宇宙に行った日本人たちが、地球を見て抱いた「言葉にならない思い」

宇宙に行った日本人たちが、地球を見て抱いた「言葉にならない思い」

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2019/11/20
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「これほどすごいものを作るには、奇跡があるに違いない」

宇宙飛行士の油井亀美也(ゆい・きみや)氏は、宇宙ステーションから地球の姿を見てこう感じたという。特定の信仰を持たない彼をしてこう言わしめる「宇宙体験」とは、どんなものだったのか。宇宙に行って帰ってきた12名の日本人の鮮烈な証言を、『宇宙から帰ってきた日本人』を上梓したノンフィクション作家の稲泉連氏が綴る。

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宇宙開発の「新しい段階」

2019年はアポロ11号による人類初の月面着陸から、ちょうど50年目の節目となる年だった。

「これは人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍だ」

1969年7月20日――船長であるニール・アームストロングが第一声を発し、続いてバズ・オズドリンが船外に出る。その二人が約2時間半にわたって船外活動を行った日だ。

アポロ計画の後、アメリカは旧ソ連との宇宙開競争のなかで、スカイラブ計画やスペースシャトル計画を続けた。そして、1984年にレーガン大統領(当時)が「一般教書演説」で提唱したのが、「宇宙基地フリーダム」という後の国際宇宙ステーション(ISS)計画だった。

NASAの他に日本、カナダ、ESA(欧州宇宙機関)が加わったこの計画には、1993年にソ連崩壊後のロシアも参加。1998年におけるロシア製の基本機能モジュール「ザーリャ」(軌道上での各種制御や通信、電力供給などの機能を備えたもの)の打ち上げ以降、日本の「きぼう」を含む各モジュールがISSにつなげられてきた。

こうした有人宇宙開発の歴史のなかで、日本人が初めて宇宙に行ったのは1990年のことだ。TBSの社員だった秋山豊寛氏が「宇宙特派員」として、ロシアの宇宙ステーション「ミール」に5日間の滞在をしたのである。以来、これまでにJAXAの宇宙飛行士11名、合わせて12名が宇宙体験をしてきた。

今回、私はこの12名の宇宙飛行士全員にインタビューをした上で、その証言を『宇宙から帰ってきた日本人』としてまとめた。

日本人が初めて宇宙に行ってから約30年、彼らにあらためて自らの「宇宙体験」について聞いておきたいと思ったのは、二つの理由がある。一つは私自身が立花隆氏のノンフィクション『宇宙からの帰還』に感銘を受け続けてきたこと、もう一つはISSを中心にしてきた有人宇宙開発のあり方がいま、「次の段階」に進み始める時期にきていることだ。

NASAは2024年までに月面へ人を送りこむ「アルテミス」計画を発表した。イーロン・マスクのスペースX社やジェフ・ベゾスのブルーオリジン社、さらにはボーイング社など、民間企業による有人ロケット開発や月・火星探査の動きも活発化している。スペースX社の開発する次世代宇宙船「スターシップ」は、その搭乗予定者にZOZOの創業者・前澤友作氏の名前が挙がっていることでも知られるところだろう。

さらにNASAはISSの民間企業への開放を認める方針を打ち出しており、その流れの中でJAXAもNASAの計画への参画に向けて準備を進めている。

2020年には野口聡一氏、星出彰彦氏の二人が、ISSに長期滞在する予定もある。野口氏は民間企業の開発した有人宇宙ロケットでの飛行、星出氏は若田光一氏に次ぐ二人目の日本人コマンダー(船長)としてISSに滞在するという。

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星出彰彦氏(2008年)〔PHOTO〕Gettyimages

そのように国内外の有人開発が過渡期を迎えつつあるいま、歴代12名の日本人宇宙飛行士は、自身の「宇宙体験」をどのようなものとして語るのか。インタビューではその体験の内的な意味を重視した。彼ら自身の地球観や生命観、世界の認識の仕方などにとって、宇宙に行き、そして帰還した体験が、どのように影響しているのかを知りたいと思ったからだった。

美しさに、頭がガーンとした

宇宙体験について飛行士から話を聞くとき、私が最も心惹かれたのは、彼らの語る「宇宙から見る地球の美しさ」の描写だった。

例えば、前出の「宇宙特派員」・秋山氏は、「ミール」から地球を眺めていたとき、地球の夜明けは「まるで光が音になってくるみたいだった」と語った。低軌道と呼ばれる地上400キロメートルの高さを周回する宇宙飛行士は、地球のいくつかの時間帯を一望できる。とりわけ地球の大気の境目で、宇宙空間の漆黒が深い青へと変化していくグラデーションは、息を飲むような美しさだったという。そして、何よりも彼が衝撃を受けたと回想したのが、宇宙から見る地球の夜明けの光景だった。

