書道家の武田双雲が「午前中は仕事をしない」理由とは?

書道家の武田双雲が「午前中は仕事をしない」理由とは?

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  • 更新日:2018/01/13
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島根県での合宿にて参加者とざっくばらんに話す

300人の生徒さんを抱える超多忙な書道家、武田双雲さんは、「字」を教えない先生である。

【全身を使ったパフォーマンスで「先」という文字を書く武田双雲】

「字に上手い下手はない、先ずは自分の字を好きになってください。教えるというより、その人の良さを引き出す。自分の個を書で表現することを目的にしているんです」

そういう書道家である。現在、10代から70代までの生徒さんを7回のクラスに分けて教室を運営する。当初は10人程だったという生徒さんは、今では定員が一杯で入会待ちが出る騒ぎだ。書道を教える一方で、展覧会を開けば異例の4万人を集客。また、ザ・プレミアムモルツのCMでは作曲家、久石譲さんの曲と野村萬斎さんの声に合わせて、「夢」という字を揮毫する。さらに60冊近くの著書を世に出し、「人生ポジティブに生きる」「競争をやめたら夢がかなう」「常に自分を0の状態にしておく」など、数々の心に響くキーワードを世に発してきた。それに感銘を受けた人や生徒さんの前で、人生を楽しく生きる極意を伝えるために全国各地で講演会を開いたりと、これだけマルチに活動する人もなかなかいない。そして何と言ってもNHK大河ドラマの「天地人」の題字を担当したことで世にその存在を知らしめた。

「書道教室でやっていたリレー書道などの様々な楽しい書道企画をネット上で伝えたら、書籍出版の話が来て、その本がヒットして、その本を読んだ日テレ『世界一受けたい授業』のプロデューサーの方から声をかけて頂き、その番組の中でもリレー書道企画が高視聴率で、何度も出演させて頂きました。そんな中、大河ドラマの題字は、NHKのプロデューサーから直接お電話があり、僕の書をいろんなところで見かけたとのことで、『天地人』にぴったりだとオファーを頂きました」

ここまで多岐に渡り、活躍する書道家がかつていただろうか。しかし、本人は意外なほどに自身を冷静に見据えており、予想外なことを口にする。

「正直、自分が何者かは、未だにわかっていない。書道家だとも思っていないし。そもそも、武田双雲という価値もわからない。自分をすごいなんて思ったこともない。なんなら、いますぐ書道を辞めたっていい」

パフォーマンスのみならず発言も大胆この上ない武田さん。しかし、全く嫌味に聞こえないし、本心で言っている。そもそも何故、ここまで言い切れるのか。これだけの偉業をなしてきた人物が、自身を何者でもないと宣するわけは、なんなのか。

「これまで築きあげてきたものは、自分からやってきたことではなく、周りが引っ張ってくれただけだから。一つのことをやると、それが次につながっただけ。なんかキーマンに引っ張ってもらえるんですよ、僕」

実にシンプルにかつ愉快に人生を振り返る武田双雲さんに、話を聞いているだけで、こちらが幸せになる。その幸せを共有したい、自分ももっと自由に生きたいとの想いから、武田双雲という人間の前には沢山の人が集まってくる。しかし、そんな順風満帆な人生に見える武田さんにも、「ポジティブ」では無い日々もあった。

熊本県出身の武田さんは、三人兄弟の長男として、生まれる。母親が書道家であったため、小さい頃から書道に触れていた。また両親は自分のことを常に尊敬の念で見てくれていたという。

「大丈夫よ、あんたなら。何をやっても、大丈夫だから、心配いらないよって、本当に怒られたという記憶はないんです」

両親に愛されて育ったということもあり、昔から自由きままな生き方を歩んできたという。小学校、中学校に進んでもその生き方は変わらなかった。しかし、それが原因となってか友達がいなかった時期もあったと振り返る。

