世界的人気を誇るチェスの統括団体「世界チェス連盟」が抱える問題点とは?

世界的人気を誇るチェスの統括団体「世界チェス連盟」が抱える問題点とは?

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  • 更新日:2016/12/02
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ByJotam Trejo

ボードゲームの代表格であるチェスは日本でも愛好家が多いのですが、世界では日本の想像を大きく超える人気を集めるゲームであり、「スポーツ」の1つにも数えられています。チェスのチャンピオン戦ともなると多くの人がチケットを求めて何万円というお金を払い、一方ではテレビの中継にお金を払って観戦する人がおり、大会の勝者には100万ユーロ(約1億2000万円)ともいわれる賞金が与えられます。華やかなチェスの世界ではあるわけですが、その裏側にはある問題があるといわれています。そんな問題についてBloombergがまとめています。

World Chess Has a Big Problem

https://www.bloomberg.com/features/2016-world-chess-championship/

世界中で親しまれ、有望な若手選手が次々と輩出されて人気を集めているチェスの世界ですが、実は世界レベルで統括する団体「FIDE(国際チェス連盟)」に大きな問題が存在しているとBloombergは指摘しています。FIDEはチェスの世界で最高の称号とされる「グランドマスター」の地位を授与する団体で、1924年に組織された歴史ある団体ですが、現在のFIDEは世界の多くから非難されている政権とのつながりが指摘されています。

2007年からFIDEの会長を務めているのは、元ビジネスマンで「世界有数の金持ち」とも呼ばれているキルサン・イリュムジーノフ氏です。イリュムジーノフ氏は複数のビジネスを成功させて資産を築いた後に、1993年から2010年までロシア連邦カルムイク共和国の初代~第3代大統領を務めた人物でもあります。

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ByМитя Алешковский

イリュムジーノフ氏の周辺には、いわゆる「黒いうわさ」が渦巻いているとのこと。シリアのアル=アサド大統領やフセイン元イラク大統領との近しい関係を自ら公表していたほか、かつてのリビアの指導者であったカダフィ大佐(ムアンマル・アル=カッザーフィー)が殺害される数週間前に、リビアの指導者たちと戦地のテントの中でチェスを行っていたともいわれています。さらに、ロシアのプーチン大統領のために秘密裏に動いているともうわさされていますが、これはイリュムジーノフ氏本人が否定しているとのこと。また、イリュムジーノフ氏は1997年に側近と共に宇宙人に誘拐されたと公表したことでも知られています。イリュムジーノフ氏によると、捉えられた宇宙船の中で宇宙人から「人類は2000年前に宇宙人からチェスを教わった」と教えられたと公表しています。

そんなイリュムジーノフ氏に対し、アメリカ政府は「シリアのアサド政権を支えるための取引を行った」として制裁措置を加えるに至っています。イリュムジーノフ氏はこれに反対していますが、この措置の存在によりイリュムジーノフ氏はアメリカ市民や企業との取引を行うことができません。そのため、アメリカ国内でのチェス関連の活動は連盟の会長代理を務めるジョルジョス・マルコポロス氏に一任するほか、世界戦の開催もアメリカ現地の企業に委託されている状態とのこと。

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ByAslan Media

うわさの余波は連盟のスポンサー集めにも影響を及ぼしています。ニューヨークで開催されたチェスの世界大会のスポンサーになっていたのは、ロシアの肥料会社やモスクワを拠点とする資産マネジメント会社、ノルウェーの飲料水会社、そして筆記具メーカーのS.T.デュポン社となっており、絶好の広告媒体であるにもかかわらず、ご当地アメリカ企業がまったくスポンサーを行わない状態となっています。

イリュムジーノフ氏の連盟運営能力には批判の声も挙がっています。2010年の連盟会長選に立候補したチェスのグランドマスターで元世界チャンピオンのアナトリー・カルポフ氏は、イリュムジーノフ氏の功績を7つの単語で言い切った一節「Any dickhead could do a better job.」 (どんなマヌケ野郎でももっとマシな仕事ができる)で知られています。カルポフ氏はこの見方を2016年でも変えておらず、最新のインタビューでも「状況は非常に、非常に恐ろしい」と語っています。

