プライドの高いスズキが、なぜトヨタに急接近するのか

プライドの高いスズキが、なぜトヨタに急接近するのか

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2016/10/18

スズキの腹の中

「(トヨタ自動車の)豊田章一郎名誉会長にまず相談させていただき、豊田章男社長にも協業に関心を示してもらい、大変感謝している。スズキの将来のためにもしっかりと協議に臨んでいく」――。

38年間にわたって軽自動車最大手スズキのトップとして圧倒的な存在感を放つ鈴木修会長が先週水曜日(10月12日)、またも自動車業界の話題を独り占めにした。

米ゼネラル・モーターズ(GM)、独フォルクスワーゲン(VW)に代わる戦略パートナー候補としてトヨタ自動車にラブコールを送り、親子ほど歳の違う豊田社長との会見に漕ぎ着けて「両社の協力関係の構築に向けた検討を開始することを決めた」と打ち上げたのだ。

自動車メーカーとして世界10位のスズキは、年に約300万台の販売を誇る。仮に同社が傘下に入れば、トヨタは労せずして米独2社を引き離し、「世界一の自動車メーカー」の座を不動にできるとあって、このニュースが世界を駆け巡ったのは無理からぬことだ。

しかし、スズキは、不用意に同社を子会社扱いしたVWとの資本提携を強引に白紙に戻したほど独立自尊のプライドの高い企業である。あっさりトヨタの子会社になるとは考えにくい。修会長は何を考えているのか。腹の内を探ってみたい。

まず、修会長のプロフィールとスズキの沿革、近況をおさらいしておこう。

修会長は、1930(昭和5)年生まれの86歳。岐阜県出身で、中央大学法学部を卒業後、中央相互銀行(現愛知銀行)に入行した。その後、スズキの2代目社長である鈴木俊三氏の娘婿となり、1958年にスズキに入社した。

1975年、スズキは自動車排出ガス規制への対応に遅れをとり、経営破綻の危機に陥った。専務だった修氏が、トヨタの仲介を得て、当時トヨタの資本提携先だったダイハツ工業からエンジン供給を受けて急場をしのいだのが、この時だ。

スズキとトヨタは共に創業者が静岡県西部の出身で、自動織機の製造が祖業のため、当時から両創業家はひとかたならぬ親交があったという。1950年のスズキにおける労働争議にあたって、スズキがトヨタからの融資と役員派遣で危機を乗り切った話も有名である。

先祖に倣って、修氏自身も社長、会長時代を通じて豊田家との関係を大切にしており、この関係が今回の協業交渉の開始の布石になったとの見方は多い。

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〔PHOTO〕gettyimages

利益を22倍にした男

話を1978年に戻すと、鈴木家では義父や叔父が相次いで急逝する不幸が重なり、修氏は48歳でスズキの社長に就任した。

この頃、修社長の発案で、後部の荷物搭載スペースを広く取る「ボンネットバン」タイプの「アルト」を売り出した。徹底的なコストカットを行い、税制面で有利な商用車登録をすることによって、当時としても割安感の強い47万円の全国統一価格で売り出したことが奏功して、「アルト」は大ヒットした。

スズキは1981年に、後に「戦略的提携」先となるGMと最初の業務提携に合意(当時はいすゞとの3社提携)。GMからは、当初の5.3%からスタートし、ピーク時に20%の出資を受け入れた。

しかし、2008年にGMの経営危機が深刻化し、スズキはGMとの資本提携を解消。その後、2012年には、米国子会社アメリカンスズキモーター社を通じた米国での四輪車販売事業からも撤退した。

2009年になると、スズキはGMに代わるパートナーとしてVWを選び、「包括的提携」の基本合意を交わした。

しかし、この提携は失敗で、スズキは翌年契約を解除、VW保有のスズキ株(1億1161万株、議決権の19.90%に相当)の返却を求めて国際商業会議所の国際仲裁裁判所に仲裁手続きを申し立てた。手続きは泥沼化し、全株を取り戻したのは2015年のことだった。

この間、2000年に修社長は社長の座を後進に譲って会長に退いたものの、2008年にその社長らの健康問題が表面化。修会長が社長を兼務する体制になった。

その後、修氏はVW問題の決着にメドが立った2015年に、デンソーを経てスズキ入りした長男・俊宏氏に社長兼COO(最高執行責任者)職を譲渡。さらに今年5月に燃費不正問題が発覚したことを受けて、翌6月、修会長がCEO(最高経営責任者)職も俊宏社長に付与することで、問題にけじめをつけた。

振り返れば、修氏は、スズキの連結当期利益を社長就任時(1978年度)の51億7000万円から、2度目の社長職譲渡(2015年度)時の1166億6000万円まで実に22.6倍に押し上げた。今なお、スズキの圧倒的な顔なのである。

子会社化はナシか

一方、世界の自動車市場では、年間ほぼ1000万台の自動車を販売することから「1000万台クラブ」と呼ばれる大手3社(2015年は首位トヨタが子会社の日野自動車とダイハツ工業分もあわせて1002万台、2位GMが992万台、3位VWが979万台)と激しく凌ぎを削っている。

