ドイツ人記者が見た「ハリル解任劇」 同様の危機を迎えた06年独代表を支えたものとは

ドイツ人記者が見た「ハリル解任劇」 同様の危機を迎えた06年独代表を支えたものとは

  • Football ZONE web
  • 更新日:2018/04/23
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ハリルホジッチ前監督の解任劇は、海外からどのように見られているのだろうか【写真:Getty Images】

選手と監督が理解し合えていないなら「続ける意味はない」

ロシア・ワールドカップ(W杯)開幕を約2カ月後に控えた4月7日付けで起きた、日本代表のバヒド・ハリルホジッチ前監督の解任劇は、海外からどのように見られているのだろうか。自分たちにはない視点で物事を捉えてみることで、新たな解釈をすることができるかもしれない。

そこで2014年ブラジルW杯王者であるドイツの友人であり、ブンデスリーガ公式サイトのジャーナリスト、カロル・ヘアマンに話を聞いてみることにした。

「僕にしても詳細を知っているわけではないから、正直に自分の感じたことを伝えるだけだよ」

ヘアマンはそう切り出した。

「原則として、トーナメントの直前に監督を解任して良いことなんて何もない。ただ、選手と監督が理解し合えていないなら、続ける意味がないのは確かだ。本当にそういう状態ならば、タイミングが早かろうと遅かろうと、決断しなければならないだろう」

まさに、その通りだ。「信頼」というのは大事だ。日本サッカー協会の田嶋幸三会長も、その点を強調していた。ただ「信頼が薄れてきた」のが原因なのだとしたら、「信頼を深める」ために何をしたのだろうか、という疑念も残る。

そういえば、ドイツでも同じような危機を迎えた時期があった。ヘアマンはこう指摘する。

「DFBはクリンスマンを信頼したんだ」

「ドイツにおいて(現代表監督の)ヨアヒム・レーブは確固たる地位を築いている。現在のドイツにおいて、電撃的な解任劇は考えられない。ただ、これまで他の監督の時はドイツでもそうした騒動は常にあったんだ。例えば06年W杯前に、ユルゲン・クリンスマンは解任直前まで追い込まれていた。テストマッチの戦績があまりに良くなかったからね」

少し補足説明をしよう。当時のドイツは、まさに様々なことを変えようとし出していた時期だ。それまでの粘り強いマンマークと、個の強さを生かした武骨で愚直な「ドイツらしい」サッカーから脱却し、チーム全体の戦術理解を高めアイデアとスピードにあふれるコレクティブなサッカーにチャレンジし出していた。だが、変革がすぐに上手くいくはずもない。クリンスマン、そして当時右腕としてアシスタントコーチを務めていたレーブは、苦戦の連続だった。

「W杯前にはイタリアとのテストマッチで完敗したこともあり、メディアに相当叩かれたんだ。大衆紙のビルトは『クリンスマンを解任すべき!』というキャンペーンまで行っていたな。確かに内容的にも、このままでW杯は大丈夫かと不安になるようなところはあった。それでもドイツサッカー連盟(DFB)は、クリンスマンを信頼したんだ。そしてクリンスマンもそれに応えた。あの大会でベスト4に進出できたというのは、素晴らしい成果だった」

なぜ苦境に陥っていても、DFBはクリンスマンへの信頼を崩さなかったのか。それはいつまでも、自分たちの常識にだけ縛られていてはダメだという覚悟があったからだ。「このままでは良くない」と口にしているだけでは、変わることはできない。アメリカで最先端のスポーツ学をはじめ様々な学問と触れ合い、様々な分野のエキスパートを連れてきたクリンスマンの取り組みが、新しい視点と考えをもたらしてくれると信じることが、ドイツにとって大事な最初の一歩になると思ったからだろう。信念が道を作るのだ。

「選手と監督の信頼関係を外から判断するのは難しい」

「選手と監督との信頼関係を外から判断するのはいつでも難しい。当時は分からなかったけど、クリンスマンというのはすごいモチベーションを高めるのが上手い監督だった。そしてヨアヒム・レーブは、卓越した戦術眼を持ったアシスタントコーチだった。当時二人の能力を信じて任せたDFBの判断は、とても良かったね。そういえば大会後、ビルト紙はユルゲン・クリンスマンのことをすごく持ち上げていたよ(笑)」

ヘアマンはそう述懐する。当時のドイツにとっては、すべてがチャレンジだった。「信頼関係」に関してもそうだ。クリンスマンとレーブは、何度もチームビルディングの時間を取った。W杯前にサルデーニャ島で家族同伴のリラックス合宿を組んだ。一日に二度のフィジカルトレーニング以外は、ゆっくりと体と頭を休ませるのが目的。彼女とボウリングをする選手がいれば、プールサイドでのんびりと日向ぼっこをしていた選手もいた。

ベルリンに移動しW杯が始まってからも、クリンスマンは選手が部屋に閉じこもらないような雰囲気作りを大事にした。リラックスルームや談話室など、とにかく寛ぎながらゆっくりとリラックスできる空間を多く作った。連日プレッシャーとストレスが、選手にのしかかっていたはず。そこから逃げず、現実的にしっかりと受け止め、一人ではなくチームとして、大きなファミリーとしてみんなで乗り越えて行こうというポジティブな姿勢が、選手やスタッフの連帯感を生み、成功への道を歩み出したのだと思う。

「こうした状況になった以上、大切なのは経験豊富な監督だよ。選手を信頼し、チームを築き上げることができる人材が必要不可欠だろう」

日本は自分たちで自らの退路を断った。目前に迫ったW杯へ前を向くしかない状況で、自らの力で道を切り拓いていくしかない。後任となった西野朗新監督は、経験に裏打ちされた手腕を発揮してチームを束ね、電撃解任に動いた日本サッカー協会の“信念”の正しさを、ロシアで証明できるだろうか。(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

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