「太陽が地表のすれすれを照らし出すとき、恐らく青い波長の光が最初に拡散して、次の赤い波長の光だけが残っているんだと思うんだけれど、水平線というか地平線に当たる部分が本当に深紅に輝くんですよ。で、『あ、夜明けだ』と思った瞬間、深紅に染まった縁の部分が一気に真っ白になる。その一瞬は本当に頭がガーンとして、色が音になってワーっと響きながら迫ってきた、と感じたくらいでした。本当に様々な色の全てが音になって、心地良い音楽のように自分の身体に入ってくるような気がしたんです」

あるいは、2015年に半年間にわたってISSに滞在した油井亀美也氏は、地球の青い大気層の「あまりの薄さ」が胸に焼きついた、と振り返った。

ISSの内部には「キューポラ」というロボットアームの操作盤があり、その天窓が地球や天体の観測にも使用される。そこから地球を眺めていると、「この薄い窓を隔てた外側は、全くの死の世界なんだよな」と彼は唐突に実感したと話す。

地球の背後に広がる宇宙の闇はあまりに深く感じられ、その死の世界に浮かんでいる地球をかけがえのないものだと感じた。それは特別な信仰を持たない彼にして、「これほどすごいものを作るには、奇跡があるに違いない」という思いを抱かせるほどのものだったそうだ。

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写真は2014年にドイツ人宇宙飛行士が宇宙ステーションから撮影したもの〔PHOTO〕Gettyimages

「重力」に、感動する

だが、こうした「地球の美しさ」を語る宇宙飛行士の感想には、人によって濃淡があったのも確かだ。

自らの見た地球について「どんなにモニターの技術が進化しても、地上にいては体験できない」と語る飛行士がいる一方、「宇宙から見る地球の美しさは、地上にいたときの想像を越えなかった」と回想する飛行士も複数いた。日本初の宇宙飛行士選抜試験で毛利衛、土井隆雄とともに選出され、二度のスペースシャトルでのミッションを行った向井千秋氏もその一人だった。

向井氏の話を聞いていて興味深かったのは、宇宙から戻った後の「地球体験」こそが、自身の世界観に大きな変化をもたらすものになった、と彼女が語ったことだ。

「宇宙から肉眼で見る地球は確かに美しいものでした。色合いや雲の立体感などは確かに写真とは異なるもので、それは本当に美しかったから。ただ、私にとってその美しさは、期待通りの美しさだった」

現在、東京理科大学の副学長を務める彼女はそう話すと、「対して今でも忘れられないのは、地球に戻ってすぐのプレスカンファレンスのときの出来事です」と続けた。

「ある人から受け取った名刺が、ズシっとしてすごく重かったんです。『これってこんなに重いの』っていうくらいに。自分の体も重いし、紙だって重い。それに、周囲の風景そのものがどこか不思議なんです。まず机の上にものが置いてあるのが不思議で、一枚の紙が机にチューインガムか何かでくっついているように見えたんです」

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1998年、二度目の宇宙飛行に出発する前の向井氏(左から2番目)〔PHOTO〕Gettyimages

彼女が宇宙に滞在したのはわずか2週間程だったが、それでも物が「落ちる」という動きを見ていると、それがまるで地球の中心に磁石で引き付けられているように見えるようになっていた。また、帰還後の翌日、ミッションの仲間のクルーに持っていた爪切りを投げて渡したとき、その放物線を見て二人は同時に息を飲んだという。

「宇宙だと等速運動で投げたものがまっすぐに飛んでいくわけですが、地球では二人の間で爪切りが綺麗な放物線を描いて落ちていく。当たり前のことなのに、工学系のエンジニアだった彼が言うんです。『放物線というのはこんなに美しい線だったのか』って。私も同じ思いでした。放物線は美しい。なぜいままで、この美しさに気づかなかったんだろう、と」

彼女はそうした体験を通じて、地球も宇宙の中の一つの環境であり、自分たち人類は「重力文化圏」に生きる存在なのだ、と確かに実感したという。

地球環境をそのように新鮮に受け止める感覚は帰還後、3日ほどで消えてしまった。だが、その3日間を振り返るとき、彼女は「風が吹く、物が落ちる、カーテンが揺れる……。それは赤ちゃんが見るもの全てに関心を抱き、感激を覚えるようなものでしょうね。大人になると忘れてしまうその自然への感激が、まるで甦ったように私には感じられたんです」と今でも目を輝かせる。

「宇宙体験」によってそのように世界を見つめる新しい視点を得たことは、現在も宇宙開発の世界に携わる彼女の多くの部分を、確かに形作っているのだと感じられた。

宇宙船の「外」に出た人々

さて、宇宙飛行士は自身の体験を様々な表現で語ったが、ISSやスペースシャトル、ミールといった宇宙船内でのものに対して、質的に異なるもう一つの「宇宙体験」に宇宙船の外に出る船外活動(EVA)がある。日本では土井隆雄、星出彰彦、野口聡一、金井宣茂の4名が、実際にこのEVAを経験した。

