「どうしても“母”になりたい...」卵子凍結に揺れる女たち

「どうしても“母”になりたい...」卵子凍結に揺れる女たち

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2019/04/16
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晩婚化が進み、加齢とともに卵子の質が低下して妊娠が難しくなる「老化」の問題に悩む女性が増えてきた。出産のタイムリミットに揺れる女性や医師たちの姿を取材した。

生理のたびに「また卵子が減った」

2016年12月25日、世間がクリスマスムードに染まる日曜日の夜。当時39歳だった独身の森田久美は大阪市の産婦人科に向かっていた。卵子を凍結保存するための手術を2日後に控え、排卵を促す注射を打ちに行く。注射は連続8日目。薬の影響で卵巣が腫れ、スカートがきつい。「こんな日に何してんのやろ」。涙がにじんだ。

卵子を人工的に採取して凍結保存する技術への関心が高まっている。がん治療などで生殖機能が低下する場合の緊急避難的手法として始まったが、報道などの影響で数年前から「卵子の老化」が認識されるようになり、健康な未婚女性も将来に備えて利用し始めた。

久美が卵子凍結を知ったのは38歳の時。その2年ほど前に結婚相談所に入会したが、出会いに恵まれず焦りを感じた。「親を喜ばせたい。子どもを産まないと」。30代半ばで突如生まれた使命感は、日増しに強くなっていた。

こんな方法で子どもが産めるのだろうかーー。正直、信じられない。それでも生理のたびに「また卵子が減った」と焦る日々に耐えられなくなっていた。「ちょっとは楽になれるかも」。40歳を目前に思い切った。

迎えた12月27日。手術室では「もう通院しなくていい」という解放感と不安、奇妙な恥ずかしさが入り交じり、複雑な感情がこみ上げた。麻酔を打たれ約15分で手術は終了。その日のうちに帰宅した。

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提供:オーク住吉産婦人科

採取できた卵子は12個。液体窒素で満たされたタンクに入れて保管する。期限は2年と決めた。保険が適用されないため手術費と保管料などを合わせて約60万円かかったが、気持ちは少し楽になった。「自分は年を取るけど、卵子12個分は時が止まった」

安心感を得た一方、予想外だったこともある。手術前の連日の通院と注射の大変さだ。身体的にも時間的にも負担が大きく「結婚相手を探すことに労力を使う方がいい。後悔はないけど、もういいかな」

「確実に子どもを産めるわけじゃないのに…」

2017年3月中旬、大阪市のクリニック「オーク住吉産婦人科」の一室は約40人の女性で埋まっていた。原則隔月で開催している「卵子凍結セミナー」の参加者だ。無料ということもあり、開催のたびにほぼ満席になる。関西のみならず全国から参加者が集まる人気ぶりだ。

「卵子は胎児の段階で全て作られ、徐々に減ります」「30代後半から自然妊娠の可能性が低くなります」「卵子を凍結しても100%妊娠できるわけではありません」

医師の船曳美也子(※実名)がグラフや写真を示しながら加齢による影響や卵子凍結の流れを説明すると、参加者はメモを取ったりスマートフォンで写真を撮ったりしながら熱心に聞き入った。

滋賀県から参加した会社員の佐野明美(34)は終了後に「希望が持てた」と声を弾ませた。独身で交際相手もいない。仕事は忙しく、生理が止まるほどハードな日々を送ったこともある。子どもは望めないかもしれないと考え始めていた。

「諦めモードだったけど、やっぱり自分の子どもが欲しい」。セミナーを聞いて前向きな気持ちになった。費用は高額だが捻出は可能だ。技術への抵抗感もない。「1人で生きるために仕事に専念しようと思っていたけど、婚活という選択肢もあるかもしれない」

全ての参加者が前向きに捉えるわけではない。一番の理由は費用だ。セミナーでは、卵子10個を5年間保管する場合で約50万円が必要だと説明している。個数が増えれば金額も上がり、凍結卵子を受精させる施術でも別途費用がかかる。

