たった一滴の血液や汗で、がんの診断ができるのか?[医療トリビアpart.4]

たった一滴の血液や汗で、がんの診断ができるのか?[医療トリビアpart.4]

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2016/10/20
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長寿を誇る日本だが、一方で3分診療、介護難民、破綻寸前の医療財政など課題は山積み。誰もが長い人生を健康で送るために、進行中のプロジェクトを紹介する。Part.4は、がん診断の話。

国立研究開発法人国立がん研究センター研究所分子標的研究グループ分子細胞治療研究分野の落谷孝広・主任分野長(博士)がリーダーを務める、「体液中マイクロRNA測定技術基盤開発」プロジェクトは、13種類のがんを1回の採血で診断する技術と、簡便な診断ツールの開発をめざしている。

そこでは今、たった一滴の血液から、「ステージ0〜1」のがんでも特定できる診断法の確立が山場を迎えている。これは日本オリジナルの技術であり、認知症診断にも応用できることもわかってきた。キーワードは「エクソソーム」と「マイクロRNA(リボ核酸)」だ。

エクソソームは、さまざまな細胞が分泌する直径数百ナノ(ナノは10億分の1)メートルの小胞で、細胞間の情報伝達を担う。

「がん細胞は、エクソソームを自らの分身として分泌して周囲の正常な細胞を騙したり、罠にかけたり、味方に引き入れたりして自分自身を守り、転移を引き起こしたりします」(落谷博士)

そこで大きな役割を果たしているのが、エクソソームが内包するマイクロRNAだ。たった22個の塩基で構成され、人体内には2,588種類があるという。注目すべきは、がんの種類によって異なるマイクロRNAの放出量が増加する点だ。つまり、肺がんと乳がん、肝臓がんでは、増加するマイクロRNAがそれぞれ違っているのだ。

ならばがんの種類と増加するマイクロRNAの種類との相関関係が立証できれば、診断に活用できる。しかもマイクロRNAは、血液だけでなく汗や尿などの体液にも含まれている。汗や尿でも検査が可能となれば、診断はより手軽になるはずだ。

プロジェクトでは、国立がん研究センターや国立長寿医療研究センター、共同研究する8つの大学などに保存されている膨大ながんの検体を解析。どのがんでどのマイクロRNAが多く発現するかを解明しようとしている。対象は13種類のがんで、「日本人のがんのほとんどを網羅するもの」(同)だ。

例えば乳がんでは1,200検体以上を検証したが、5種類のマイクロRNAの発現を追跡するだけで、98%の感度で発病を確認。早期のステージ0でも98%の確率で突き止められた。また、大腸がんで80%の確率で診断できるマイクロRNAの存在を突き止め、食道がん、胃がん、肝臓がん等についても続々と解明されつつある。

そもそもこのプロジェクトには、早期診断法を確立することで医療費負担の低減に貢献するという目標があった。現在、がん診断の主流である腫瘍マーカーは、がんの進行と共に増えるタンパク質などを特定する手法で、がんがある程度進行しないと見つけられないという弱点がある。

「このままでは日本の医療費は2025年に年間56兆円まで膨らむとも試算されています。ステージ0〜1で発見し、先手を打つことができれば、予防治療で医療費を増やさないで済みます」(同)

プロジェクトには、東レや東芝など4法人も参加し、検査機器の開発を担っている。また国立長寿医療研究センターは、独自の血清バンクを解析し、脳腫瘍やアルツハイマーの発症に関わるマイクロRNAを突き止めようとしている。

「認知症の4,000例以上を検証すれば、アルツハイマー型認知症の早期発見に繋がるマイクロRNAを見つけることも可能です」(同)

マイクロRNAとがんやアルツハイマーの相関関係が解明されれば、診断だけでなく、医薬品開発の効率を上げることにもつながるだろう。さらに、痛みや老化などとの関係性もわかれば、緩和ケアやアンチエイジングの分野でも、新たな地平が見えてくるはずだ。

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