中国メディアが指摘する「日本は改ざん文化」は本当か

中国メディアが指摘する「日本は改ざん文化」は本当か

  • ITmedia ビジネスオンライン
  • 更新日:2017/11/14
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少し前、中国の新華社通信が「改ざん文化が恥の文化を超える」という日本をからかった記事を掲載して、愛国心溢れる方たちの間でちょっとした話題になった。

記事を報じたレコードチャイナ(10月12日)によると、神戸製鋼所のデータ改ざん問題を導入に、日産の検査不正問題、三菱自動車とスズキの燃費データ不正、タカタのエアバッグ欠陥問題、東芝の不正会見など有名企業のスキャンダルが続発していることや、森友学園の交渉記録、南スーダンの日報問題まで引っ張り出して、ここ数年の日本社会は「恥の文化」よりも、「隠ぺい文化」「改ざん文化」が勝ってきており、「新たな伝統」になっているというのだ。

そう聞くと、「パクリや隠ぺいが当たり前で、粗悪な製品ばかりをつくっている中国にだけは言われたくない!」と怒りで発狂寸前になる方も多いかもしれない。筆者もまったく同じ心境だ。が、その一方でぶっちゃけ、かなり痛いところも突かれているとも感じている。

それは、「改ざん文化」という表現だ。

もちろん、勤勉で働き者で、正直者ばかりの我々日本人の間にそんなバカげたカルチャーなどあるわけがない。世界に誇る日本の技術者ならばなおさらで、彼らがもつ「職人気質」は、利益よりも品質を追い求めるメンタリティで、「ものづくり」で手抜きやインチキが行われることを断じて認めない。

ただ、そういう「社会通念」をまるであざ笑うかのように、名門企業、政治家、役所などで「改ざん」が繰り返されてきたのもまた事実だ。それらを振り返ってみると、「個人犯罪」などではなく、「文化」としか形容できないほど毎度お馴染みのワンパターンとなっているのだ。

それを象徴するのが、今から20年前の新聞を飾った以下の見出しである。

『「品質の日本」根底揺さぶる 下請け任せ 信用失墜の危機』(日経産業新聞 1997年9月18日)

神戸製鋼や三井不動産のマンション杭打ち不正などで使われてもまったく違和感のない見出しだが、実はこれは「日立原発虚偽報告問題」を報じたものだ。

「日本は改ざん文化」は半分事実

覚えておられる方も多いだろうが、日立がメインで手掛けた国内18基の原発の配管溶接の熱処理を巡る温度記録が15年以上前から虚偽報告されていたという不祥事である。内部告発で明らかになったこの「改ざん」によって、放射性物質が漏れ出すなど安全性に問題はなない、と日立側は説明した。現場の技術者がサクサクとノルマをこなすために手を染めたということでいえば、信頼を損ねる行為だが、品質には問題ないと釈明したのだ。

そう聞くと、最近の神戸製鋼や日産とどこか似ているなと思うかもしれないが、それどころではない。例えば、改ざんの「主犯」とされた下請けの社長さんと、日立製作所の常務さんは「動機」をそれぞれこのようにおっしゃっている。

「データが汚いと、親会社がいやがる」

「仕事をもらう会社の立場にたって考えれば、仮にやり直しをさせられるとなると面倒だろうしその気持ちも……」(同上)

納期優先に流れ、「きれいなデータ」に体裁を整えていた神戸製鋼や三菱自動車、マンション杭打ちを行った三井不動産の下請けが語っていることと丸かぶりではないだろうか。

神鋼のデータ不正問題を受け、マスコミは「メイド・イン・ジャパンの信用が失墜した!」「ものづくり大国に激震!」なんて調子で、さもこれまでなかったような異常事態のように大騒ぎをしているが、10年単位で振り返れば、名門ものづくり企業では似たような「改ざん」がちょいちょい繰り返されており、「平常運転」ともいうべき話なのだ。

一部報道では、神戸製鋼のデータ不正は10年どころではなく、数十年前からという話もある。もしこれが事実なら、日立、神鋼、日産、三菱自などはたまたまバレてしまった「氷山の一角」であり、同様のことを何十年も続けている企業が山ほどある可能性も否めない。「職人気質」「ジャパンクオリティ」という美辞麗句を隠れみのにして、品質問題にならない程度の「プチ不正」を日常業務として行っているのだ。

こうなってくると、個々の企業が抱えている体質というより、日本社会のなかで同時多発的に発生してしまった「文化」という表現の方がしっくりくる。中国メディアの「新たな伝統」というのは明らかに大げさな話だとしても、「日本は改ざん文化」は半分事実なのだ。

日本企業が冒されている「世界一病」

では、なぜこのようなあまり褒められないことが、日本の立派なものづくり企業のなかに「文化」として定着してしまったのかというと、2つの大きな要素があると考えている。

ひとつには先週この連載で指摘した「ノルマ」だ(関連記事)。この旧ソ連から持ち込まれた概念が戦前・戦中にかけて日本社会に急速に浸透したことで、日本の労働者は、すべて当初のシナリオどおりに遂行することがなによりも優先する「計画経済」を叩き込まれた。

「計画経済」においてノルマを達成できないことは、なによりも許されないことなので、達成できないくらいなら「改ざん」でもなんでもして乗り切ろうとする。これは神戸製鋼だけではなく、ソ連崩壊後のロシア企業でもよく見られた現象だ。

そして、もうひとつの要素が「世界一病」である。

「ものづくり企業」だけにとどまらず、日本社会は自分で「世界一」をうたうケースが多い。第三者が客観的にそのような評価をして、「いやいや、まだまだですよ」と謙遜をしているくらいならいいが、日本の場合は手前みそを通り過ぎて「自画自賛」になってしまう。これは非常に危うい。「世界一」という結果ありきで、都合のいいように物事を恣意(しい)的に解釈する「暴走」が始まるのだ。