イリュムジーノフ氏はアメリカ政府いよる制裁措置について、近いうちに解除されると楽観的な見方を示しているとのこと。2016年10月のインタビューでは、イリュムジーノフ氏はアメリカ連邦捜査局(FBI)と中央情報局(CIA)およびアメリカ国務省に接触して、ウソ発見器を使ったテストを行うよう打診したとのこと。しかしこの交渉は失敗に終わっています。

イリュムジーノフ氏は自身について単なる「チェスの大使」にとどまらず「世界平和実現の代理人」と考えています。インタビューの中でイリュムジーノフ氏は「私はチェスで世界を変えようと決心しました。世界中を旅していると、多くの国で衝突が起こっているのを目にします。それはなぜでしょうか?それは、まず最初に考え、次に行動するという賢い人が欠けているためです」と語っています。

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ByPeter Miller

FIDEの会長であるイリュムジーノフ氏が連盟の仕事で海外に出るときには、必ずと言っていいほど自身のビジネスに関連する予定が付随しているとのこと。ある日、ギリシャの都市・テッサロニキで開催されたチェスの若手選手トーナメントのために現地を訪れたイリュムジーノフ氏は、連盟の仕事とは別に、ロシア系ギリシャ人の大富豪で地元のサッカーチームのオーナーでもあるイヴァン・サヴィディス氏との会食を設け、サヴィディス氏が所有する5ツ星ホテルに特別ゲストとして宿泊するもてなしを受けています。その前の週にはアラブ首長国連邦の政府役人との面会を行い、ラトビアでダライ・ラマに会い、スロバキアで「平和と発展をもたらした人物」として表彰を受けています。その後もイリュムジーノフ氏の外遊はおよそ90日間にも及んだとのこと。

イリュムジーノフ氏がFIDEの会長に選出されたのは1995年のことで、当時すでにカルムイク共和国の大統領だった同氏に対してFIDEから「頼まれて」会長職を受諾したとのこと。当時のFIDEは、1993年に起こったある問題を抱えていました。当時のチャンピオン、ガルリ・カスパロフ選手と挑戦者ナイジェル・ショート選手はFIDEの方針に反対を示してFIDEと袂をわかち、新たに設立されたプロチェス協会の主催でタイトルマッチを実施しました。これに対してFIDEは別の2人による選手権マッチを行なって「世界チャンピオン」を決定するという事態となり、当時のチェス界には「2人の世界チャンピオン」が存在するという異常事態となっていました。

その後十数年がたち、カスパロス選手とショート選手は仕方なしに元のFIDE陣営に戻りましたが、イリュムジーノフ氏は当時の会長選挙で「貧しい国から票を買った」として反対派から非難を受けることになります。2014年、ケニアのチェス団体の長を務めていたGithinji Hinga氏はイリュムジーノフ氏の代理人から接触を受け、「現職の会長(=イリュムジーノフ氏)に票を投じると家を購入できるほどの金を受け取れる」と買収工作を受けています。さらに、ナイロビにあるロシア大使館からも買収工作を受けたHinga氏でしたが、投票でケニアはイリュムジーノフ氏に「No」の姿勢を表明。すると選挙後、FIDEはケニアチェス団体の認証を取り消し、スポーツ省の反対にもかかわらず別の新たな団体を立ち上げるにいたったとのこと。Hinga氏はFIDEのこの行動について「違法なものです。FIDEには正義に反することがいくつもあります。責任を免れていることは理に適っていません」と非難しています。一方のイリュムジーノフ氏は「FIDEは民主的な組織」であり、全ての加盟団体は公平に扱われているとしています。

