矛盾だらけのトランプ”孤立主義外交”

矛盾だらけのトランプ”孤立主義外交”

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  • 更新日:2019/07/22
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(iStock.com/flySnow/Purestock)

「アメリカ・ファースト」の掛け声でスタートしたトランプ政権の“孤立主義外交”が、見直しを迫られている。最近の米・イラン関係の深刻化にともなう「有志連合」結成呼びかけがその一例だが、アメリカ単独では対応しきれないグローバル化時代の難題に直面しつつあるためだ。

トランプ政権が2017年1月、発足以来単独で打ち出してきた外交・安全保障、通商面などの諸政策は、世界の多くの国にとって意表を突くものばかりだった。

環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱(2017年1月23日)に始まり、地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」離脱(同年6月1日)、対キューバ渡航・通商規制の強化(同年6月16日)、「イラン核合意」離脱(2018年5月9日)、史上初の米朝首脳会談開催(2018年6月12日)、米露中距離核戦力(INF)全廃条約からの離脱(2019年2月2日)……。

これらの政策の根底にあるのは、アメリカは伝統的に一国だけで政治も経済も運営でき、他国からの干渉も受けず、侵略される危険もなく、安全で豊かな生活が保証されるという自信にほかならない。

アメリカが、地理的にも歴史的にも世界に類を見ない恵まれた特殊な環境にあることについては、いみじくも稀代の戦略家ヘンリー・キッシンジャー元国務長官がかつて筆者にもこう語ってくれたことがある。

「誕生日(建国日)を特定でき、移民国家であり、東西(太平洋と大西洋)および南北(メキシコとカナダ)に外的脅威が存在せず、建国以来、曲がりなりにも統一国家として存続してきた。しかも国民を養うための経済活動も外国貿易に依存することなく、豊かな国内資源の活用と消費で十分事足りた。こんな国は世界のどこにも存在しない……」

しかし、だからと言ってアメリカがその歴史を通じ、孤立主義isolationismを貫いてきたかと言えば、無論そうではない。実際はその時々の世界情勢の展開によって、あるときは孤立主義外交を、またあるときは関与政策policy of engagementを推進するというその繰り返しだったと言える。

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(Moussa81/gettyimages)

戦前におけるアメリカ孤立主義の代表例としてしばしば引用されてきたのが、1823年、第5代ジェームズ・モンロー大統領が宣言した「モンロー主義(Monroe Doctrine)」だった。その狙いはもともと、当時、中南米植民地において盛り上がりつつあった民族独立運動について欧州諸国に対し不干渉を求めると同時に、アメリカも欧州の戦争に関与しないことを約束したものだった。さらに、当時アラスカを領有していたロシアが太平洋岸沿いに南下政策をとることにクギをさす目的もあった。

ただこの間、アメリカは自国の殻の中に閉じこもりきりだったわけではなく、メキシコとの「米墨戦争」(1846-48年)で勝利し、メキシコ領だったカリフォルニア、ネバダ、アリゾナ、ニューメキシコ、ワイオミング、テキサスを割譲させるなど、北米大陸内での領土拡大に成功している。

第一次大戦では当初、欧州大陸を主舞台とした戦争であることを理由に傍観していたが、勃発から3年後の1917年、戦域が中東、アフリカ、太平洋にまで拡大するに及んで英仏など連合国側に加わり参戦した。結果的に連合国側の勝利に終わったが、米国内で高まりつつあった厭戦気分に後押しされたウッドロー・ウイルソン大統領の提唱で終戦後の1920年に設立されたのが、世界平和を希求する「国際連盟」だった。

ただ、皮肉にもアメリカは設立の際のイニシアチブを発揮したものの、米議会の批准を得られず、正式には最後まで加盟しないままだった。この当時の米国世論はいぜんとして、世界との関わりをできるだけ避けようとする「モンロー主義」を引きずっていたといわれている。

しかし第二次大戦以降は一転して、対外関与政策に転換することになる。その引き金になったのが1941年12月の「真珠湾奇襲攻撃」だった。それまでは以前本稿でも述べた通り、トランプ大統領の看板スローガンにもなっている、その名もずばり「アメリカ・ファースト委員会(America First Committee)」などに代表される孤立主義運動が全米を闊歩しつつあった(本稿2018年12月24日付『トランプと英雄リンドバーグとの奇妙な接点』参照)

アメリカ外交の基本スタンスは大戦後、朝鮮戦争、ベトナム戦争、東西冷戦、湾岸戦争などに象徴されるように、孤立主義を遠ざけ、どちらかと言えば一貫して積極関与主義に彩られてきたということができよう。そしてそれは、民主、共和の党派にかかわりなく超党派的アプローチでもあった。

これを根本から覆そうとしてきたのが、トランプ大統領にほかならない。

確たる国際貿易ビジョンを欠いたまま

政権発足後、事前協議抜きで関係各国を困惑させた最初の単独行動が、TPP離脱だ。だが、その後の米通商政策をフォローすると、焦燥と混迷に彩られ、それに代わる確たる国際貿易ビジョンを欠いたまま今日に至っている。

