イラン反政府デモ、火を付けたのは投資詐欺

イラン反政府デモ、火を付けたのは投資詐欺

  • WSJ日本版
  • 更新日:2018/01/12
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デモ参加の呼びかけは、イランで人気のメッセージアプリ「テレグラム」のグループチャンネルを通じて届いた。サフラン輸入会社で経理を担当するヨネスさん(42)は、法外な利回りを約束していた金融業者が倒産したことで大切な蓄えを失った。約1000人のグループメンバーの多くも同様の目に遭ったという。

イラン北東部の都市マシャドに住むヨネスさんは、手持ち資金と会社からの借金を合わせ、およそ2万ドル(約220万円)を投資した。この業者は最大27%の利回りをうたっていた。銀行に比べ15ポイント高い水準だ。ヨネスさんはまだ投資額の20%ほどしか回収していないと話す。

「我々は全財産を失ったが、誰も気にかけていない」。政府の報復を恐れるヨネスさんは姓を明かさないことを条件にウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の取材に応じた。彼の話では、金融業者はイラン中央銀行の後ろ盾があるように見せていたという。「政府が認め、許可を与えた会社が高い利回りを提供するなら、投資をしない手はないだろう」

規制の緩い金融業者から損害を被ったイラン人は数百万人に上る。2017年は年間を通じてこうした被害への抗議がくすぶっていた。鬱積(うっせき)する不満が爆発したのは12月28日に始まった反政府デモだ。その勢いは収まらず、イランでほぼ10年ぶりの規模に拡大した。ヨネスさんたちもデモ行進に加わった。

金融詐欺を巡る不満は、たちまち経済に対する幅広い抗議へと姿を変えた。特に2015年の核合意で欧米諸国からの経済制裁が緩和されても、生活水準が向上しないことへの失望感は大きかった。

物価上昇や穏健派ハッサン・ロウハニ大統領の経済政策へのこうした不満によるデモはほどなくして同国の最高指導者アリ・ハメネイ師の退陣要求へと変貌していった。政府の治安部隊が鎮圧に乗り出し、4000人以上を拘束した。デモによる死者は20人を超えた。

ハメネイ師はイランと敵対関係にある米国やイスラエル、亡命中の反体制派などが混乱をあおったと主張。9日にはデモ隊の訴えの一部は正当だと初めて認め、ロウハニ政権に責任を転嫁しようとした。

デモはここ数日で沈静化している。ただ、デモ拡大をもたらした労働者階級の不満が解消されたわけではない。インフレ率は2ケタに達し、失業率は12%前後、まん延する汚職が国の富を奪っている。

イランの問題の縮図

イラン経済はここ何年も混乱状態にある。国際的な制裁に加え、構造的な経済運営のまずさやシリア、イラク、イエメンにおける戦費の負担が圧迫要因となっている。国際通貨基金(IMF)が今年の成長率を3.8%と予想するように、核合意が経済成長を後押ししたのは確かだが、根底にある問題は解決されていない。

労働者は過去1年間、巨大天然ガス田「サウスパース」や、砂糖やセメント、タイヤの工場など、各地の産業・エネルギー施設でストを決行してきた。不満の理由は給料や年金の未払いが何カ月も続いていることだ。

ロウハニ政権が12月初旬に示した政府予算案はさらに波紋を広げた。政府の管轄外にある宗教団体や聖職者機関に数百万ドルが支払われ、イスラム革命防衛隊には約80億ドルの予算が配分されていた。その一方で、貧困者向けの給付金は削減され、一部の燃料価格は50%引き上げられる可能性があった。

とりわけ激しい抗議の声が上がったのは投資を巡る状況だ。そこには同国の最も根深い問題の一部が凝縮されている。

金融ビジネスは2000年代半ばに急速に拡大した。マフムード・アフマディネジャド氏率いる前政権下で、民間資本および半官半民の信用組合が合法化されたのだ。インフレや通貨の下落で購買力が実質的に低下したイランの労働者階級や中間層は、少しでも資金を増やすためこれに飛びついた。

IMFの推定ではこの種の金融業者は7000社以上あったとみられる。政府の公式説明によると昨年まで同国のキャッシュフローの25%を管理していた。ロウハニ氏は昨年8月、中銀に対し、それらの業者に厳格な仕組みを課したうえ、利息の上限を15%に抑える措置をとるよう命じた。

イランのアナリストやエコノミストは、初めから失敗する運命にあったと指摘する。これらを所有・運営していたのは金融専門家ではなく、宗教団体や裁判官、革命防衛隊と密接なつながりがある者だったからだ。

運用資産の多くは不動産開発ベンチャーに投じられたが、投資家に約束したリターンを確保できるほど利益は出なかった。規制も説明責任もなく透明性を欠いていたうえ、汚職の文化が多くの業者の破綻を早めることになった。

不満に乗じる政治家

イラン当局が近年、強制的な統合やより健全な金融機関への資産移転、正式な銀行への転換などの方法で、問題に対処してきたことをIMFは評価している。だがそうした措置は全ての預金者への資金返還につながっていない。イランの苦悩は、いわゆる「理財商品」を抑え込むのに苦慮してきた中国とそっくりだ。高利回りをうたう金融業者の破綻は中国でも社会不安を引き起こした。

財産を失った人々は選挙で選ばれた公職者に会い、首都テヘランの国会前で集会を開催し、イゼー、ホラムシャフル、ドルード、トイサルカン、アブハル、コムの各市でデモ行進した。ここ2週間、最も大規模かつ暴力的な反政府デモの一部が見られたのもこれらの都市だ。

「ハメネイに死を」、「聖職者は消えうせろ」。デモ参加者はこう叫んで気勢を上げた。ソーシャルメディアで共有された出所不明の動画には、若者たちがハメネイ師の写真を引き裂いて燃やし、肖像画にスプレーで落書きする様子が写っていた。平和なデモは激しい暴動へと変わり、群衆は警察の派出所を破壊したり、神学校やモスク(礼拝所)に火を放ったり、アラークの州知事庁舎を襲撃したりした。

12月28日のデモを呼びかけたテレグラムのグループは「抗議への招待状」という名前だったが、その後に削除された。管理人のハメド・モバヘディ氏は、保守強硬派の政治家ジャバド・カリミ・ゴドゥーシ氏のおいにあたる。ゴドゥーシ氏はマシャド選出の国会議員で、核合意や経済開放路線、欧米との関係改善に反対している政党のメンバーだ。

ゴドゥーシ氏にはコメントを求めるための連絡がつかなかった。

左:原油生産(日量、単位:100万バレル)、中:GDP(年率)、右:リアルの対ドル相場

https://asset.wsj.net/dynamic-insets/ai2dynamic/1515687993962.json

ロウハニ氏と対立する保守強硬派は、金融被害の広がりに乗じ、政権の経済政策を痛烈に批判しているほか、金融機関が不正の罰を逃れるのを黙認したと同氏を非難している。ただ、モバヘディ氏や保守強硬派は、抗議デモの燃え上がりやすい性質を過小評価していたとアナリストは指摘する。

「可燃物を大量に積み上げてマッチを差し、引火を待っている状態だった」。米シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)のシニアアナリスト、マリー・ドノバン氏はこう指摘する。「保守強硬派は人々の経済的不満やロウハニ政権のさえない経済実績につけこみ、それをデモ発生よりずっと前から兵器化していた。それが真実だ」

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