
友人宅のバディ(写真提供◎青木さん 以下すべて)
青木さやかさんの連載「50歳、おんな、今日のところは『……』として」――。青木さんが、50歳の今だからこそ綴れるエッセイは、母との関係についてふれた「大嫌いだった母が遺した、手紙の中身」、初めてがんに罹患していたことを明かしたエッセイ「突然のがん告知。1人で受け止めた私が、入院前に片づけた6つのこと」が話題になりました。今回は「愛猫家の人」です。
* * * * * * *
前回「肺がん手術から5年が経過した。当時存命中の母にも知られたくなかった。でも……」はこちら
毎朝のルーティン
白と黒の猫の兄弟は、うちにきて5年になる。生後3ヵ月、保護団体twfの会からやってきた。今では家族の一員、いや主のようだ。
毎朝起きると、黒いハチワレ猫は、ごはんだ!ごはんだ!とニャーニャー鳴き起こす。それでもまだ寝ていると、窓際からわたしの腹部に、ドン!とジャンプし、「うう」と呻くわたしの髪を1本ずつ噛みちぎる。やめてくださいと言いながら布団に潜り込むが、やがて気の毒になり、仕方なく起きる。寝ぼけ眼で、ごはんを準備すると、ジロリと一瞥し「またこれかよ、他のを出して」と鳴く。「これなの。これしか今日はないので。からだにいいから、食べなさい」と言うと、しぶしぶ食べ始める。

ご飯を待つハチワレ、我が家のクティ
その様子をじっとみていた控えめな性格の白い猫は、ハチワレ黒猫が食べ終えた後、残ったお皿に近づいて静かに食べ始める。白い猫は、かつおぶしが好きだから、猫用のかつおぶしを、黒猫に見つからないように、そっとふりかける。
これが毎朝のルーティンだ。

仲良しのクティとシティ
どんな猫も可愛い
猫がうちにきてからというもの、どの猫を見ても「可愛い可愛い」と、近づいていくようになった。どんな顔のどんな性格の猫だって、可愛い。
友人宅には、同じ保護団体から家族として迎えてくれたバディという名前の猫がいる。当時小学生だった息子さんのバディ(相棒)になればという希望からつけた名前だったが、バディというよりライバル。どちらかといえば、わたしの友人である母親のバディ(相棒)である。グレーの美しい毛並みのバディは、気品があり、頭がよく、どんなドアでも開けてしまうので、友人は困りながらも溺愛している。猫が家族にきたおかげで、冬が好きになったのだという。寒くなると猫が自分の体の上で丸まるから嬉しいという理由。

本連載から生まれた青木さんの著書『母』
わたしが住んでいるマンションの下の階には、姉弟の猫たちがいる。この子たちは近所の家の軒下で生まれた。赤ちゃんの時に捕獲し、親猫は逃げてしまったが、2匹の赤ちゃんは無事こちらの家の子ども達になった。黒いお姉さんはスリムだが人間の食べ物が大好きで、常に机の上を狙っている。胸に三日月のマークのように白い毛がはえていて、ツキノワグマちゃんとわたしは呼んでいる。撫でられるのは好きだが、抱っこされるのは得意ではない。
一方、茶トラのフワリとした毛の猫は、キョトンとした顔が何とも愛嬌があり、マンガのホワッツマイケルにそっくりだ。わたしが、このお宅にお邪魔すると、ささささーとどこかの部屋へ逃げていき、時折リビングを偵察にきては、「まだいるのか」と驚いたまま、わたしをじっとみている。「早く帰らないかなぁ」という声が聞こえてくるようだ。しかし、わたしは帰らない。猫がわたしを嫌がる様子もまた可愛くて仕方がない。

マンガのホワッツマイケルにそっくり
1時間かけて厳選した木箱
うちに戻ると、2匹の兄弟猫が「おかえり~」と玄関にタタタッとかけてきた。「あんたたちはさっきも可愛かったけど、今も可愛いねえ」と、声をかけると、足元に擦り寄って離れない。ごはんだごはんだ、と言うので、太り過ぎだよ猫が太るとなかなか痩せられないのだから困りましたよ、と言いながら、少しだけ、オヤツをあげる。
あっという間に寒くなった。
わたしと娘がいない時も床暖房をつけているが、寒くないように無印良品で箱を買い、猫のベッドを作ってあげた。どの箱がいいかバスケットがいいか、迷いに迷って、久しぶりに1時間は無印良品にいた。これがいいか、あれがいいか、バスケットだと爪で研ぐからゴミが出るからな、と、ぶつぶつ唱えながら。おかげさまでヤバめの中年だと思っていただけたのか誰も近づいてこないので、ゆっくりと買い物を楽しめた。
厳選した木箱に、ふかふかの布団を敷いてリビングに置いてみたところ、猫は見向きもしなかった。

リビングに放置されている箱。クティはしらんぷり
青木さやか