ドイツメディアが仏大統領「マクロン」を褒めちぎりだしたのはなぜか

ドイツメディアが仏大統領「マクロン」を褒めちぎりだしたのはなぜか

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2017/08/11
No image

プーチンのように堂々と

7月3日、フランスの新大統領マクロンが、一人、皇帝然と、ヴェルサイユ宮殿の長い回廊を歩いてくる映像には、腰を抜かしそうになった人も多いのではないか。左右には、羽根飾りのついた黄金の兜に、赤、黒、白の華やかな衣装をまとったフランス共和国親衛隊が、一糸乱れず整列している。全員、鞘から抜いたサーベルの刃先を、キッと天井に向けたまま。

No image

〔PHOTO〕gettyimages

どこかで見た光景。そう、プーチン大統領がクレムリン大宮殿で、ときどきこのような煌びやかなシーンを演出する。しかしこのヴェルサイユ宮殿の映像は、完璧にその上をいっている。

マクロン氏は5月14日に大統領に就任した。そしてその翌日、すぐさまベルリンを表敬訪問している。

ドイツ国民のあいだでの人気は高かった。メディアが全面的にマクロン派だったこともあり、ドイツ国民は素直に、国民戦線のル・ペン党首が当選しなくて良かったと胸をなで下ろしていた。そして、この若き新大統領が、勝利の翌日にベルリンに飛んできたことには、とりわけ気分を良くしていた。

このときの報道は興味深い。マクロン氏を、ドイツメディアは非常に好意的に、しかし、少し上から目線で眺めている。

ディ・ツァイト紙は、「決然としてはいるが、formbar(粘土のように思うような形にすることできるという意味)」と書いた。「サルコジのようにマッチョでもなく、オランドのように惨めったらしくもない」「メルケル首相にとっての完璧なパートナー」「メルケルお母ちゃん」と書いたメディアさえあった。微笑ましく、余裕で眺めているのである。確かに、年は親子ほど違う。

ただ、この新大統領が、はたしてメルケルお母ちゃんの掌に乗るかどうかは疑問だ。普通、歴代のフランス大統領は、就任式後、エリゼ宮から凱旋門に向かってシャンゼリゼ通りを大統領専用のオープンカーで走るのだが、5月14日、マクロン氏は軍用のオープンカーを使い、沿道の市民を睥睨した。かつてのド・ゴール将軍さえしなかったことだという。

No image

〔PHOTO〕gettyimages

またマクロン氏は、初舞台であった5月末のNATOの会合でも、それに続いたイタリアでのG7サミットでも、実に堂々としていた。

しかも、会議を終えてパリに戻った二日後、プーチン大統領をヴェルサイユ宮殿に招待するという外交サプライズを演じ、わざとらしいほどの親密さを見せつけた。ちなみにロシアはクリミア併合以来、G8サミットから締め出されている。

この仏露会談が、EUとロシアとの関係修復という意味で行われたのか、それともマクロン氏の独断だったのかはわからない。

なぜこれほど自信があるのか?

その後、マクロン大統領は6月の国民議会選挙で大勝し、あれよあれよと言う間に強力な政権基盤を形成。以来、ドイツではスーパースター扱いだ。彼こそが、メルケル首相と手を携え、ボロボロになったEUの救済を実現する人物。舞い上がったドイツメディアは「独仏枢軸」などと言い始め、マクロン大統領とメルケル首相が親密にハグし、キスする写真が、しばしば紙面を飾った。

No image

〔PHOTO〕gettyimages

6月21日付の南ドイツ新聞のインタビューで、マクロン大統領は次のように語っている。

「問題は、ヨーロッパが何十年もかかって世界に浸透させてきた根本的価値観を守るのか、あるいは、偏狭な民主主義と独裁政権の増強を目の当たりにして、尻込みするのかということだ」

アメリカ、ロシア、ハンガリー、ポーランド、トルコなどに対するあてつけであることは明らかだ。さらに、次の言葉もすごい。

「東欧の指導者の何人かは、EUを冷笑するような態度を取っている。彼らはEUを、価値観を共有せずにお金を分配するために役立てている。EUはスーパーマーケットではない。運命共同体なのだ」

並み居る政治の先輩たちに向かって、国際舞台でほぼ未経験の若い大統領が放つ言葉としては、異色というよりほとんど異常だ。各国の首脳たちはもちろん、「東欧の指導者の何人か」はとりわけ立腹しただろう。

それにしても、マクロン大統領はなぜこれほど自信があるのか? 彼をつけ上がらせているのはメルケル首相か、ドイツメディアか、それとも、さらにその後ろにいる国際金融資本なのか?

