バブル崩壊から台湾侵攻へ、中国が描きかねない悪夢のシナリオ

バブル崩壊から台湾侵攻へ、中国が描きかねない悪夢のシナリオ

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  • 更新日:2021/10/15
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経営危機に瀕している中国恒大集団(2021年9月26日、写真:ロイター/アフロ)

(川島 博之:ベトナム・ビングループ、Martial Research & Management 主席経済顧問)

中国の不動産大手である恒大集団が崖っぷちに立たされている。9月23日と29日にドル建て社債の利息の支払いを見送ったとされ、中国では30日間の猶予があるとされるが、デフォルトは避けられないと思われる。

中国政府はこの問題にどのように対処するのであろうか。それを考える一助として戸籍制度が作り出した中国の分断について説明したい。

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現在の中国の勝ち組とは

中国人は都市戸籍を持つ人と農民戸籍を持つ人に二分されている。原則として農民戸籍を持つ者は都市に住居を持つことはできない。このことは日本でもよく知られているが、実は、地方都市の戸籍を持っていた人が北京や上海などの大都会に移り住んでも、マンションを購入することは現実的には困難だ。もし購入しようと思えば、北京や上海などで働いてかなりの額の税金を納める必要がある。それには、高収入の職を得たとしても、10年程度の時間が必要と言われる。

中国は大都市に不動産を所有する階層と持っていない階層に分断されている。現在、中国政府は都市人口を8.5億人、農村人口を5.5億人としており、都市人口は全人口の61%である。だが中国が改革開放路線に転じた1978年の時点では、人口が9.6億人であるのに対して都市人口は1.7億人に過ぎなかった。その割合は18%である。

農村から都市への人口移動は改革開放路線に転じた以降に生じた現象だが、78年の時点で都市戸籍を持っていた人々とその子供たちが、現在の中国で勝ち組になった。それは経済が発展し始めた早い時期に住宅を購入することができたからに他ならない。90年代においても不動産は高価であったが、それでも庶民がローンを組んでなんとか購入できる水準にあった。ところが21世紀に入ると不動産はさらに高騰して、大都市のマンションは庶民には到底手が届かない存在になってしまった。

バブルの埒外にいる人々の不満

そんな状況でも富裕層は投資のために何件ものマンションを購入している。

それでは投資用マンションを購入するような富裕層は中国にどの程度存在するのだろうか。その推定は難しいが、日本で1億円以上の金融資産を有する世帯が全世帯の約2%であることを考えると、中国で投資用のマンションを購入している人々を全人口の2%(2800万人)と推定しても、それほど大きな間違いにはならないであろう。人口が多い国だから富裕層の数も多い。

現在、中国は3つの階層に分断されている。第一には都市部に自宅を所有し、それ以外に投資用の物件を所有する層。彼らは全人口の2%程度である。次が都市に自宅を保有する階層である。1978年から2020年までの期間に人口が1.45倍に増えたことを勘案すると、その人口は2.5億人程度と推定される。

つまり現在都市に8.5億人が住むが、自宅を所有している層は2.5億人であり、残りの6億人は都市部に自宅がない。この6億人は、78年以降に農村から都市に移住した人々とその子供たちだ。会社が用意した寮や賃貸住宅に暮らしていると思われる。そして現在も農村に5.5億人が暮らしているが、彼らは経済発展からも不動産バブルからも取り残されてしまった。

中国の不動産バブルを日本の不動産バブルと重ねて見る向きがあるが、それだけでは不十分である。日本には都市戸籍、農民戸籍などという区別は存在しない。地方から上京した人々も、就職や住宅取得において都市で生まれた人々と同等に扱われた。そんな日本でもバブル期には東京に土地を持つ人とそうでない人の間に格差が広がり、怨嗟の声が上がった。その怨嗟に応えるために政府は不動産融資に対する総量規制を行い、地価上昇を抑制する政策を行わざるを得なかった。それがバブル崩壊を招いたことは記憶に新しい。

