「風邪に抗菌薬を処方」がなぜ良くないか? 現役薬剤師が解説

「風邪に抗菌薬を処方」がなぜ良くないか? 現役薬剤師が解説

  • ハーバービジネスオンライン
  • 更新日:2018/06/13

抗生物質などの抗菌薬はウィルス性の風邪には効かないにもかかわらず、約6割の診療所が患者から強く求められると処方していることが、日本化学療法学会と日本感染症学会の合同調査委員会の調査で判明した。(参照:朝日新聞

このことがなぜ問題なのか? 本サイトにて「一般人の知らない『クスリ』の事情」というコラムを連載中の薬剤師・長澤育弘氏に解説してもらった。

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Public Domain Pictures(CC0)

厚労省も「適正な使用」を推奨

皆さん、抗生物質ってご存知ですか?

結構風邪の時とかに出されるイメージが強いですが、のど痛いときや目が痛いとき、怪我した時など結構な頻度で使われています。ただ近年抗生物質使用の半分くらいは実際使わなくても良いんじゃ無いか、と言われるようになっており最近厚生労働省も適正使用のガイドラインを発表しました。(参照:厚労省

抗生物質とは微生物(例えばカビ)とかが、他の微生物が増えるのを邪魔するために出している物質のことです。

アレクサンダー・フレミングというイギリスの学者さんがペニシリンという青カビからペニシリンという世界初の抗生物質を発見して今年で90年になります。現在は他の物質を発見したり、化学的に合成、加工することによって自然界に6000種類以上、人間に実際に使用しているもので70~80種程度あります。

抗生物質を端的かつかなり端折った表現をすると、人間には効かず微生物にだけ効く毒です。人間の細胞には無くて、微生物の細胞にしか存在しない細胞内外の器官や物質を邪魔することにより細菌が増えたり活動する事を邪魔します。

もともと、予防的に抗生物質を投与する治療法というのも存在します。

感染症っぽい症状が出たときに細菌に感染しているか判定する前に抗生物質を投与して発症などが出る前に細菌を除去してしまおうという考え方です。

理にかなっているようにも思えるのですが、何故乱用してはダメだと言われるようになったのでしょうか。

抗生物質乱用が良くない理由

抗生物質の乱用が望ましくない理由は大きく分けて2つあります。

1つ目は「風邪に抗生物質は殆ど効果が無い」という点です。

抗生物質と言えば、風邪などちょっと具合が悪くなった時によく出ますね。今でも結構病院などで処方されているのですが、最近は多くの風邪には抗生物質はあんまり効果が無いことがわかってきました。

風邪の原因大きく分けて2種類あり、「細菌で起こっている風邪」と「ウイルスで起こってる風邪」が存在します。しかしながら、風邪の原因の8~9割ぐらいは「ウイルス」が原因です。まれに一般細菌、マイコプラズマ、クラミジアでの風邪が発生する程度です。

ウイルスと細菌は完全に別物であり、抗生物質はウイルスに対して基本的に効果がありません。

よって風邪を引いたときに抗生物質を服用することが効くか効かないか? で考えると効かない可能性が高いということになります。(なお風邪を引き起こすウイルスは200種類以上あるのでどのウイルスで症状が起こっているのか判定するのは現実的では無いので抗ウイルス剤の投与は行われません。)

副作用や次に書く耐性菌の問題もあり、抗生物質を使うメリットよりもデメリットが大きくなってしまうケースも増えてきたのだと思います。

2つ目の理由は「耐性菌が発生する」という点です。

実の話、これがかなり問題になってきています。

耐性菌とは何か?というと字のまんまなのですが抗生物質が効かない細菌のことです。90年前に抗生物質が発見され、細菌に対して対抗手段を得た人類ですが細菌の方も生存するのに必死です。60~70年代あたりに抗生物質が効きにくい細菌が出てきました。

医療現場だとペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)が有名です。

肺炎球菌はペニシリンが効いていたのですが、今から50年程前にペニシリンに耐性を持った肺炎球菌が発見されました。しかし、当時はすでにペニシリン以外の抗生物質も開発されていましたので、他の抗生物質を使えば何とかなりました。

問題は、その後10年ほど他の抗生物質を使い続けたら他の抗生物質も効きににくいという多剤耐性肺炎球菌が発生したことにあるのです。

PRSPは最初南アフリカで発見されたのですが、その後スペイン、フランス、ドイツなどでも発見され現在では世界中で発見されるようになりました。

そして、この現象は肺炎球菌だけに留まらず、他の細菌でも起こっています。

淋病が制御不能な感染症になる危険性も

特に最近問題になってるのは淋病です。

もともと淋病はペニシリン、アミド、テトラサイクリン、マクロライドなど他の菌で第一選択としてよく使われる抗生物質に対して耐性のある菌株の罹患率が高いのが現状です。

現段階で淋病に単剤で効果的なのはセファロスポリン系の抗生物質のみなのですが、アメリカ大陸ではセファロスポリン耐性の菌株が2011年から15年の間で2.3%→7.9%に増加しており徐々に耐性菌の比率が増えています。

このままだと、淋病は制御不能な感染症となってしまうかもしれません。

こうして考えると抗生物質は人類の資源のような性質もあるのかもしれません。

また別の問題として抗生物質は体にとって良い菌も殺します。

例えば人間にとって有用な菌と言えばビフィズス菌や乳酸菌などが思いつきます。

しかし長期間抗生物質を使った場合体にとってこれらの有用な菌なども殺してしまうため、菌交代現象という現象を起こしてしまう危険性があります。さらに悪いのは、通常の菌が減ってしまった結果、普段あまり多く無い菌が増えてしまい体内の菌のバランスが大きく変化してしまうという副作用もあります。

これはかなり重篤な状況になることもあり、最悪死に至る場合もあります。

これらのことにより、WHOやCDCなどは抗生物質を適切に使うことを呼びかけています。それを受けて厚生労働省がガイドラインを2017年に出してから日本でもこの問題がフォーカスされるようになりました。

耐性菌が増えすぎて抗生物質の無い19世紀まで後退してしまうような未来にだけはなってほしくないと願っています。

一般人の知らない「クスリ」の事情 第3回

<文/長澤育弘>

ながさわやすひろ●薬学部卒業後、救急指定病院在職中に認定薬剤師を取得。その後、調剤薬局やドラッグストア、在宅専門薬局で管理薬剤師を務める。2016年9月に「池袋セルフメディケーション薬局」(http://www.self-medication.co.jp/)を開局。「患者様が自分で健康を管理し自分で治療する」という促進を主な目的に掲げている。

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