「僕、空気読むとか全くわからないんですよ。だから、友達も全くいなかったです。でも、そんなことあんまり気にしてなかったのかな。周りが自分のことどう見たっていいというか、それは自分がどうこうすることじゃないから」

現在の武田双雲という人間からは、全く想像できない過去があったのだ。その後、社会人になるとNTTに入社し、安定した生活を掴んだ武田さん。しかし、毎日が憂鬱でしかなかったという。

「僕、人間関係とかも全くわからないんで、あの人とあの人が偉いとか、仲が悪いとか、あの人に気に入られれば出世するとか全くどうでも良くて、それで毎日が全然楽しくなかったんです。そんなタイミングで、会社の女子社員に自分の字を代筆してくれないかと頼まれて、書いてあげたら、その子が感動して涙流してくれて、それで次の日に会社に辞表を出したんですよ」

書道家、武田双雲が生まれた瞬間だった。この決断力と行動力。何より自分の感覚で人生を決めているあたりが、武田双雲そのものでありド肝を抜かれるところだ。自身を「行き当たりバッチリ」と表現するあたりも彼の本質を物語っている。退職を聞いた両親は、

「大丈夫、あんたなら何処へ行っても大丈夫だから」

と温かく見守ってくれたそうだ。会社からは、何度も引き止められ10回ほど引き止め面談もあったそうだが、、一度決めたら即実行の武田さんは、第二の人生を歩むことになる。

退職後、武田さんは、ストリートで目にしたサックスパフォーマーに感銘を受け、自身も、ストリートで書道のパフォーマンスを始める。

「最初の頃は、唾を吐かれたりもしたし、逆に5万円くれる人もいましたね。それで、やっていくうちにラーメン屋の人に、うちのロゴを書いてよって言われて書いたり、僕がどこかで話をしているのを聞いていた会社員の人が、喋りが面白いから今度うちで講演会やってよって言われて、講演会の依頼がきたり、そこからテレビの仕事にも繋がっていったのかな。NTTの大河ドラマの題字も、路上パフォーマンスがきっかけでしたね」

武田さんの成功の軌跡を聞いていると、こんなにも人生はうまく転がっていくのかと全く別世界のように聞こえるが、実は書道業界からは厳しい批判を浴びていた時期もあった。

「お前がやっていることは書道なんかじゃない、ただのパフォーマンスだとか、かなり業界から批判をもらった時期もありましたよ。正直、辞めようかと思ったこともありましたね。でも、NHKの大河ドラマの題字を書いたあたりから、全く批判がこなくなったんですよね」

いとも簡単に自分の人生をさらりと振り返り喋る。成功も挫折も、特に力説することなく話す。まるで、今日の天気を伝えるように。このフラットさが、武田双雲という人間を必要以上に価値上げしない所以なのかもしれない。

昨年の2017年に、3年後の2020年に書道教室を締め、アメリカに移住することを宣言した武田さん。それは、全てをリセットし、次なる野望のためのアメリカ進出かと真相を確かめてみると意外な答えが返ってきた。

「実はまだ何も決めていないんですよ。とりあえず家を買っただけで、あっちで教室をやろうとは考えていないし。しかも、子供がまだ賛成してないから、もしかしたら3年後に家を売っちゃうかもしれないです(笑)」

これが武田双雲である。ガチガチに人生を決めない。でも、やりたいと思ったら、やる。もし駄目になっても、それは失敗ではなく、それも一つの答えであり、正解。人生に優劣はない。これこそ武田双雲の真髄なのだ。そして、彼の綺麗な瞳を見ればわかる。毎日を味わいながら楽しんで生きていていると。