それどころか、昨年1月には大統領は、共和党の大票田である食肉業界はじめ農業団体からの突き上げを受け、スイスのダボス会議で「TPPへの復帰検討」を表明、一方、日本初め参加11カ国は、一部加盟国の間で「アメリカの復帰を求める必要なし」との空気も広がる中で、同年12月、協定正式発効にこぎつけた。取り残された米政府は日本などとの新たな二国間合意で通商面の不利をカバーしようとしているが、長期的な展望を開けないままでいる。

この間、TTPとは別に、ASEAN10カ国に日中韓、オーストラリア、ニュージーランド、インドを加えたアジア16カ国は今年6月、東アジア包括的地域経済連携協定(RECEP)早期締結に向けた第26回会合を開催、ここでもアメリカ抜きの大規模自由貿易圏形成の動きが加速しつつある。
このままではアメリカは、21世紀グローバル経済の中心的存在であるアジア太平洋から取り残される一方となるだけに、トランプ大統領のこれまでの孤立主義外交は重大な試練に直面しているといっても過言ではない。

安全保障面でも核戦略ビジョンはいまだない

同様に安全保障面でも、自家撞着に陥っているのが、ロシアとのINF全廃条約からの一方的離脱だ。ロシアが「条約に違反し、戦力増強を図っている」(ポンペオ国務長官)ことが、離脱の主な理由だが、その後、説得力ある核戦略ビジョンはいまだないに等しい。

結局、ロシア側も今年5月、アメリカの動きに反応する形で「条約は失効した」との判断を示すとともに、セルゲイ・ショイグ国防相談話を発表、地上配備巡航ミサイル、および新型中距離ミサイルの生産に着手する方針を明らかにした。

これに対しトランプ大統領は「米露2国間だけが条約で縛られ、中国が対象外になっているのはおかしい」として、従来のINF条約に代わる米中露3カ国による新たな核軍縮交渉開始について先月、東京で行われた米中首脳会談で習近平国家主席に持ちかけた。だが、中国側からは、冷淡な反応しか得られなかった模様だ。

このままでは、INF条約を自らの手で消滅に追いやったものの、その結果ロシアにさらなる核戦力増強の口実を与え、アメリカとしても対抗上、一層の軍拡レースを迫られるという矛盾を抱え込むことになる。

さらに戦略的展望を欠いた米政権の一方的INF条約離脱の結果、欧州同盟諸国が、ロシアの中距離核戦力の新たな脅威にさらされるだけに、今後、米欧関係により一層の亀裂を生じさせることも懸念される。

米・イラン間の緊張激化

一方、孤立主義外交の矛盾が端的に露呈したのが、米・イラン間の緊張激化だ。

国務、国防総省当局者は19日、イランとの関係悪化にともなうホルムズ海峡の安全確保を目的とする「有志連合」の結成に向け、日本など関係各国の外交団をワシントンに招集、米側の方針を説明するとともに、協力と結束を求めた。

ロイター通信が18日、米政府当局者の話として報じたところによると、今回の「有志連合」結成の本当の狙いは、米・イラン間の関係悪化の余波でホルムズ海峡を航行する西側各国のタンカーに対するイラン側の挑発行為がエスカレートし、その結果として両国間の戦争の危険が高まることを極力回避することにあるという。

もしそうだとすれば、ポンペオ国務長官、ボルトン大統領補佐官ら“好戦派”とされる米政府内の強硬意見とは対照的に、戦争に踏み切ること自体に消極的なトランプ大統領の強い意向が反映されていることを意味する。

それでも、ドイツ、フランスなどの諸国は、同海峡を行き来する自国タンカーの護衛自体についても、かえってイラン側を刺激しかねないとして、きわめて消極的態度を示しているという。

いずれにしても、1991年当時、「有志連合」による多国籍軍が米軍主導の下でイラクのサダム・フセイン政権打倒めざし果敢に戦った時のような熱気と連帯感は、今回各国会合参加者の間ではほとんど感じらないのが実態だ。

これはある意味で、ごく自然の反応ともいえよう。

なぜなら、今回の「イラン危機」はそもそも、トランプ政権が昨年5月、日欧同盟諸国の反対を押し切り一方的に「イラン核合意」離脱に踏み切ったことから始まったものであり、積極的に対イラン「有志連合」結成に参じる道義的理由が存在しないからにほかならない。

この点に関連して、在ワシントンの国際問題研究機関として定評のある「ジョンズホプキンス高等国際問題研究大学院」のバリ・ナスール学院長はニューヨーク・タイムズ紙とのインタビューで明快にこう語っている。

「現下のイラン危機は、アメリカによるイラン核合意離脱行為と他の参加諸国の同調拒否に起因するものであり、まったくと言っていいほど、トランプ政権の手によって作り出された(manufactured)ものだ。これらの国がアメリカの説得に応じなかったのは、基本的に、トランプ政権の対イラン政策そのもののクレディビリティが欠如しているからにほかならない」(同紙5月14付)

結局、トランプ政権は単独でイラン核合意から離脱したことがきっかけで危機を作り出した揚句、戦争回避のために今度は「有志連合」結成というかたちで各国の協力を求めざるを得なくなったわけだ。自らが抱え込んだ矛盾を白日の下にさらけ出したと言わざるを得ない。

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