「確実に子どもを産めるわけじゃないのに高すぎる」。一人で生計を立てる参加者の中には、高額な費用に二の足を踏む人も少なくない。

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提供:オーク住吉産婦人科

年齢を気にする人もいる。2017年1月、関西地方に住む会社員の佐藤栞(46)は定時で仕事を切り上げ、かかりつけの産婦人科に向かった。電車を乗り継いで約1時間。自宅と方向が違うこの場所に月1回は通う生活を、もう2年以上続けている。いつか結婚した時に備えて卵子を保存するためだ。

栞が初めて採卵手術を受けたのは2015年の春だった。注射を打って強制的に排卵数を増やすのではなく、より自然に排卵を促す方法を選び、この時採取したのは2個。体の負担を考えて間隔を空けながら繰り返し、保存する卵子は17年1月時点で10個に達した。

12年のテレビ番組で卵子凍結を知った。芸能人が高齢出産するニュースを見て漠然と「40代でも産める」と信じていた栞にとって、卵子の老化は衝撃だった。

新しい技術への不安からなかなか踏み出せなかったが、年齢が迷いを断ち切った。もう40代も半ばに差し掛かる。母親は心配したが「それでもやりたい」と決断した。

これまで400万円近くを費やしたが、その価値はあると信じている。「何もしなければ卵子は老化する一方。少しでも若い状態で保存することで、やれるだけのことはやったと思える」

栞のように40代で卵子を凍結することについては賛否が分かれる。高齢での妊娠・出産は流産や染色体異常のリスクが高まり、母体への負担も大きい。日本生殖医学会は健康な女性の卵子凍結について「40歳以上の採卵、45歳以上の凍結卵子の使用は推奨しない」との見解を示している。

国の定めはなく、年齢制限は医療機関ごとの判断だ。40代でも卵子凍結を実施しているオーク住吉産婦人科の医師船曳美也子は、受け入れる理由として「個人差の大きさ」を挙げる。

「生殖機能は閉経の約10年前から低下するが、30代で閉経する人もいれば50歳を過ぎても閉経しない人もいる。40代でも妊娠するケースはある」。ただし、年齢を重ねるほど妊娠の可能性が低くなるのは確かだ。

栞も葛藤している。いつまで採卵を続けるのか、卵子の保管期限をどうするのか。「体の負担や危険を考えると年齢を制限するのも理解できる。もっと早く知っていれば……」。後悔しても時間は巻き戻せないから、自分にとっての最善を尽くすだけだ。

「周囲から奇異な目で見られたくない」

出産を望む女性を中心に卵子凍結の認知度は上がってきたが、慎重論は根強く残る。「将来のためにできることはしておきたいが周囲から奇異な目で見られたくない」と、後ろめたさを感じる女性たちがいる。

2017年春。大手メーカーの社員として神奈川県で働く五島晶子(39)は県内の喫茶店で、卵子を凍結するかどうか迷い続けてきた胸の内を明かした。2013年夏に東京都内で無料セミナーに参加し、その勢いで有料のカウンセリングも受けたが、踏み切れないまま4年近くが過ぎていた。

子どもに関するすれ違いが原因で離婚した経験がある。将来のパートナーのために可能性を残そうと卵子凍結を検討したものの、仕事の忙しさや費用が気になり断念した。だが今振り返ると「全部言い訳だった」と思う。本当は周囲の目を気にしていた。

もともと体裁を気にする性格だ。結婚の予定もないのに、将来使うかどうか分からない卵子を凍結することが恥ずかしかった。世間の男性の反応も気になる。思い切れずにいたが、最近になって海外赴任の話が浮上。正式決定したら、今度こそ卵子を凍結するつもりだ。

「人に堂々と説明できる理由を無意識に探していたんでしょうね」と晶子は言う。「社会的な支援を求めているわけじゃない。女性の気持ちをただ受け止めてほしいだけ」。いつか「卵子凍結も女性の選択肢の一つ」と淡々と受け入れられる日が来ると期待している。

(※文中仮名、年齢は取材当時のもの)

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