男の「かっこ良さ」が終わるとき

男の「かっこ良さ」が終わるとき

  • WSJ日本版
  • 更新日:2016/12/01
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――筆者のジョン・バスキン氏は退職し、現在はニューヨーク州北部で暮らしている

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ある有名なヨガのインストラクターは「すべての生き物の目的はバランスだ」と書いた。私は退職後のある日、初めてヨガのクラスに出る準備をしていて、下着に片足を入れている最中にバランスを崩した。その結果、膝の裏を痛めてしまい、心の平穏を目指す退職後の挑戦はそこで頓挫することになった。

よろめきながら歩くことより、きらきらと輝く蛍光紫の杖(つえ)を買うことを私は選んだ。その洗練されたファッションは私を活動的に見せてくれると思ったのだ。これで外を歩けば年齢を重ねたヒップスター(流行に敏感な人)に見えると期待した。ところが実際に鏡に映った自分の姿はまるで、年老いた道化師のようだった。

私は杖を捨て、あまり歩かないことにした。

わかってほしいのは、私はとてもクール(かっこいい)だということだ。今までずっとクールだった。60年代、学生運動で大学の管理棟を乗っ取ったことはないが、女子用ジムを乗っ取ったことはある。70年代にはマンハッタンのイーストサイドで最もクールな独身者向けバーでバーテンダーとして働き、客には何を出してもヘミングウェイの好みの酒だと言った。

私は子供の頃に見てきたような年寄りにはならないと常に思っていた。転ぶたびに、周囲に向かって「大丈夫、何ともない」と地面に倒れたまま言うような年寄りのことだ。そんな年寄りは自分とは別の種だと思っていた。

クールでいることは困難になる一方だ。それが70代を目前に控えた私のジレンマだ。老いを受け入れることと、何とかクールに見える努力をバランスよく両立させるのは難しい問題であることが(あまりに遅いものの)次第に分かってきた。しかもご存じの通り、バランスは私の得意分野ではない。

その結果、クールでいようとするあまり、それ以上はないというほど格好悪い状況に陥ることがしばしばある。

医者のアドバイス

私は最近、不意に脊髄を痛めた。そこでマンハッタンで高名な背骨の権威とされる医者に診てもらった。診察は高額で短時間だった。私のMRI(磁気共鳴画像装置)画像をその医者が見たかどうかさえ定かではない。体を伸ばしたり、ひねったり、向きを変えたりという指示を私に与えた後、医者は気味の悪い笑みを浮かべてうなずくと、何も驚くようなものはないと言った。長く生きていればよくある症状だ、私の言うことを聞けばよくなる、とも言った。

医者の指示はこうだ。自分の荷物を運ぶな、雨の日は出かけるな、雪の日も出かけるな、振り向くな、体の向きを変えるときは必ず足を使え――。唯一の慰めはエアギターが禁止されなかったことだ。

「年寄りのように振る舞えと言うのですか」と私は言った。

「そうしなさい」と医者は言った。「あなたは年寄りです」とは言わなかった。診察からの帰り道は普通は車で4時間かかるが、医者は「最低でも20分間の休憩を3回とりなさい」と言った。「コーヒーか紅茶でも飲んで。となると6時間だ。のんびり行きなさい」

私は「受動攻撃性」(人格障害の一種)があると言われたことはないが、その時は3時間で帰宅した。ノンストップだ。スピードメーターが上がるのを見ながら、20歳のときに3日足らずで全米を横断したことを思い出していた。

つまらない詳細は避けるが、その後の数週間、私の歩く能力は衰えた。

子供たちは、クールに見えることへの私のこだわりにあまり理解がない。霜取り機能が効かない2001年型の黒いセダンのフロントガラスについた霜を(運転中に)古いタオルで拭いている私の姿を見て、車を下取りに出すよう強要してきた。頭に浮かんだのは緑色の英オースチン・ヒーレーだ。だが娘は親切にも、古代のスポーツカーは実用的ではないと忠告してくれた。7歳だった娘が生きたサルを欲しがったときに私が言ったこととほとんど同じだった。サルは危険なうえに、サルを飼ってどうしたいのか分かっていないだろうと私はそのとき言ったのだ。

結局、小型で安全な4輪駆動車に落ち着いた。だが完全に降伏したくはなかった。そこでマニュアル車にした。唯一の問題は、ギアチェンジの際に私の専売特許である堂々たる態度でペダルを踏むのだが、時にエンストを起こすことだ。これは非常に格好悪い。

それらしく洗練され、かつ軽快な感じに見えるよう、シートをかなり後ろに下げた状態で運転するのだが、おそらく体が少し縮んだのだろう。クラッチを完全に踏み込めるところまでシートを前に出すと、まるでバンパーカーに乗っている6歳児のようになった。

駐車場までの近道を見せようとしたときも、子供たちは少々心配になったようだ。フェンスを飛び越えれば駐車場だったのだが、私がこんな風に転んだことは一度もなかったことを子供たちはどういうわけか信じようとはしなかった。アスファルトの地面から助け起こされた私の両方の手のひらは擦りむけていた。

白内障のサングラス

ある日、視力検査を受けた結果、白内障の手術をすることになった。飲み薬と目薬のほかに医者がくれた「ギフトバッグ」には顔にそってカーブするラップアラウンドの大きな黒いサングラスが入っていた。牛乳瓶の底のような遠近両用眼鏡の上に、そのサングラスをサッとかけて出かけるわけだ。つば帽子をかぶり、サングラスをかけて街を歩く姿は格好良かった! ガールフレンドがフェイスブックに「不良」の私の写真を掲載したほどだ。

だがフェイスブックの反応をみると、これをフォスター・グラントのサングラスだと誤解する人は誰もいなかった。こういう超大型サングラスをかけているのは、ズボンのベルトを胸のあたりで締めているような干からびた老人だと分かるようだ。格好悪い栄光に包まれた姿を世界に向けてさらしている自分がそこにいた。

私は最近、病院の待合室にいた。長い間待っていたので、片足が眠っていることに気づいていなかった。名前が呼ばれて立ち上がろうとしたとき、眠っていた(つまり、しびれていた)足は私の体重を支えることができず、倒れてしまった。看護師が車椅子とともにどこからか現れ、私は立ち上がりながら自分の口が「大丈夫、何ともない」と言うのを聞いた。看護師は私を嫌な目で見た。おそらく、年寄りのマッチョな男が現実から目をそらす姿にうんざりしていたのだ。私は看護師を見上げ、笑顔でこう言った。「私は平気(クール)だ」と。

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