合計三度のEVAを行った星出氏は、船外で地球を”足もと”に見たときに胸に生じた思いを、「いまだに言葉にできていない」と話した。

「一度目のときに、ロボットアームの先端に乗って、宇宙ステーションのいちばん前に出て、何にも遮られない状態で地球を見たんです。宇宙ステーションや構造物は全て後ろにあって視界に入らない状態。あの場所から宇宙と地球を見ていたのは、ほんの数分に過ぎないと思いますが、本当に無言にならざるを得ない美しさを感じていました」

「目の前には地球と宇宙しかない。宇宙の闇の深さ、それに対する昼間の地球の青さ。その世界を宇宙服のバイザーを一枚隔てただけの肉眼で見ていると、息を飲むとはこういうことなのかと感じました。足元に見えた地球を含めて、いま自分は宇宙全体を肌で感じているんだ、という気がしたんです」

星出氏と同じく、2020年に次の宇宙飛行を予定している野口聡一氏は、EVAという体験をさらに神秘的とも言える表現で描写した。彼は三度にわたって合計20時間ほどの作業を船外で行ったが、その「ある一瞬」に抱いた感覚が今も強烈に胸に残されたままだという。

「ふと目の前にある地球が一個の生命体として――ある意味では自分と同じ生命体として――宇宙に存在しており、いまこうして僕らが話をしているように、そこに一対一のコミュニケーションが存在するかのような気持ちになったんです。僕は地球の周りを回っている。地球も太陽の周りを回っている。大きな物理法則に従いながら、ある一点で二人というか、その二つが共存しているという感覚があった。僕は2005年のあのときから、ずっとそのことの意味を考えてきました」

また、日本人として初めてEVAを行った土井隆雄氏の体験は、日本人宇宙飛行士だけではなく、宇宙開発史全体のなかでも稀なものだった。「スパルタン」という衛星を回収するミッションを担った彼は、衛星が近づいてくるのを待つあいだ、2時間半にわたって船外で待機することになったからだ。

土井氏はスペースシャトル「コロンビア」号に搭乗した。地球低軌道にいる宇宙船は約90分で地球を一周する。そのため、地球の夜明けと夜を二度ずつ見た。

「待ち時間にただただ地球を眺めていると――」と彼は言った。

「それがすごく温かく感じられたんです。下の方で地球がダーッとパノラマになって流れていました。青く、白く輝いている。大気層から飛び出してくる青い光は太陽光の反射ではなく、大気の分子自体が青く発光している散乱によるものです。それが素晴らしい。その美しさへの感動が、次第に温かみへと変わっていったのです」

いずれ夕方の影が覆い始めると、地球は深い闇のなかに消えていった。すると、今度は言葉にできない寒々とした寂しさが胸に広がった。

「振り返っても宇宙に見えるのは無限の闇だけ。そして、それは一種の畏怖、怖さを感じさせる闇なんです。地球が徐々に失われ、あとは暗黒の宇宙が永遠に広がっている。無限というものを直接、この目で見た、という感覚がありました」

帰還後、そのときの感想を聞かれた土井氏は、「宇宙が私たちを呼んでいるように感じた」と述べている。彼は野口氏と同様に、「あの感覚はいったい何だったのだろう、という問いをその後の人生で考え続けてきた」と話した。

現在、土井氏は京都大学で「有人宇宙学」という学問分野を創設し、人類の宇宙開発を壮大なスケールで捉える試みを行っている。20年前のEVAの際に胸に生じた「問い」は、そうしたキャリアや宇宙観に多大な影響を与えることになったのである。

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写真はスペースシャトル「エンデバー」から見た地球(2009年)〔PHOTO〕Gettyimages

体験しなければ理解できないこと

今回、12名の日本人宇宙飛行士にインタビューをして印象的だったのは、宇宙体験の深い部分を語ろうとするとき、彼らが一様に「実感としてそれが理解できた」という表現を使ったことだった。そうした言葉を聞きながら、私は立花氏が『宇宙からの帰還』で宇宙飛行士たちの証言を、〈実体験した人のみがそれについて語りうるような体験〉と呼んだことを何度も思い出した。

地球という存在のかけがえのなさ、その環境を守らなければならないこと、宇宙の闇の深さ……。そこで語られている彼らの回想には、立花氏の書いた通り、体験しなければ決して理解できない何かが含まれている、ということなのだろう。宇宙での体験を表現しようとする宇宙飛行士たちのそれぞれの言葉には、それゆえの魅力があったと私は感じている。

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