日本人が知らない、温暖化対策の「キケンな最終手段」があった...!

日本人が知らない、温暖化対策の「キケンな最終手段」があった...!

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/05/04
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地球温暖化対策をしなければ2100年に平均気温の上昇は約3.5度に達し、それ以降も気温が上昇し続ける。生態系は大きなダメージを受け、農業や人間の生活にも影響が及ぶ。なんとかして気温上昇を1.5度に抑えたい——これが2015年のパリ協定で定められた人類のゴールだ。

その手段に注目されているのが大気から直接大量のCO2を回収するなどの「CO2除去」や、太陽光が地表に到達するまでの反射(散乱)率を上げることで地球を冷やす「太陽放射改変」を代表とするジオエンジニアリング(気候工学)である。

CO2排出削減に加えて、これらの手段が検討されているのはなぜなのか。実現には何が懸念されているのか、企業や政府・自治体、個人は何をしたらいいのか——気候工学のガバナンスの専門家で『気候を操作する 温暖化対策の危険な「最終手段」』(KADOKAWA)を著した東京大学未来ビジョン研究センター准教授・杉山昌広氏に訊いた。

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〔PHOTO〕gettyimages

「気候工学」が検討される理由

——SDGsのことは日本でもさかんに言われるようになりましたが、気候変動に対する危機感はまだまだ共有されていないように思います。改めてどんな定量目標が、なぜ設定されているのかについてから教えてください。

杉山 SDGsの気候変動に関する「ゴール13」は、あれ単体で見ると中身が後述する「適応」などに偏っているんですね。SDGsは同じ2015年にできたパリ協定と対になっていて、パリ協定では具体的に「産業革命前に比べて気温上昇を2度より十分に低い水準に留め、1.5度に抑える努力をする」という目標が設定されています。

それを元にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が2018年に出した報告書によると、1.5度の目標を達成するには2050年頃までにCO2を正味排出量0にしなければなりません。

気候変動は人間の活動が原因で起きていますが、多くの科学者はこの問題は不確実性が大きい——今すでに起きている記録的な風水害や熱波に留まらず、どれほど甚大な影響を与えるかが未知数だと考えています。だからこそ「ここまでは起きないかもね」というくらいのことまで想定して対策を取るべきなのです。

そして1.5度に抑えるには最低でも「緩和」(排出削減)と「適応」が必要不可欠です。

CO2は他の大気汚染物質とは違います。たとえばPM2.5であれば工場を止め、クルマが走らなくなければ2週間くらいで大気がきれいになります。ところがCO2は排出量を減らしても1000年単位で大気中に存在し続けます。その間は気温が上がりっぱなしになる。

すでにもはや約1度平均気温が上昇してしまっていますから、排出削減に加えて、人類社会が気候変化に「適応」する、つまりたとえば防災面では堤防を高くする、農業では植える品種を変える、といったことが必要です。

そして「緩和」と「適応」でも1.5達成が難しいと考えられているために検討されている次の手段が「CO2を大気から取る」というCO2除去です。

なぜCO2の排出削減だけでは不十分かというと、ひとつには極めてCO2削減が難しいところがあり、もうひとつにはメタンをはじめほかの温室効果ガスもあり、それらの効果もキャンセルして気温を元に戻すためにはCO2をマイナスにすることが絶対に必要だからです。

最終手段「太陽放射改変」とは?

杉山 英国科学アカデミーの報告書ではこの「CO2除去」と次に述べる「太陽放射改変」(太陽放射管理)を「Geoengineering」(気候工学)と呼んでいます。ほかにもClimate engineeringと呼ばれるなど、まだ名称が定まっていない学問分野です。

ただし、CO2除去は普通の排出対策とは異なる点がいくつもあります。

何が難しいのか。目に見えないだけで、人間が出しているごみのなかでもっとも大きいもののひとつがCO2であり、1.5度を実現するためには非常に大規模に実施する必要があります。そうはいっても土地は有限ですから、それを農業用地にするのか植林に使うのかといった競合が起きかねない。たとえばそのような課題があります。

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——植林以外のCO2除去の代表的なものは?

杉山 生物の籾殻や木材を燃やすと発電できるバイオマスエネルギーを使うことです。理想的にはバイオマスは炭素中立、つまりCO2を取りも足しもしないものになります。そしてバイオマスを燃やす際の煙突に回収装置を付けると純度の高いCO2ができ、それを回収して埋めてしまう、というものです。

また、最近注目を集めているのが「直接空気回収」です。日本でもNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)などが研究していますし、アメリカのグローバルサーモスタット、スイスのクライムワークスのように未上場ながら著名なベンチャー企業もいくつかあり、すでにプラントを作っています。ほかにも毎日どこかしらの研究者が新しい手段を提案しています。

そして排出削減、適応、CO2除去でも気温上昇1.5度が達成できない場合の最後の選択肢として「太陽放射改変」があります。これは「気候を直接冷やす」というものです。たとえば上空大気の成層圏に微粒子を撒いて地球全体を覆って地球を冷やす——これを私が一部の関係者に話すと「SFみたいだ」と言われることもあるのですが、SFではありません。

というのも、たとえば1991年の大規模火山噴火が起こった際に硫黄ガスが成層圏に到達して化学反応が起き、裸眼では見えない薄い雲になって太陽光の地表到達の度合いを減らし、18か月後に気温が最大約0.5度減少したことが現実に確認されています。それと同じことをやるには、硫黄や硫酸を200億トンくらい地球全体に広げるかたちで散布できれば冷やせるだろうと考えられています。

