蜜月一転「自民が維新を痛烈批判」の裏にある謀略

蜜月一転「自民が維新を痛烈批判」の裏にある謀略

  • 東洋経済オンライン
  • 更新日:2022/05/14
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「身内に甘い政党だ」と維新を批判した自民党の茂木敏充幹事長と「薄っぺらい幹事長だ」と応戦した日本維新の会の松井一郎代表(左写真:Kiyoshi Ota/Bloomberg、右写真:ヒラオカスタジオ)

目前に迫る参院選をにらみ、自民と日本維新の会(維新)の批判合戦が過熱している。安倍晋三・菅義偉両政権では蜜月だった両党関係が岸田文雄政権で一変した背景には、参院選後をにらんだ自民党内の権力闘争が絡んでいるとの見方も広がる。

安倍・菅政権時代の維新は、創業者で元代表の橋下徹元大阪府知事・市長が安倍氏と、松井一郎代表(大阪市長)が菅氏とそれぞれ太いパイプを持ち、政界では「実質的な与党」(閣僚経験者)との位置づけだった。

しかし、岸田政権では中枢の岸田首相、麻生太郎副総裁、茂木敏充幹事長の3実力者が、いずれも「維新を敵視する立場」(自民幹部)だ。このため、維新側も反自民・野党の立場を鮮明にせざるをえず、それが今回の批判合戦にもつながったとみられる。

維新内の亀裂拡大も狙う

そもそも維新の政治理念は、安倍氏ら自民党内の保守派(タカ派)と極めて近く、前回衆院選でも「保守派有権者の票の取り込み」が大躍進の要因だった。ただ、全国政党への脱皮には「超タカ派」との印象が大きな障害になっているのは間違いない。

このため、維新内部ではタカ派の象徴ともみられている橋下氏との関係を絶つ動きも浮上。その一方で、自民は橋下氏の存在をことさら維新と結びつけることで、同党内の亀裂拡大を狙っている。

しかも、橋下氏や維新への攻撃は、自民党内反主流の旗頭とされる菅氏や、菅氏とのパイプを堅持する安倍氏への強い牽制にもなる。だからこそ、茂木氏があえて維新の金城湯池の大阪で維新批判をしたとみられ、野党分断への思惑も絡み、当分は両党の神経戦が続きそうだ。

批判合戦の発端は、茂木幹事長が大型連休最終日の5月8日、大阪市内での街頭演説で、「身内に甘い政党だ」「もう勢いがない」などと声高に維新攻撃を展開したことだ。

茂木氏はウクライナ危機での橋下氏の言動などを念頭に「維新の創設者はロシア寄りの発言を繰り返している。維新の国会議員は間違っていると言うべきだが、身内に何も言えない」と痛烈に批判した。

これに対し松井・維新代表は翌9日、「橋下氏は民間人だ。与党の幹事長が言論弾圧しろというのか。薄っぺらい幹事長だ」と応戦。ただ、茂木氏の維新は勢いがないとの指摘は、弱点を突く要素でもあった。維新にとって橋下氏の一連の言動が、「党勢拡大へのネックとなりはじめている」(自民幹部)のは否定できないからだ。

ここにきて、橋下氏が民放テレビ各局の情報番組や自らのツイッターなどで繰り返す主張には、国民からの反発や疑問が拡大している。5月に入ってのNHKの最新の世論調査でも、政党支持率は立憲5.0%、維新3.5%で、どちらも低迷する中でも、維新の地盤沈下が目立っている。その背景に、橋下氏の存在があるとみる向きも少なくない。

参院選比例代表での投票先では、多くの調査でなお維新が立憲を上回っているが、こちらも昨秋の衆院選時と比較すれば減少傾向が目立つ。だからこそ、茂木氏も「維新を叩くチャンス」と判断し、“橋下発言”を攻撃材料にしたとみられる。

