「五輪出場」が与える人生への影響 中止なら選手も団体も活動不可?

「五輪出場」が与える人生への影響 中止なら選手も団体も活動不可?

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  • 更新日:2021/06/10
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五輪でメダルを取り、フェンシングをメジャーな存在にした太田雄貴氏 (c)朝日新聞社

経済効果や損失、コロナの感染拡大のリスクを考えた場合、五輪中止を選択するのが無難に見える。

ただ、それでも誰よりも切実に開催を望んでいるのはアスリートたちではないか。スポーツライターの折山淑美さんはこう指摘する。

「選手たちは今、ただ静観するしかない。特にマイナー競技の選手たちにとっては五輪が最大の目標であり、人生のターニングポイントになりうる。注目される場が五輪しかないからです」

マイナー競技の選手たちが五輪開催によって得る恩恵は大きい。折山さんは、2008年の北京五輪フェンシング男子フルーレ個人で銀メダルを獲得した太田雄貴氏(現、日本フェンシング協会会長)を例に挙げる。

「彼は職がない中で五輪に臨み、活躍を見せたことで就職先を得た。彼の活躍がなければ、フェンシングは今ほどの知名度は間違いなくなかったでしょう」

太田氏は北京五輪後に森永製菓に入社し、その後、日本フェンシング協会の会長まで上り詰めた。

「マイナー競技が五輪に頼らざるを得ない現状は見直さなければいけませんが、とはいえ、『五輪出場』の肩書は選手のセカンドキャリアを考えれば、いろいろと有利に働くのです」(折山さん)

五輪出場という肩書は大きく、さらに印象的な活躍を見せれば、その後の生活に直結するのだ。

12年ロンドン五輪、16年のリオ五輪に出場したトランポリンの伊藤正樹さんは、トランポリン専用施設を立ち上げ、運営している。

「もし五輪に出られていなかったら、今の自分はない」と断言する。

「トランポリン選手でご飯を食べていくことは、現状では絶対に無理。世界選手権で優勝しても賞金は30万円。遠征費など競技活動の出費のほうがはるかにかかる。だから五輪に出て、競技、選手を知ってもらうことが何より大事なんです」

金沢学院大大学院生だったロンドン五輪で4位という好成績を残したことで、就職先が決まった。19年まで現役を続け、貯金もできた。だからこそ今、施設の運営ができていると語る。

「競技を知ってもらわないことには、支援先もスポンサーも見つからない。だから選手にとって競技の知名度を上げることが第一。五輪はマイナー競技にスポットライトが当たる貴重な機会で、その存在は非常に大きい」

五輪の視聴者は世界40億人とも言われる。普段、テレビ放送がほとんどない競技のテレビ露出の機会が失われるのは大きな痛手だが、それは競技者に限らない。

「国内外競技団体の死活問題にもつながる」と指摘するのは、五輪研究で知られる東京都立大・武蔵野大客員教授の舛本直文さんだ。

「国際オリンピック委員会(IOC)は収入の約90%を各競技の国際競技連盟(IF)などに分配しています。それが国内の競技連盟(NF)に強化費、補助金といった形で流れる。それがなければ活動の持続が厳しくなる団体は多いでしょう」

分配は五輪採用種目に限られる。13年に、レスリングが五輪種目から外れる候補に挙がったとき、国際レスリング連盟(当時)は、より観客がわかりやすいようにルール改正をした。なりふり構わぬアピールで五輪種目存続を目指したのは、分配金が得られなくなるのを避けるためだ。競技連盟にとって大きな収入源だと舛本さんは続ける。

「昨年の五輪延期によって、IOCからの分配金はなかったはず。五輪が中止となると、IOC収入の約70%を占めている数千億円ものテレビ放映権料がなくなり、分配金も減ります。組織の人件費などが払えず、倒産するIF、NFが出るだろうと言われています」

選手個人の人生、競技団体の存続を左右する五輪開催の可否。はたしてどちらに転ぶか。(本誌・秦正理)

※週刊朝日  2021年6月18日号

秦正理

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