——なぜ気候を直接冷やすことが、検討の順で言えば最後の選択肢になるのでしょうか。

杉山 排出削減と適応はすでに始めていることであり、CO2除去に関しては、国際条約を拡張するといったことは必要かもしれませんが、適切に行うことはおそらく可能であろうと考えられています。たとえばバイオエネルギーにしても過去に様々な問題が起きたものの、問題の本質は比較的わかっていて対処可能だろう、と。

一方で、地球を全体的に冷やすには、安全性や国際政治上の問題があり、文系理系問わずさまざまな研究者が議論している状態です。まだまだ知見が足りていない。ですから私も研究を進めることは支持していますが、安全性が確かめられていない現時点での実施には反対です。副作用が強い方策ですから、使わないで済むならそれがいいのかもしれない。ただ、実行しないと森林や動物、あるいは人間の死が早まる可能性が高い。

だからこそ人間社会全体としてどういうものが望ましいのか、あるいは費用捻出をどうするのか、そもそも太陽放射改変にお金をかけるのかかけないのか、やらないと決めたならば気候変動の影響を世界全体が受けることになるがそれでいいのか……といったことを議論していかなくてはいけません。

——慎重に進めている時間はあるのか、気候変動によって後戻りできない環境変化が起こってしまうまでに間に合うのかが気になります。

杉山 COVID-19のワクチンと同じで、太陽放射改変の技術もすぐにはできません。ワクチンも完成したら終わりではなく、大量に製造して世界各地に送り届けてひとりひとりに注射してといったオペレーションまで組み立てないといけませんよね。

それと同じで、太陽放射改変も——今述べた成層圏エアロゾル注入以外にも、低層雲の粒の大きさを小さくして太陽光の反射(散乱)率を変えて地球を冷やすといったアイデアはいくつもありますが——実現までには10年から30年スパンでかかるようなものです。

だからこそ早めの投資が必要で、使わないなら使わないで済む他の選択肢も同時に考えていく必要がある。

先般、全米科学アカデミーが太陽放射改変の研究を本格化すべきという提言書を出しましたが、今後、研究が加速していくことは間違いありません。

定量的に気候変動対策を考える

——斎藤幸平さんが『「人新世」の資本論』で言っているような「気候変動を食い止めるには経済成長をやめるしかない」論に対してはどうお考えですか。

杉山 私は経済学の専門ではないのでなんとも言えません。ただ、たとえばビットコインは数字だけの世界で価値が乱高下してしますよね。つまり経済的な価値は物理的なものとタイアップされていない。

ですから気候変動対策と経済成長が両立可能かどうかという問題を絡めると神学論争になりがちですし、予算を管理する財務省のような役所や利益を追求するビジネスサイドを説得できないと思っています。

一方でたとえば化石燃料には物理的な限界や環境制約が明確にある。2021年2月にイギリスで出された生物多様性と経済に関するダスグプタ・レビューではこうした物質的な限界を踏まえて「このままいくと経済成長には限界がある」と指摘しています。個人的にはこういう物質的な面から攻めた方が筋がいいだろうと思っています。

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——齊藤さんの本では前半で「このままだと温暖化対策は間に合わない」と言っているのに後半で出す処方箋が「生活や経済を組合ベースに移行する」という急に変えるのは難しそうなもので、それこそ間に合わないのでは? とも感じていました。

杉山 気候変動問題は定量的にモデルのシナリオ分析をする必要があり、かつスピードが重要です。ですからやはり経済学よりも物理学や工学の話にしたほうがシンプルかなと。

とはいえ、アジアやアフリカの途上国が経済成長する権利を奪ってCO2排出削減を押しつけるわけにはいかない、といった気候変動対策に伴う不平等をどうするかという問題は重要ですから、社会科学的な議論も同時並行で進めていくべきです。その点は齋藤さんのような視点に異論はありません。

——気候変動は個人の省エネ程度でどうにかなる問題ではありませんが、では私たちひとりひとりは何をすればいいでしょうか。

杉山 富裕層は研究機関に寄付をする、企業であればクライムワークスのような気候変動対策の会社に出資することも検討してほしいですが、市民レベルではやはり投票行動と、広く周囲と話してリテラシーを高め、日々の行動や意思決定に反映していくことだと思います。

日本では気候変動問題に限らずおおっぴらに議論すること自体が好まれず、「温暖化対策に関心がある」と言うと政府が決めた「エアコンの設定温度は28度に」を守る良い子ちゃんみたいなイメージがいまだにあります。

しかし海外では今日お話したようなことを学者が研究しているだけでなく、ヒッピー以来のカウンターカルチャーやシリコンバレーをはじめとする起業家コミュニティとも結びついて運動やビジネスが展開されていますし、レオナルド・ディカプリオのような著名人・芸能人が積極的にコミットしている例も珍しくありません。

CO2除去ひとつとってもどんな方法で、いつ、どのくらいの規模でやるべきなのか、様々な議論があり、政府の方針に賛成か反対かという二元論ではありません。そこの裾野は広がってほしいと思いますし、英語圏が主導する気候変動問題に対する国内外の情報格差を減らしたい。

これは「欧米に従え」ということではありません。仮に日本が独自路線でいくのであれば、それはそれで情報の受発信が必要です。たとえば中国は色々な意味で強烈に、戦略的に多言語で発信しています。ところが日本はあまり発信していないがために他国と対話になっていない。国際的な潮流からズレています。

いずれにしても世界中のすべての人が温暖化や気候工学からは逃れられません。それぞれの人がもっと情報を受発信をし、国際的に批判や応援しあうのが当たり前の状態をつくって、当事者意識を持ってこの問題に臨むようになればと思っています。

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