「ヘイト」を口実に言論を封殺するテック大手の大罪

「ヘイト」を口実に言論を封殺するテック大手の大罪

  • JBpress
  • 更新日:2021/01/14
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ツイッターはトランプ大統領を個人アカウントから永久追放した。写真はジャック・ドーシーCEO(写真:AP/アフロ)

岩田太郎(在米ジャーナリスト)

民主主義の総本山こと米国で今、民主主義が危機に瀕している。国民が選んだ議会の代表たちによる、公明正大な票のカウントで当選した次期大統領を確定させる作業が暴力によってひっくり返されようとしたからだ。1月6日の極右の暴動は、保守共和党内の「トランプ党」が中心となって実行した民主主義を完全否定する行為だ。これについては、数多の考察が発表済みである。

一方で、煽動を行ったと目される者の言論を、煽りでない部分も含めてすべてソーシャルメディアから予防的に追放し、言論の場から「自由」と「多様性」と「異論」を排除するという形の民主主義の基盤の破壊も、米国では同時に進行している。こちらについては、まだ論考が少ない。

デジタルトランスフォーメーション(DX)の進行やロックダウン生活の浸透の結果、あらゆる人間関係や取引にテクノロジーが介在するようになった。だが、「ネット掲示板の単なるモデレーターだから」との法律論の屁理屈で、実質的な編集者であるSNSを運営するテック大手が、民主的な議論や透明性ある手続き、司法の判断によらず、何が「真実」で「正しい」かを決定する絶大な権力を振るっている。

しかも、その決定は党派的に偏ったものだ。これら大手テックは「暴力」や「ヘイト」を口実として、あらゆる非リベラルの異論を言論の場から予防的に排除し、その結果として「トランプ党」同様に民主主義を内部から腐食させている。

この連載では、民主党とテック大手による検閲のメカニズムと、それを正当化するトリック、さらにリベラルによる異論排除がいかに大企業や財界の利益と密接に結びついているかを明らかにしていく。

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SNS上の手足をもがれた「トランプ党」

「リベラルの言論に非ずんば言論に非ず」

ここで、米IT大手によるトランプ大統領および支持者の言論の場を奪う動きを簡単にまとめてみよう。まず、ツイッターは大統領を個人アカウントから永久追放し、代替となり得る大統領公式アカウントも停止処分とした。フェイスブックと傘下のインスタグラムも、期限未定で短・中期的な利用を禁じた。

これは、「大統領の発言がさらなる暴力を引き起こす恐れがある」という拡大解釈的かつ予防的なもので、捜査機関の判断や司直による判決ではないことに留意が必要だ。

また、グーグル傘下のユーチューブ、アマゾン傘下のライブストリーミング配信のツイッチ、トランプ大統領によって米国から追放されかけた中国の短編動画アプリTikTok、ソーシャルニュースサイトのレディット、若年層に人気のSNSであるスナップチャット、メッセージアプリのディスコードなども軒並み、トランプ大統領や支持者を排除した。

一方、これらの影響力あるメジャーな言論の場から追放されたトランプ支持者たちが代替として向かった無検閲SNSである「パーラー」アプリは、グーグルとアップルのストアから排除され、パーラーにクラウド上の動作環境を提供するアマゾンのAWSも、同アプリの利用を停止した。トランプ党は文字通り、ソーシャルメディア上の手足をもがれたのである。

また、eコマースのプラットフォームであるアマゾンやショッピファイはトランプグッズの販売を禁止。決済プラットフォームのPayPalなども、トランプ氏や支持者の取引を禁止した。日本における反社勢力並みの扱いであり、生殺与奪権の濫用だ。

再暴動が起こった場合の訴訟リスク回避の意図も見えるが、まさに逃げ場がないほどの徹底した弾圧であり、新約聖書の黙示録にある「刻印のない者はみな、物を買うことも売ることもできないようにした」という一節を想起させるような排除・粛清である。結果として、「リベラルの言論に非ずんば言論に非ず」「リベラルに非ずんば人に非ず」になっている。

こうした中、ドイツのメルケル首相は、「言論の自由への介入は、ソーシャルメディア側の判断によってではなく、法と法の定めるルールに基づいて行われるべきだ」と指摘し、ツイッターがトランプ大統領をプラットフォームから永久追放した判断には「問題がある」と批判した。さらに「意見表明の自由を守ることは絶対的に重要だ」と強調している。

