国民投票迫るカタルーニャ独立問題。「政治家のエゴ」で犠牲にされる州民の将来

国民投票迫るカタルーニャ独立問題。「政治家のエゴ」で犠牲にされる州民の将来

  • ハーバー・ビジネス・オンライン
  • 更新日:2017/09/16
No image

カタルーニャ独立問題を加速させたことで批判が集まるラホイ首相 photo /European People's Party via flickr (CC BY 2.0)

カタルーニャの今回の独立への動きは州民の生活に直接影響する経済を犠牲にして「政治家のエゴ」を優先させていることのお手本になる具体例であろう。

なにせ、カタルーニャ州民を対象にした世論調査でも、56%の州民が住民投票は無効で違法だと見做しているという結果が出ている。そして、8割以上の州民はカタルーニャの独立への動きが盛んになったをスペインのラホイ首相のせいだとしているのだ。(参照:「La Gaceta」)

◆カタルーニャ独立運動激化の発端

そもそもの発端はこれだ。カタルーニャ州政府はスペインGDPの20%に貢献をしているのに中央政府からの交付金が少ないという不満が燻っていた。その解決の為にマス前州知事が知事の時に、ラホイ首相との交渉でカタルーニャの特異な存在を認めさせ、カタルーニャが徴収する税金の中央政府に収める比率を少なくして、残りの税収をカタルーニャ州の裁量で使いたい。それをラホイ首相に要求していたのだ。それが叶えられない場合は、カタルーニャの独立も検討せねばらならないという意思をラホイ首相に伝えていた。

それに対して、ラホイ首相は、国全体の発展を図るにはこれまでの税収体制の骨格は変更できないと答え、独立の為の投票は憲法違反になるので認められないと素っ気なく回答したという。

これはラホイ首相の失策だ。ラホイ首相のほうで税収についてもっと融通性を持たせ、住民投票についても違憲だと言ってそれを突っぱねるのではなく、それをする必要が無いように両者で政治交渉を進めて行くべきだった。しかし、ラホイ首相はもともと政治手腕に欠ける人物で、政治的駆け引きや策を練ることが不器用な政治家である。また、マス前州知事は高官官僚といった人物で政治指導者ではない。そのような両者が政治交渉をしても上手く行くはずがない。案の定、マス前州知事は住民投票を実施する方向に向かったのである。

◆カタルーニャ独立のデメリットは小さくない

カタルーニャの独立を目指す住民投票が10月1日に迫っているが、カタルーニャの経営者連合会のジュセップ・ボウ会長は同連合会の調査を基に「もし独立すればカタルーニャのGDPは16-20%後退し、失業率は42%まで上昇する」という懸念を示した。また、「(企業のカタルーニャからの)撤退が相次ぎ、カタルーニャは経済的崩壊に陥る」と表明した。

同氏の失業率42%というのは些か誇大過ぎる感もするが、政府のデ・ギンド経済相もGDPで25-30%の後退を指摘している。デ・ギンド経済相は経済省の経済専門の官僚としての経験を持ち、その後倒産したリーマン・ブラザーズのヨーロッパ代表でもあったことから、政治家の目ではなく投資家としての視点から経済を見ることが出来る人物である。(参照:「El Boletin」、「Las Provinicias」)

また、カタルーニャが独立すればEUから撤退を余儀なくさせられ、ユーロ通貨も使用できなくなる。その上、EUからのカタルーニャの産業奨励に付与して来た支援金も受けられなくなる。例えば、2007-2013年にカタルーニャ州だけで14億ユーロ(1820億円)の支援金を受けていた。

カタルーニャ州の財政事情は非常に悪く、州への納品業者の支払いは納品から半年以上経過しての支払いになっているという。また、カタルーニャ企業の他の地方との取引は全取引の40%を占めるというが、カタルーニャが独立すれば、カタルーニャ企業の製品を排斥する運動がスペインの他の地方で必ず起きることからカタルーニャ企業の売上は後退する。(参照:「Cinco Dias」)

カタルーニャが独立すれば以上のような状況下に置かれることになるのは必至である。その結果に一番苦しむのは企業そして最終的には州民である。

◆独立⇒孤立へと向かう!?

9月13日にはスペイン紙『El Mundo』が在スペイン米国商工会議所のハイメ・マレッ所長にインタビューした記事を報じた。その中で同氏はカタルーニャが独立するような事態になれば、<「あらゆる違法的な状態から解放されるために、(米国企業で)カタルーニャにある(登記上の)本社を他の場所に移したいとしている多くの企業を私は知っている」>と答えた。<「突如起きるその様な事態へのプランとして24時間以内に赤いボタンを押して移転が出来るような体制になっている」>とも語った。特に、その移転の決定をする一つの要因としているのが、カタルーニャ政府が設立しようとしている<「カタルーニャ自治州税務署が税金を徴収しようとすれば、それはレッドラインに侵入したことになり、米国企業はそれを支払うことは拒否する時だ」>と述べて、それがカタルーニャから撤退する一つの目安だとしている。(参照:「El Mundo」)

同様にカタルーニャで誕生したサバディル銀行のグアルディオラ副頭取も住民投票で独立支持派が勝利して独立するという事態になれば、<「最後は、本社を移すことになる」>と述べた。これはあくまで登記上においての本社移転で社員を移動させることではないとしている。しかし、本社を移転させれば、法人税を納めるところもカタルーニャ以外の州になるから、カタルーニャの税収にはならなくなる。(参照:「El Confidencial」、「ABC」)

カタルーニャの独立支持派が気づいていないことは、カタルーニャへの外国からの投資はあくまでカタルーニャがスペインの一部であり、EUそしてユーロ圏にあるからであるということを忘れているようである。独立してEUに属さず、ユーロも使えないカタルーニャでは投資家にとって魅力はなくなるのだ。

ラホイ首相がカタルーニャ問題について積極的に取り組む姿勢が欠けていたことのつけが今大きくスペイン政府にも伸し掛かっている。しかし、ラホイ政権には問題解決の為の策はなく独立支持派との対立が深まるばかりである。9月13日には住民投票に使う投票箱と投票用紙を探し出す為の捜査を行うように検察がカタルーニャ自治警察にも指示した。また、投票日には投票箱の投票書からの撤去も命じた。

マサ検事総長はカタルーニャ州の投票の為の場所を提供することを承諾している712の自治体の首長に対し事情徴収の為の出頭を命じた。それを拒否する首長に対しては逮捕するとした。(参照:「El Confidencial」)

スペイン政府はカタルーニャの自治制度を中断できる憲法155条を仄めかすようにもなっている。

それに対してカタルーニャ州政府はカタルーニャ州議会で可決した住民投票の正当性を今も主張し続け、住民に投票するように促している。しかも、独立すれば州民が厳しい経済状況に置かれることなど一切お構いナシにである。

今回のカタルーニャ独立問題は政治家のエゴのつけを最終的に背負うことになるのは住民であるということを示した良い具体例である。

<文/白石和幸 photo /European People’s Party via flickr (CC BY 2.0)
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

国外総合カテゴリの人気記事

グノシーで話題の記事を読もう!
ナショジオ賞作家が切り取る「捨てられた民」ロヒンギャの素顔
日露首脳会談、プーチン大統領を「無表情」にさせた安倍総理の一言
第3次世界大戦はAIが引き起こす...イーロン・マスクが警鐘
トランプの「ウラとオモテ」政治が、なぜじわじわ効いているのか?
逃げる女を確保...ところが止めたはずのパトカーが
  • このエントリーをはてなブックマークに追加