日産ゴーン事件があぶり出した「世界自動車戦争」の意外な行方

日産ゴーン事件があぶり出した「世界自動車戦争」の意外な行方

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2018/12/07
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国家産業としての自動車製造業

ゴーン事件は、日本中の話題をさらい、陰謀説、クーデター説、日仏政府の権力争いなど色々な風説が飛び交っている。

もちろんその中には真実をついている話も多いように思われるが、忘れてならないのは、今回の事件、が単純に「日産V.S.ルノー」とか、「日仏政府の確執」などという次元を超えた、「世界自動車戦争」の氷山の一角であるということである。

例えば、トランプ大統領の産業政策にもおいても「貿易戦争」がクローズアップされる。トヨタのメキシコ新工場の建設に物言いをつけたりしながら日本の自動差産業にも圧力をかけているのだ。もちろん、日米貿易赤字の主たる要因としての自動車輸出にも釘を刺している。

トランプ氏が圧力をかけるのは日本の自動車メーカーだけではない。メキシコやカナダにもNAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉の過程で、以下の条件を飲ませた。

1)関税撤廃の恩恵を受けられる条件を定めた「原産地規則」を、域内の部材調達比率を62.5%から75%以上に引き上げる。
2)部材の40~45%は時給16ドル(円換算で日本の最低賃金の約2倍)以上の地域でつくるよう求める「賃金条項」を導入する(賃金の安いメキシコメーカーが大きな打撃を受ける)。
3)米国はメキシコに対し、高関税を課す条件となる数量規制を取り入れた他、通貨安誘導を防ぐための為替条項も盛り込んだ。

自動車産業は、極めて裾野の広い産業であり、一国の雇用にも大きな影響を与える。

自動車の部品を作っているのは、デンソーやドイツのロバート・ボッシュ(日本法人の名称はボッシュ)のような大手メーカーだけではない。

シートの製作には多くの繊維メーカーが関わっているし、炭素繊維などの先端的部品には東レなどが力を入れている。

また、電気自動車でなくても、最近の自動車にはパワー・ステアリング、パワー・ウィンドウなどのモーターが多用されるため、日本電産は車載用モーターに注力し始めた。

その他、電気部品をつなぐコード類などを含めて、1台の自動車にはおおよそ3万点の部品が使用される。その波及効果は驚くべきもので、例えば会社四季報の中から、自動車関連部品を全く扱っていないメーカーを探すのは、結構難しい作業である。

以下、世界中の政府が多かれ少なかれ関わっている「世界自動車戦争」について論じたい。

必死なのは日本やフランスだけではない

自動車産業や雇用を守るために必死なのは、別に日仏政府やトランプ大統領だけではない。

過去の米国も必死に3大メーカーを守ってきており、1980年代には「日本車たたき」を中心とした「ジャパン・バッシング」を政府ぐるみで行った。米国消費者にとって燃費・品質にすぐれ低価格の日本車は「大歓迎」であったが、3大メーカーの敵は米国の敵というわけである。

もちろん、米国の言い分は理不尽であったが、賢い日本のメーカーは優良顧客である米国との正面衝突を避け、現地米国で生産し、米国の攻撃を和らげるという賢い選択を行った。

日本車の性能がすぐれているということもあるが、現在、米国でトヨタをはじめとする日本メーカーが確固たる地位を築いているのも、この時の正しい判断によるところが大きい。

また、オバマ政権は、リーマンショック後の2009年、米連邦破産法11条を申請したGMを国有化した(2013年に国有化を解消している)。3大メーカーが落ちぶれてきているとはいえ、自動車産業がどれほど米国にとって重要なのかが分かる。

もちろん、先進国だけではない。マレーシアの国産自動車メーカー・プロトンは、今ゴーン関連企業として話題の三菱自動車の協力を得て産声をあげた。その後、英国のスポーツカー・メーカーのロータスを傘下に収める。2017年には共産主義中国の吉利汽車が49.9%の株式を取得したが、中国と距離を置くマハティール首相が復帰したことで、大きな動きがあるかもしれない。

また、東欧や旧ソ連邦諸国では意外にポピュラーなラーダは、ロシア製である。

負けて勝ったトヨタ、主張して負けたタカタ

2009年から2010年にかけてのトヨタの大規模リコール問題。米国で発生した時には日本でも大きく報道された。大騒ぎになったのは、それがブレーキ・アクセル系の誤作動を誘発し、人命にかかわるとされたからである。

2011年に米国運輸省が「トヨタ車に不具合はあったものの、電子制御装置に欠陥はなく、急発進事故のほとんどが運転手のミスであった」と報告したことや、騒動のきっかけとなったビデオが捏造であったことをABCテレビが認めたことで、トヨタの冤罪ははらされたといってよい。トヨタとしてはこの「いいがかり」に対してはらわたが煮えくり返っていたかもしれない。

しかし、「まず顧客を優先する」という社風に従って、トヨタは「顧客に不安を与えないために」リコールを粛々と行った。

確かにこのリコール問題で一時的にトヨタの名声に傷がついたかもしれないが、迅速かつ誠実な対応によって米国の消費者の心をつかんだのだ。つまり、「米国の消費者の信頼」を勝ち得たわけである。