日本に比べて中国の状況は一層深刻である。なぜなら11.5億人にものぼる人々が、不動産バブルの埒外にいるからだ。彼らは富裕層がいくつものマンションを保有している現状に不満を持ち、大いに苛立っている。

日本では習近平の言い出した「共同富裕」は毛沢東時代への先祖帰りのように聞こえて評判が悪いが、中国人の知人に聞くと底辺の人々、つまりここで示した11.5億人には極めて評判のよいスローガンであるそうだ。日本のマスコミは、都市に住む中流以上(2.5億人)しか目に入らないために、多くの人々が習近平に反感を持っているような伝え方をしているが、中国人の8割以上は習近平を強く支持している。中国の農村では習近平の写真を掲げている家もあると言う。

今年になって習近平が言い出した文化大革命を彷彿とさせる極左的な政策は当然の帰結とも言えよう。習近平は「声なき声」に応えているだけだ。そう考えれば、習近平のバブル潰しはこれからも続くと見る方が妥当だろう。

バブルを崩壊させ始めた習近平

日本のマスコミのインタビューに対して「中国政府は日本の轍を踏まない。本気でバブル潰しを行わない。どこかの段階で不動産会社を助ける」などと答えている中国人は、都市でマンションに暮らし、その一部は投資用のマンションも持っている。そのような人々は中国版上級国民であり、膨大な人口を抱える中国では圧倒的な少数派である。彼らの願望が含まれる発言を鵜呑みにすべきではない。

いくら上級国民が現状の維持を願っても、大都市のマンション価格が平均でも1億円するなどと言われる昨今、底辺の民衆の怨嗟は閾値を超えてしまった。そのことに習近平政権は気づいている。だから日本が不動産バブルを崩壊させた時に使ったような手段を使って、バブルを崩壊させ始めた。

反習近平派は上海や広東を中心とした富裕層を支持基盤にしているが、彼らが国民の8割以上に支えられた習近平に逆らうことは不可能である。不用意に逆らえば、文化大革命時に毛沢東の敵とみなされた人々が街頭で吊し上げられ、その一部は殺害されたと言われるが、彼らにも似たような運命が待ち構えているだろう。

中国の一部の企業が政府の要請に応じて莫大な寄付金を上納したが、これは企業に対する締め付けが怖かったからだけではない。習近平が民衆の怨嗟を煽れば、フォーブス誌で上位に入ったなどと悦に入っていた人々は、その家族と共に暴動によって虐殺される可能性もあるからだ。そんな恐怖感をはらみながら中国バブルは崩壊し始めた。

人々の不満をそらすための台湾侵攻

中国のバブル崩壊は一億総中流だった日本が経験したバブル崩壊とは趣を異にする。そこには日本以上に強烈な怨嗟の声が存在する。それは民衆の暴動に発展する危険性がある。そんな状況の中で、底辺の人々不満をそらすために習近平が「台湾侵攻」を実行する可能性も排除できない。

冷静に考えれば、中国にとって「台湾侵攻」は成功しても国際的な孤立を招くだけであり、得るものはほとんどない。しかし不動産バブルの崩壊によって国内が混乱すれば、不満をそらす手段として、台湾侵攻が合理性を持つ政策になる可能性もある。

昨今、習近平が真剣な表情で「台湾統一」と言っている事実を軽視すべきではない。平和的に統一するとは言ってはいるが、独裁者はいつも「平和的な手段を採る」と言う。だが、それがうまくいかないと分かると武力に訴える。これは歴史の教訓である。

恒大集団に始まった不動産バブルの崩壊は「台湾侵攻」と中国の孤立化という思わぬ方向に発展する可能性を秘めている。独裁政権が作り出したバブルは日本のように平和的に崩壊させることが難しいのかも知れない。

歴史は誰もが予期していなかった方向に流れ始めることがある。そうなると誰にも止められない。今後の中国の動向は目を凝らして見てゆく必要がある。

川島 博之

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