現在EU(欧州連合)と米国は、欧州における米テック大手規制・課税問題で対立しており、メルケル氏の発言は言論問題というよりは、米欧摩擦の文脈で出たものだろう。それでもなお、2党政治における片方の発言が沈黙化させられるという、米SNSの非民主性が世界の有力指導者により指摘されたことは重い。

議事堂放火事件を政治利用したナチスを彷彿

一方、ドイツ語圏のオーストリア出身の俳優で、元カリフォルニア州知事のアーノルド・シュワルツェネッガー氏(共和党)が、議事堂事件に関して動画メッセージを公開。1938年にナチスの扇動によりドイツ各地で起こったユダヤ人襲撃事件「水晶の夜」を引き合いに出し、1月6日の暴動の参加者や彼らを支持した共和党議員らを批判した。

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議事堂乱入事件をYouTubeで批判したシュワルツェネッガー氏

しかし筆者には「水晶の夜」よりも、ワシントンの議事堂における騒動を受けて米テック大手が「トランプ党」を言論の場から排除したことが、1933年のドイツ国会議事堂放火事件をナチスが政治利用し、言論の自由を著しく制限した一連の出来事を想起させた。異論を完全排除したナチスはやがて、「民族および国家の危難を除去するため」と称して、民主主義の立法手続きを事実上無力化した悪名高き「全権委任法」を成立させていったからである。

米テック大手が使った「暴力を予防する」のと同じ口実で、国会議員を含む多数の共産党員・社会民主党員がナチスにより逮捕・予防拘禁されたのだ。もちろん、米国で共和党員が予防拘禁されることは考えられないものの、今回の暴動はトランプ氏や暴徒とひっくるめて、正当な批判や抗議も封じるチャンスである。民主党やリベラル派が邁進する「排除」「弾圧」「統制」の方向性はナチ党と類似しており、大いに懸念されるべきだ。

またツイッターは、在米中国大使館がその公式ツイッターで、「新疆ウイグル自治区(漢人に占領された東トルキスタンを指す)の女性たちは、子供を産む機械ではなくなり、より自信にあふれ、自立し、自分の意思で子供を産むかどうかを決められるようになった」とした発信を、「誤情報だ」として1月10日に削除している。

筆者は漢人の東トルキスタン侵略には一貫して反対する者であり、在米中国大使館の「ウイグルの女性は解放された」とのツイートは吐き気を催す大嘘であると思う。だが、誤りは言論の場において、剣よりも鋭いペンの力で粘り強く明らかにされるべきであり、「悪者中国」の発言を排除することで解決する問題ではない。

なお、民主党候補たちに献金を行ってきたツイッターのジャック・ドーシー最高経営責任者(CEO)は2015年10月に、「ツイッターは言論の自由を堅持する。権力に対して真理を語ることを支持し、対話を奨励することが弊社の役割だ(Twitter stands for freedom of expression. We stand for speaking truth to power. And we stand for empowering dialogue.)と言明している。

中国側の発信の元となった報告書をまとめた新疆発展研究センターの李暁霞研究員は、「これはまさに、米国や西側諸国の言うところの言論の自由がいかに偽りであるかを物語っている」と述べたが、李研究員はこのことに関して正しいと認めざるを得ない。

SNSの検閲と中国の言論弾圧は実質的に同じ

習近平国家主席が領導する中国共産党の意思により、不当に収監された香港の民主活動家である周庭氏は、彼女のイメージする民主主義の理想として、「自分と異なる意見の人の言論の自由も守りたい」と語っているが、米国のリベラルエリートやIT企業が推進する検閲は、中国における全体主義的な言論弾圧と実質上、変わらない。

だが、民主党や米リベラル派は周氏に、「検閲こそ民主主義だ」と示し、恥じることがないのであろう。民主党とツイッターなど米テック大手は、「反民主主義」において一心同体かつ一蓮托生だと考えざるを得ない。

バイデン次期大統領は、米国民を広く包摂して分断の克服に乗り出そうとしている。だが、バイデン氏も民主党もテック大手の言論統制に反対せず、黙認することで事実上、弾圧を奨励している。「暴力からの安全」の名の下に、より広範な言論や政治参加の場を政敵から奪うという「包摂」「多様性」「団結」こそが、リベラルにとっての民主主義の「アップデート」であるからだ。

次回は、ソーシャルメディアなど米テック大手の検閲の法律的・社会的なロジックと、そのトリックを詳しく分析して明らかにする。そして第3回では、米国における言論弾圧に関連した、日本におけるプラットフォームの検閲の実態について考える。

岩田 太郎

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