日本人の誇り「ウォシュレット」が海外では使われない驚きの理由

日本人の誇り「ウォシュレット」が海外では使われない驚きの理由

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/02/23
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春風のような快感をお尻に恵んでくれる温水洗浄便座は、日本人の心を摑んで離さない。だが、世界で愛用しているのは日本人だけ。多くの人を虜にする優れモノが世界で広まらないのは、なぜなのか。発売中の『週刊現代』が特集する。

「洗いすぎ」のリスク

「ウォシュレットなどの温水洗浄便座の発祥の地はアメリカですが、現在、欧米ではまったく普及していません。温水洗浄機能を介しての感染症のリスクが指摘されているうえに、ノズルや噴出されるお湯の衛生面に問題があると指摘されているからです」(国立国際医療研究センター病院で産婦人科医を務めていた荻野満春氏)

住宅設備機器メーカー「TOTO」の大ヒット商品である「ウォシュレット」。肛門を温水で洗浄する「温水洗浄便座」という製品の代表格であり、いまや一般名詞として使われるほどだ。

業界第2位の「LIXIL」が販売する「シャワートイレ」と並び愛されてきた。内閣府の調査によると温水洗浄便座の一般世帯での設置率は'20年で80・2%。調査が始まった'92年に14・2%だった普及率は爆発的に伸長した。

温水洗浄便座は、今や日本人にとって心のふるさとと言ってもいい。紙を浪費して、手を汚さなくても尻をきれいにでき、何より人肌の温かい水が当たる際の快感と言ったら、夢見心地だ。

日本が誇る、最高のトイレアイテム、それが温水洗浄便座なのだ。

しかし、実は海外ではほとんど使われていない。旅行などで海外を訪れたことのある方は覚えがあると思うが、海外で温水洗浄便座を見つけるのは至難の業だ。

アメリカでの'20年時点での普及率は10%未満、中国においては'19年でわずか5%という低い水準にとどまっている。

なぜ海外では、まったく普及していないのか。

「温水洗浄便座には、日本人だけが知らない多くの危険が潜んでいるからです」(前出・荻野氏)

肛門を清潔に保つことは良いことだ。しかし、洗いすぎがリスクに繋がることもある。草間かほるクリニック院長で肛門科医の草間香氏が語る。

「温水洗浄便座による過度の洗浄によって皮脂が取れてしまい、肛門の周りがカサカサに乾燥してしまうという症例が報告されています」

温水洗浄便座と皮膚炎の関係について、東京医科歯科大学名誉教授の藤田紘一郎氏が解説する。

「私たちの体は常在菌と呼ばれる細菌に覆われており、pH(酸性、アルカリ性を示す数値のこと)で4・5から6・0の弱酸性に保たれています。

しかし、温水洗浄によってお湯を当ててしまうと常在菌が流されてしまい、pHが7以上の中性~アルカリ性の状態になってしまうのです。こうなると黄色ブドウ球菌など人体に対して悪さをする菌が傷口から侵入し、皮膚炎を引き起こします」

藤田氏によれば、一度中性になった皮膚が再び弱酸性に戻るまでには約10時間を要する。つまり、一日に2回以上温水洗浄便座を使用すると、肌が本来の弱酸性に戻る余地がまったく無くなってしまうという。

「そうすると、自分が肛門から出した便により肌がかぶれてしまう可能性も高まります。便は強い酸性なので、中性の肌だと、触れた時に炎症を起こしやすくなるのです」(藤田氏)

痔になる事例も

温水洗浄便座に頼り過ぎはよくないのだ。前出の荻野氏が指摘する。

「切れ痔やイボ痔が慢性化し、それによって肛門からの出血を訴える例も多数報告されています」

実際に温水洗浄便座が引き金となり、痔を患ってしまったという川田雄二さん(65歳・仮名)が語る。

「トイレの後にお尻を洗い流すとすっきりして気持ちがいいので、つい頻繁に使ってしまっていました。

ところが、温水で肛門が刺激されるせいか、排便した後、再び便意を催してしまうようになったのです。それでまたいきむのですが、便は出てきません。その後お尻を洗いなおすと、また便意を催して……ということの繰り返しです。

このような状況が続いたため、肛門に負担がかかりすぎてしまったようで、切れ痔を患ってしまいました」

この痔を舐めていると、さらに深刻な疾患を見逃す可能性が出てくる。

「肛門から出血があっても『自分は痔だから』と放置してしまう人がいます。しかし、肛門からの出血は、大腸がんや直腸がんの症状である可能性もあります。

油断してしまうことで、気が付いたころにはがんが進行していたというケースも少なくないのです」(前出・草間氏)

細菌は大丈夫?

