自開発を必要とした理由

  • 乗りものニュース
  • 更新日:2018/09/22

街中でもわりと見かける装甲車

装甲車はけっして軍隊=ミリタリーの世界だけの専用装備ではなく、一般的にも広く使われている車両です。

こういってしまうと、日本とは別のどこか遠い、たとえば中東やアフリカなどの話に聞こえるかもしれませんが、日本においても警察はもとより、消防(耐火性装甲消防車)や一部の警備会社(現金輸送車)でも運用されており、けっしてまれな車両ではないのです。

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陸上自衛隊の96式装輪装甲車。軍用のため、乗り心地よりも悪路走破性と耐弾性を重視している。警察の装甲車と比べて最低地上高が高いのに車高は低い(柘植優介撮影)。

日本においては、自衛隊の次に多数の装甲車を用いているのは警察ということになります。マンガやアニメなどでは軍用の装甲車に赤色灯を付け、側面に「警視庁」や「○○県警」などと入れて警察仕様にしているものが見受けられますが、実際にはそのようなものは存在せず、100%の割合で警察専用の装甲車を開発、運用しています。

なぜ、そのような非効率なことをするのでしょうか。ネット上においては「警察も自衛隊の装甲車を使えばいいのに」という意見もあるようですが、警察がわざわざ警備専用の装甲車を作るのには、もちろん意味があります。

自衛隊の装甲車とは

そもそも、軍と警察の装甲車の違いは運用思想から生じています。

軍用の装甲車は戦場で使われるため、基本的に不整地走破能力や耐弾性を重視します。そのため装軌式(いわゆるキャタピラー式)が存在するのであり、また迷彩塗装で、偽装(カモフラージュ)や増加装甲を取り付けられるように車体の各所に様々な出っ張りが設けられています。

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陸上自衛隊の73式装甲車。装軌式で背が低く前方機銃を装備する。装軌式は装輪式と比べて速度は遅く、整備性も悪いが、悪路走破性が抜群に高い(柘植優介撮影)。陸上自衛隊の87式偵察警戒車。ゴムバンドで偽装網を固定し、砲塔後部のラックには雑具を載せている(柘植優介撮影)。陸上自衛隊の軽装甲機動車。擬装網や各種装具を取り付けやすいよう突起が多い。ボンネットと車体後部にはヘリ輸送のためのスリング環が設けられている(柘植優介撮影)。

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陸上自衛隊の87式偵察警戒車。ゴムバンドで偽装網を固定し、砲塔後部のラックには雑具を載せている(柘植優介撮影)。

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陸上自衛隊の軽装甲機動車。擬装網や各種装具を取り付けやすいよう突起が多い。ボンネットと車体後部にはヘリ輸送のためのスリング環が設けられている(柘植優介撮影)。

加えて舗装路を走ることよりも、泥濘地や積雪地などを走行することを想定しているため、装輪車についても不整地走破能力が劣る6×4や4×2はほとんどなく、6×6(6WD)や4×4(4WD)の全輪駆動タイプで、現在では8×8(8WD)が主流です。

さらに防御上不利となるガラス窓は極力減らされ、最低限必要な場所のみとされています。そして頻繁に車体上面へ登ることを想定しているため、車体の至るところに足掛けが設けられています。

警察の装甲車はココが違う

それに対して警察用の装甲車は、基本的な運用は整備された街中であるため装軌式は存在せず(一部海外で運用例がある)、防御力は猟銃や拳銃、せいぜいライフルや短機関銃クラスまでに耐えられれば良いので、避弾径始(装甲を傾け、おもに徹甲弾などの対戦車砲弾をはじいて逸らすこと)を考慮したり、装甲を増設したりするようなことは行われません。

むしろ運転のしやすさや使い勝手を考慮し、基本的には窓を大きくとり、威圧感を軽減するために迷彩などは施されません。

また暴徒との近接行動を考慮しているため、車体底部に爆発物や火炎ビン、障害物などが投げ込まれないようにグランド・クリアランス(車体底部と地面のあいだ)は極力なくされ、タイヤは角材や鉄パイプが挟まれないようにガードが付けられるなどしています。さらに、車上に登られないよう、側面は垂直に近い構造とし、足や手をかけられそうな突起もありません。装備品や乗員の携行品は車内に収容するようになっています。

ただし暴徒が構築した障害物ぐらいは突破できないといけないため、足回りは基本的には4×4の全輪駆動です。

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警視庁の小型警備車。常駐警備車よりも小回りが利く。不審車に対する壁、警官には盾になるよう車体は装甲板の溶接構造。暴徒が登れないよう突起がない(柘植優介撮影)。警視庁の常駐警備車。重要防護施設の常駐警備で用い、バリケードの役割もあるため壊れやすい赤色灯は埋め込み式。不整地走破は重視されておらず背も高い(柘植優介撮影)。現在の特型警備車。車体上部にある銃眼付きの装甲板を起こした状態で機動隊員が立っている。人員輸送よりも防御力を優先しているが、不整地走行は苦手(柘植優介撮影)。

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警視庁の常駐警備車。重要防護施設の常駐警備で用い、バリケードの役割もあるため壊れやすい赤色灯は埋め込み式。不整地走破は重視されておらず背も高い(柘植優介撮影)。

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現在の特型警備車。車体上部にある銃眼付きの装甲板を起こした状態で機動隊員が立っている。人員輸送よりも防御力を優先しているが、不整地走行は苦手(柘植優介撮影)。

