自民党の出世の掟は、今どきエリート議員の感覚には合わないようで

自民党の出世の掟は、今どきエリート議員の感覚には合わないようで

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/04/08
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その言動がますます厳しく見られるようになっているのに、コロナ禍でも政治家は会食をやめない。ある著名政治記者が「政治家は会食するのが仕事」とテレビ番組で発言したところ、視聴者から質問が殺到したという。たしかに一般の感覚からは、そういう疑問を持たれるのは当然だろう。本当に会食しないと政治家は仕事にならないのか。政治家のことは秘書がいちばんよく知っている。長年、国会議員秘書を務めている畠山宏一氏の著書『プロ秘書だけが知っている永田町の秘密』(講談社+α文庫)から教えてもらおう。国難のときこそ政治家の仕事が重要なのだから。

まず目指すのは政務官

国会議員には二つの大きな戦いがある。選挙戦と、出世争いだ。目立つのは選挙戦だが、実は出世争いも熾烈なものだ。当選して国会議員になった瞬間から、大臣や総理大臣を目指した戦いがはじまる。

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議員の序列には、年齢は無関係。当選回数だけがものをいう。同じ当選回数の議員を「同期」と呼び、当選回数により一回生、二回生という括り方をされる。同期のなかで、いかに早く出世するかが、将来の明暗をわける。そのため、当選した年によっても出世争いの激しさは変わってくる。

出世するための登竜門として、若手議員が最初に目指すのが、各省庁の政務官だ。政務官は、一つの省庁に一人だけというわけではない。たとえば外務省であれば、アジア地区担当と北米地区担当など、地区ごとに複数の政務官が任命される。厚生省と労働省が一つになって厚生労働省になったように、もともと複数の省庁に分かれていたところは、政務官も複数だ。

政務官に人気が集まる理由は、将来的に大臣や副大臣も狙える出世コースということもあるが、待遇が特別扱いになる点も見逃せない。若手議員であっても、政務官になることで、政務三役の一人として、それぞれの省庁の役人から任命された秘書官や専属の運転手がつく。政務官になれなかった同期との違いは見た目にも明らかだ。衆議院議員の場合、早い人なら二回生でも政務官になる。参議院議員であれば、当選後二、三年は必要だ。

政務官など、人気が集まる役職に就くためには、何をおいても「普段の活動で目立つ」ことが大切になる。自分から「この役職をやりたい」と明言するのは図々しいとされ、かえって出世が遠のいてしまう。出世するためには、上の議員の目にできるだけ入るように心がけ、ポストに推してもらうのを待つほかない。

目立ってなんぼの大声

まれに二世議員が党の幹部から「君のお父さんには世話になったから」ということで抜擢されることもあるが、それはあくまで例外だ。多くの若手議員は、目立つために、「顔を出す」ことと、「声を出す」ことを繰り返す。とくに重視されるのが、国会議員が毎朝集まって議論をする「部会」(この連載の第1回で詳述)への出席率だ。部会に出席し、たくさん挙手して、大きな声で発表する。とにかく、何回発言できるのかという勝負になる。

部会には秘書も参加できるため、私も何度も参加している。いつも賑やかだ。正直「くだらないな」と思うような幼稚な質問も多いが、若手議員にとっての目的は目立つことだから、なりふり構ってはいられないのだろう。

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こうした地道な取り組みを続けていると、一回生や二回生が、国会の議事進行を促す「議事進行係」に抜擢されることがある。テレビ中継で、「議長ーーー」など独特な節回しで議長に発言を求める若手議員を見たことがないだろうか。あれが議事進行係だ。昔から、議事進行係も国会議員の出世街道の登竜門だといわれ、狙っている先生は多い。何より、非常に目立つからアピールになる。ただ、この仕事は声が大きくなければ務まらないから、部会や本会議のときに発言が少ないような先生だとダメだ。過去には野田聖子先生も議事進行係を務めていたが、ああいう目立つ先生が選ばれる。

政務官の次に国会議員が目指すのは、副大臣や常任委員会の役員だ。衆議院と参議院には、内閣委員会や、総務委員会、予算委員会など、十七の常任委員会が設置されている。各委員会には、委員長、理事といった役職があるため、これらの役職の席取り競争がはじまる。

「代理」でも肩書がないよりマシ

国会議員のポストには限りがある。そのため党内の出世争いは激しくなるが、表立って争うケースはまれだ。多くは水面下で行われている。とはいえ、議員同士のライバル意識は、秘書の目にも明らかだ。まさに足の引っ張り合いが行われる。陰湿だと思ったのは、政策勉強会に、わざと同期の議員に案内を出さなかった代議士だ。

