アマゾンと激突必至のゾゾタウンが企む「2つの革命」

アマゾンと激突必至のゾゾタウンが企む「2つの革命」

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2018/04/24
No image

既報の通り、今年アマゾンは日本のファッション界に本格参入していく。「ゾゾタウン」を運営する国内アパレルECの雄、スタートトゥデイとの激突は必至だ。2018年アパレル大戦争の幕開けを『アマゾンが描く2022年の世界』の著者、田中道昭氏が読み解く。

*本連載の目次
(1)ジェフ・ベゾスの次の野望は「アマゾン・カー」の実現だった
(2)ユニクロ、ゾゾを狙い撃つ「アマゾン・ファッション」の驚異的な戦術
(3)アマゾンと激突必至のゾゾタウンが企む「2つの革命」
(4)あらゆるものを資産化する「メルカリ経済圏」のポテンシャル

ファッション界を左右する2つのキーワード

ECファッションサイト「ゾゾタウン」を運営する「スタートトゥデイ」の前澤友作社長は3月25日、ツイッターでこう語りかけた。

創業20周年の今年は、訳あってめちゃめちゃ働くことにしました。もっともっとパツンパツンにスケジュール入れたいので、提案したい人、売りたい人、買いたい人、会いたい人、取材したい人、絡みたい人、飲みたい人、ガシガシ連絡ください。お待ちしてますよ。
— Yusaku Maezawa 前澤友作 (@yousuck2020)
2018年3月25日
from Twitter

筆者が注目しているのは彼の発言の内容だけではない。彼の言葉から現れるコミュニケーションスタイルである。SNSでの発信としては当然のことかもしれないが、社員や取引先はもとより、顧客に対しても実に親密に語りかけるのが前澤流だ。

スタートトゥデイの顧客をつなぐコンセプトは「友達」である。今年2月に発表された同社のサービスには「顧客は友達」という意味合いが色濃く表れた。それはこれからの日本のファッション業界の流れを決定づけた可能性がある。

いま日本のファッション界をけん引しているのは、スタートトゥデイである。さらに今年、この業界にEC界のガリバー、アマゾンが加わった。2018年日本のファッション界で起るのは、アマゾンとスタートトゥデイの激突だ。今回は「アマゾン・ファッション」と「ゾゾタウン」のEC戦略からファッション界のこれからを予測していこう。

前回、説明したように、アマゾン・ファッションの特徴はベーシックカジュアルを基本としてプライベートブランド(PB)や既存ブランドを展開する「ユニクロ×ZARA」の融合、そしてシューズや雑貨からジュエリーまでをも展開するファッションのトータルコーディネートである。

彼らの戦略を支えているのは、過去から未来にかけて収集を続ける膨大な取引情報や顧客情報を駆使した「ビッグデータ×AI」である。

筆者は、アマゾンの強みはマーケティング戦術の「4P」に加え、

(1)Product(商品)、(2)Price(価格)、(3)Place(流通チャネル)、(4)Promotion(プロモーション)

以下の「4C」を追及していることだと指摘した。

(1)Customer Value(顧客の価値)、(2)Cost(顧客にかかる取引コスト)、(3)Convenience(顧客の利便性)、(4)Communication(顧客との対話)

それを他の企業を圧倒する形で可能にしているのが彼らの「ビッグデータ×AI」による分析力である。これからの小売業を考えるうえで「ビッグデータ×AI」は重要なキーワードなのだ。

さらにもう一つ重要なキーワードは「サブスクリプション」である。これは後で詳しく説明するが、この2つの重要なキーワードの本質を理解し、日本で競合に先駆けて事業展開しようと目論んでいるファッション企業がスタートトゥデイである。

今後の日本のファッション界の覇権はこのキーワードから生み出されるサービスで、その優劣が争われることになると予想されるのである。

迎え撃つ実力は十分

スタートトゥデイは、07年の上場以来、10期連続の増収増益を続け、18年3月期も第3四半期を終えた時点で売上高は前年同期比32%増、経常利益は21%増とファッション界の中で群を抜いた快進撃を続けている。

社長の前澤友作氏は41歳。「ネット通販では試着が出来ないので、絶対に成功しない」という定説を覆し「ゾゾタウン」を躍進させた。昨年、ニューヨークのサザビーズのオークションで、ジャン・ミシェル・バスキアの作品を約124億円で落札。いまや世界中に知られる現代アートのコレクターでもある。彼の生き方にはニュースを聞くたびにワクワクさせられる。

