スマートハウスは住み手の感情に寄り添えるか 横浜市「EcoHouseBusiness 研究会」で示された普及のカギ

スマートハウスは住み手の感情に寄り添えるか 横浜市「EcoHouseBusiness 研究会」で示された普及のカギ

  • JBpress
  • 更新日:2016/10/21
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留守中の自宅になんとくなく不安を感じている日本人は多い(写真はイメージ)

スマートハウスは、どうすれば日本でこれからもっと普及するのだろうか。横浜市が主催したスマートハウスに関する研究会で、そのヒントが示された。

「環境と健康」を重要な成長産業分野と捉える横浜市では、産業振興政策の一環として、エコハウス(省エネ住宅)ビジネスの活性化を図ろうとしている。

同市は今年から「EcoHouseBusiness(エコハウスビジネス) 研究会」を立ち上げ、エコハウス市場への参入とビジネス拡大を果たしたい建設・住宅関連企業に向けて、様々なテーマでセミナーや情報交換会、勉強会を開催している。2016年10月3日、神奈川産業振興センター(横浜市中区)で定例の研究会が開催された。

今回のテーマは、「スマートハウスの最先端ICT技術・居住者レビュー」である。法政大学デザイン工学部建築学科専任講師の川久保俊氏、サステナブル経営研究所所長の後藤貴昌氏、Connected Design副社長の福西佐允(すけみつ)氏、リスト経営企画部経営企画課の相澤毅氏の4人が講演を行い、スマートハウスを活用して省エネ住宅ビジネスを新たに創出し、拡大するための手がかりを探った。

客観的な数値やデータを集める

住宅の購入や建て替え、リフォームを検討している人に、スマートハウスのメリットをどう伝えればいいのだろうか。研究会で示されたポイントは3つ。すなわち、(1)頭で理解してもらう、(2)体で感じてもらう、(3)感情に寄り添う、である。

なお、「スマートハウス」という言葉は、元々はエネルギーマネジメントシステムの導入によって環境性能を向上させる「省エネ住宅」(エコハウス)を意味していたが、最近はITを活用して安心・安全性能や利便性、快適性を向上させる住宅(「インテリジェントハウス」「コネクテッドハウス」と呼ばれることもある)も含むようになってきた。以下で使う「スマートハウス」という言葉は、エコハウスやインテリジェントハウス、コネクテッドハウスなどを総称しているのでご承知おきいただきたい。

さて、1つ目のポイントは、住む人にメリットを頭で理解してもらうことである。具体的には客観的な数値やデータを提示して納得してもらうことだ。

最も分かりやすいのは、いくら公共料金が減るのか、いくら支出が減るのかといった経済的メリットの提示だろう。たとえば、サステナブル経営研究所 所長の後藤貴昌氏が講演の中で示した数字はきわめてインパクトがあった。

後藤氏は2014年3月から、神奈川県藤沢市の「藤沢サスティナブル・スマートタウン」(SST)内のスマートハウスに居住している。SSTはパナソニックの工場跡地に開発された、約1000世帯が住むスマートタウンである。すべての住居と施設が省エネ家電、省エネ住宅、エネルギーマネジメントシステムなどを導入し、町全体で「創エネ・省エネ・畜エネ」の実現を目指している。

後藤氏の自宅ではエネファームと太陽光発電でダブル発電を行い、余剰電力を電力会社に売っている。後藤氏によると、都内(練馬区)のマンションに住んでいたときは、電気代、ガス代、水道代を合わせて年間で26~28万円ほどかかっていた。それが2014年にSSTに引っ越してから、2015年は一気に約1万8000円に減少。2016年(9月まで)はなんと約3万9000円のプラスに転じたという。

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サステナブル経営研究所 所長の後藤貴昌氏

スマートハウスのメリット提示に活用できるデータは金額だけに限らない。法政大学デザイン工学部建築学科 専任講師の川久保俊氏は、生活にまつわる様々なデータを収集・分析して、より快適な暮らしの設計に役立てようとしている。

例えば川久保氏が実現させようとしているサービスの1つに「最適な睡眠環境創出サービス」がある。睡眠時の最適な環境は人によってバラバラだ。温かい部屋の方が眠れる人もいるし、涼しい部屋の方が眠れる人もいる。最適な睡眠環境は数値化・データ化できるのだろうか。

