爆食で日本危機、世界の食糧奪い合いに

爆食で日本危機、世界の食糧奪い合いに

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  • 更新日:2016/12/01
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太平洋戦争が激化し、食糧確保のため、内野のグラウンド一面がイモ畑になった甲子園球場。逼迫した当時の食糧事情を象徴する対策だった(c)朝日新聞社

健康志向の高まり、高齢化、働く女性の増加など、食卓を取り巻く環境は大きく変わった。食品メーカーや卸業者など食に関わる会社は、こうした動きをビジネスチャンスと捉える。これからのニッポンの食卓とは? AERA 12月5日号では「進化する食品」を大特集。日本の食卓に迫る危機についても取材した。

*  *  *

近い将来、日本の食糧事情は危機的状況に陥るかもしれないという。原因をつくったのは、政府だけでなく、安価な食糧を求め続けた国民にもある。

20××年、食糧輸入がゼロになって数カ月経ったある日。小学生の長男が学校からチラシを持ち帰ってきた。

「食べ物が少ないから、これを参考にしなさいって、先生が」

そこには献立が記されていた。

【朝食】ご飯茶碗1杯、ふかしイモ2個、ぬかづけ1皿。

【昼食】焼きイモ2本、ふかしイモ1個、リンゴ1/4個。

【夕食】ご飯茶碗1杯、焼きイモ1本、焼き魚1切れ。

「なんかイモばっかりで嫌だね」

……そんな話が冗談ではなく、現実に起きるかもしれない。

総務省統計局の「世界の統計2016」によると15年の世界人口は約73億人。25年には80億人を突破するとみられている。人口増加は労働力が増えて経済を押し上げる要因になるが、一方で地球上の資源と環境に大きな負荷をかける。

●穀物生産の半分は飼料

世界の穀物市場をみると13年から生産量が拡大し、3年連続で豊作。米国の農務省によると、16?17年の世界穀物生産量は25億4249万トンで史上最高を更新する見通し。4年連続の豊作となれば供給は十分に足りていると見られるが、資源・食糧問題研究所所長の柴田明夫氏は、消費量の推移に注目する。

「世界の穀物消費量は今世紀に入ってからほぼ前年を下回ることなく過去最高を記録し続けています。供給は増減産を繰り返しながら伸びてきているのに比べ、需要が均等に伸びている」

農業は自然の影響を受ける。地球温暖化などにより、以前より生産リスクが高まり、供給の推移にバラツキが出てきた。これに対して需要が均等に伸びることで、何が起きているのか。

「穀物価格の変動リスクが非常に大きくなりました。最近でも3年連続の豊作を受け、穀物価格は急落。12~13年の値段からみると半値以下になりました。昔は低いレベルで循環的に動いていましたが、ダイナミックに上がったり下がったり。ますます不安定性を増して、今後需給にショックがあれば瞬間的にオーバーシュートする可能性も考えられます」(柴田氏)

とはいえ楽観論もある。一般的には穀物1トンで年間6~7人を養うことができるとされ、穀物生産量は25億トンを超えたのだから150億人を養うことができる、と。しかし、この計算は直接穀物を食べた場合。環境問題に詳しいNPO法人ネットワーク「地球村」の高木善之代表はこう指摘する。

「世界の穀物生産量の半分は人間が食べるのではなく、豊かな人たちの食肉用の畜産の飼料に使われているのです」

●肉食文化が人類を圧迫

中国やインドなど、新興国の経済が発展し、所得が増加したため食生活が豊かになり、肉食(畜産物消費)が増えているという状況が一般的な認識だ。飼料穀物の拡大の結果、全体の需要が均等に伸びているのだ。

「畜産物1キロの生産に、その何倍もの飼料穀物が使われます。牛肉なら11キロ。豚肉なら7キロ。鶏肉なら4キロの穀物が必要です。別の言い方をすると穀物の半分は余っているが、それを豊かな人たちが食肉にして食べてしまっているのです。世界に飽食の人は約20億いて、その一方、飢餓で苦しむ人が約10億いるとされています。毎日数万人の人が餓死しています。絶対量というより分配に問題があると感じます」(高木氏)

