日本が目を向けるべき世界の熾烈な「脱炭素」の動き

日本が目を向けるべき世界の熾烈な「脱炭素」の動き

  • JBpress
  • 更新日:2021/02/22
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(写真はイメージです/Pixabay)

火力発電で用いるLNG(液化天然ガス)の価格が急騰し、供給不足が発生したことから、電力が逼迫するという異常事態が続いている。なぜ、国内で極度のLNG不足が発生したのかについては、多くの論考があるのでここでは割愛するが、この問題は単純にLNG調達の問題として捉えるべきではない。一連の出来事は、全世界的な脱炭素シフトが進む中で起きた混乱であり、今後も同じような問題が発生する可能性がある。(加谷 珪一:経済評論家)

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中国がLNG輸入を急拡大した本当の理由

2020年の年末以降、日本における電力不足は深刻な状況が続いており、いつ停電が続いてもおかしくないと言われる。政府は正式には節電要請をしていないが、現実は節電要請しないと停電するレベルの水準だといわれる。2月に入って少し寒さが緩んだことから、このまま気温が上がれば改善する可能性もあるが、楽観は禁物という状況に変わりはない。

電力が逼迫した直接的な原因は寒波による冷え込みでLNGの消費が増えたことだが、極度のLNG不足になった最大の原因は中国と韓国がLNGの輸入量を増やしたことと、各国でLNG生産設備のトラブルが相次ぎ、供給が減少したことである。ここにコロナ危機による海運の混乱が重なり、極度のLNG不足とスポット価格高騰が発生した。

中国と韓国がLNGの輸入を増やした理由も、やはり寒波によるエネルギー需要の拡大だが、中国の場合、少し違った事情も見えてくる。日本とドイツは石炭火力の比率が高いことで知られているが、中国は日本よりもさらに石炭火力の比率が高く、今のところ電力の約7割を石炭火力で賄っている。

だが全世界的な脱炭素シフトの流れが加速していることから、石炭火力を継続することは交際交渉上、極めて不利になっており、中国は石炭火力の廃止を急ピッチで進めている。中国は日本から見れば驚異的なペースで再生可能エネルギーへのシフトを進めているが、それでも14億人の人口を抱える巨大市場において再生可能エネを普及させるのは並大抵のことではない。

中国は2060年までの温室効果ガス排出量ゼロを実現するため、再生可能エネを使った発電所の建設を行うと同時に、石炭火力の廃止も進めている。だが再生可能エネ発電所の建設が追いつかない部分については、石炭と比較して排出量が少ないLNG火力を増強することで対応しており、これが中国のLNG輸入を増やす要因となっている。

日本の電力逼迫は国内事情だけの問題ではない

中国共産党による独裁国家である中国におけるエネルギーシフトの熾烈さは、日本からは想像もできないレベルである。

中国は、新型コロナウイルスの発生をめぐってオーストラリアが第三者による調査を要求したことに反発し、豪州産牛肉の輸入停止など対抗措置を取っている。加えて中国は豪州産の石炭についても輸入停止措置を実施しているとされ、中国の沖合には中国に荷揚げできない石炭運搬船が停泊しているというニュースが流れた。中国は石炭の輸入停止を正式には認めてないが、事実上の禁輸措置を行っているのはほぼ間違いない。

この措置はあくまで新型コロナウイルスをめぐる豪州との対立が原因だが、本当の理由は別にある。先ほどから説明しているように、中国は石炭火力の廃止を迫られており、急ピッチで石炭火力からの撤退を進めている。炭坑を含む石炭事業を縮小する中で、石炭業界関係者の大量失業を緩和するため、現時点で使う石炭は可能な限り国内炭にするよう切り換えを進めている可能性が高い。

豪州産の石炭と中国産の石炭を比較すると、中国産の方がコストが高いが、短期間の大量失業という社会的な混乱に対するコストを考えれば、国内炭に切り換えた方が安い。

この結果、中国では再生可能エネのインフラ整備、石炭からLNGへの切り換え、残った石炭火力における国内炭切り換えの3つが同時進行しており、中国のエネルギー産業は大混乱となっている。こうしたところに、近年、まれに見る寒波とLNG不足が重なったことから、中国各地で停電事故が多発している状況だ。

製造業を経済の主力とする中国において停電の影響は大きいが、それでも、中国政府はエネルギーシフトを断行する方針のようである。つまり、今回の日本における電力逼迫は国内事情だけの問題ではなく、全世界的な脱炭素シフトという動きにリンクしている。こうした視点を抜きに、国内の体制だけで問題を議論してしまうと、大局を見誤る可能性があるので注意が必要だ。

10年の時間軸が一気に数年に短縮

さらに言えば、2020年から本格化した新型コロナウイルスも一連の問題と水面下でつながっている。

全世界的にLNGの供給が制限されたのは、2020年夏以降、海外のLNGプラントでトラブルが相次ぎ、供給体制が混乱したからである。石油天然ガス・金属鉱物資源機構によると、LNGプラントのトラブルは例年の5倍に達しており、全世界のLNGプラントの4分の1が何らかの問題を抱えているという。それぞれの生産プラントにおけるトラブルの原因は様々だが、新型コロナウイルスが関係した可能性は否定できない。各地域において物流が混乱し、人員や資材の配置がままならなかったり、修理などの手配が遅れた可能性は十分に考えられる。

加えて、新型コロナウイルスの感染が拡大したことをきっかけに、各国は景気対策も兼ねて、脱炭素インフラへの投資を加速させている。欧州連合(EU)は10年間で1兆ユーロ(約126兆円)というプランを発表しているし、米バイデン政権は、なんと4年間で2兆ドル(約200兆円)もの金額を脱炭素に投じる計画である。中国も脱炭素を含む次世代インフラに170兆円を投じる計画が報道されている。

本来であれば、5年もしくは10年かけて進めるはずだった脱炭素シフトが、コロナ危機をきっかけに数年という時間軸に変貌しており、こうしたマクロ的な状況の変化が、あちこちに混乱を引き起こしている。

だが、脱炭素シフトは避けることができない流れであり、良い悪いの議論とは関係なく、この流れはもはや止めることはできない。

残念なことに日本は先進諸外国の中では、脱炭素シフトへの準備がもっとも進んでおらず、エネルギーシフトに伴う構造転換ショックへの耐性が弱い。トラブルが発生するたびに冷静さを失った議論をすれば、ますます世界の潮流から取り残されてしまう。

今回のLNG価格高騰問題は、今後、脱炭素シフトに伴って発生する各種混乱の前哨戦と考えた方がよく、この戦いに勝ち抜くことができた国だけが次世代における覇権を確立できる。世界各国は、脱炭素シフトに対してコロナ危機と同じレベルの臨戦態勢で臨んでいるが、日本も同等かそれ以上の体制で問題に対処していく必要がある。

加谷 珪一

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