実験室で培養された”ミニブレイン(脳)”が解き明かす人間の独自性(米研究)

実験室で培養された”ミニブレイン(脳)”が解き明かす人間の独自性(米研究)

  • カラパイア
  • 更新日:2017/11/21
No image

数年前、アメリカの研究者が、史上初めてほぼ完全な人間の脳を実験室で成長させたと発表して話題を呼んだが、今や脳は実験室で培養できる時代となった。

問題は培養した脳で何を研究するかということだ。

研究者たちは、ヒトの脳の特殊性、独自性を理解する為、白血球細胞から作成された幹細胞を使いミニブレイン(小さな脳)を培養し、研究している。

人間だけが持つ脳の独自性とは何か?

神経科学者の父を持つアメリカ・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のアレックス・ポレン博士は、子供の頃から進化を通じて作り上げられたヒトの脳の独自性を知りたいと思っていた。

ヒトの脳は他の動物よりも大きいが、それ自体は重要ではない。重要なのは、その体との比率における大きさだ。

「ゾウやクジラの脳は人間よりも大きい」とポレン博士。しかしヒトとその他の動物の生体構造やゲノムを比較しても、我々の脳がそのような道筋をたどることになった遺伝学的・発達学的変化についてはほとんど分からない。

No image

培養された脳オルガノイドで分子メカニズムを解き明かす

これまでの限界を突破するべく、今研究者が用いている新しい研究手法は、ヒト脳の特殊性の背後にある分子メカニズムを理解するためのものだ。

先月開催されたアメリカ人類遺伝学会のシンポジウムでは、単一の脳細胞において発現した遺伝子を拡大して観察する方法や遺伝子が遠く離れた脳領域間で結合する仕組みについてに報告された。

ポレン博士らは、脳オルガノイドという、実験室で培養した組織の小さな構造体を用いた実験で、未発達の脳の折りたたみや成長を司る分子メカニズムの詳細を解き明かそうとしている。

No image

左:培養された脳オルガノイド 右:オルガノイドの前駆細胞(紫)と神経細胞(緑)image credit:KRIEGSTEIN LAB

これまでの研究で明らかになった脳に関すること

シンポジウムにおける発表の大多数は、記憶・注意・意識・言語・思考といった高度な認知機能を司る大脳皮質の発達に関するものだ。

ヒトの皮質はチンパンジーの3倍細胞が多く、そうした余剰な細胞を小さくまとめやすくするために深いシワが刻まれているという特殊性がある。

こうした違いは、胎児の最初期の発達段階において展開され始める。だが、この変化を指令する遺伝子やその情報をコード化した分子についてはほとんど分からない。

No image

独マックス・プランク分子細胞生物学・遺伝子学研究所のヴィーラント・フットナー教授は、発達の最初期段階にあるヒトの脳で発現したタンパク質とその他の遺伝子産物のデータベースを探す方法について説明した。

彼らは胎児の脳組織内で発達する細胞を囲む細胞外基質で発見された3つのタンパク質を、堕胎されたヒトの胎児から採取した培養脳組織に加えた。すると組織は妊娠20週目に相当するような溝を形成したという。

脳におけるヒアルロン酸の役割

さらにMPI-CBGのケイティ・ロング博士によって、この3つのタンパク質が折りたたみを形成するのは、それらがヒアルロン酸という複雑なグリカン分子とひとかたまりになった後であることも発見された。

ヒアルロン酸には、細胞間の信号を伝達したり、細胞を成長させたりといったいくつもの機能がある(化粧品に利用されるのはこのためだ)。

No image

これまでもヒアルロン酸が神経線維に現れることは知られていたが、脳の発達にこれほど決定的な役割を担っている事実は今回初めて明らかになったことだ。

類人猿とヒトの脳オルガノイドの発達の類似性

またフットナー教授は、マックス・プランク進化人類学研究所の研究者と協力し、脳オルガノイドを成長させている。

脳オルガノイドはヒトや他の類人猿の白血球細胞から作成された幹細胞から成長したものだ。数週間あるいは場合によっては1年成長させ、異種間に見られる発達の違いを比較することができる。

類人猿とヒトの脳オルガノイドの発達は驚くほど似ている。いずれも同タイプの幹細胞から形成され、これが前駆細胞となり、神経細胞に分裂し、やがて6層からなる脳組織へと組織される。

しかし顕微鏡で幅4ミリの脳オルガノイドが発達する様子を観察すると、ヒトの前駆細胞が染色体を準備し、娘細胞に分裂するまでには50パーセント長く時間がかかることが判明した。ヒト細胞は中期の細胞分裂段階においてずっと長い時間的投資を行っているようなのだ。

No image

脳の新皮質の特定層に存在する細胞にカギが?

米ハーバード大学医学大学院のフェナ・クリーネン博士は、fMRIで1000人の脳を検査し、ヒトの脳が大脳皮質の広範囲に渡ってシナプス結合を形成することを明らかにした。

彼女の仮説によると、進化の過程で皮質を拡大させながら、領域間でより複雑な結合が可能になるよう再組織化が進められた。

この発見以来、クリーネン博士は新皮質の特定の層に存在する細胞のリストを作ってきた。そして昨年、fMRIによって明らかにされた皮質結合領域と同じ場所で19の遺伝子のスイッチが入ることを発表した。

マウスでは、これらの遺伝子は別の皮質層で発現する。なにやら、霊長類やヒトの進化の途上で、これらの遺伝子の活発化が発達段階のもっと遅い時点になるよう仕向けられてきたかのようだ。

No image

image credit:Primate - Wikipedia

遺伝子の発現と脳回路の変化をマップ化

今、クリーネン博士は、彼女が博士課程の学生時代に在籍していた研究室が開発した新しい単細胞解析法を用いて、こうした結果を組織層レベルのものから1つの細胞レベルのものに突き詰めようとしている。

彼女が目指すのは、脳細胞が長距離の結合を形成する際に、細胞タイプそれぞれにおいてどの遺伝子が発現するのか突き止め、さらには進化によって脳の回路にどのような変化が起きたのかマップ化することだ。

こうした新しい研究方法が登場してからまだまだ日が浅い。しかし、1つ、ないしは2つ以上の遺伝子がヒトの脳の独自性を生み出したことはすでに明らかだ。

これはヒトに起きたいくつもの出来事が協調して、脳という驚異の器官で蓄積された結果なのである。

via:bioethics/sciencemagなど translated by hiroching / edited by parumo

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

サイエンスカテゴリの人気記事

グノシーで話題の記事を読もう!
「オウムアムア」は宇宙人の探査機?ホーキング博士率いるグループが調査
世界初の快挙!東大が「割れてもすぐ元に戻るガラス」を開発
万有引力発見のニュートン 子供時代の秘密の落書き見つかる 英国
【報ステ】世界初『割れても直るガラス』東京大学
人類の起源は東アジアか? 中国で発見された26万年前の頭蓋骨「ダーリー・スカル」がアフリカ誕生説を覆す可能性
  • このエントリーをはてなブックマークに追加