日韓GSOMIA失効、どうなる安全保障体制 弾道ミサイル、アジアの安定...今後の影響は?

日韓GSOMIA失効、どうなる安全保障体制 弾道ミサイル、アジアの安定...今後の影響は?

  • 乗りものニュース
  • 更新日:2019/08/24

韓国、ついに安全保障の領域へ踏み出す

2019年8月23日(金)、韓国政府は日本政府に対し、両国間で秘密軍事情報の相互提供を行なう際に、第三国への秘密軍事情報の流出や漏洩を防ぐための協定「日韓秘密軍事情報保護協定」を更新しないと通告しました。

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韓国による今回の協定破棄は日本の弾道ミサイル防衛も影響を被る。写真は海上自衛隊の護衛艦「きりしま」による、弾道ミサイル迎撃実験の様子(画像:アメリカ海軍)。

韓国で安全保障戦略を決定する、国家安全保障会議の金 有根 事務処長は8月22日(木)の会見で、日本政府が輸出管理を簡略化する優遇対象国、いわゆる「ホワイト国」から韓国を除外する決定を下したことが、日韓両国の安全保障協力関係に重大な変化をもたらしたと述べ、敏感な軍事情報の交換を続けることは国益に合致しないと、日韓秘密軍事情報保護協定を更新しない理由を説明しています。

日本は2007(平成19)年8月に、同盟国であるアメリカと締結したのを皮切りに、NATO(北大西洋条約機構)、フランス、オーストラリア、イギリス、インド、イタリア、韓国の7か国と、「GSOMIA(ジーソミア。General Security of Military Information Agreement、軍事情報に関する包括的保全協定)」と呼ばれる、日韓秘密軍事情報協定と同様の協定を締結してきました。

2016年11月23日に発効した日韓秘密軍事情報協定は、1年ごとに自動更新される仕組みとなっており、破棄にあたっては3か月前の通告が必要とされています。今回、韓国政府が更新しない旨の通告を行なったことで、2019年11月22日をもって、日韓秘密軍事情報保護協定は締結から3年で失効することになります。

失効した、そのあとは?

日本政府と防衛省は日韓秘密軍事情報保護協定の締結後、どのような情報を何回提供しあったのかを明らかにしていませんが、韓国メディアが報じたところによれば、韓国政府は29回の情報を交換したことを明らかにしています。

29回の情報交換の中には、2017年9月3日に北朝鮮が行なった核実験に関する情報も含まれているようですが、交換された情報の大部分は、北朝鮮の弾道ミサイルの発射実験に関するものと見られており、韓国メディアの中央日報紙は、2019年5月以降に北朝鮮が行なった8回のミサイル発射実験のうち7回について、情報交換が行なわれたと報じています。

日本と韓国、アメリカの3か国は2014年12月に、北朝鮮の弾道ミサイルや核兵器に関する情法を、アメリカを介して共有する「TISA(情報共有に関する取り決め)」を締結しています。8月23日付の毎日新聞は、日本政府が日韓秘密軍事情報保護協定の締結にともない事実上停止状態となっていたTISAの再開を、韓国、アメリカに働きかけると報じています。このように、今回の日韓秘密軍事情報保護協定の破棄により、北朝鮮の弾道ミサイルや核兵器に関する日韓両国の情報共有が完全に不可能になったというわけではありませんし、軍事的な交流が消滅したわけでもありません。

ただ、TISAの復活により、アメリカを介して韓国が得た情報を共有できたとしても、日韓両国が直接情報を共有する場合に比べて、情報の伝達に時間がかかります。

現在の日本は、海上自衛隊のイージス戦闘システムとSM-3ミサイルを搭載するミサイル護衛艦と、航空自衛隊のPAC-3ミサイルの、二段構えの弾道ミサイル防衛体制を構築していますが、地理的に韓国の方がキャッチしやすい、低軌道で発射された弾道ミサイルの発射地点などの情報を韓国から直接、迅速に入手できたほうが、迎撃に成功する可能性が高くなることは間違いありません。

懸念される「破棄」の具体的影響

北朝鮮が2019年5月以降に発射実験を行っている短距離弾道ミサイルは、ロシアが開発した弾道ミサイル「イスカンデル」と同様、複雑な機動で飛翔すると見られています。この新型ミサイルは射程が短く、日本にとって大きな脅威とはいえませんが、日本は日本海に着弾した新型ミサイルの情報を収集しています。日韓秘密軍事情報保護協定の破棄により、韓国はその情報を入手することができなくなります。

また北朝鮮は現在、弾道ミサイルを搭載する潜水艦の開発を進めていると見られますが、たとえばこの潜水艦を海上自衛隊の哨戒機が洋上で発見して、アメリカにその情報を提供しても、TISAの枠組みでアメリカから韓国に情報を提供することは不可能だと考えられます。

日韓秘密軍事情報保護協定の破棄は日韓両国の弾道ミサイル防衛能力の低下に繋がりますが、現時点で協定の破棄によってこうむる不利益は、日本よりも韓国の方が大きいのではないかと筆者(竹内修:軍事ジャーナリスト)は思います。

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2019年5月実施の日米豪韓共同訓練「パシフィック・ヴァンガード19-1」にて。アメリカ海軍「ブルーリッジ」(左)と海上自衛隊「ありあけ」(画像:アメリカ海軍)。

アメリカ国防総省は8月22日に、「情報共有は共通の防衛政策と戦略のカギ」となるとの声明を発表し、韓国の日韓秘密軍事情報保護協定の破棄に懸念を示すと共に、「アメリカと日本、韓国が結束できれば北東アジアはより安全になる」と述べ、協定の維持を訴えています。

日韓秘密軍事情報保護協定の破棄による、日本と韓国、アメリカの弾道ミサイル防衛対処能力の低下はそれほど大きなものでは無いという見方が日韓両国にあるようですし、その見方はある程度正しいと筆者は思いますが、アメリカ国防総省も指摘しているように、日米韓の軍事的結束に亀裂が生じたことにより、北東アジア、さらに言えばアジア全体の安定性の低下の方が、より大きな懸念すべき問題であると筆者は思います。

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