最強の将棋AIソフト開発者がプログラミングをやめて未来を考えた

最強の将棋AIソフト開発者がプログラミングをやめて未来を考えた

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2017/10/15
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「名人」を倒したその後……

「藤井四段のブームはそんなにすごいんですか。私が日本にいない間に世界が変わっていて……」

最強のコンピュータ将棋ソフト開発者は、海外から帰国したばかりだった。「勝ちたい、強くなりたい」という執着心の強いイメージとは裏腹に、どこかけろりとしていたように見えた。

今年の前半、電王戦と世界コンピュータ将棋選手権というビッグイベントが連続した。前者では「名人」を倒し新しい歴史の1ページを飾り、後者では前評判を覆した新鋭ソフトの後塵を拝し2位という結果。そうした模様は『情熱大陸』でも密着・放映された。

「名人」を超えたソフトの名はポナンザ。開発者の山本一成氏はかつて東京大学将棋部に在籍し、アマチュア高段ほどの腕前を持つ。だが、「中途半端で、意図的な努力がなく、なんとなく時間を費やしていただけ」と反省を込めて言う。

それでも、東大での留年をきっかけにはじめたプログラミングでコンピュータ将棋ソフトを開発すること10年。世界のトップに登りつめた。そしていま――。

(取材&文・佐藤慶一/写真・三浦咲恵)

現代の人々は「物語」を求めている

じつはいま、2ヵ月くらいプログラミングを書いていなくて……。それまで1日十数時間はパソコンの前にいて、3日プログラムを触らないこともなかったので、焦りますね……。この10年くらいでも、こんなことはなかったです。

――焦り、ですか? それは抜かれてしまうとかそういう?

いや、前回の世界コンピュータ将棋選手権もフェアにいけば、ポナンザが勝っていたと思うんです。でも、もう抜かれつつあります。

ポナンザ本体は――ディープラーニングで強くなる可能性は置いておいて――この1年間ほとんど成長していない状況ですから。去年の時点で「あと1年で抜かれるかもしれない」と言っていたんですが、実際そうなりました。

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――いま、プログラミングをしていない時間はどう過ごしているんですか?

ひとつは、英語です。人工知能やディープラーニングなどについての最新情報に触れるために、英語力を上げているところです。もうひとつは、こうした取材が多々あるので、自分の中に「物語」をためています。

そもそも私はただのプログラマであって、本来、未来予想の達人ではありません。それなのにメディアが話を聞きに来るって、変な話じゃないですか(笑)。

でも、そのことは、いまの時代には物語が足りていないことを意味しています。つまり、多くの人がどうすればいいのかわからない状態にある。昔は、三種の神器とか、新・三種の神器とか、わかりやすい夢や目標がありましたが、それらはすっかり喪失してしまった。

結果、この時代があります。だから、みんなが物語を求めているし、流行に飛びつくのも早くなっています。人工知能があれこれ語られる一方、ビッグデータの話題はどこに行ってしまったんですかね(苦笑)。

新しい流行がファッションのように消費される変な時代で、人工知能も例外ではありません。それでも消費されながら、確実にそれぞれ進歩しています。そして、「次」を見たくて飛びつく人々が変わらずいます。

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これからアイデンティティーが大問題になる

――どうすればいいのかわからない時代には、何が大事になってくると思いますか?

「未来を予想すること」がより重要になってくるでしょう。ただ、最近はそのためにどうすればいいのかをずっと考えていて。まずは、歴史を紐解いてみよう、と思っています。いまの時代は後世からすると、おそらく「情報革命」とか呼ばれるのかもしれませんが、名称にかかわらず確実に革命の時代にいます。

かつての産業革命を例にとってみましょう。

その当時、様々なものが工業化されましたが、紡績はインパクトの大きかったもののひとつです。昔は労働者が糸車をぐるぐる作業していたのが、水車や蒸気機関でまわるようになり、工場長と工場労働者、資本家と労働者といったように階級がわかれるようになりました。

この構図は現代と似ています。巨大企業のCEOが多額の資産を持つ一方、現場の労働者は低賃金で働く、といったように。そうした賃金ギャップは広がっています。現代はいわば新しい「情報」という工場が建ち、多くの人がそこで働いている状況なのです。

では、産業革命では、そのあと何が起きたか。おもしろいのは、「ラッダイト運動」という、織物工場地帯で起きた工場や機械を破壊する本格的な運動です。工場を壊せば、再び状況がよくなるなんて、いまから見ればナンセンスにみえます。工場を壊しても何も起きないし、靴下を織るのに3日とかかかる時代なんて、イヤじゃないですか。