飽食と飢餓は表裏一体の関係。人類は根本的な問題を解決していないことも覚えておきたい。

では、今後も畜産物消費が増えるとどうなるのか。世界で食糧の取り合いになると語るのは東京大学教授の鈴木宣弘氏。

「異常気象が恒常化した近年では、不測の事態がいつ起こっても不思議ではありません。現在の食糧市場は需給にショックがあると価格が暴騰しやすい状態。不測の事態になれば高値期待の投機マネーがどんどん入る。すると不安心理で穀物の生産国が自国の食糧を守ろうとして輸出規制を始める。そうなるとお金をいくら出したって、どこからも買えなくなりますよ」

そもそも米国やEUは、食糧に対して日本と違う認識を持っているという。

「米国は“食糧は武器”という認識。軍事、エネルギーと並ぶ国家存立の3本柱であり、戦争ばかり続けたブッシュ前大統領は“食糧自給はナショナルセキュリティーの問題”といって農業関係者にお礼を言っていました。EUも共同体であるにもかかわらず、各国は穀物の食糧自給率を高いレベルで保っている。いざというときに備えておかないと危ないからです」(鈴木氏)

●食糧は武器という戦略

食糧は国を守る重要な安全保障の要。その認識から先進国では国を挙げて農業を守っていると鈴木氏は続ける。

「例えば米国のコメ生産コストはタイやベトナムの2倍近くかかります。それでも1俵4千円ぐらいの安価で輸出しています。日本では1俵1万2千円ぐらいが農家に必要な額とされていますが、米国では農家に対して差額を1兆円も使って補填しています。それに比べたら、日本の農家に輸出補助金はゼロ。日本の農業が過保護だというのは間違いです」

こうした状況の中、日本の食糧事情を眺めてみると不安になる。農林水産省の資料によると15年度の食料自給率(カロリーベース)は39%。基礎食料である穀物の自給率は28%(11年試算)と先進国の中でも際立って低い。輸入額に比べて輸出額が少なく、世界1位の農産物の純輸入国となり、安全保障の要を海外に依存している状態だ。柴田氏は日本の食糧生産を主要国と比較してみると改めて驚かされると話す。

「日本の穀物生産量は1千万トン程度。対してイギリスは、人口は日本の半分、国土面積も3分の2ですが日本の倍以上の穀物を生産しています。日本が食糧生産小国で済んでいるのは、年間3千万トンの穀物を輸入しているからです。つまり穀物は不足しているのです。にもかかわらず、この40年間、国産は過剰といわれてきた。いわば過剰と不足が併存しているのが日本の農業の問題であり特徴です。これが消費者に“食糧は安心”という錯覚を抱かせてしまっているのです」

●高齢者に頼る国内農業

これまではいくらでも安く良質なものが海外から買えた。しかし、中国やインドなど新興国の需要が拡大し「そんな環境は終わった」と柴田氏は指摘する。

改めて国内農業が見直されつつあるが、農業の衰退は止まらず、もはや消費者の期待に応える生産力はないと柴田氏は嘆く。

「農業就業人口は1990年の482万人から10年には260万人に減少。平均年齢は当時で66歳。やめたがっている農家は多いのです」

これで日本が将来TPPに加盟すれば、農業の衰退は加速すると関係者は危惧する。

「食の安全性も脅かされます。BSEや口蹄疫など、食の移動に伴って感染症の拡大も懸念されます」(柴田氏)

もし、輸入ゼロになったら。鈴木氏はこう予測する。

「野菜や果物は作れるので、なんとかしのぐことはできるはず。ただ基礎食糧の穀物が手に入らない。数年間輸入ゼロなら降伏ですよ。農水省の『食料・農業・農村基本計画』には、輸入ゼロになったときの食事メニューが載っているけど、イモばっかり。校庭でイモを作れと言わんばかりで、まるで戦時中の話」

ちなみに農水省が想定する“国内生産のみで食料を供給するときの1日のメニュー例”(平成21年版ジュニア農林水産白書から)が冒頭の献立だ。

戦時中は甲子園球場がイモ畑になったという逸話がある。現在でも需給ショックの種はいくらでもあり、10年以内に危機的状況に陥っても不思議ではない。

対策のひとつは、地産地消、旬産旬消の意識を高めることだと関係者は口をそろえる。地域ごとに循環型のコミュニティーが活性化することで、国内農業を守ることにも繋がるのだ。(ライター・内山賢一)

※AERA 2016年12月5日号

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