クモヒトデ綱テヅルモヅル・数十種の名付け親! 若手研究者が語る「分類学」

クモヒトデ綱テヅルモヅル・数十種の名付け親! 若手研究者が語る「分類学」

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2022/09/23
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《この本の著者に聞いてみた》第5回

『生物を分けると世界が分かる』の著者

分類学者・広島修道大学人間環境学部助教 岡西 政典 さん

たとえば知らない生き物に出会ったとき、その特徴を言葉で入力してウェブ検索するか、写真を撮って画像検索するか、あるいは、生き物の特徴であたりを付けて図鑑をめくってみる。

見当がついた生き物の名前でさらにウェブ検索をすれば、その性質を知ることができるだろうし、人間に害をなす生き物であればニュース記事が出てくるかもしれない。じつはよく知っている生き物が季節によって姿を変えているだけということが分かるかもしれない。

このように、名前は、生き物についてこれまで蓄積されてきた知識にアクセスする扉となるものだ。この名前を付けているのは、分類学者という人たちである。分類学者は何をどのように調べて、生き物に名前を付けるのか。

クモヒトデ類の、特にテヅルモヅルを専門とする分類学者の岡西政典さん(広島修道大学人間環境学部助教)に研究生活と分類学の実際を聞いた。

※本記事後編でインタビュー動画をご案内しています。

「フィールドワークありき」の研究生活

――本の中で、フィールドに出かけて生物のサンプルを収集し、標本にし、観察し、文献を調査し、論文を書く、新種を確認すれば記載を行う、という分類学者の日常が紹介されています。岡西先生の研究生活はこのようなことの繰り返しなのですか。

岡西政典さん(以下、岡西):研究の面に関してはそうです。我々は実験もしますが、そもそも実験材料を自分で取ってこなければなりません。大学の授業などの業務も行いながら、時間を見てはフィールドに行き、研究をし、ということになります。

――どこに採取に行くかは、どのように決めているのですか

岡西:分類学者の対象生物によって様々だと思います。僕が専門とするクモヒトデの場合は、ここに行けば確実にいいものが取れるということが分かっていることのほうが少ないです。ですから、今まで行ったことがないところに行く、というように決めることが多いように思います。

また、採取の方法によっても様々です。たとえばダイビングや磯で採取するのであれば自分たちで調査場所を決められますが、深海調査船であれば色々な人が共同で利用するので、自分で調査を企画しない限り行き先を自分で決めることは(原則)できません。場所の決まっている調査に誘われて参加することになります。

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高知県大月町で見つけたクモヒトデ類のテヅルモヅル(写真左手前)を発見した際の岡西さん。ダイビングで採集することも珍しくない photo by 広瀬雅人(北里大学 )

一つの調査船には、泥などのサンプルからなるべく効率よく生き物を採取したいので、たとえばクマムシの専門家、カニの専門家、魚の専門家、ゴカイの専門家、貝の専門家、ヒトデの専門家などが、乗り合わせている形になります。

僕の場合、多いときで1週間程度の航海に年3回乗っていました。最近は授業もありますので、1年間に1〜2回調査船に乗れれば良いほうです。ただ、これも分類学者によって様々で、1年の3分の1ぐらい船に乗ってるような人もいます。

また対象とする分類群によっても違いますが、多くの研究者は、持ち帰った標本を、処理し、観察し、写真を撮るなど、調査が終わった後の作業にも時間をかけています。

いつも新鮮! 新種発見の喜び

――この度、刊行された『生物を分けると世界が分かる』には、ここ10年の間に20に及ぶ新種を発見したこと、そして、初めて新種を記載したときのご苦労などが書かれていました。これほどの数を発見していると、新種を発見したときの喜びは、慣れて薄まってしまうものですか。

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初めて新種を記載したときの苦労なども綴られた岡西さんの著書『生物を分けると世界が分かる』

岡西:僕自身は薄まってる感じはないです。僕の専門は、どちらかというと新種が少ない分類群で、2週間深海の調査船に乗って、やっと一匹発見するぐらいの頻度です。ですから、今でも見つけた時は嬉しいです。やってやった、という感じです。

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岡西さん。手にするのはテヅルモヅルの標本

ただ、分類群によっては、自分で磯に採取に行けばその中に新種がいるようなものもあります。そのような分類群では、新種であり新属、属よりも科として新しくないと嬉しくないと思う人もいるかもしれないですね。

世界中の博物館には、調べられていない標本が山ほどある

――先生が調査に行って取ってきて標本にしたものはご自身で所有しているのですか。岡西先生は今年の4月に神奈川県の研究所から広島の大学に移られましたが、これまで作られた標本を全部持って引っ越ししたんですか。

岡西:僕の場合は標本を全部持って引っ越ししました。なぜかというと、一つは怠慢で博物館への移管ができていないからです。もう一つは手元に標本がないと研究できないからです。

まず自分で取ってきたものに関しては自分で管理する番号をつけて、同定(名前を調べること)ができたもの、研究が終わったものから順番に博物館に移管していくのが理想的だと思っています。

――岡西先生のホームページに、ヨーロッパの博物館にある標本を調べに行きたいと書かれていましたが、調べられてない標本が世界中の博物館にあるのでしょうか。

岡西:すごくたくさんあると思います。そういった標本は、データベースなどはないので、直接博物館などに連絡をして、「そちらに取ってきてまだちゃんと分けてないものがあれば見せてくれませんか」と交渉して見せてもらうことが多いです。博物館としても、まず名前をつけないと整理できません。分類学者が行って未分類の標本を調べることは、お互いにとって利益があります。

――標本を半永久的に保存するとなると、数がどんどん増えていくと思いますが、その保管場所は問題になっていないのですか。

岡西:これから少しずつ問題になると思います。日本でたくさんの標本を保管しているところというと、国立科学博物館があります。2012年に新宿からつくばに移転して標本庫を作りましたが、10年経って手狭になってきています。

ただ、それよりも問題なのが標本を管理する人です。標本を管理する人は分類学者で、温度や湿度を管理して、時々チェックして保存液を継ぎ足すなどして、標本の状態を保っています。

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増え続ける標本。問題はその管理だという photo by gettyimages

昔の標本は時間がたてば経つほど価値が出てくると思いますが、だんだんその標本の価値を理解する人が減ってきていると感じます。標本をちゃんと管理できる人がなかなか増えてない、管理するポジションにつけないという状況があって、問題だと思います。

さて、近年のDNA解析技術は、飛躍的に向上しました。分類学の世界も、同種か別種か、種と種の近い・遠いの関係、また複数の種がどのようなグループを構成しているのかなどといったことは、生物の遺伝子配列を調べることで、すんなりと解明できるのではないか、という疑問も湧く。

しかし、岡西さんによれば、そう簡単な話ではないという。いったいどういうことなのだろうか。インタビュー後半では、「分類とは何か」「これからの分類学の方向」などについてもお聞きした。

(聞き手:鈴木皓子)

後半では、インタビュー動画も公開! 下の【関連記事】からお進みください

ブルーバックス・ウェブサイトでご覧の方はそのまま下記のリンクより、お進みください

「DNA解析で、すぱっと」では、すべての生物を分類できないわけ

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