経団連会長もパソコンを使えない...デジタル化の「知られざる真実」

経団連会長もパソコンを使えない...デジタル化の「知られざる真実」

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2020/10/16
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デジタルとアナログは車の両輪である

確かに、官公庁におけるデジタル化は、官僚・役人たちの「自らの権益を守るため」の強力な抵抗にあって、これまで遅々たる歩みであった。

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photo by Gettyimages

そのおかげで日本国民は、その極めて非効率(無駄)な「役所仕事」にいら立たされた上に、無駄な仕事に費やすための本来必要の無い税金を(上乗せして)支払わされてきた。

9月16日に誕生した菅政権において、「デジタル化推進」が強力に推し進められているのは頼もしいことである。

民間企業においても、役所同様デジタル化の推進が順調に行われてきたとは言えない。

いわゆる中小企業においては、導入費用の問題などから、なかなかデジタル化が推進されてこなかった。

さらに、例えば電子記録債券システムは、紙の手形の発行・管理などの煩雑な業務から解放されコストも下がるので経営者は導入したい。しかし、現場の経理担当が自らの仕事が無くなることを恐れて(あるいは慣れた手法を切り替えるのを嫌がって)導入に反対する。

パソコンを使えない経団連会長

大企業においては、経営トップのITリテラシーの欠如が大いに問題となった。

日本経団連では中西宏明会長が2018年5月、経団連会館内にある会長執務室に初めて卓上のパソコンを設置したが、「それまでは『部屋でパソコンを操る財界総理はいなかった』が、事務局の役員やその部下に、メールで仕事の指示・確認をするようになった」ことが話題となった。

なお、中西氏は大型コンピュータ分野でかつて脚光を浴びた日立製作所の出身である。同社は、2017年に大型の汎用コンピュータ「メインフレーム」のハードウエア開発から撤退したが、米IBMからハードの供給を受け、基本ソフト(OS)などメインフレームの事業自体は継続している。

もちろん、投資の神様バフェットも、自らがパソコンを操るのは「ブリッジ(カードゲーム)」をするときくらいだが、インテル、IBM、アップルなどに投資をしている(前者2つは結局失敗に終わったが……)から、トップがパソコン操作できるかどうかはそれほど重要では無いかもしれない。

しかし、バフェットはビル・ゲイツと親子ほど年も違うが、何回も家族ぐるみで海外旅行をするほどの親友だから、IT業界の知識は相当もっている。それに対して、日本の経営者のITに関する知識がどれほどのものかは疑問である……。

だから、経営者のITリテラシーのあるなしに関わらず、デジタル化推進によって業務を効率化すべきことは間違い無い。

だが、現在のように「何をデジタル化すべきかを熟慮しない」やり方は危険だとも思う。

10月13日の「東証取引停止は氷山の一角、デジタル依存社会はここまで危険だ」で述べたように、「デジタルの欠点を補うためにアナログへと進化した」のは否定できない事実である。したがって「デジタルとアナログの使い分け」が必要不可欠なのだ。

役人も企業経営者も上手に使い分けなければ

日本に限らず世界中の国々で役所や役人は「硬直性」や「非効率」の代名詞である。もちろん、全くその通りだから、日本国民が菅政権のデジタル化推進に拍手喝采を送る気持ちはよくわかる。

その点において、デジタル化推進は緊急の課題だ。しかし10月9日の記事「あなたがあなたであることをどのように証明するか?」で述べたように、例えば「本人証明」に関しては「簡単にコピーできることが最大の長所」のデジタルは向かない。

また、デジタルは備蓄が困難な電気に依存しているから、停電はもとより、キャリントン・イベントのような大規模な磁気嵐(太陽嵐)がやってきて、すべての電子データが消滅してしまったときにどうするのかという問題が生じる。

不動産登記も含めて、ペーパーレス化が急速に進んでいるが、「万が一」の時に「命の次に大事な財産の権利」をどのように保全するかは十分考えるべきである。

もちろん、民間企業においても、例えば「紙の株券」は既に廃止されているから、万が一の問題は当然存在する。

創造性を生み出すもの

しかし、それ以上に重要な点は、ピーター・ドラッカーが述べるように「企業の基礎は『マ―ケティング』と『イノベーション』にある」ことだ。

この2つについては、2018年11月14日の記事「投資の神様バフェットが最も重視した『企業を見抜く4つの視点』」の中で、バフェット流の基礎を成す「ブランド力」と「仕入れ力」に付け加えるべきものとして解説している。

もちろん、マーケティングにおいて市場調査などのデータは必要だが、そのデータを読み解けるのは人間だけである。AI分析などが流行っているが、AIには少なくとも現在人間の感性に匹敵するものは無い。