そもそも、温水洗浄便座は本当に清潔なのだろうか。

東海大学健康科学部元教授の田爪正氣氏は、温水洗浄便座の温水タンク内の水に着目し、その衛生状況を調査している。

田爪氏が語る。

「温水洗浄便座が本当に清潔なのか細菌学的に検証するために、神奈川県内の一般家庭・公共施設にある温水タンク付きの温水洗浄便座108ヵ所を対象に、温水タンクの水の細菌を調べました。

すると温水タンク内の水は水道水に比べ、平均して一般家庭においては30倍、公共施設でも10倍の細菌が存在するというデータが明らかになったのです。

これは、温水タンク内では水温が約38度に設定されているため、殺菌用の塩素が蒸発し、機能しなくなることに起因すると考えられています」

温水洗浄便座は「衛生的で安全」と思っている人も多いだろう。しかし、現実はそうではないのだ。

田爪氏は便座から水を噴き出している「ノズル」にも注目している。

「我々が調査したうちの4例では、ノズルから侵入してきたとみられる大腸菌がタンク内で繁殖していることが確認されました」(田爪氏)

東海大学医学部付属八王子病院の医師らの研究によると、'15年に同病院内の温水洗浄便座21台のノズルなどを対象に行った調査では、5台のノズル部分から「緑膿菌」が検出された。

緑膿菌と言えば、呼吸器感染症や敗血症などを引き起こす細菌だ。このような細菌が含まれている可能性がある水を、直接、肛門に向けて、毎日噴射しているのである。

「温水洗浄機能を使っている間、肛門に当たった水はしぶきとなり、周囲に飛び散ります。当然、このしぶきには大便中の細菌が混じっている。温水洗浄便座を使うということは、お尻全体に大便を塗りたくっているのと同じ行為なのです」(前出・田爪氏)

女性も要注意

10年来の温水洗浄便座の愛用者が、重度の皮膚炎を繰り返し発症しているケースもある。当事者の加藤守さん(55歳・仮名)が苦悩を打ち明ける。

「痔の手術を受けたことをきっかけに、自宅のトイレを工事して温水洗浄便座へと替えたのです。トイレットペーパーが痔に擦れて痛い思いをしなくて済むので、当初は喜んで使っていました」

だが、その喜びもつかの間。半年ほど経ったのち、加藤さんを悲劇が襲ったのだった。

「しばらく使用を続けると、肛門の周りに痒さを感じるようになったのです。放置しておくと、仕事中でもムズムズして落ち着かない。

その反動で大小を問わず、用を足すたび温水洗浄機能を使い、肛門に2分以上お湯を当てて痒さを紛らわすようになりました。

しかし、これがさらに症状を悪化させました。すぐにヒリヒリとした痛みが出始めたのです。鏡で自分のお尻を確認したところ、肛門の周りが真っ赤に腫れていて目を疑いました」(加藤さん)

慌てて病院へ駆け込んだところ、医師からはお尻の傷口から「連鎖球菌」が入り込み、それが炎症を起こしたと診断された。連鎖球菌とは、猩紅熱や骨膜炎などを引き起こす細菌のことだ。

「連鎖球菌は、温水洗浄便座のお湯に混ざっていたのだろう、と聞かされました。さらに、お尻の洗いすぎによって肛門の周りの粘膜が傷つき、そこから菌が侵入することもあるんですよ、とも注意されてしまったのです。

しかし、お湯を肛門に当てること自体が癖になってしまっているため、炎症を薬で治めてはまた悪化させ、といういたちごっこの状態が続いています」(加藤さん)

加藤さんは今も移動中や勤務中に肛門をかきむしりたい衝動を抑えながら生活している。

温水洗浄便座の習慣的な使用は、あなただけでなく、妻や娘など家族にも悪影響を与える可能性がある。女性への健康リスクも非常に高いのだ。

前出の荻野氏が語る。

「女性は肛門から近い位置に尿道と膣があるため、温水洗浄便座の定期的な使用による健康被害のリスクが男性よりも高まるのです。具体的には、肛門に当たって飛び散った水による膀胱炎、膣炎の感染リスクが指摘されています」