7月1日、フランスのストラスブールで故コール独首相のEU葬が行われ、政財界から教会関係までEUのエリートが集合したが、マクロン大統領はメルケル首相などと並んで、主要スピーカーの一人だった。

スピーチを終えた彼は、全員注視の下、コール未亡人を無視して、最前列に座っていたメルケル首相のところに来た。目の前に差し出された手を座ったまま握り返したメルケル首相を、なぜかマクロン大統領はぐいと引っ張って立たせた。場違いな行動に、メルケル首相が一瞬、戸惑ったのが中継の画面でもよくわかった。その途端、マクロン大統領はメルケル首相を優しく、大げさに抱きしめたのである。

No image

〔PHOTO〕gettyimages

コール前首相の葬儀は、大いにいわく付きのものだった。コール・メルケル関係はここ20年間冷え切っていたし、コール未亡人とメルケル首相は、ほとんど敵対していたと言ってもよかった。だからこそ国葬ではなく、EU葬という形が取られたのであるが、その葬儀で未亡人を無視し、悲しんでもいないメルケル首相を情感豊かに抱きしめるのは、不可解なスタンドプレーだった。

しかし、それをマクロン大統領はわざと演じた。このシーンを見ながら、将来、EUの主導権は誰の手に握られることになるのかと首をかしげた人は多かったはずだ。

「強いフランス」を演出

7月14日は、フランスの革命記念日だった。フランスで一番重要な祝日だ。その前日の13日、メルケル首相はパリ入りし、エリゼ宮でマクロン大統領に暖かく迎えられたのち、独仏合同閣僚会議に臨んだ。

会議の後の共同記者会見で発表されたのは、両国が共同で戦闘機の開発に取り組むこと。マクロン大統領はこの計画を「重要な革命」と呼んだ。ちなみに、彼はこれまでの「防衛省」を「軍事省」と改称している。

一方、この同日、トランプ夫妻もパリに入り、その夜は、マクロン夫妻の招待で、エッフェル塔内のレストランで和気藹々と会食が行われた。ドイツメディアはそれを追ったので、メルケル首相や戦闘機共同開発のニュースはきれいに飛んでしまった。

No image

〔PHOTO〕gettyimages

そして翌日、フランス空軍の9機のアルファジェット戦闘機が、パリの空いっぱいにトリコロールの飛行機雲を噴射して、祝祭軍事パレードが始まった。シャンゼリゼの特設舞台の主賓席にはトランプ夫妻とマクロン夫妻が並び、壮大な軍事航空ショーと、延々と続く軍事パレードを見物した。マクロン氏は、大統領というよりも、皇帝になりきっている。彼の演出しているのは、どう見ても「強いフランス」だ。

では、フランス国民はそれをどう思っているのか? ここ数十年、ドイツに首根っこを抑えられた形で欲求不満気味だったフランス人のこと、結構良い気分なのではなかろうか。

フランス人に自意識の欠如はない。問題は脆弱な経済だけだ。

かつて自分たちの主導で始めた共通通貨ユーロが、不幸にもフランス経済を打ちのめしてしまった。だからこそマクロン大統領は、ユーロの改革やEU共通債発行など、ドイツの嫌っていることを公約にして、できればドイツのお金でフランス経済を活性化するつもりだ。メルケル首相は9月の総選挙を控えているため、今のところお茶を濁しているが、本格的な協議が始まれば激突する可能性はある。

ドイツ政府は、プーチン・トランプ両大統領と力強く握手を交わしたマクロン大統領の外交手腕にも、少し戸惑っているように見える。それに比べてドイツの外交は、現在、対露も対米もギクシャクしている。

マクロンとはいったい何者なのか? ドイツメディアは仕切り直しをしているのか、マクロン大統領を褒めちぎる報道は、最近、少し下火になっている。

No image

30万部を突破したベストセラー『住んでみたドイツ 8勝2敗で日本の勝ち』と『住んでみたヨーロッパ 9勝1敗で日本の勝ち』に続く、待望のシリーズ第3弾!!

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

国外総合カテゴリの人気記事

グノシーで話題の記事を読もう!
「家の外は地獄」=パリ近郊で強盗に襲われた中国系女性が死亡、アジア系女性ばかり狙ったグループも―中国メディア
山火事で使いものにならない韓国の消防ヘリ、放水銃も貯水タンクもないまま運用=韓国ネット「公務員の能力の低さは僕らの想像を超えている」
パラオ諸島の海底で零式水上偵察機E13Aと思われる機体が発見される(ミクロネシア)
第三次世界大戦が起きたときに一番安全な場所が「スイス」になるのはなぜか?
  • このエントリーをはてなブックマークに追加