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公表のエネ基素案でも踏み込み不足の原子力政策 産業土台むしばむ

  • 産経ニュース
  • 更新日:2021/07/22

経済産業省が21日公表した第6次エネルギー基本計画(エネ基)素案は、原子力発電所のリプレース(建て替え)や新増設が盛り込まれないなど、またも先送り色が濃いものとなった。政府は、脱炭素社会を実現するため、2030(令和12)年度に温室効果ガスの排出量を13年度に比べて46%削減する野心的な目標を打ち出した。ただ、素案は目標の実現に向けたエネルギー政策の道筋を示すのに重要な原発の位置づけで踏み込み不足は否めない。

「原子力の重要性をしっかりと位置付け、リプレースや新増設、新型炉・次世代炉の開発など中長期的なビジョンを提示してもらいたい」

電気事業連合会の池辺和弘会長(九州電力社長)は16日の定例記者会見で、エネ基について、こう注文をつけた。池辺氏の発言は原発稼働に責任を負う電力事業者として政府に対し、原子力への明確な指針を示す覚悟を求めたものだ。

同様の意見は、原発の立地自治体からも出ていた。

福井県の杉本達治知事は2日、梶山弘志経産相と面会した際、先に40年超運転に同意した関西電力美浜原発(同県美浜町)などに触れ「(原子力政策が)後退していくことがあってはならない」とくぎをさした。

ただ、こうした声は素案に反映されなかった。

確かに電源構成で20~22%とした原発の位置づけは平成30年の第5次エネ基と同じで、その点では後退とはいえない。しかし決して前進でもない。素案は改めて政府の原子力政策についての十年一日ぶりを露呈させた。

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そうしている間、原子力産業の土台はむしばまれている。

東日本大震災に伴う東京電力福島第1原発事故後、原発政策は漂流し、将来が見通せない中で原子力従事者は減少を続けている。日本電機工業会の統計ではピークの平成22年度には約1万3700人を数えたが、令和元年度には約30%減の9976人となっている。

学生の原子力離れも進む。電力事業者やプラントメーカーなど原子力事業者の就職説明会「原子力産業セミナー」に参加した学生は平成22年度に約1900人だったが、23年度以降は20%程度に落ち込んだ。

令和2年度のセミナーは、開催時期の変更などで東京と大阪の2会場で計439人と持ち直しの兆しはあるが、主催の日本原子力産業協会は原子力工学を専攻していない学生の参加者は減少傾向が続いていることに危機感を強める。

原発の維持や運転には原子力以外にも、化学や素材、環境、土木系などを専門に学んだ幅広い人材が欠かせない。しかし、福島事故の衝撃に加え、原発を将来も活用し続けると明確に示さない国のエネルギー政策などにより、原子力工学を専攻した学生を除けば、志望者が先細っているのが現実だ。

同協会担当者は「今は電力会社やプラントメーカーがそれぞれ採用、育成を何とかやっている。しかし技術や人材、サプライチェーンの維持について危機感を持っている。先々を見れば深刻な問題だ」と訴える。

その一方で、素案で存在感を強めたのは、太陽光発電など再生可能エネルギーだ。素案では電源構成で36~38%と、従来計画より10ポイント以上引き上げた。

12日に経産省の有識者会議が示した「発電別コスト検証結果」で、2030年時点で1キロワット時あたり11円台後半以上の原発に対し、事業用の太陽光発電は8円台前半~11円台後半とコスト優位性が逆転したかに見える。

ただ、この検証は燃料価格見通しや設備稼働状況などに一定の条件を置き、新設する場合として試算しており、既設の発電所のコストではない。加えて、夜に発電しない太陽光などの出力変動に対応した需給バランス維持のためバックアップする火力発電所にかかる費用などは除外されている。会議では委員から再三、検証結果の「独り歩き」への懸念が示されたが、一部メディアがセンセーショナルに報じたことで強く印象付けられた。

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そもそも、太陽光発電については国内で新規に大量導入する余地があるのかという問題や、バイデン米政権が、パネル原料を生産する中国の新疆ウイグル自治区で強制労働があったとして、輸入制限を決めるなど逆風は強まる。しかも検証結果通りコストが低くなっても、果たして消費者のメリットにつながるかは疑わしい。それは再エネ固定価格買い取り制度(FIT)があるからだ。

九電など電力事業者は、他電源に比べ割安な原発の再稼働時に電気料金を値下げした。しかしFITに支えられた再エネのコストが下がっても、利益は再エネ事業者のもので消費者には還元されない。むしろ現状では再エネ導入増でふくらんだFIT賦課金による負担が消費者にのしかかる。導入時、「月にコーヒー1杯程度」とされた賦課金は今や平均的な一般家庭で年間1万円を超える。

日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会九州支部長の林真実氏は「低所得層には負担のみで搾取だけされるようなもの」と強調する。

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温暖化対策として、非化石電源を拡充することの重要性は論を俟たない。素案でも、非化石電源比率を60%程度に大幅に引き上げた。しかし、原子力政策の腰が定まらないまま、再エネにばかり傾斜するのは危うい。

2月、米テキサス州を寒波が襲った。州全域での完全な停電(ブラックアウト)寸前に追い込まれた。

米紙ウォールストリート・ジャーナルは同16日(電子版)の社説で「州と連邦(政府)のエネルギー政策が市場をゆがめ、電力網の信頼性が損なわれた(結果だ)」とし、その上で「連邦エネルギー規制委員会が信頼性よりも再エネ政策を推進した」として、停電は政治の産物と断じた。

停電理由は複合的で、電源構成をはじめ前提が異なるテキサス州の事例と日本を単純に比較することは適切でない。それでも政治がゆがめたエネルギー政策によって社会経済活動に不可欠な電力の安定供給が損なわれたという指摘は重い。

エネ基は第5次に続き、原子力の位置づけという重い課題を先送りにした。世論の反応をうかがうばかりでは国家百年の計は立て得ない。(中村雅和)

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