ドラッカーは「利益を生むことができるのは人間だけだ」とも言う。工場・製造機械、店舗などを「設置」しただけでは収益を生まない。それらを意図して使う人間が存在してこそ利益を産むのだ。

また、少なくとも現在のところ顧客の100%は人間である。例えペットフードであっても、ペットに食べさせるために買うのは人間である。またECや自動発注でも、商品やサービスの妥当性を吟味し、最終的に代金の支払いを決定するのも人間である。

簡潔に誤解を恐れずにまとめてしまえば、

・デジタルは効率化によってコストを劇的に下げるが、創造によって利益を生むことはできない。
・人間主体のアナログは、非効率な部分も多いが、創造力によって利益を生む唯一の手段である。

ということなのである。

ネットは極めて合理的で生産性が高いが、創造的なのはアナログな世界である。デジタルを推進するのが、「掘り下げる」おたくであるのは偶然ではない。例えば、ビル・ゲイツが帆船に乗って、7つの海を冒険をするイメージはあまりわかないはずだ……

これまで極めて無駄が多かったアナログな作業が、在宅ワークの進展によって改革されるのは望ましい。しかし、企業の成長を牽引するイノベーション(創造性)が失われるようでは意味が無い。

ドラッカーは、新規にビジネスを創造する部門と、既存の生産性を上げなければならない部門は分離すべきと主張する。もちろん、前者がアナログ向きで、後者がデジタル向きである。

ネット会議は両者の融合だ

Zoomなどのネット会議は、移動時間などを合理化し、人間の創造性を高める優れた手段だ。

もともと、海外との会議はネットで行うことが珍しくなかった。物理的に頻繁に対面の会議を開くことが難しかったからである。

某外資系金融機関に努める友人は「ほとんど毎晩NYとのビデオ会議があるので(NY時間に合わせた時差で)、寝不足で死にそうだ」とこぼしていたことがある。当時は自宅からのネット接続環境が整っておらず、ビデオ会議をするためにわざわざ丸の内などのオフィスに出かけなければならなかったのだ……

しかし、それでも飛行機に乗ってNYに出かけることを考えれば、はるかに効率的に打ち合わせができる。

パンデミックの影響で、海外出張がほとんどできない中でも、国際業務が滞りなく行われているのは、ビデオ会議を始めとする通信システムの進歩のおかげだと言えるであろう。

最近では、国内のビジネスでもビデオ会議が急速に普及しつつある。

確かに極めて生産性が高い。移動時間はほとんどゼロで、開始2~3分前まで他の作業ができる。

また、話の内容もテーマに沿ったものが中心で無駄話が少なくなる。さらに、対面の会議では、「物理的に出席すること」がその場の雰囲気を形成することに一定の価値があったが、オンライン会議では黙って座っていることにあまり意味が無い。

スポーツの試合や音楽コンサートで、観客がいる時といないときの差を考えれば実感できるはずだ。

だから、「内容を詰める」会議はすべてをビデオ会議に切り替えても良いと思う。

しかし、会議にはもう1つ別の側面がある。「ブレインストーミング」と呼ばれる、お互いに刺激をしあって「創造」するタイプのものだ。

私は「ところで型」とネーミングしているが、主要なテーマでは無いことだがなんとなく関連があるようなないような「ところで……」という枕詞で始まる些末にも見える話だ。

この些末に見える話が、世の中を変えるようなムーブメントに成長することも珍しくない。

設定されたテーマというのは「すでに存在している」ことが普通だが、「ところで……」はそのテーマから離れた「これまで存在していなかったこと」である可能性が高い。だからドラッカーのいう「イノベーション」につながりやすいのだ。

優秀な税理士・会計士が優秀な経営者、ではない

ときどき、企業経営の内容をつぶさに見てきてよくわかっているとの自負から起業する税理士・会計士を見かけるが、うまくいかないことが多い。

企業経営のうちデータ化できる部分は税理士たちにも理解できるから、他社の事例なども見比べている税理士たちのオピニオンはそれなりに正しい。

しかし、企業経営の核心は「データ化できない人間の心」をどのように扱うかにある。従業員の心はもちろんだ。いくら数字を上手にいじっても、従業員の心が経営者から離れてしまえばその企業の将来は無い。

また、売り上げの100%を依存する「人間の顧客」にも心がある。いくらデータを詳細に分析しても「顧客心理」が分からなければ売り上げは伸びない。

それらの人間の心は、結局デジタルではなくアナログで扱うべきなのだ。

結局、デジタルは合理化できるだけで、創造するのは人間である。ドラッカーの言葉を繰り返すが「利益を生むことができるのは人間だけ」なのだ。

そして、人間は「デジタルからアナログへと進化」した存在なのである。

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