拉致の目的は何だったのか

  • 西日本新聞
  • 更新日:2017/09/17

北朝鮮情勢に詳しい康仁徳(カンインドク)・元韓国統一相の研究所をソウルに訪ねたことがある。

日本人拉致を指示したとされる金正日(キムジョンイル)・朝鮮労働党総書記が存命のころである。拉致の目的を、私はまだ十分には理解できないでいた。

「確かに朝鮮語も話せない日本人を拉致してどうするのか。理解し難いでしょう」と康氏は話し始めた。

工作員を日本人になりきらせ、韓国で活動させるために拉致被害者を教育係にした-これはよく知られている。

もう一つ挙げた。「日本を韓国革命(武力統一)の拠点にしようとしたのです。工作員が拉致した日本人の戸籍を乗っ取るなどして入れ替わり、革命の基地にする」

金総書記にとって最大の野望は朝鮮半島を思想と武力で支配することだったという。

康氏は、北朝鮮との対話を優先した金大中(キムデジュン)政権の統一相である。大げさに言う立場にない。北朝鮮が南進した朝鮮戦争の史実を見ても、その見解に間違いはないだろう。

15年前のきょう、日朝首脳会談で金総書記が初めて拉致を認めた。横田めぐみさんらは「死亡」と発表された。母、早紀江さんの叫びは鮮烈だった。「みんなの戦いで大変な問題(拉致)を暴露しました。日本にも北朝鮮にも大事な問題です」「めぐみはその犠牲になりました。本当に濃厚な足跡を残していったと思います。まだ生きていると信じて戦ってまいります」

日本の植民地支配、東西冷戦、北朝鮮の暴走…。娘はそんな歴史の中で生まれた拉致という国家犯罪の犠牲になった、と私には聞こえた。

政府認定の拉致被害者は17人、警察庁が拉致された可能性を排除できないとする人は883人に上るが、ここ数年は何の進展も見られない。核実験など暴挙を繰り返す金正恩(キムジョンウン)委員長は、武力統一路線も引き継いでいるとされる。

「歴史の歯車はきっと動く」。被害者解放に期待する康氏の言葉を聞いて10年が過ぎた。めぐみさん拉致からは11月で40年である。もどかしい限りだ。

=2017/09/17付 西日本新聞朝刊=

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