このあたりは拙著『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)にて、さまざまな「自画自賛本」や「自画自賛番組」を例にして分析をしているので、興味のある方はぜひ手にとっていただきたいのだが、そんな「暴走」の代表的なケースが「改ざん」である。自慢話で語っている「理想像」と「現実」の間に食い違いが生じると、人はどうにかそのギャップを埋めようとして話を盛ったり、捏造(ねつぞう)したりする。つまり「改ざん」に走りがちなのだ。神戸製鋼もその傾向がみられる。

例えば、シェア世界一のエンジン用弁バネ材をはじめ、第三者から「世界一」と評されるような技術・製品が多くある神戸製鋼は自社Webサイトで以下のように「自画自賛」している。

『実は世界一・日本一を誇るものがいくつもある、KOBELCOの技術・製品』(神戸製鋼所の公式Webサイトより)

また、同社の歴史を振り返ると、これまで30年以上にも及んで経営陣が「世界一」をうたってきているのだ。このような身の丈に合わぬ「自画自賛」が、「改ざん文化」をもたらした、というのは容易に想像できる。

いたるところで「世界一」自慢を繰り返す

原発虚偽報告問題がもちあがった日立も同様である。日本の原発は戦後日本が手掛けた最初の巨大科学技術であり、官民協力のナショナルプロジェクト第1号だった。日本という国の威信がかかっていたので、「世界一」を目指すのは当然であり、日立や東芝はそのための「ノルマ」をこなすのが義務だった。

そんな苦労があってご存じのように「日本の原発は世界一」という名声を得るようになったのだが、そこからがいけなかった。

いたるところで「世界一」自慢を繰り返したのだ。1982年10月25日の『読売新聞』に出された電気事業連合会の広告には、その慢心ぶりがよくあらわれている。

「世界一の技術が日本の原子力発電所を支えています」

「世界の規範となっているわが国の原子力発電所」

この広告が世に出て、日本人が「そうかオレたちってすげーんだ」とうっとりしていたまさにその時、先ほどの日立の虚偽報告は始まっている。「世界一の技術」という結論がなによりも優先されていたので、その帳尻を合わせるために現場ではさまざまな苦労がなされていて、それが「データの改ざん」につながった恐れがあるのだ。

「オレってすごいんだぜ!」「オレってカッコイイ!」と周囲に触れまわる人が「勘違い男」と呼ばれことからも分かるように、行き過ぎた「自画自賛」は人間から客観性と冷静さを奪う。

これを「法人」にあてはめるとどうなるかというと、「こんないい加減なことをしたら世間からどう見られるだろう」という客観性がスコーンとどこかへ飛んでいってしまい、善悪を冷静に判断できない「法人」になる。それはすなわち、「不祥事企業」である。

だが、このように恐ろしい「自画自賛」がいまの日本社会にはあふれている。

日本の職人は世界一

こんなに素晴らしい国はない

世界から絶賛される日本

「謙虚さ」を失った社会は「暴走」する

日本社会はこれまで「反日マスコミ」のおかげで自虐史観だったから、これでようやくバランスがとれたみたいなことを言う人もいるが、砂糖を入れすぎた料理が塩を入れて味が戻らないように、行き過ぎた「自虐」は、行き過ぎた「自画自賛」でチャラにできるものではない。

人気マンガ『ジョジョの奇妙な冒険』のファンならば常識だが、ナチスドイツのシュトロハイム大佐という登場人物がいる。

自らを「誇り高きドイツ軍人」と自画自賛して、サンシャイン池崎のように「ドイツの技術は世界一ィィィィ!」と絶叫して戦うというキャラなのだが、ネットでは少し前まで日本社会の行き過ぎた「自画自賛番組」をやゆする時にもつかわれた。

マンガとはいえ、なぜナチスの大佐の言動と、現代日本でもてはやされる「論調」が似ているのかというと、これにはちゃんと理由がある

実はシュトロハイムの「世界一ィィ!」のベースにはナチスの「優生学」がある。これは戦前の日本でもわりと広まっていて、その旗振り役のひとりが、朝日新聞の副社長だった下村宏という人物だった。

そのあたりの経緯は詳しくは先ほどの拙著をお読みいただきたいが、朝日新聞は戦前、戦中は「極端な愛国心」をふりまく「愛国新聞」だった。それは軍に脅されて仕方なくやっていたのであって、マッカーサーが来たことでそんな性格はガラッとリセットされました、というのが朝日の言い訳だが、戦後日本をつくったのが戦前・戦中世代であり、終身雇用制度や国民皆保険など社会のいたるところに戦前のシステムが踏襲されていることからも分かるように、朝日新聞も戦前をひきずっている。それは「極端な論調」である。実際、戦前、戦中のマスコミによく触れまわられた「日本人の手先は世界一器用」「日本の自然は世界一美しい」「日本の電車は世界一」などは70年を経た現代の「自画自賛番組」や「自画自賛本」で触れまわられている内容とほぼ変わっていない。

つまり、「愛国」と「反日」はぶれている方向性が異なるだけで、「極端な論調」という意味ではルーツがまったく同じなのだ。このあたりは機会があれば、またこの連載で述べたい。

人類の歴史を振り返れば、客観的かつ冷静に自分を見つめることができる「謙虚さ」を失った社会というのは往々にして「暴走」を始める。

中国なんかに「改ざん文化」なんて言われて腹がたつという気持ちは分かるが、ここらで冷静になって「改ざん」が平常運転になっている事実を受け入れ、その理由を日本社会全体で考えてみるべきではないのか。

窪田順生氏のプロフィール:

テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで200件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。

近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。

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