同社は昨年8月には時価総額1兆円越えを達成。しかしアマゾンの本格的なファッション進出を前にマーケットは神経質な視線を送っており、直近の株価は低迷している。マーケットは前澤社長の今後の行動を注視していると言っていいだろう。

マーケットには同社への迷いが現れているが、その実力や株式価値は高く評価されるべきであると筆者は考えている。ECサイトで成長を続けて来ただけに、もちろん物流拠点と撮影スタジオの運営に強みがある同社は、アマゾンの品川スタジオから繰り出される攻勢にも、渡り合っていける実力を備えている。

また昨年から始めた低価格帯のTシャツとデニムのPBの位置づけを、同社は利益率を高めていくためだと考えている。上場企業として低価格帯のPBで利益を出せる構造をつくろうとする前澤社長の現実を見据えた経営感覚も、筆者がスタートトゥデイを高く評価するポイントだ。甘えはないのである。

「ゾゾスーツ」リリースの意味するもの

「ビッグデータ×AI」というキーワードで思い出すのが、昨年11月に発表された「ゾゾスーツ」のサービスだ。

No image

「スタートトゥデイ」プレスリリースより

ゾゾスーツは内蔵されたセンサーが身体のサイズを計測し、データはゾゾタウンに集積される。これにより同社は、顧客がサイトにアクセスすれば瞬時に顧客のフィットする製品を提案できるようになるわけだ。

ゾゾスーツは発表から10時間で23万件の予約があったとされる。製品は無料で、送料200円を支払えば誰でも手に入るため、その後も希望者が増え続け、発表から4カ月経ったいまも希望者にゾゾスーツが行き渡らない人気ぶりだ。

顧客の個別サイズの情報は上質なビッグデータとなる。前澤社長は「全ての人にフィットする服を提供する」とその狙いを語ったが、このビッグデータの利用価値はアパレル事業に限られるほど単純なものではないだろう。ゾゾスーツが収集している情報は顧客の「身体のサイズ」とも言えるが、その顧客の「健康状態」とも言い換えることができるからだ。

つまりスタートトゥデイには「医療」「健康」「介護」「保険」の各分野で活用できるデータが集まっているということ。やがてダイエット事業やヘルスケア事業にも進出できる足がかりを得たことになる。

ゾゾスーツのリリースで、スタートトゥデイの事業の本質は、単なるECファッション企業とは一線を画すこととなった。すでに同社は「テクノロジー企業」に変貌したのである。

「おまかせ定期便」の衝撃

もっともゾゾスーツの展開は、ECやIT分野の専門家なら容易に想像できる試みだった。筆者が衝撃を受けたのは、ゾゾタウンが2月にはじめた事業、「おまかせ定期便」のほうである。プロジェクトの名称からは凄味を感じられないのだが、これはいまの社会構造に対する挑戦でもある。これを大手競合に先んじて同社が始めたことは、同社にとって大きな先駆者利益を生むことになるだろう。

詳しく説明しよう。「おまかせ定期便」は、顧客がアンケートに答えて、好みのテイストやアイテム、隠したい体のパーツ、好きなサイズ感、予算などを回答すれば、自分の趣向にあった商品が5~10点程度、定期的に送られてくるようになる。そこから気に入ったものだけを購入し、必要ないものは送り返せるというサービスだ。

顧客のアンケートの回答のほかに、これまでの注文履歴やゾゾスーツの体型計測も加味される。そのデータをAIが独自に解析し、顧客がいま手に取りたい商品を割り出していく。その結果をもとにコーディネートの経験豊かなスタッフが定期便で届ける商品を決定する。

これは典型的なコーディネート提案であるが、意味はそれだけにとどまらない。むしろライフスタイルの提案と言ったほうが適している。「おまかせ定期便」は、「サブスクリプション」をファッション業界で実現しようという試みなのだ。

サブスクリプションとは、「利用した分だけ料金を払う」という意味合いがあるが、例えばビデオ、DVDなどレンタルサービスがその典型だ。

アメリカのオンラインDVDレンタル、映像配信事業の「Netflix」は自宅まで映画やテレビ番組のDVDを宅配するサービスを始め、現在ではネット上で高画質の映像を配信し、月額利用料を支払うことで視聴できるようになった。この仕組みで顧客はDVDをわざわざ所有することなく、膨大な数の映像作品から選択して、低価格で視聴できるようになったのだ。

スウェーデンの音楽ストリーミング配信の「Spotify」も同様で、世界中の4000万曲以上の楽曲を、月額料金を支払うことでいつでも聞くことができる。

「サブスクリプション」が登場した背景

こうした仕組みがいまや全産業に広がろうとしているのだが、現在、アメリカで語られるサブスクリプションとは、「利用した分だけ料金を支払う」という単なる支払い方式を指しているわけではない。

