「マンション内レストラン」という新たなスキーム

「マンション内レストラン」という新たなスキーム

  • PRESIDENT Online
  • 更新日:2016/11/30
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「住人専用」レストラン、誕生。

東京・青山のとあるビルの30階。おいしい料理とワインを楽しみながら、ふと窓の外に目を向けると、そこには美しい夜景が広がっています。一見、商業施設やホテルの高層階にありがちなレストランのようですが、この店にはそれらと明確に異なる点が存在します。それは、このビルがタワーマンションであり、同店はその居住者専用のレストランであるということです。

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青山通りと外苑東通りが交差する青山一丁目の交差点からほど近くにそびえたつこのビルは「パークアクシス青山一丁目タワー」。三井不動産グループが手がける高級賃貸マンションです。このマンション内にもともとあった喫茶ラウンジを全面的に改装して、2016年10月にレストラン「The Kitchen」がオープンしました。私は縁あって、このリニューアルに関わったのですが、非常に興味深いプロジェクトだと感じたので、その取り組みの一部をご紹介したいと思います。

そもそもなぜ三井不動産グループはマンション内に、わざわざ居住者のためのレストランなどつくったのでしょうか。ディベロッパーが高価格帯マンションの共用部にさまざまな機能(多目的スペースやスポーツジムやシアタールームなど)を持たせるのはよくある話ですが、それらは往々にしてあまり使われず、「宝の持ち腐れ」となりがちです。

しかし、今回のレストランに関しては、ディベロッパーとして居住者の満足度アップ、結果的には不動産価値の向上を本気で目指したに違いありません。「食」は誰しもに関係あるテーマなので、ミニシアターや多目的スペースなどに比べて実際の利用が期待できます。また食事をつくる時間のとれない多忙な住人が多いことや、マンションの足元に手頃な飲食店が不足していることなども、レストランという機能に注目した理由です。

自宅でやらない「ホームパーティ」の利点

では、レストランを運営する企業にとってはどのようなメリットがあるのでしょうか。同店を運営しているのは、都内を中心に飲食店を20店舗ほど展開するコメールという外食企業です。通常の出店と比較して、投資や賃料などにおいてディベロッパーの協力が得られているという現実的な利点は確かにあります。しかし、それに加えて同社取締役の大越昭彦氏は「日々の営業に追われ続ける街場のレストランと比べて、お客様とじっくりコミュニケーションをとって向き合える」と言います。

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「居住者専用」であることは、潜在的な顧客の絶対数という点では明らかに見劣りします。いくら良い店だと評判になっても、原則として外部の人間が単独で入店することはできないからです。しかし、これは裏を返せば、顔の見える顧客と濃密な関係性をつくることができるということを意味しています。彼らをきちんと満足させられたならば、「自宅にもっとも近いレストラン」として、頻繁に利用してもらえる可能性は高いでしょう。

The Kitchenではこうした特異性を活かすべく、通常の飲食店とは異なる機能を3つ備えています。1つは、充実した「パーティスペース」です。レストランに個室はつきものですが、同店では席だけでなく、簡単なキッチンおよびセルフサービスのドリンクバー(生ビールサーバーなどアルコール類を含む)の機能をつけています。これによって可能となるのが「自宅でやらないホームパーティ」です。

ホームパーティは気軽で楽しいものですが、準備や後片付けまで考えると、それはそれでおっくうです。しかし、マンション内のレストランで行えば、自宅でもなく、かといってただのレストランでもない「いいとこ取り」ができます。基本となる料理は店に用意してもらいつつ、「自分でもちょっと料理の腕をふるう」とか「こどもが眠そうなので、自宅に寝かしに行く」など、非常にフレキシブルな使い方が可能になるのです。

まるでルームサービス

2つ目の特徴は、レストランに併設して「ワインショップ」をオープンさせたことです。コメール社はこのために新たに酒販免許を取得しました。すると、お客はレストランに来たついでにワインを買って帰ったり、あるいはショップで買ったワインをレストランに持ち込んでそこで飲んだりという使い方ができます。もちろんレストランと関係なく、単なるワインショップとしても利用可能です。

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そして3番目はこれから導入する施策ではありますが、各居室への料理や飲み物のデリバリーです。レストランの出来立ての料理を、まるでホテルのルームサービスのようにお届けすることができるわけです。多くの飲食店にとって、デリバリー(出前)は売上を伸ばしていくためには取り組みたい方策ですが、実際の配達コストを考慮すると、二の足を踏んでしまうというのが現実です。ところが、このケースのように「エレベータで運ぶだけ」であれば、そのハードルはぐっと下がります。

つまり、今回のケースは飲食店を経営する側からすると、イートインにおける通常の売上は決して大きくないかもしれませんが、「貸切パーティ」「ワインの物販」「デリバリー」によって、プラスオンを期待できるというわけです。開業からまだ1カ月程度ですので、思惑通りに実際に進むかは未知数ではあります。それでも、こうした新しい試みは非常に興味深いものです。

この数年、「飲食店のビジネスモデルの常識」が変わりつつあります。レストランの名物メニューをネットで販売する。バーベキューやグランピング(最近流行りの贅沢なキャンプ)のように、アウトドアでセルフサービススタイルの飲食を楽しむ。これらは「限られた室内の席数をどれだけ稼働させられるか」という、これまでの前提からは大きく離れています。

また、「特定ターゲット向け」という観点では、社食や学食などでも新たな変化が生まれています。もちろん今後も一般的な飲食店がスタンダードであることには変わりはないはずですが、これまでの飲食店とは違う「顧客との繋がり方」そして「稼ぎ方」も、同時に考えていくべき時代になったと言えるでしょう。

子安大輔(こやす・だいすけ)●カゲン取締役、飲食プロデューサー。1976年生まれ、神奈川県出身。99年東京大学経済学部を卒業後、博報堂入社。食品や飲料、金融などのマーケティング戦略立案に携わる。2003年に飲食業界に転身し、中村悌二氏と共同でカゲンを設立。飲食店や商業施設のプロデュースやコンサルティングを中心に、食に関する企画業務を広く手がけている。著書に、『「お通し」はなぜ必ず出るのか』『ラー油とハイボール』。
株式会社カゲンhttp://www.kagen.biz/

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