京アニ被害者、なぜフジテレビは「天才」を「アホ」と誤報したのか?思考停止軍団の実態

京アニ被害者、なぜフジテレビは「天才」を「アホ」と誤報したのか?思考停止軍団の実態

  • Business Journal
  • 更新日:2019/08/14
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取材に応じる、武本さんの高校時代の同級生Aさん

京都アニメーション放火事件をめぐり8月4日、フジテレビが、犠牲となった武本康弘監督(同社取締役)を悼む同窓生の「あんな天才いません」という発言を紹介する際、誤って字幕に「あんなアホいない」と書かれたテロップを流した。この信じられない誤報道は、なぜ起きたのか――。

8月4日の日曜日、猛暑のなか、久しぶりに伏見区の京アニの社員らを悼む献花台を大型バイクで訪れた。献花を終えた人を報道陣が囲んで「ゆかり話」を聞く恒例の風景。ちょっと重要そうな人に見えたので、筆者も混じって話を聞いた。偶然、『らき・すた』『涼宮ハルヒちゃんの憂鬱』『氷菓』などの作品で知られ、47歳で命を絶たれた武本さんの兵庫県西部の高校時代の同級生Aさん(47/男性)だった。

Aさんは武本さんと同級生というだけでなく、「文芸部」という高校の部活でも一緒だった。直後にも報道で知って献花に訪れていたが、2日に京都府警が正式に武本さんの名前を発表したので2週間ぶりに来たという。「葬儀も終わってしまっていて、ここしか気持ちを表せる場所がないんですよ」とAさんは話していた。

あの日、ニュースで京アニが火事だと知った。「やばい」。Aさんは慌てて武本さんの携帯に電話をかけたがつながらない。メールを送っても返事はなかった。「ニュース見た、大丈夫ですか?」「地元のみんなが心配しています」「お願いです。一報ください」などと祈るように伝えたスマホの画面も見せてくれた。「よく東京に出張してるから、今回もそうであってほしい、と願いながら必死でメールしたんです。でも……」とうつむく。

卒業後も文芸部OBは、毎年正月などに集まっていた。今年も最後に会ったのが赤穂市での正月の集いだった。Aさんは、武本さんの高校時代からの年賀状や、武本さんがさらっと描いてくれたアニメ主人公のような絵も大切に持っていた。それらを撮影はしない条件で報道陣に見せてくれた。賀状の一つには、「大好評」という言葉をロゴにしたものが並べられるデザインのものがあった。「ほらっ、このセンス、すごいでしょ。絶対にできませんよ」とAさんは興奮気味に話していた。

「タケチンは当時、いのまたむつみ(1960年生まれ。漫画家、イラストレーター)さんの作品が好きだった。憧れていましたね」などと話したAさんは、「タケチンは僕らとは全然違う、もう天才でした。周囲の人間が嫌になってしまうほどの才能でした」と武本さんの高校時代からの天才ぶりを盛んに強調した。Aさんはそんな武本さんを間近に見て「あんな天才がいるんでは、自分なんかとても無理」だと思ってアニメの世界で働くことは考えなかったという。「僕らの出世頭でしたよ。誇りでした」などと話して帰っていった。

フジテレビの誤報

この囲み取材の様子がこの日の夕方、フジテレビの報道番組『Live News it!』で放映され、仰天の出来事が起きる。本人の希望でAさんの氏名や顔は伏せられていたが、画面では「天才だったからね、あんな天才いませんよ。絵見たらわかる、シナリオ見たらわかる」などとAさんが語っている場面が紹介された。ところが、これらを語っている間の、画面のテロップでは「『らき・すた』監督の同級生も『あんなアホいない』追悼」となって流れているのである。これではAさんが「武本はアホやった」と言っていることになる。

一体どういうことか。フジテレビは局内で約7分後にその間違いに気づき、慌てて奥寺健アナウンサーが「京都アニメーションのニュースの中でサイドバー、字幕が誤っていました。正しくは『あんな天才はいない』でした。大変失礼致しました」と謝罪し、頭をさげた。

それにしても、なぜ「天才」が「アホ」に化けたのか。フジが報道各社に説明したところによれば、テロップを発注した番組制作スタッフが手書きした「天才」の文字が雑だったため、別のスタッフが「アホ」と読み間違えたのが原因という。その後のチェックも甘く、放送後に局内で気付いたという。 フジは「武本監督の名誉を傷つける誤りで、ご遺族の皆さま、取材に応じてくださった同級生をはじめ関係者の皆さまに、多大なご迷惑をおかけしたことを深くおわびします」(広報室)とコメントした。

確かに「天才」を雑に書き飛ばせば、「アホ」に似たような字になるかもしれない。だが、仮に「アホ」と読めたからといって何も考えずにそのままテロップにしてしまうものか。親しい友人に病死などされた男が、葬儀などで「なんで俺より先に逝くんだ。大馬鹿野郎」などと泣きながら言うようなことはある。しかし今回の凄惨な事件の被害者に対しておよそ、そんな言葉で友人が悼むとも考えにくい。

前例のない凄惨な事件を番組が扱っているなら、「アホ」などという侮蔑的な単語には神経質になるのが普通の報道者の感覚だ。フジは単に流れ作業をしているだけで、自分たちが何を報道しているのか、何も考えない「思考停止軍団」なのだろう。フジは「生放送で時間に追われていた」などとも弁明しているが、そういう問題ではない。この局の社員には、常識が完全に欠如している。

考えられないような誤報に、ツイッターなどでは「あんな天才いないと答えたのに、あんなアホいないと表示。わざとだろ」「天才とアホ、どうやったら間違うんや」「間違ったのではなく故意でやったんだろう」「意図的に変えているとしか思えない。何考えてんだフジテレビ」などの声が相次いでいる。

さすがに故意とは考えられないが、こうした反応が出ても仕方がない失態だ。いずれにせよ、フジテレビのお粗末さには仰天するしかない。国民が注視する前代未聞の重大事件を報じるときにすら、緊張感もない「思考停止」のフジに、もはやこの事件を報じる資格はあるまい。

(写真・文=粟野仁雄/ジャーナリスト)

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