いくつものパラダイムシフト(階層が異なるような革命的な変化)が起こり、社会構造が変化していることを前提として定義づけられたサービス概念となっている。

まずは、いま起こっている多重的なパラダイムシフトとは何かを考えてみよう。例えば、「なぜ、若者は車を買わないのか」という議論を少し前にはあちこちで耳にしたが、こうした若者の趣向の変化が実はパラダイムシフトのきっかけとなっていると言えば分かりやすいだろうか。

レンタカーは一台の車をみんなで使い、利用した分の料金を払う仕組みだが、さらに自動運転車が実現し、ウーバーのような配車のためのプラットフォーム企業が現れると、ますます車を所有する意味は薄れて行くだろう。移動するという目的を満たすためには、車は所有するより、その時の用途に合わせて「シェア」したほうが経済的で合理的だからだ。

No image

Photo by Gettyimages

働き方も変わっている。戦後すぐのモノのない時代から高度成長期にかけては「欠乏欲求を満たすこと」が大多数に共通する働くモチベーションで、みんな食べるため、あるいは人に認めてもらうために働いた。

ところがいまは自己実現や自分らしさを追求する働き方が重視されるようになっている。着る服も住む家も80年代のバブル期以降は豪華さや荘厳さよりも、シンプルでミニマルなデザインに変わっていった。

経済の仕組みもリーマンショック以前のようなマネーが支配する貨幣経済ではなく、人々の共感が重視される評価経済へと徐々に移行している。人々の共感が価値を決定し、やがてFACEBOOKの「いいね」のような共感のサインに仮想通貨としてのコインが支払われるような時代となるだろう。

エコロジーの気運、少子高齢化、テクノロジーの進化などが多重なパラダイムシフトを引き起こし、その対応をいま企業は迫られている。そこで登場したのが「サブスクリプション」という概念なのである。

それは確かに「利用した分だけ支払う」という意味合いから出発しているが、サービスの本質はゾゾタウンの「おまかせ定期便」がやろうとしている顧客へのライフスタイルの提案へと帰結しようとしている。

従来のファッション企業は、洋服を作り、流通させて販売した時点でサービスが完結していたが、「おまかせ定期便」は、その人の趣向やサイズ、また購入履歴などから彼らのライフスタイルを把握したうえで、企業側からそのライフスタイルを補完したり、さらにそれを彩る提案をしている。企業はいまや個々の顧客のライフスタイルにまで立ち入って、顧客ごとに多様なサービスを提供するようになったのである。

アメリカでは議論が活発なサブスクリプションだが、こんなに早く日本のファッション企業の雄から、このサービスが本格的に提供されるとは思ってもみなかった。もちろん日本でも未上場新興系のEC小売・流通企業でサブスクリプションを提供する企業は複数あるが、時価総額約1兆円規模の大企業のスタートトゥデイが始めたことは、ファッション界に大きな変革をもたらすことになるだろう。

お客様が「友達」だからできること

スタートトゥデイは、なぜいち早くサブスクリプションを取り入れることができたのだろうか。もちろんビッグデータ×AIを理解するEC企業であるということも大きいが、より重要なのは同社の企業コンセプトだろう。

冒頭でも紹介したように、前澤社長は顧客を「友達」と定義している。従来のマーケティングでの顧客管理の手法は「CRM(Customer Relationship Management)」だが、スタートトゥデイは「Customer Friendship Management」と言っている。

つまり同社と顧客の関係は、従来の「お客様は神様」という下から持ち上げる関係ではなく、対等なのである。

この考え方はサブスクリプションに実にマッチしている。考えても見れば、神様に対して「人生ああしろ、こうしろ」と下世話なことは申し上げにくいが、友達同士なら「生き方」を日常的に語り合える。ライフスタイルの提案には、スタートトゥデイの顧客とのフレンドリーな関係性が有効なのだ。

ゾゾタウンが作っていくファッション界でのサブスクリプションへの潮流。このサービスについていけるかどうかが、今後のファッション界の優勝劣敗を分けることになるだろう。

ゾゾタウンがおまかせ定期便で企図しているのは、目先の売上よりは、顧客との長期的な関係可能性構築や今後多方面にわたって展開していくためのサブスクリプションプラットフォームの構築準備なのではないだろうか。

スタートトゥデイの死角とは?