でも、これを消費者としてみた場合、そうした革命の進行は歓迎できる部分があると思うんです。ただ、それが自分の仕事やアイデンティティーにかかわると、とたんに難しくなります。仮に仕事が奪われたとして、アイデンティティーや生きがいをどうするのか、というのは大変な問題です。

――そうですね。たとえば、「明日から仕事を辞めてください」「職業がなくなりました」と言われたら、どうしたらいいか想像できませんし、かなり困ります……。

私もきっと困ると思います。でも、それに絶望するって変な話じゃないですか。だって、昔の石器時代にはそんなことはなかった。でもいまは働くこととアイデンティティーが近づいていて、ほとんど一体化している。その新しいアイデンティティーのつくりかたが、これからの大きな課題なのです。

産業革命にはもうひとつ教訓があります。革命後、承知の通り、工業化しましたが、それは「どういう社会になるか」を指し示していないんです。

たしかに、イギリスからはじまり、フランスやロシア、もちろん日本でも起こることになりましたが、フランスでは王族がギロチンにかけられ、ロシアでは共産主義が起き……産業革命によって、植民地が生まれ、その構造は強化されていきました。

産業革命は変わることを示唆するが、どう変わるかについては、誰も何も教えてくれなかったんです。いまで言えば、IT化の流れは資本主義が続く限りは止まることがない。でも、向き――どういう向きがいいのか――は変えられるわけです。その向きを正しくできるかどうかが、この数十年の課題であると思います。

これはもちろんシンギュラリティも大きく関係する話です。ただ、それがいつ来るのかはわからないとしか言いようがない。ポジショントークもいろいろありますが、来ないことはありえません。なぜなら、来ない理由を言うことが難しいからです。それはおよそ30年前に、コンピュータ将棋がプロ棋士を倒せないと言われていたことと同じような気がします。

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コンピュータ将棋と社会的意義

――仕事とアイデンティティーという意味では、山本さんは先日「コンピュータ将棋については満足した」と発言しています。過去を振り返ると、2014年の中村太地さんとの対談では「仕事として続けていくのは難しいかな。でもなんとかなりそう」、2015年の日経ビジネスオンラインの記事では「そろそろ違う分野に踏み出していたい気持ちがある」と言っています。

なんだかんだずるずると続けてしまいましたね……。永遠に続く仕事ではない、とは思っていました。コンピュータ将棋はもともと趣味ではじめて、いまも根底で楽しいと思うことをやっているつもりです。

その中で、コンピュータ将棋の社会的な意義を考えることもありました。

よく聞かれるのは、コンピュータ将棋が何か役立つものに転用できますか、というもの。ただ、怒られるかもしれませんが、正直に言えば転用先があまりないと思っています。とりわけ何かに特化しようとすると転用性がなくなり、その反対もありますから、むずかしい課題です。

社会的な意義を強いて挙げるなら、コンピュータ将棋によって「人工知能がここまで進歩した」と社会に言えることがすごく大事だと思います。

実際、その役割は一定程度は果たせたと自負しています。社会的な意義においては、やりきったという実感があります。コンピュータ将棋の世界では、ここ数年は参加者も増え、レベルが上がり、自分でもよく耐えたなあと思います(笑)。

とくにオープンソース化があって、(世界コンピュータ将棋選手権で負けた)elmoもそうですが、以前からのAperyややねうら王などボナンザからつづく流れによって、全体のレベルが格段に上がっていました。

――今年は電王戦が幕を閉じ、叡王戦がタイトル戦に昇格することが決まり、ある意味で転換点と言える年になったと思います。このあたりはどう感じていますか?

正直なところ、電王戦が終わるのは遅かったですね。すでに2015年には、はっきり人間を抜いていましたから。でも、とても人間らしい判断だと思います。

この数年でポナンザの強化学習はうまく進み、自分で自分を強くすることができるようになっていました。実際にポナンザをはじめコンピュータ将棋ソフトがきっかけで、新しい戦法がどんどん生まれています。

私はアマチュア高段ですが、見たことない戦法が強いというのはこれまでの常識ではあまり考えられないことでした。

しかし、将棋の代表的な戦法の一つである矢倉が減るなどプロの指し方も目に見えて変わってきました。昔のポナンザはいまだに矢倉を指しますから、時間の経過をしみじみ感じています。

(つづく)

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