【日本ハム】大谷移籍の毎日スポニチ報道は、本当に特ダネだったのか?

【日本ハム】大谷移籍の毎日スポニチ報道は、本当に特ダネだったのか?

  • 文春オンライン
  • 更新日:2017/09/15

かぐや姫が月に帰ったように、大谷もいつかはメジャーに行く

今週は大谷翔平をめぐる動きがあった。まず、9月12日、札幌ドームの楽天21回戦に先発して、5回2/3を1被安打無失点(78球、4奪三振、3四球)で投げ抜き、今季初勝利を飾っている。最速163キロ。MLBスカウト16球団32人がスピードガン片手に注視する様はネットで「品評会」と呼ばれた。

明けて13日早朝だ。僕は「日本ハム大谷 今オフ米大リーグへ挑戦」(毎日新聞・荻野公一記者)という配信記事を見てびっくりして起きてしまう。朝の5時55分配信だ。「大谷 今オフのメジャー移籍決断 あるぞ全30球団争奪戦」(スポニチ、6時10分配信)が続いた。うわ、これは系列の毎日・スポニチが特ダネをものにしたのか。とにかくヤカンを火にかけコーヒーを淹れることにした。が、沸騰するまでに、あれっと思う。これ、本当にスクープだろうか。他紙に先駆けて「今オフ挑戦」「移籍決断」と打ってるからスクープに見える。実際、調べても他紙に目立った動きはない。が、毎日・スポニチ報道には肝心の大谷コメントがないのだ。

これ、スクープ風だけどスクープだろうか。コーヒー片手に首をひねる。これが打てたということは大谷サイドから裏が取れたのだろうか。それを今、大谷サイドが洩らす理由は何だろう。ていうか、これが本当にスクープだろうかと思うのは、(ここまでの範囲なら)皆、そう思ってるからだ。うちの81歳になる母は大谷のことを「しょうへいちゃん」と呼ぶ。僕がそれじゃ笑福亭笑瓶だよとツッコんでも、気にせず「しょうへいちゃん、来年は大リーグでしょ?」と言う。そのくらいのもんだ。こう、何というかかぐや姫の物語みたいに誰もが知っている。いつかは月に帰るのだ。それはこのオフっぽくないか。

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12日の楽天戦で今季初白星を手にした大谷翔平 ©文藝春秋

僕は2017年シーズンの野球コラムの書き手として、この不思議な現象を書いておきたい。大谷翔平というケタ外れの才能が同心円の中心になって、野球シーンのなかに奇妙なさざ波が広がっていく。感触として何が近いかというと『桐島、部活やめるってよ』だ。スクールカーストの中心(もしくは頂点)に桐島がいる。その桐島が中心であることをやめるらしいと噂が立ち、周囲の者がバタバタする話だ。

大谷翔平は(以前からある意味、そうだが)今年、特に周囲をバタバタさせる存在だった。骨棘によるWBC出場辞退から始まって、春先の別メニュー調整、全力疾走禁止のDH出場、肉離れによる戦線離脱、リハビリ明けまさかの二刀流再開、次第に迫力を増すバッティング、そして調整登板に群がるMLBスカウト……。周囲はとにかく右往左往だ。

で、面白いのはどういう意図なのかアナウンスはないのだ。なぜ春先に骨棘の手術をしなかった? なぜ全力で走れないのに試合に出した? なぜシーズン後半に調整登板させる? 今シーズン終わったら大リーグへ挑戦するのか? みんなの知りたいことがアナウンスされない。記者も突っ込まない。空気で察している。僕はたぶん今オフのポスティング移籍はマスコミ各社にとって既定路線だと思う。ファンの多くも(寂しい気持ちはあるにせよ)ある程度、織り込んでいると思う。何といってもかぐや姫は月へ帰るのだ。だからこそ面白いと思う。果たして毎日・スポニチは特ダネをものにしたのか。「かぐや姫 月に帰る決断」は本人コメントなしでスクープだろうか。

一体、何のための「調整登板」なのか

7月12日オリックス戦、1回1/3、2被安打4失点(29球、2奪三振)
8月31日ソフトバンク戦、3回1/3、3被安打4失点(64球、4奪三振)
9月12日楽天戦、5回2/3、1被安打無失点(78球、4奪三振)

今季、大谷の投手成績は上記の通りだ。1勝2敗。MLBスカウトらがなぜ2軍でやらせないと首をひねるなか、敢えてOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)状態で、1軍の調整登板が続けられている。これは現場はどういう空気なのかなと思うのだ。『桐島、部活やめるってよ』ならぬ「大谷、投げるってよ」の現場は。まぁ、人気があって力量があって人柄もバツグンの大谷だ。嫌われることだけはないと思う。

が、とにかく周囲としてはバタバタせざるを得ない。これはプロ野球の形をした「調整登板」というビミョーに野球と違うものなのだ。ま、OJTだ。ファンは純粋に「大谷翔平vs相手打線」を楽しむわけじゃない。「大谷の状態」を見るというような興行形態だ。あるいは品評会として「大谷の状態を見るMLBスカウトを見る」というメタな領域まで行ってるかもしれない。もちろん大谷の力量は傑出していて、「1個1個のボールで抑えていったという感じ」「ピッチングというにはほど遠いかなという内容」(大谷のコメントより)でも、2位争い渦中の楽天打線を沈黙させてしまう。文春野球コラム楽天担当、かみじょうたけしさん、どうでしょう? 納得いかないよね?

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JR北海道、函館本線の大谷トレイン ©えのきどいちろう

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なんと大谷翔平と足のサイズが比べられる ©えのきどいちろう

楽天21回戦の今季初勝利の後、『ファイターズナイター』(HBCラジオ)のなかで解説者の新谷博さんが面白いことを言っていた。中継自体は終わって、その余韻のなかで話してたから、もしかすると厳密には情報番組『ファイターズDEナイト!!』の枠かもしれない。「ピッチングがどうだったかということより、そもそもの部分がわからない」と言うのだ。曰く「160キロの球があれば少々、出来が悪くても抑えられる。それよりもそもそも何で今、投げるのか。調整登板っていうけど、何のために調整してるの? 来季のためというんなら春から調整すれば十分でしょ。誰のために何の調整をしてるの? 答えは大リーグのためでしょ。それ以外に考えられない」。僕は、おお、新谷さん言ったなぁと感心していた。空気に配慮して皆、ハッキリ言わない。

毎日・スポニチ報道は当日のうちに共同通信が追いかけた。共同が打ったことで無視するわけにもいかなくなり、翌日は他紙やNHKが追いかける。僕が本当にスクープだろうかと首をひねった「今オフ挑戦」「移籍決断」はこうして「移籍濃厚」くらいのところで既成事実化していったのだ。但し、本人はコメントしていない。

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※「文春野球コラム ペナントレース2017」実施中。この企画は、12人の執筆者がひいきの球団を担当し、野球コラムで戦うペナントレースです。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/4160 でHITボタンを押してください。

(えのきど いちろう)

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