氷川きよし「休養」で男性演歌界どうなる? 牽引役が不在の新時代に突入か

氷川きよし「休養」で男性演歌界どうなる? 牽引役が不在の新時代に突入か

  • AERA dot.
  • 更新日:2022/05/14
No image

氷川きよし

まさに「転換期」かもしれない。男性演歌界の話である。“大御所”北島三郎さんは紅白を引退し、第一線から退いた。五木ひろしさんも一昨年を最後に紅白卒業、そして“プリンス”氷川きよしさんの休養。大物たちが次々と表舞台を去り、「次」を担うのは誰なのか。業界の事情通たちに大胆予測してもらった。

【写真】ネクスト「演歌キング」は誰だ!次代を担う第6世代がこちら*  *  *

「氷川きよしの休養宣言は驚きでした。長年、“演歌界のプリンス”として人気も実力も文句なしなのに。これからっていう大事な時に活動休止を発表したのですから」

こう話すのは、演歌畑を長年取材し続けた芸能記者。「大事な時」というのは、演歌界が「次のリーダー」を最も必要としている時という意味だ。

「紅白のほか各地の劇場で続けていた座長公演からも次々と身を引いて、今はほぼ“引退状態”の北島三郎。次なる大物と誰もが認める五木ひろしも一昨年を最後に紅白を卒業してしまった。演歌界ではNHKの紅白歌合戦に出場することが一流の条件みたいなものですから、2人の大物が第一線を退いてしまったことになる。ならば、紅白にも連続出場を続ける“プリンス”氷川きよしが、いよいよ“キング”を継承するだろうと思っていたら……」

レコード会社で演歌を担当した後、独立して演歌歌手のプロモーションをしている事情通も「男性演歌界はリーダー不在の時代になった」と肩を落とす。

「あえてリーダーの条件を挙げれば、その人のファンでない人でも口ずさめるくらいのヒット曲があり、紅白に出場を続けていて、レコード大賞などの受賞経験があること。加えて親分肌な面があれば言うことなし、という感じでしょう」

では、その条件にかなうのは誰か? プロモーター氏は「氷川君が活動再開するまでは、リーダー不在の時代が続くのではないか」と予測する。

「北島さん、五木さんに次ぐ実力者として、すぐ頭に浮かぶのは細川たかしさん、吉幾三さんですが、細川さんには『北酒場』や『矢切の渡し』という大ヒットがあるけど、2015年を最後に紅白卒業を発表している。吉さんも『雪國』『酒よ』があるが、01年を最後に紅白から遠ざかっている。その点、氷川君には“♪やだねったら、やだね”の『箱根八里の半次郎』があり『一剣』でレコード大賞も取っているし、人気も申し分ない。活動休止は実に残念です」

別の条件を挙げて、細川、吉の2人に期待するという意見もある。東京・浅草のレコード店「ヨーロー堂」店主の松永好司さんだ。店の2階にあるステージでは、多くの演歌歌手が生歌を披露するキャンペーンをしており、店主は業界きっての演歌通である。

「僕は北島さんや五木さんがリーダーたり得たのは、後輩の育成に熱心だったからだと思う」

松永さんが指摘するとおり、北島は山本譲二を筆頭に、紅白出場も果たした「北島兄弟」の北山たけし&大江裕ら多くの弟子を育てた。五木も、座長公演で多くの若手をゲストに呼び、「この場を登竜門にしてほしい」とチャンスを与え続けている。

「細川たかしさんは彩青(りゅうせい)や杜(もり)このみなどの弟子を自分の事務所からデビューさせています。育成への気概がある人です。吉幾三さんも多くの若手演歌歌手に楽曲を提供することで育成に携わっています。リーダーの資格は十分あると思います」

冒頭の芸能記者も同じ考えだ。

「僕自身が期待しているのは吉幾三。やはり人気や知名度、ヒット曲もあり、過去には紅白に連続出場している。ただ、吉にはどうしても喜劇やバラエティーのイメージが付きまとい、キングとしては軽量級に見えてしまうのが最大のネックです。細川も、お笑い芸人から髪形とかで笑いのネタにされているせいで重量感がない。そう考えていくと、若手に期待するしかない」

現状では「紅白出場を続けている『演歌第6世代』の山内惠介と三山ひろしのどちらかに頑張ってもらうしかない」と話す一方で、「僕個人の期待としては、福田こうへい。歌のうまさは群を抜いていると思う」とも述べた。