トヨタはここ4年間、首位の座を守っている。しかし、ルノー・日産グループが今月中に三菱自動車に34%の出資を行って同社を傘下に入れることで、ルノー・日産グループも1000万台クラブの仲間入りを果たすことが確実な情勢だ。トヨタも決して安閑としていられる状況にはない。

こうした中で、スズキは昨年、278万台を販売した自動車メーカーだ。このため、今回の協業協議がスズキのトヨタグループ入りに繋がれば、トヨタの世界一の座が確固たるものになると、大きな話題になったのだ。

だが、いきなり今回の協業協議が、トヨタによるスズキの子会社化に突き進む可能性は高くないと筆者はみている。そういうことが起きるとすれば、提携関係がうまく滑り出し、軌道に乗った数年後の話ではないだろうか。

というのは、スズキ、トヨタ両社は、冒頭で紹介した声明ではっきりと、「自動車業界は、従来の自動車そのものの開発技術にとどまらず、環境や安全、情報等の分野において先進・将来技術の開発が求められる」

「こうした分野では、個別の技術開発に加えて、インフラとの協調や新たなルールづくりを含め、他社との連携の重要性が増してきている」と、脱ガソリンエンジンの流れや自動運転技術の開発・普及における協業を前面に掲げているからだ。

スズキの手に余ること

自動運転の分野では米国でグーグルのような自動車には縁がなかった異業種企業による実証実験が先行しているほか、欧州企業各社も自動運転に必要な地図情報システムの開発・投資で日本勢より大きく先行しているとされる。

そうした中で、声明が「スズキは、軽自動車を中心に、価格競争力の高いクルマをつくる技術を一貫して磨いてきたが、先進・将来技術の開発に課題を抱え、危機感を持ってきた」としているように、その膨大な研究・開発費負担は、スズキの手に余る。

一方のトヨタにしても、「環境や安全、情報等に関する技術開発に取り組んでいるが、欧米各社よりも仲間づくり、標準づくりの面で遅れている」感が否めない。

そこで、「今回、両社が抱える課題を解決するためには、業務提携が有効であると考え、検討を開始することにした」というわけだ。

つまり、あえて、スズキを子会社化しなくても、年間300万台を売る世界10位のメーカーが、脱ガソリンエンジンや自動運転の分野でトヨタ陣営に加われば、トヨタ陣営が「規模の経済」という強みを持つのにおおいに貢献するというわけだ。

こうした分野で、トヨタが強固な資本提携の裏付けを省略して、業務提携というアライアンスを組む先例には、独BMWグループ(BMW、MINI、ロールス・ロイスの合計で年間約225万台を販売)とマツダ(年間約150万台を販売)がある。

また、2005年にGMとの提携を解消し、トヨタと資本提携した富士重工業のケースでも、トヨタは現在、発行済み株式の16.48%を持つ筆頭株主だが、トヨタはそれ以上の株式取得や子会社化の意欲は見せずに、ハイブリッド・エンジンや新型車両の開発での提携に基づく協力を黙々と進めている。

協業交渉のカギはインド市場!?

とはいえ、スズキとトヨタの協業となれば、もう一つ両社にとって喫緊のテーマがあるはずだ。中国、米国、日本、ドイツに次ぐ世界第5位の自動車市場に急成長したインド市場(2015年の販売台数342万5341台、業界団体調べ)を、協業の対象にできるかどうかである。

実は、スズキは、このインド市場で販売シェア37.6%(同128万9128台、同)と、2位の韓国・現代自動車のそれ13.9%(同47万6001台、同)を大きく引き離して首位の座にある。

これは、スズキが1980年代初頭から、インド政府の国民車構想に協力する形で同市場に進出、地道に市場育成に取り組んできた賜物だ。

結果として、自前のディーラー網だけで約2000店舗を誇り、依然として道路事情が悪く修理サービスのニーズが旺盛なインド市場で、ライバル各社の追随を許さない体制を敷いているという。スズキは、このディーラー網を今の2倍の4000店舗体制にする案も持つと聞く。

そもそも、かつてのスズキの包括的提携のパートナーであるVWは、スズキのインドでの強みを活かして、インド市場を中国市場に続くVWのドル箱にする戦略を描いていたという。それほど、インドは有望な市場と見られているのだ。

トヨタも、今年8月に完全子会社化したダイハツを通じて、インドというスズキの牙城の切り崩しにかかっても不思議のない状況といえる。言い換えれば、スズキとトヨタはインド市場を巡って激しい競争状態に陥り、協業どころではなくなるリスクがあるわけだ。

もし、インドでトヨタグループと凌ぎを削ることになれば、スズキは収益的に大きなダメージを蒙るだろう。

現在のところ、インド市場での売れ筋商品は、低価格の小型車、つまり日本の軽自動車に近いクラスだ。しかし、インドにも富裕層はいるし、次第に増えていくだろう。

この層をターゲットにして、スズキの流通ネットワークで、スズキが持たないトヨタの高級車を売ることは、両社にとって大きなメリットがあるはずである。そうすれば、ダイハツも出遅れたインド市場に経営資源を割くことなく、アセアン市場の深掘りやアフリカ市場開拓の布石を打つことが可能になる。

インド市場でのアライアンスこそ、今回の協業交渉の成否を握る重要なテーマであり、スズキの生き残りのカギを握るテーマだと筆者は睨んでいる。

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