安倍氏、菅氏の周辺は「反主流派への牽制」と受け止め

茂木氏の発言には、維新批判を自民内の権力闘争とも絡める思惑もにじむ。岸田政権の党内権力構造は、岸田、麻生、茂木3派閥が主流派で、菅グループと二階派、森山派などが反主流派との位置づけ。最大派閥の安倍派は、表向きは主流派だが、政権運営などでの岸田首相と安倍氏の確執もあって、ひそかに反主流派との連携も模索しているとされる。

このため、維新とのパイプの太い安倍、菅両氏の周辺は、茂木氏ら主流派首脳の維新批判を「反主流派への牽制」と受け止めている。それだけに、有権者に維新の弱点をアピールする主流派の手法は、「極めて狡猾」(自民長老)でもある。

こうした不穏な動きを踏まえてか、維新を率いる松井氏も連休明けの10日、大阪市役所で記者団に対し、「われわれは茂木さんの言うようにアリンコみたいなもん。大阪でも維新の勢いがあるなんて、思ったことはない。アリンコらしく地べたをはいずって頑張ります」と皮肉も交えながら白旗を掲げるそぶりも見せた。

さらにここにきて、橋下氏が市長時代に決めた大阪市内の埋め立て地「咲洲(さきしま)」へのメガソーラー事業が、中国絡みで問題視されている。実質的に、メガソーラーを受注・運営しているのが中国企業の上海電力だったからだ。

事実上の国営企業とされる同社が、初めて日本に進出したのが咲洲。ネットでは連日、保守系とみられるグループを中心に、安全保障の観点からメガソーラービジネスへの中国の参入を問題視し、受け入れた橋下氏の責任を追及。これを受けて、ツイッターで「上海電力」がトレンドワード上位に入る炎上状態となっている。

政界が注目しているのが、この問題で橋下氏を攻撃しているのが、安倍氏のシンパとみられる保守系のジャーナリストの面々である点だ。一連の攻撃は、「メガソーラー事業は高い収益が見込まれるだけに、結果的に咲洲のメガソーラーは、巨額の利益を中国政府に貢いでいることになる」との指摘に基づく。

確かにメガソーラービジネスへの中国企業参入などが、当時の橋下市政下で決定されたのは事実。上海電力日本法人のホームページには、2014年3月16日付で「この事業は大阪市により招致いただいたもので、当社の日本における第1号太陽光発電所というだけではなく、大阪市にとっても最初の太陽光発電所建設となります」と掲載されている。

指摘に対し、橋下氏は5月10日にツイッターで「入札業者がきちんと入札条件を満たしていれば問題なし。入札で後の特定外国企業の出資を禁止するなら外資規制や経済安保推進法のような法律が必要。そもそも現在の日本は外資が土地を買うことも規制していない国」と手続きに問題がないことを強調。

さらに橋下氏は「入札の一案件に知事・市長が関与できるわけがない。巨大組織の組織内分業を経験したことのない連中が騒いでる。入札のどこが問題だったのか指摘せよ。日本では類似事案は探せば山ほどあるわ」と猛反論した。

政治不信を加速させる“政治的闇試合”

こうした橋下氏の対応に、ネット上には「きちんと説明する責任がある」との書き込みがあふれ、騒ぎは収まりそうもない。その一方で、関係者の間では「外国企業が日本国民の電力料金で儲けられる再生可能エネルギー振興策を政府が放置していることが問題で、橋下氏への攻撃は筋違い」との指摘も少なくない。

ただ、一連の橋下氏や維新への攻撃が「参院選に向けた維新の勢いを削ぐ結果につながっている」(選挙アナリスト)のは否定できない。しかも、橋下氏と親密だった安倍氏の周辺が橋下氏攻撃の拠点となりつつあることが、「この騒動の複雑怪奇な裏舞台」(自民長老)を際立たせている。

もともと政治に謀略はつきもので、とくに国政選挙の際にさまざまな怪情報が飛び交うのは「永田町の風物詩」(同)ではある。ただ、パンデミックにウクライナ危機という「戦後最大の国難」(岸田首相)の最中の“政治的闇試合”は、「結果はどうあれ、国民の政治不信をさらに加速させる」(首相経験者)ことは間違いなさそうだ。

(泉 宏:政治ジャーナリスト)

泉 宏

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