日本のマネーを狙う「カジノ」の知られざる実態

日本のマネーを狙う「カジノ」の知られざる実態

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2019/10/24
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日本人が知らないカジノの実像

マカオ中心街にある大手カジノホテルの上層階。エレベータを降りると、そこには一般のカジノ客で溢れる1階とは別世界があった。

広いフロアに6台のバカラテーブルが置かれ、その周囲をバーカウウンターやソファが取り囲む。壁は白、天井からは豪華なシャンデリアが垂れ下がっている。奥には、人目を気にせず遊べる個室もある。1階の喧騒が嘘のように静かで、緊張感に満ちた空気が流れている。ここはVIP客のみが立ち入りを許されるフロアなのである。

午後10時を過ぎる頃、6台のテーブルのうち4台が埋まっていた。客はいずれも中国人らしく、男性客に混じって毛皮をまとった派手な顔立ちの若い女性もいる。

「ジョワーッ!」

勝負が決まるたび、男性客の奇声がフロアに響いた。がっしりとした体格の30〜40代で、角刈り頭に柄シャツ、黒いスラックスに革靴を履き、太い腕には金の時計をしている。男の前には青いチップの山がある、丸いチップが1枚1万香港ドル(約13万6000円)、四角い方は10万香港ドル(約136万円)である。

男がテーブルを離れる気配はない。勝っても負けても、一晩でかなりの金を動かすつもりだろう──。

日本でのカジノ解禁が議論となっていた2013年暮れ、筆者がマカオで目の当たりにした光景だ。すでに当時、マカオは世界で群を抜くカジノ市場となっていた。

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photo by Getty Images

近づく日本版カジノの誕生

そんなマカオのカジノで、私はVIPフロアに潜入した。カジノ運営企業から委託を受け、フロアを運営する業者幹部に案内されてのことだ。客には話かけず、写真は撮らないというのが条件だった。

VIPフロアは、カジノの核心部といえる。マカオの場合、VIPフロアの収入は一般客フロアをはるかに凌ぐ。シンガポールのカジノでも、VIP収入は一般客全体に匹敵する。カジノの成否は、VIP客の誘致次第といっても過言ではない。

そんな実態を含め、カジノについて日本人は知らないことが多い。にもかかわらず、日本版カジノが誕生する日が近づいている。今後、カジノの設置場所や運営業者が決定し、数年内に最大3ヵ所にカジノが誕生する見通しだ。

誘致に名乗りを挙げる自治体も相次いでいる。今年8月には、横浜市の林文子市長が誘致を宣言してニュースとなった。これまで誘致を表明もしくは検討している自治体・地域は8つに上る。そんな中でも、横浜は大阪と並ぶ有力な候補地とみなされている。

ただし、世論は必ずしもカジノ解禁に賛成していない。横浜の場合も、地元紙『神奈川新聞』が7月に行った世論調査では、「反対」が62パーセントに上っている。本当にカジノは日本に必要なのだろうか。

IRは本当に「成長戦略の目玉」になるか?

カジノ推進派の拠り所となってきたのが、マカオとシンガポールにおけるカジノの成功だ。カジノ解禁が国会で議論されていた2013年3月18日の衆院予算委員会で、安倍晋三首相もこう述べている。

「シンガポール、あるいはマカオがカジノによって世界からたくさんの人を呼び込むことに成功している。私自身は(カジノ解禁は)かなりのメリットがあると考えている」

さらに安倍首相は、翌14年5月にシンガポールを訪れ、「IRは成長戦略の目玉になる」とも宣言した。

確かにこの頃、アジアでは「カジノブーム」が巻き起きていた。きっかけは、冒頭でも紹介したマカオである。

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photo by iStock

マカオは中国返還から3年後の2002年、それまでスタンレー・ホー氏(97歳)が独占していたカジノの運営権を米系と香港系の企業にも開放した。以降、カジノ市場の急成長が始まる。

13年には、35軒(現在は41軒)のカジノを合わせた収入は日本円で450億ドル(約4.8兆円)と、02年と比べて16倍にもなった。「カジノ」と聞けばラスベガスのイメージが強いが、13年当時でマカオの収入額はラスベガスの7倍にも達していた。

カジノの収入は「客の負け分」

カジノの収入とは、客の負け分のことである。日本のパチンコは18年時点で約16兆円の売り上げがあるが、収入ベースでは2.5兆円程度とみられる。それも全国約9000店を合わせた数字だ。いかにマカオのカジノが稼いでいたかわかるだろう。

そのマカオにシンガポールが続いた。リーマン・ショック後の2010年に米系とマレーシア系の2軒のカジノが開業し、3年後の13年にはラスベガスに匹敵する61億ドル(約6500億円)の収入を上げるまでになった。

安倍首相は、マカオやシンガポールのカジノには「世界からたくさんの人」がやってくると言う。しかし、世界各国の博打好きが集結しているわけではない。マカオ、シンガポールとも主な顧客は中国人の富裕層である。

マカオの場合、訪問者の6割以上は中国本土からやってくる。香港と台湾の客を含めれば、マカオへの訪問者の約9割は中国人だ。シンガポールのカジノも約半数が中国本土からの客とされる。

とりわけ、「ハイローラー」と呼ばれるVIP客の存在が大きい。マカオのカジノはVIPからの収入が全体の7割を占め、シンガポールではVIPが約4割、一般客が約4割、残りの2割がスロットマシンという内訳だ。

