日本の優れた医療研究が「製品化・事業化につながらない」理由

日本の優れた医療研究が「製品化・事業化につながらない」理由

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2017/11/14
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「今年から厚労省が変わったんです! 僕も相談に行きました」

10月中旬、「ジャパン・ヘルスケアベンチャー・サミット2017」のイベント交流ラウンジで、医師で起業家の方に声を掛けられ、おまけに厚労省のブースに連れて行かれそうになった。

筆者は、医療系ベンチャー振興推進会議の座長として、このイベントを含む厚労省が”変わった”と言われる動きをサポートしている。昨年7月には厚労大臣の「医療のイノベーションを担うベンチャー企業の振興に関する懇談会」としての提言をまとめた。それを知らない知人の率直な言動に、お題目でなくベンチャー振興が歩み始めたと感じることができた。

では、なぜ変わったのか? その背景ではなにが起きているのだろうか。

日本の研究から果実がとれない理由

薬の世界の売上トップ10に占めるベンチャー起源の品目は、2001年は1つだったが、2014年は6つに増えている。また、米国FDAが1998〜2007年に承認した252の新薬は、米国企業発が117、日本企業発が23を数えるが、そのうち大学やベンチャー企業発の薬が米国は72と6割に上る一方、日本はわずか2割程度しかない。

大企業が自ら新薬を生めない傾向はさらに強まり続けており、大学など研究機関やベンチャー企業に将来がかかっている。

では日本の大学・研究機関がダメかというとそうではない。むしろ、その逆だ。日本のライフサイエンスの研究は世界トップレベルで、ノーベル賞を獲得するなどすごい技術があまたある。また、日本の大学の理科系研究者は半数以上がライフサイエンス分野だ。メディアではITなどが脚光を浴びることもあるが、この分野にもっと期待してよいはずだ。

だが日本の研究機関からの製品化・事業化の例は少ない。それはなぜか? 前述のベンチャーサミットで、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所の米田悦啓理事長は、「死の谷」問題を指摘する。研究室から臨床試験を経て製品化されるには、知財、薬事、戦略、プロジェクトマネジメント、資金調達など壁が多い。米国のエコシステムでは、ベンチャー企業がこれら壁の間「死の谷」を越えるブリッジの役割をしているが、日本はそこが弱いのだ。

メガファーマと呼ばれる世界の大手製薬会社の動きはアグレッシブだ。2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智博士のイベルメクチンは海外のメガファーマが製品化して大きな利益を上げたが、これは例外ではない。海外の大手各社は日本を含むグローバル市場から技術と研究者をソーシングしている。

あるところまでは囲い込まずほぼ無条件でベンチャー企業を支援する「Precompetition」といったエコシステム的発想をもっているメガファーマもある。例えば、ジョンソン・アンド・ジョンソンは、社員の20%の時間はベンチャーエコシステム醸成に使いなさいと唱えているくらいだ。

そして、メガファーマが投資しているベンチャー企業のマッピングをみると、その件数と金額はもちろん、デジタルヘルスなど多様な分野への”種まき”投資が目を引く。ベンチャー企業との連携をはじめとするオープンイノベーションに大企業がこぞって、かつ懸命に取り組んでいるのだ。日本企業も手は打っているが、押されている感があるのは否めない。

2014年11月、再生医療等製品の条件及び期限付承認が施行され、2015年9月には改正法の下で最初の再生治療製品が複数承認された。簡単に言うと、製品を市場に出すまでの期間を劇的に短縮したのだ。

学術誌「ネイチャー」などで本規制改革への疑問が呈されるなど、世界をあっと驚かせ、議論が巻き起こった。これが多くの再生医療企業にシグナルを送り、実際に米国から東京に本社を移転したベンチャー企業もある。再生医療に続き、今年7月には革新的医療機器の、10月には医薬品についても、条件付早期承認制度が施行された。

エコシステム醸成で垣根を超えた発展を

前述の「死の谷」問題に話を戻そう。ベンチャー企業を含むエコシステムが鍵であるが、日本ではこれまで本格的なベンチャー振興策は不在だった。

現在は、厚労大臣懇談会による報告書にもとづき、「医療系ベンチャー振興推進会議」がPDCAサイクルの後押しと助言を行っている。この4月には厚労省はじめ関連機関にベンチャー振興の担当者が任命され、10月には厚労省主催でベンチャーサミットが開催されるなど、提言の実行に移っている。

これは、まさに垣根を超えるイニシアティブだ。医療系分野でエコシステムが発展すれば、ベンチャー振興だけでなく、大学などの研究機関の成果が世に出る率が上がり、大企業がそうした研究から製品化することが増えるという好循環がつくられる。しかも日本に閉じたものではなく、オープンなエコシステムとして国際的な発展を志向している。

世の中には、こうしたお役所のベンチャー振興の動きについて、冷ややかな声もある。だが何もしなければ、将来は暗いだけだ。反対意見がある中でも挑戦するのが起業家精神であり、「規制から育成へ」と唱えて前に進もうとする意義は大きい。

また、新たな人材にも希望がみられる。ベンチャーサミットの「若手ベンチャー・セッション」には、医師でありながら海外MBAを取得した人、ベンチャー2社目を立ち上げた人など、かつて見られなかったタイプの優れた若手起業家が集まった。

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石倉 大樹/日本医療機器開発機構 取締役 CBO、倉森 和幸/ガイアバイオメディシン 代表取締役社長、原 聖吾/情報医療 代表取締役、鍵本 忠尚/ヘリオス 代表取締役社長 兼 CEO

日本での医療系ベンチャー振興は始まったばかりで道のりは遠い。その成否は、垣根を超えて人・組織がつながるエコシステム醸成にかかっている。

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