ヨーロー堂の松永さんは「現在の実力という点では、山内さんと三山さんが次期リーダー候補の筆頭であることは間違いない」と話す。

ちなみに演歌の「第6世代」とは、21世紀になってデビューした個性派世代で、純烈や丘みどりなどが属する。

第1世代は春日八郎や三橋美智也のラジオ世代、第2世代は戦後歌謡の美空ひばりや島倉千代子、北島三郎と五木ひろしは歌謡曲が隆盛を迎えた第3世代に属する。第4世代はカラオケ時代の八代亜紀、吉幾三、石川さゆり、細川たかしなどで、第5世代には氷川きよしや水森かおりがいる。

第6世代の山内と三山は、ともに15年から7年連続で紅白に出場している若手のホープ。コンサートなどで熱狂的な“追っかけ”ファンが多数いる点も同じ。どちらも歌唱力には定評があり、甘いマスクの山内には昔のアイドルのような掛け声が飛び、三山は紅白でのけん玉ギネス挑戦などで、ともに知名度も高い。

だが、2人が北島・五木のような「キング」になれるかというと、まだ疑問符が付く。

取材した多くの演歌関係者が指摘するのは「誰もが知っているような大ヒット曲、歌い手の“看板”になるような持ち歌がない。最低でもレコード大賞受賞に匹敵するようなヒット曲が必要」という点だ。

前出のプロモーター氏は「そもそも山内も三山も、そして福田こうへいも自分が今後の演歌界を引っ張っていくなんて、思ってもいないのではないか」と話す。

「仮に自分が引っ張っていきたいなんて発言したら、猛反発を受けますよ。まだ若すぎます。間違いなく『生意気だ』と総スカンを食らいますね。『お前はあと10年、今の位置を保てると思っているのか?』となる。甘くない世界だし、上下関係も厳しい社会だとは、本人たちもよく知っている。氷川君だって、僕はまだ早いと思うくらいです。北島さんや五木さんのような大御所はもう現れない可能性だってあると思っています」(プロモーター氏)

東京・上野アメ横で53年間、演歌専門のレコード店「アメ横リズム」を営む代表の小林和彦さんは、それでも「将来の演歌のキング候補はすでにいる」と断言する。リズムでは毎週、小林さんが選んだ5曲を道行く人々に聞こえるようにかけ続けている。前を通る人々がその歌を耳にしたときの反応で、これから売れる曲や歌い手を的中させてきた。その小林さんがずばり、「次の時代を背負う人材」と太鼓判を押すのが真田ナオキだ。

真田は20年に「♪惚れちまったの俺」と歌うだみ声が印象的な「恵比寿」がヒットして、レコード大賞最優秀新人賞を受賞した第7世代の一人だ。

「デビュー前から注目していました。とにかくあの声質がいい。店頭で曲をかけた時、反応が最高レベルになる。ルックスもいい。声に“色”をつけるために唐辛子を食べ、酒でうがいをしたという苦労話も心に響く。将来は氷川きよしの上をいくのではないかと私は見ている。まだ先の話になるけど、次期キング最有力だと思う」(小林さん)

多くの演歌歌手のキャンペーンを見つめてきた前出のヨーロー堂、松永さんも「将来性なら真田君と辰巳ゆうと君が図抜けている。売り上げ的にも、ネット配信でもこの2人です。今後しばらくは山内惠介さんと三山ひろしさんがつないで、その後に次代のスターとして真田君、辰巳君が出てくるのではないでしょうか」と占う。

業界通の見立てはある程度共通しているようだ。つまり、キング不在の期間はしばらくあるが、将来的には第7世代がキングの座を射止めるという読みだ。

しかし、元NHKアナウンサーで紅白歌合戦の司会も務め、現在もいくつもの音楽番組の司会者として演歌歌手とも交流がある宮本隆治さんは、これに異論を唱える。

「北島さん、五木さんが引退したのは紅白歌合戦という一つの番組です。多くの人はそれを歌手活動の引退と思っていますが、正しくありません。北島さんも五木さんも5月に大きな公演が予定されています。まだ現役で、今も2人が男性演歌界を牽引(けんいん)していることは事実です」

そして男性演歌界の昔と今を「鉄道の路線」にたとえてわかりやすく説明してくれた。

「昔の男性演歌界は本線が2本しかなかった。北島線と五木線です。線路を走っているわけですから、後続の歌手は追い抜くのは難しかった。しかし、氷川君が3本目の線を作ったことで演歌鉄道業界は変わり始めた。これまでは国鉄2路線しかなかったものが、今は私鉄各社がいろんな車両で路線を延ばしている、そんな状態なのではないでしょうか」

誰かが業界を引っ張っていくというのではなく、それぞれが自分の路線の魅力をアップさせて、客足を伸ばそうとしているのが今の演歌界だということだ。休業が予定されている「氷川線」に代わり、近い将来、“路線価”が上がりそうなのが「第7世代線」ということなのかもしれない。(本誌・鈴木裕也)

※週刊朝日  2022年5月20日号

鈴木裕也

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加