政策勉強会とは、役人を呼んで政策について検討する場をいう。政策勉強会の意義は、単なる勉強だけではない。役人との関係づくりの上でも重要な機会となる。たとえば政策勉強会を通じて厚生労働省の役人とつながっておけば、厚生労働大臣政務官を目指す上で役に立つ、という具合だ。そこに同期を呼ばないということは、ライバルが政務官になる芽を摘んでおきたいという意識の現れだと思う。ただし、悪巧みは結局バレてしまう。

案内を出さなかった代議士は、「ごめんごめん、先生忙しいと思って誘うのを遠慮したんだ」などと言い訳をしていた。対する相手は、「ぜんぜん平気だよ」と応じる。傍から見るとスマートな会話だが、内心では「よくも外したな」と思っているのがミエミエだ。

ちなみに、若手の議員がライバルを蹴落としてまでも役職を望む理由のひとつには、選挙区へのアピールという目的がある。事情を理解する党は、政務三役や常任委員会の役員以外にもポストを用意している。それが「調査会」の役員だ。

自民党には、消費者問題調査会や選挙制度調査会など、政策を審議する調査会が複数あり、それぞれに会長や会長代理が設置されている。調査会のメンバーは何十人もいるわけではないから、比較的簡単に肩書を手に入れることができるわけだ。名刺に「自由民主党」とだけ書かれているより、「自由民主党 消費者問題調査会 会長代理」などの肩書が書かれていると、やはり印象が違う。もちろん、議員としては名刺に「大臣政務官」や「大臣」という肩書を記したいのが本音だろうが、何もないよりはずっとマシだろう。

意外と不人気ポストなのが党の副幹事長

喉から手が出るほどポストが欲しい若手議員だが、人気のないポストもある。たとえば党の副幹事長だ。副幹事長は、党の幹事長の補佐をする役割で、自民党には二十人以上いる。

幹事長の仕事は、人事や広報、選挙指揮など幅広く、党の実務全般を取り仕切ることだ。副幹事長に選ばれる若手議員は、こうした仕事をサポートしていくことになる。いわば下働きだ。副幹事長に選ばれるのは、間違いなく出世コースに乗っている人間だ。それにもかかわらず「やりたくない」という若手議員がいるのは、「党の仕事は国会議員の仕事ではない」と考えている先生が多いからだろう。

とくに官僚出身のエリート代議士はこの傾向が強い。「自分は党の下働きではなく、政策をつくるために国会議員になったんだ」というわけだ。副幹事長になれば、朝から拘束されるし、日曜日には選挙区から戻って翌日からの国会運営の準備をしなくてはならない。たしかに面倒だろう。

ただ、こんな風に党の仕事を避けていると、出世はますます遠ざかってしまう。永田町用語に、「汗をかけ」という言葉があるのをご存じだろうか。新人議員の場合は、とにかく体を動かして党や先輩議員のお手伝いをしろという考えがある。「汗をかく」仕事を続けていると、国会議員として必要な知識や経験を身につけることができる。それができないのに、花形の政務三役を望むなんて百年早いというのが、ベテラン議員の本音だ。

私がかつて仕えたH先生は、国会対策委員会(以下「国対」)で十年間、下働きをして汗をかいた。会合があれば、会場の予約から日程調整や出欠確認まで行う。当然、そうした雑務は秘書に回ってくることになるため、秘書も一緒になって汗をかくことになる。H先生の場合、苦労はあったが、国対で汗をかき続けたことで、十年後には人脈も飛躍的に広がっており、その後の出世につながった。

役職にはつきたい、けれど汗はかきたくない

国対で実績を積めば、そのうち国対筆頭副委員長や国対委員長代理、最終的には国対委員長といったポストを与えられることもある。国対は、すべての法案を牛耳っているとさえ言われ、強い力を持っているため、そのトップである国対委員長になることができれば、閣僚ポストは目の前だ。

ところが、「役職にはつきたいが、汗はかきたくない」というのが、最近の若手議員の本音のようだ。不満があったところで、党や委員会の役職を持たされるのは、早くても五回生くらいだから、それまではどうしても下働きが多くなる。

こうした人事に不満を持つ若手議員も少なくない。とくに元官僚のようなエリートは、議員になる前は何十人もの部下を従えていたはずだから、いきなり国会議員の体育会系的な環境に放り込まれると、「今さら汗をかけと言われても」という気持ちなのだろう。

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