それと同時に、米国政府と結託したマスコミなどのネガティブ・キャンペーンにも最終的には打ち勝ったのである。このキャンペーンが2009年のGM国有化と同時期というのは、いろいろな憶測を呼ぶところである。

それに対して自国企業として国有化までされて米政府に甘やかされ続けてきたGMは、トヨタの事件の後、「リコール隠し」ともとられかねない過去の問題が浮上してきて、対応に追われた。

米国政府が支援していても、「どの自動車を買うか決めるのは消費者」であるということを如実に示したのだ。

それに対して、2014年に米議会で公聴会が開かれた「タカタ」のエアバッグの不具合に対する対応は未熟であった。トヨタは、例え濡れ衣であったにせよ、消費者の不安感を一掃することに注力したのに対し、タカタはその主張にある程度の正当性があったにせよ、「命と直結するエアバッグ」の品質に対する大いなる不信感を消費者や納入先のメーカーに与える結果になったのだ。

さらには、米国が国策として行うネガティブ・キャンペーンの恐ろしさにも無頓着すぎたといえよう。米国にとって、自国の3大メーカーを脅かす、部品メーカーも含めた外国メーカーは、本音では招かれざる客なのである。

負け組国家のプロパガンダ、EV、自動運転

電気自動車や自動運転ブームの欺瞞については、このサイトの「騙されるな、空前の電気自動車(EV)ブームは空振りに終わる」「『完全自動無人運転』自動車など幻想と言い切れるこれだけの理由」で詳しく述べている。

特に電気自動車ブームは、ガソリン自動車、あるいはハイブリッド車では日本勢に歯が立たない欧州や共産主義中国の政府のプロパガンダであり、そのプロパガンダに乗って騒いでいるのがマスコミはもちろん、電気自動車化で恩恵を受けるメーカーである。テスラと組んだ某大手メーカーなどは最右翼であろう。

欧州の場合は、ディーゼルゲート事件によってNOxの排出量が米国の基準の最大40倍に達していることが明らかになり、ディーゼル化という国策が大コケしたことから、慌てて法律の規制で電気自動車化を進めようとしているが、これまでも述べた様にいくら法律で規制しても、消費者が受け入れなければ自動車は売れない。

また、共産党政府の中国の場合は、ガソリンエンジンでは永遠に日本の技術に追いつけないので、電気自動車という土俵で勝負しようと必死なのである。

ガソリンエンジンでは、少なくとも10年~20年は遅れているとされる。中国お家芸の産業スパイで情報を盗んでも、エンジンはアナログ技術の塊なので、図面1つでコピーできるような代物ではないから追いつけないのだ。

ちなみに、日本で電気自動車に力を入れているのが、経営危機でカルロス・ゴーンという首切り屋に助けてもらった日産と、リコール隠しという卑劣な行為で倒産の瀬戸際に追い詰められた「勝ち組ではない企業」であるのは決して偶然ではない。

自動車はどこまでやっても家電にならない

数々のすぐれた製品を市場に送り出してきたソニーは、これまであえて自動車分野に参入しなかった。

娯楽のための商品と人間の命にかかわる商品とは哲学が違うとの考えからだ。最近は、高度な技術を生かした車載部品にも関わりつつあるが、その姿勢は慎重である。

電気自動車が標準になったり、完全自動運転が実現することは当面ないだろうが、電動化や自動化の流れは確実に進む。

忘れがちなのは、どのような機械やソフトウェアーも故障(フリーズ)するということである。「この機械(パソコン)は100%故障しません」等と言うのは詐欺師だけである。むしろ高度化すればするほど機械は壊れやすくなる。

IT企業が電動化、自動化された自動車業界を席巻するなどという話がまことしやかに流されるが、ソフトウェアーを発売してから、ユーザーにバグを探させてアップデートするIT業界には自動車産業は荷が重い。

発売された製品に不具合があって直すのは自動車業界では「リコール」と呼ばれる一大事だ。まして、その不具合で死亡事故でも起これば、ブランドイメージに大きな傷かつく。

これから、国益をかけた世界自動車戦争が益々活発になるだろうから、その動向からは目が離せない。しかし、いくら各国が力づくでごり押ししても、自動車を買うのはあくまで消費者である。

結局、長期的には、安全性に優れ、信頼のおける対応をしてくれるトヨタ自動車をはじめとする日本メーカーが世界を席巻するであろう。

黎明期には無数にあった米国の自動車メーカーは3社に集約されたが、今後その動きは世界規模で起こるだろう。

一足早く、航空産業では、ビジネスジェットなどを除く大型の旅客機がすでに、ボーイングとエアバスの世界2大会社に集約されている。

世界自動車戦争で最後の勝者となる数社の中にトヨタ自動車が入ることはほぼ間違いない。トヨタと連携している多くの自動車会社もその恩恵を受けるだろう。

しかし、今回のゴーン事件で大混乱が予想され、日仏政府の板挟みになるであろう日産、それに繰り返しリコール隠しを行った隠ぺい体質の三菱自動車がその中に入ることは、日本勢であるとはいえほとんど考えられない。

電気自動車化を推進するフランスにとって、欧州電気自動車売上No.1のリーフを持つ、日産は手放したくない企業だとは思うが……。

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