去る2017年12月25、26日の二日間、島根県雲南市において、クリスマス合宿が行われた。武田双雲さんを囲んで、武田双雲さん主催のコミュニティーサイト「双雲塾」の塾生と、一般の方を集めて、とにかく武田双雲さんと、とことん話し合う会だ。文字通り「合宿」のため、武田さんと二日間共に過ごす。よくあるファンイベントは、ファンと本人の宿は全く別だったりするが、武田さんは参加者と同じ宿に泊まる。なかなか有名人が出来る事ではないが、武田双雲という人間は分け隔てなく誰とでも接するのだ。男女含めて70人余りが参加したが、受付やイスの準備、片付けも一緒にやる。大きなスタッフさんがいるなと思ったら、185センチもある武田さん本人だから驚きだ。主催者というより、参加者として皆でその場を楽しむ。そういう空気にしてくれるのが、武田さんだ。合宿では武田さんが、何でも話してくれていた。家族の事から仕事、お金のことまで。そして終盤に差し掛かると、ある参加者から質問があがった。

「歌手を目指し、神戸でボーカルユニットとしてプロデビューしたんですが、うまくいかず解散して、今はスーパーでアルバイトしながら社員を目指しているんです。でも、どこかで昔は歌手だったんだぞという自分がいて、他のメンバーが活躍しているのを見ると、やっぱり悔しいんです。この気持ちを何処にぶつければいいのかがわからなくて、心にビシッとくる言葉が欲しいんです」

夢を諦めた若者が第二の人生を送り始めるが、華やかな舞台に居た時の自分との葛藤に苦しんでいる日々。重々しい雰囲気が教室に流れる。しかし、参加者さんと向かい合う武田さんの表情は、至って笑顔だ。そして、型破りなセリフが飛ぶ。

「他人との競争、比較をやめることですよ。他人と比較しているといつまでも夢は叶わないし、幸せになれないもんです。競争をやめたら、夢が叶いますよ。あと、自分の今いるポジションに囚われないことです。人間は、上も下もないから」

ある意味、競争システムで生きてきた現代人とは真逆の発想である。しかし、現状の生き方に不安があり、もっと自由に生きたいという人間にはストレートに突き刺さる言葉なのかもしれない。こんな大胆なセリフを笑顔で言える武田双雲という人間に何故か安心感を得る。そして彼の瞳は非常に綺麗で輝いている。

「昔、テレビの打ち上げで向かいの席に居たメイクさんが、ずっと僕の事を見ていて、『なんでそんなに目が綺麗なの?』って言ってくるんですよ。色んな女優さんやアイドルとか見てるはずなのに(笑)」

それは毎日を心底楽しみ、そして一つ一つ味わいながら生きている人間にしかない賜物だからだろう。

「毎日、朝起きたら、今日は何しようかな?ってニヤニヤしながら考えるんですよ。何もすることがなくて不安じゃなくて、逆に0だから、何でもやれるじゃんというワクワク感。こうやって、意識を一つ一つ変えていくだけで、本当に楽しい事が入ってくるから」

苦しいことが全くないというか、寄せ付けない自分にもっていく。そういう作業を日々しているのだ。だから、朝の過ごし方も独特だ。

「まず、午前中には仕事は入れない。目覚ましは使わない。ゆっくりコーヒーを飲んで、子供と戯れる。これが楽しく過ごすためのテクニックかな」

教室運営をしながら、メディアやイベントでのパフォーマンス、そして全国での講演会など引っ張りだこの武田さんですが、実はゆとりある時間を過ごしている。これも、彼独特の生き方であり、唯一無二の存在に仕立てあげる要素なのかもしれない。

2018年の念頭に彼はこんなことを記していた。

「理想の一年を漢字一文字で表現してみてください。それをどこかに飾っておくだけでも、脳はその文字に関する情報を自動でかき集めます。だから、夢は叶うのです」

武田双雲さんの一文字は「挑」だ。

「英会話や料理、洗濯など苦手だと決め込んでいたものを楽しんで積極的にやろうと思います。あっ、『桃(もも)』じゃないですからね(笑)」

2020年東京オリンピックの年に日本を離れるのは、華やかな祭典に皆が目を向けている隙に旅立とうという、武田双雲さんを惜しむ人への彼なりの思いやりなのかもしれない。(新津勇樹)

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