中華鍋(?)で揚げたアフリカのドーナツ|世界の炒め物1

中華鍋(?)で揚げたアフリカのドーナツ|世界の炒め物1

  • dancyu (ダンチュウ)
  • 更新日:2022/09/23

2022年10月号の特集テーマは「きちんと美味しい 炒め物」です。特集では炒め物に欠かせない調理器具、中華鍋についても取り上げていましたが、旅行作家の石田ゆうすけさんが世界を旅した時、初めて中華鍋を見た地はアフリカだったそうです。そこで調理されていたものとは――。

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■のどかな国境

食の雑誌dancyuの今月の特集は「炒めもの」だが、「中華鍋お悩み相談室」として、調理器具の中華鍋にもたくさんのページを割いている。
これまで何度か書いているとおり、僕は北中南米、ヨーロッパ、アフリカという順で各大陸を自転車で旅し、最後に日本に向かってアジアを走ったのだが、その旅で最初に中華鍋を見たのはアフリカだった(あくまで僕の経験の話です。あと、各地の中華料理店は除く)。揚げ物をつくるのに中華鍋が使われていたのだ。
本物の中華鍋か、あるいは中華鍋に似た鍋か、そこは記憶がはっきりしないのだけど、ま、旅していたときは「あれ?アフリカに中華鍋が」と思ったので、このまま話を進めようと思う。
じゃがいもや魚やチーズなど、いろんなものが露店や市場で揚げられ、売られていたのだが、僕が最もよく食べたのはドーナツだった。
たいてい球状で、沖縄のサータアンダギーに似て、ずっしり重く、おいしかった。もちろん油の質次第だから、食べた瞬間胸焼けするものもあったけど。

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ギニアからマリへ抜ける国境にもドーナツの露店が出ていた。
そこでも中華鍋が使われ、何かを揚げているときのカラカラカラというのんきな音が昼下がりの空気に響いていた。薄い中華鍋だと音も大きくなるのだろうか。

その前を通り過ぎ、国境へ向かう。
灌木林に囲まれたのどかな国境だった。ゲートはなく、くたびれたロープが腰の高さで通せんぼをするように道に渡されている。その一本のロープが国を二つに分けていた。
ギニア側のオフィスはそのすぐ横にあった。小さなプレハブ小屋だ。パスポートに出国印をもらうと、外に出て自転車を押していく。オフィスから係員が出てきて、ロープをゆるめる。ロープは赤土の道にぽとりと落ちる。僕は自転車を押してロープをタイヤで踏みながらまたいでいって、マリに入る。子供の作った秘密基地にでも入っていくようで、緊張感のかけらもない。

マリ側のオフィスはロープから少し離れたところにあった。同じようなプレハブ小屋だ。中には3人の係官がいた。
パスポートを渡すと、彼らはそれを取りあげたまま、なかなか返そうとしない。口には出さないが、賄賂を求めているのだろう。アフリカでは珍しくない。
「あのサソリ、すごいですね」
僕は小屋の入り口にぶら下がっていた大きなサソリの死骸のことを言った。
「あんなでかいサソリ、あちこちにいるんですか?」
「ああ、そこらじゅうにいるぞ」
「ワオ、ほんとですか?日本にはあんなのいないヨ!」
おどけてそんな話をしているうちに彼らの顔も次第にやわらぎ、結局一銭も払わずにパスポートを取り返した。

小屋から出ると、急に空腹を覚えた。行く手を見ると褐色の林が続いている。店どころか人家もしばらくなさそうだ。
うしろを振り返ると、ロープの向こう、ギニア側にはさっきのドーナツ屋が見える。
僕は自転車に乗ってロープのところまで戻った。ロープは再び腰の高さで張られている。そのロープを手で持ち上げ、下をくぐり、ドーナツ屋に向かって自転車をこぎ始めた、そのときだった。
「ピピーッ!」
けたたましい笛の音が鳴った。えっ?と横を見ると、ギニア側の事務所から制服を着た係官が怖い顔で「お前何やってんだあっ!」と怒鳴りながらやってくるではないか。うわわ、何をやっとるんだ俺は。あまりののどかさに国境の意味を忘れていた。
「お前、どういうつもりだ!」
「あ、いや、あの、は、腹が減って、ドーナツを買いたかったんです」
顔から血の気が引くのを感じながら、前方のドーナツ屋を指差した。係官は怪訝そうな顔で僕を見ている。まずい。分が悪すぎる。賄賂ネタをこちらから差し出したようなものだ。さっきみたいに逃げられるだろうか。まさか留置所行きとかはないと思うけど......いや、わからない。こっちの常識は通じない。

僕はお腹に手をあて、空腹でいまにも倒れそう、といった悲愴な表情を浮かべ、もう一度前方の露店を指差し、目で必死に係官に訴えかけた。ただドーナツを買いたかっただけなんです......。
係官は鋭い眼光で僕をねめつけたあと、顎をしゃくって言った。
「行ってこい」
鳥の声が響く、国境の昼下がりだった。

文:石田ゆうすけ 写真:出堀良一

dancyu

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