何でもできるブラックボックス

VIPフロアで起きている実態は、全くのブラックボックスである。マカオでは、「ジャンケット」と呼ばれるVIP斡旋業者が運営を取り仕切る。ジャンケットは客の斡旋のみならず、中国本土などに張り巡らせたネットワークを使い、借金の回収まで担う。筆者をVIPフロアに案内してくれたのも、ジャンケットの幹部だった。

幹部によれば、VIPフロアの収入は、4割をジャンケットが取り、2割をカジノ運営業者に納めたうえで、残りの4割が税金となるのだという。ただし、実際の賭け金は、マカオ政府はもちろん、カジノ運営企業すら把握できない。そのカラクリについて、現地のカジノ関係者はこう説明してくれた。

「VIPとジャンケットが話を合わせれば、何でもできてしまうんだ。1万ドルを賭けたように見せかけ、実際には10万ドルとして計算することだってできる。カジノ運営企業へのコミッションや税金を安くすることも簡単だということだよ。客にとっては、マネーロンダリングもやり放題さ」

そんなVIPルームに中国人の富裕層が押し寄せた。2000年代に中国経済が急成長する中で、違法な手段で富を築いた政府高官やビジネスマンも少なくない。しかし、彼らは自由に現金を海外へと持ち出せない。そこでマカオなどのカジノを介し、資産を海外へと移転させていた。

汚職とマネーロンダリングの温床

ただし、「カジノブーム」は2015年以降に状況が大きく変わった。きっかけは、中国・習近平指導部による汚職撲滅キャンペーンだった。この政策によって、中国人のVIP客がマカオやシンガポールのカジノから去っていく。

結果、マカオのカジノ収入は16年には279億ドルと、3年前の6割程度まで落ち込んだ。18年は376億ドルまで回復しているが、それでもピーク時には及ばない。また、シンガポールのカジノ収入も18年は約45億ドルと、5年前と比べ3割ほど減少している。

日本もマネーロンダリングの問題を十分に承知し、安倍首相は「世界最高水準の規制を導入する」と宣言している。しかし、規制を強めればVIP客が寄りつかず、カジノの収入は伸びないだろう。そもそも中国語の通じるマカオやシンガポールと比べ、日本のカジノには言葉の面でハンディがある。

マカオのジャンケット幹部に、「日本のカジノに中国人VIPが来ると思うか」と尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「(マカオのように)ジャンケットにVIPフロアの運営を任せれば可能だよ」

—— シンガポールは原則、ジャンケットを排除しているが。

「確かに、シンガポールは2社しかジャンケットが認められていない。しかし、客のツケの回収で問題が起きていて、10億米ドル規模の債権が未回収になっているんだ」

一方、日本のカジノ推進派からは、「IRはカジノだけではない。ホテルやショッッピングモールもあって、国際会議(MICE)の誘致にも役立つ」といった主張がよく聞かれる。

だが、IRの収入はカジノで決まる。

たとえば、推進派が日本版カジノのモデルに挙げるシンガポールの「マリーナ・ベイ・サンズ」の場合、2018年第4四半期に約7億2600万ドル(約777億円)の純収入があったが、そのうち7割近い約500億ドル(約535億円)はカジノが上げている。

アジアで稼ぐカジノ運営企業

マカオとシンガポールでは、外資系のカジノ運営企業がボロ儲けした。とりわけ米系企業が受けた恩恵は大きい。

マカオでは「ラスベガス・サンズ」「ウィン・リゾーツ」「MGM」という、いずれもラスベガスに本拠を置く3社が参入している。ラスベガス・サンズに至っては、シンガポールにある2つのカジノの1つ「マリーナ・ベイ・サンズ」の運営も手がける。同社は2018年、収入全体の9割をマカオとシンガポールで上げた。つまり、米国よりも断然、アジアで稼いでいるわけだ。

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マカオの統合型リゾートタウン「サンズ・リゾーツ・マカオ」にそびえ立つエッフェル塔/photo by Getty Images

ラスベガス・サンズの創業は1988年と、米国のカジノ・メジャーとしては新しい。しかし現在、同社は米国で断トツのカジノ運営企業となっている。その原動力が、創業者のシェルドン・アデルソン氏(86歳)だ。

米経済誌『フォーブス』によれば、アデルソン氏の資産は2019年10月16日時点で約350億ドル(約3.8兆円)に上り、世界17位の大富豪である。トランプ大統領の最大の支援者としても知られ、2016年の大統領選では夫人とともに1億2800万ドル(約137億円)もの寄付を行なった。

ソフトバンク・孫正義氏との意外な関係

そのアデルソン氏に逆風が吹き始めている。マカオとシンガポールのカジノ収入は頭打ちだ。しかもマカオでは、2022年にカジノ免許の更新時期を迎える。米国と中国の経済対立の行方次第では、中国政府からマカオの免許を剥奪されかねない。アデルソン氏は今年8月にもトランプ大統領と会い、中国との関係改善に動くよう求めたとされる。そんな同氏が、アジアの「ラストフロンティア」として参入を目指すのが「日本」なのだ。

実は、アデルソン氏には「日本」との意外な縁がある。彼は自らが創業したコンピュータの見本市「コムデックス」を95年に約800億円で売却し、カジノ業界へと参入した。その際、売却相手となったのがソフトバンク創業者の孫正義氏である。つまり、孫氏の存在がなければ、現在のラスベガス・サンズの大成功もなかったかもしれない。

ラスベガス・サンズは、横浜にカジノが誕生した場合、最有力の運営候補とみなされている。同社を始め、海外のカジノ運営企業は、なぜそれほど日本に惹かれるのか。その理由は「パチンコ利権」である。これについては、稿を改めて掘り下げたい。

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