川久保氏は男子大学生3人を被験者に、寝室内の温熱環境と睡眠の質との関係を調査した。睡眠計、除湿度気圧計、活動量計、アンケートなどで1年間データを取り続けたところ、3人それぞれの最適な温熱環境が分かった。「こういうデータをエアコンに送って自動制御すれば、最もよく眠れる環境を作り出してあげることができます」。このように生活に関する客観的なデータを収集・活用することは、スマートハウスを普及させる上できわめて有効である。

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法政大学デザイン工学部建築学科専任講師の川久保俊氏

足を踏み入れたら分かるゼロエネハウスの性能

2つ目のポイントは、住宅の性能や機能を体で感じてもらうことである。

前出のサステナブル経営研究所の後藤氏は、断熱性能に優れ空気環境をコントロールされた家に住むことのメリットを身をもって実感したという。「以前住んでいた家と比べると結露がなくなりました。カビの心配もありません。温度や湿度の変動も小さくなりました。以前の家では、夏場に家に帰るとむっとする感じがして、すぐに換気していましたが、その必要もなくなりました」。

マンションや戸建住宅の開発・分譲・設計を手掛ける不動産会社のリスト(神奈川県横浜市)経営企画部経営企画課の相澤毅氏は、ゼロエネルギーハウス「リストガーデン オーレリアン深沢」(東京都世田谷区)を開発分譲したときのエピソードを紹介した。

オーレリアン深沢は、建築家の竹内昌義氏(東北芸術工科大学教授)が監修した5棟から成る「ゼロエネルギー・エコハウス」(ゼロエネハウス)である。リストの社員が「そこまでやるのか」と驚嘆するほど徹底的に高断熱、高気密を追求し、年間のエネルギー収支(太陽光発電などで作るエネルギーと使うエネルギーの差)をほぼゼロにすることを実現した。

社内でオーレリアン深沢の企画が持ち上がったとき、販売担当者らからは「本当にそんな家ができるのか」「そんな家が売れるのか」との声が上がったという。そこで相澤氏は、担当者らにゼロエネハウスの性能を体感してもらうために、竹内氏が建設に携わった「山形エコハウス」(山形市)に連れて行った。山形エコハウスに足を踏み入れた販売担当者らは ゼロエネハウスのあまりの快適さに感動し、オーレリアン深沢の開発と販売に積極的に協力してくれるようになったという。

オーレリアン深沢の実際の居住者たちからも、「結露が発生しない」「屋内で焼肉しても全館空調で1日で匂いが消える」「エアコンは1階しかつけていないけど家の中の気温差がほとんどない」「床暖房を入れていないが、床が冷たいと感じたことがない」など、「住んで良かった」という声が相次いでいるとのことだ。

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リスト経営企画部経営企画課の相澤毅氏

ちょっとした不安を取り除いてあげる

3つ目のカギは、住む人の感情に寄り添うことである。

Connected Designの副社長、最高戦略責任者、福西佐允氏は「心の平安」というキーワード挙げて、日本でスマートハウスが普及するための条件を提示した。Connected Designは、IPカメラ、モーションセンサー、スマートロック、家電コントローラーなどを提供する、いわばIoTデバイスの総合商社である。

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Connected Design副社長の福西佐允氏

米国ではスマートハウスが目覚ましい勢いで普及している。米国のスマートハウス利用顧客に導入理由を尋ねると、90%が「個人、家族のセキュリティのため」と答えるそうだ。だが、日本でも同様にセキュリティのために家をスマートハウス化する人が数多く出てくるかというと、それは見込めそうにない。現在、日本でセキュリティサービスを利用している家の割合はアメリカの10分の1程度しかない。

では、どういう用途で使ってもらえばいいのか。

福西氏は、日本人の多くは、実は治安に「なんとなく不安」を感じていると指摘する。確かに、日本は米国よりも犯罪率は低い。しかし、治安に不安を感じる人の割合は日本の方が高い(「OECD factbook 2009」)。日本は米国よりもずっと安全なのに、日本人はなぜかいつも不安にさいなまれているのである。

福西氏はそこに目を付ける。つまり、スマートハウスなら、家を離れているときの“ちょっとした不安”を解消できる。高齢者の転倒、体調不良・孤独死、徘徊、子どもだけの留守番、カギのかけ忘れなど、ホームセキュリティサービスを利用するほどではない心配事を取り除き、心の平安を得られるというわけだ。

法政大学の川久保氏は、「家を作る側や売る側は自分たちが思う“いい家”を提案しようとしますが、いちばん大切なのは住む人のニーズに応えることです」と唱える。形のはっきりしているニーズのさらに奥にある「感情」に寄り添うことは、建設・住宅関連企業にとって最も大切なことなのかもしれない。

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