ただしスタートトゥデイにも死角はある。その将来を分けるのは、テックカンパニーとして、どこまでアマゾンと渡り合っていけるかにかかっている。

特にゾゾスーツや「おまかせ定期便」のようなサービスは当然、すぐにアマゾンもキャッチアップしてくるだろう。たとえば本や音楽ではアマゾンはすでにUnlimitedサービスとしてサブスクリプションを提供している。

また、アマゾンは映像の3D技術に長けた「Body Labs」を買収したが、この技術を使えば、顧客の全身写真一枚で精緻にサイズを読み取れるようになると言われている。これが実用化されると、ゾゾスーツ自体はむこう2年で陳腐化する可能性もある。

ゾゾスーツのように自分の身体の隅々までのサイズを把握されてしまう商品には抵抗感が大きい向きも少なくないはずだ。実は最もゾゾタウンらしくない商品であるとも考えられる。スタートトゥデイもそれは理解してすでに次の一手に動き出しているはずだ。

さらには、実はアマゾンは、米国においてアパレルのサブスクリプションサービスである「プライム・ワードローブ」もすでに始めている。筆者の著作である『アマゾンが描く2022年の世界』から引用してみたい。

アマゾン効果(アマゾンエフェクト)の「人」への影響について、序章においては「消費者」について言及しておきたいと思います。たとえば、アマゾン・エコーは「スマホに次ぐ、お茶の間全体を支配しているプラットフォーム」。最近米国でスタートしたプライム・ワードローブは、7日間、洋服を購入するか返品するか選択できる「自宅が試着室」のサービス。アマゾンは、買い物の仕方から暮らし方全般に至るまで消費者に大きな変化をもたらし、それに準じてアマゾン効果の定義も変化しているのです。(同書27ページ)

そもそもアパレル・ファッションは、アマゾンの武器である「ビッグデータ×AI」を活かしやすい分野でもあります。消費者の志向を把握し、最適な商品を勧められるからです。アマゾン・エコーに続くスピーカー型人工知能の新機種「エコー・ショー」や、カメラ付きアレクサデバイス「エコー・ルック」との相性も抜群です。エコー・ショーは、タッチスクリーンつきで画像の表示や動画の再生が可能。エコー・ルックには顧客が撮影した画像からAIがファッション指南してくれるという機能が付いています。当然ながら、ここからもビッグデータを取得しており、今後の商品ラインナップに反映されていくことになります。

米国では「プライム・ワードローブ」のサービスも始まりました。これはプライム会員対象の、購入前の服を自宅で試着できるというサービス。返却リスクがあるかと思いきや、エコー・ルックによるファッションチェックと組み合わせればリスクを低減できるといいます。また、2017年8月にはスタイリストやデザイナーをビッグデータ×AIで代替する「AIデザイナー」を開発中であると報じられました。(同書127ページ)

米国でもまだ限定的に展開されているアマゾンのプライム・ワードローブ。そしてアマゾンが完全にファッションビジネスへの攻略のために投入したエコー・ショーやエコー・ルックなどのデバイス。これらが日本に上陸し、本格的に展開されるのは、もはや時間の問題でしかないのだ。

単なるファッションから「ファッションテック」と進化したこの業界は、アマゾンの本格参入で変化のスピードもまた一段と速くなってきている。スタートトゥデイは、この「時間の問題」という、実は現在の最も重要な「ゲームのルール」のなかで、いかに自社の「サブスクリプション経済圏」を先行して広げておけるのか。

AI、ビッグデータとEC事業者が織りなすこの人知を超えた大変革。その覇者となろうとするアマゾンに食らいつくスタートトゥデイ。これが2018年の日本のファッション界の姿だ。

一方でいま、また別の日本企業にも注目が集まり始めている。次回、最終回ではフリーマーケットのプラットフォームで急拡大したメルカリの可能性を見て行こう。

*田中道昭氏の短期集中連載 目次
(1)ジェフ・ベゾスの次の野望は「アマゾン・カー」の実現だった
(2)ユニクロ、ゾゾを狙い撃つ「アマゾン・ファッション」の驚異的な戦術
(3)アマゾンと激突必至のゾゾタウンが企む「2つの革命」
(4)あらゆるものを資産化する「メルカリ経済圏」のポテンシャル

No image

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

経済カテゴリの人気記事

グノシーで話題の記事を読もう!
トヨタ、新型「LEXUS ES」初披露 日本で18年秋ごろ発売
世界の音楽市場の足を引っ張っているのは、日本の音楽業界だった
入社後に期待を裏切らない企業ランキング!1位はあの有名コンサル
ライザップ、利益の「実態」...赤字企業買い漁りで膨らむリスク
  • このエントリーをはてなブックマークに追加