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ByAdrian Askew

一方で、イリュムジーノフ氏の功績を評価する見方も存在しています。支持者によるとイリュムジーノフ氏は連盟の運営に私財を投じているとのこと。一節によるとイリュムジーノフ氏は連盟の運営に10億ドル(約1100億円)を投じているともいわれていますが、各国の団体がジリ貧の状態で運営していることを考えると誇張気味という見方も。とはいえ、ヨーロッパチェス連盟のTheodoros Tsorbatzoglou事務局長によれば、選手の経済状況が改善されており、かつては10名程度の選手しか満足に収入を得られていなかったのに対し、今では100名程度がチェスで「食える」状態になっているとのこと。一方で、イリュムジーノフ氏の出張費用に多額のコストがかかっているとの指摘もありますが、この費用をイリュムジーノフ氏が負担しているともいわれています。

先述のような政治的状況に加え、アメリカ人チェスプレイヤーのボビー・フィッシャー選手がFIDEと袂を分かったこともあり、アメリカのチェス界がFIDEと対立する状況が生じているとのこと。アメリカではチェス団体「アメリカ合衆国チェス連盟(USCF)」が存在してFIDEにも加盟していますが、USCFのゲイリー・ウォルター会長はFIDEの運営のまずさに異を唱えています。ウォルター会長は「アメリカに存在する魅力的なスポンサー企業を惹きつけるどころか、チェスの世界は懐疑的な目で見られている」とし、イリュムジーノフ体制のFIDEは「チェスにとってひどいもの」だと批判しています。

このようなFIDEに対し、チェス支持者の中には別の団体を立ち上げて事態を改善しようとする動きもあるとのこと。アメリカ・セントルイスの実業家で大富豪のレックス・シンクフィールド氏はカスパロフ元選手とショート選手の両グランドマスターと協力して「グランド・チェス・ツアー」という新ツアーを立ち上げました。このツアーはアメリカ・イギリス・フランス・ベルギーを舞台に繰り広げられるもので、フランスの有名企業をメインスポンサーに据えて1億ドル(約110億円)という多額の賞金を設定している大会です。大会を運営する主要メンバーの一人であるマルコム・ペイン氏は「我々は、安定性があり、全ての予定が明らかであり、どれだけの賞金が支払われるのかがハッキリしている別の新たなツアーを提案しています」と語っています。

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BySasha the Okay Photographer

また、インターネットで結ばれたデジタルの世界もチェスにとって進むべき場所といえるとのこと。オンラインでチェスがプレイでき、主要な対決を配信するChess.comは、日系アメリカ人プレイヤーのヒカル・ナカムラ選手やファビアーノ・カルアナ選手らによるチェスの「Blitz(早指し対決)」を配信したところ、25万人以上のユーザーが視聴するという状況になっています。グランドマスターのマグヌス・カールセン選手のマネージャーをつとめるエスペン・アジェステイン氏は「トーナメントは起業家によって運営され、商業的に魅力のあるものにすることが可能です。FIDEによって運営されなければならない必要はありません」と、独自の路線で新シリーズが運営できることを語っています。

このような情勢を見せるチェスの世界ですが、近代的な運営を行う新団体が勃興している一方で、依然としてFIDEがチェスプレイヤーのランキングを管理している、という状況が事態を複雑なものにしているとのこと。このままでは、まるでボクシング界のように、世界に主要な団体が4つ存在し、ランキング、チャンピオンがそれぞれに存在するという、混乱した状態を生みかねないと危惧する声もあがっています。

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Byscarhead101

一方のイリュムジーノフ氏は、自身こそがチェスを次なる高みに持って行ける人物であると自負しているとのこと。「私はいくつもの国に連絡先があり、私の意見を求めてくる人物がいます。私はそのような人物にチェスを支持するよう依頼しています」と語るイリュムジーノフ氏はまた、シリアの和平交渉に力を貸すとも述べており、「私のビジョンとプリンシプル(行動原理)は、武器を持って相手と戦うのではなく、お互いにチェスをプレイできるために平和を維持することにあります」と語っています。イリュムジーノフ氏は2018年に次期FIDE会長選にも立候補の意向を示しているとのことです。

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