特に、膀胱炎が引き金となり他の疾患を併発した場合、生命が脅かされることもある。

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「実際に診察した例として、温水洗浄便座の利用が習慣となっている女性が膀胱炎をきっかけに命を落としかけたケースがありました。温水洗浄便座の使用により、膀胱に大腸菌が侵入し、膀胱炎を発症したのです。

それが慢性化したため炎症の範囲が広がり、腎盂炎を発症してしまった。最終的に彼女は腎臓から流れ出した細菌により、敗血症を併発しました。敗血症になってからは脳麻痺を引き起こし、2週間もの間生死をさまよったのです」(荻野氏)

直接死につながるとは思われていない膣炎、膀胱炎といえども、侮ることはできない。その根本的な原因である女性の温水洗浄便座の使用に関しては、より慎重に考えられるべきだろう。

また、近年増加傾向にある早産と温水洗浄便座には、相関関係が見られるという。

「温水洗浄便座の使用により飛び散った大腸菌が膣に侵入し、細菌性膣症と呼ばれる膣炎を引き起こすのです。

これは妊娠中の女性が発症すると、破水の原因になる。そのため細菌性膣症を患った妊婦は妊娠を継続できず、早産を起こしてしまうことがあるのです」(前出・荻野氏)

このように、温水洗浄便座の使用が多くの健康上のリスクを抱えていることが理解されているからこそ、海外では普及が進まないのである。

日本人は清潔を追い求め続けてきた。それゆえに、肛門の周囲に少しの汚れも残したくないという考えから温水洗浄便座が急速に普及してきた。だが、かえってそれが私たちのお尻を不潔にしているかもしれないのだ。

気持ちがよく清潔そう―このような思い込みでついつい油断している温水洗浄便座の使用で、自らの寿命を縮めるようなことがあれば、笑い事では済まされない。

「イギリスやアメリカの一般家庭で、温水洗浄便座を見かけることは滅多にありません。

欧米人の多くは、温水洗浄便座は衛生的でないと考えており、感染症のリスクも恐れています。進んで使いたいとは思っていないのです」(ロンドン在住ジャーナリストのローズ・ジョージ氏)

気を付けて使おう

製品を開発するメーカーは、これらの指摘に対してどう考えているのか。

本誌は温水洗浄便座の主要製造メーカーである「TOTO」「LIXIL」「パナソニック」の3社に、健康被害や衛生問題についての取材を申し込んだ。

すると、3社が加盟する業界団体である「一般社団法人 日本レストルーム工業会」から、まとめて回答が寄せられた。

「ノズルやタンクから排出される水に関しては、吐水に関する微生物学的実態調査研究を行い、衛生的安全性が確保されることが確認されています。

温水洗浄便座の使用に起因する感染症リスクについては、日本レストルーム工業会では知見がありません」(日本レストルーム工業会・広報)

国内シェアの9割を占める主要メーカー3社は衛生面、安全面ともに問題はないという。

だが一方で、今回紹介したように、温水洗浄便座がきっかけや原因となって、各種の疾患が生じたという医学的症例が存在することもまた、事実なのだ。

我々日本人にとって温水洗浄便座が素晴らしい製品であることは疑いない。ただ、リスクも存在することを理解しつつ、気を付けて使うべきなのだろう。前出の藤田氏は、こう話す。

「清潔を求める意識が高すぎて、かえって悪影響を及ぼしていることもあるのです。肛門も、膣も温水をむやみに直接当てていれば異常が出てしまうのは当たり前です。

常在菌を殺しているという点も見過ごすことはできない。温水洗浄便座は、人体にとっては不自然な装置でもあるのです」

快感はリスクと隣り合わせ。注意もしながら、心地よく温水を味わおう。

発売中の『週刊現代』ではこのほかにも「夫婦はどちらかが先に逝く『最後はひとり』に備える」「大反響第2弾 10分以上入ってはいけない 風呂で死んだ人たちの『具体例』」「株と不動産 いまとこれから」などを特集で掲載している。

『週刊現代』2021年2月27日・3月6日合併号より

週刊現代の最新情報は公式Twitter(@WeeklyGendai)で

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