ちなみに1970年代の学生運動が華やかなりしころには、「F-7型特型警備車(以下F-7)」という軍用と見まがうばかりの本格的な装甲車が警視庁に導入された例もありました。

本車が開発されたきっかけのひとつには、1972(昭和47)年に起きた浅間山荘事件があります。というのも同事件において、当時最新の防弾装甲車であった「F-3型特型警備車(同F-3)」が出動したのですが、これはトラックシャシーに防弾ボディを被せただけのもので、足回りはトラックそのままであったことから、その大柄な車体や前述したグランド・クリアランスをなくしたことによる弊害もあり、未舗装路や山道などの不整地走破能力に限界を生じてしまったからです。そうした開発経緯のため、警察用装甲車ながら、障害物の超越能力や軟弱地の走破能力を高めるために、自衛隊の演習場で走行テストを行ったほどでした。

まるで軍用車両のF-7だったが…?

F-7は、車体上部にはひとり用の放水銃塔を搭載し、車内レイアウトも前方が運転席、中央が乗員室、そして後部に機関室という戦車と同じ配置でした。またトラック用のコンポーネントを流用してはいたものの、それまでの警備車とは違い初めてモノコックボディを採用しており、これによりそれまでの警備車にはなかった車体底部の爆発物にも防御性を有し、なおかつ水深1mほどの渡渉能力も有していました。

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F-7型特型警備車。車体前端/後端のデザインやグランド・クリアランスなど、悪路走破性を重視し開発された。1979年1月警視庁年頭視閲式にて(月刊PANZER編集部撮影)。

しかしF-7は、4WDではあったものの、やはり2軸車でトラックベースのため性能的には限界があり、防御力だけでなく機動力についても軍用装甲車には適いませんでした。しかも悪路走破性を重視して開発されたため車内容積が小さく、乗車定員14名を誇るF-3と比べて人員や物資の積載性で劣っていたのです。

その後、過激な学生運動が終焉を迎えると、F-7のような一芸に秀でた警備装甲車は必要なくなり、車体が大柄なことで盾やバリケードとしても使え、なおかつ収容力が高く多用途多様途性に優れたF-3の方が、街中では重宝する結果となったのです。

こうしてF-7はF-3よりも優秀な警備用装甲車として開発されたにもかかわらず、生産数はF-3よりも少なく、なおかつF-7は警視庁や大阪府警などに運用が限定されました。またF-7より先に運用が始まっていたF-3が、地方の県警で21世紀に入っても使われていた(現在は退役)のに対し、F-7は早々と姿を消しています。

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F-7型特型警備車の後方写真。渡渉を考慮して排気口が一番上に設けられている。足回りは4WD。1979年1月警視庁年頭視閲式にて(月刊PANZER編集部撮影)。F-3型特型警備車。グランド・クリアランスが全くなく不整地走行を考慮していない。1979年1月警視庁年頭視閲式にて(月刊PANZER編集部撮影)。F-3後方写真。当時はシャシー下やタイヤ周りの防御が要求された。足回りは2WD。1979年1月警視庁年頭視閲式にて(月刊PANZER編集部撮影)。

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F-3型特型警備車。グランド・クリアランスが全くなく不整地走行を考慮していない。1979年1月警視庁年頭視閲式にて(月刊PANZER編集部撮影)。

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F-3後方写真。当時はシャシー下やタイヤ周りの防御が要求された。足回りは2WD。1979年1月警視庁年頭視閲式にて(月刊PANZER編集部撮影)。

こうして比べてみると、軍用は不整地走破性や防御力を重視するのに対して、警察用は使い勝手や積載性を重視しており、運用思想の違いから形状は正反対と、どちらかのものを流用できるとは一概に言えないことが分かるでしょう。また塗装に関しても、軍用は迷彩塗装に代表されるように、目立たないよう、背景に溶け込むようにする(偽装し易いのも同様)のに対して、警察用はあえて目立つように昔は銀、最近は青白が用いられています。

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米軍の中古装輪装甲車(MRAP:奥)が警察に譲渡されているが、使い勝手はよい噂がなく、予算が付けば専用設計の警備用装甲車を導入している(画像:マディソン市警察)。イラクやアフガニスタンで多用された耐地雷装甲車MRAP。地雷に耐えられるようグランド・クリアランスが大きく、乗り降りはし難い(画像:アメリカ空軍)。演習場の不整地を走るMRAP(画像:アメリカ陸軍)。

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イラクやアフガニスタンで多用された耐地雷装甲車MRAP。地雷に耐えられるようグランド・クリアランスが大きく、乗り降りはし難い(画像:アメリカ空軍)。

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演習場の不整地を走るMRAP(画像:アメリカ陸軍)。

ちなみにアメリカではイラクやアフガニスタンからの撤兵後、陸軍や海兵隊が使っていた中古の装輪装甲車(主にMRAP)が地方警察に供与されています。しかし、彼の地でも燃費が悪い、小回りが利かない、乗り降りし難い、大きさの割に車内が狭いといった欠点が指摘されており、実は予算に余裕のある大都市の警察では、警察向けに開発された警備専用の装甲車を使用しているそうです。

銃犯罪が多いアメリカでも、やはり日本と同じ考えのようです。

【写真】戦後初の実用装輪装甲車、82式指揮通信車

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陸上自衛隊の82式指揮通信車。警察の装甲車と比べて広いグランド・クリアランスと、大径タイヤを装備するのがわかる(柘植優介撮影)。

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