GSOMIA破棄の衝撃...韓国・文在寅に対抗するには「攻守」が必要だ

GSOMIA破棄の衝撃...韓国・文在寅に対抗するには「攻守」が必要だ

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2019/08/23
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「真相を語る」ということ

1907年ハーグ密使事件をご存知だろうか。

オランダのハーグで開かれた第2回万国平和会議に大韓帝国(韓国)の皇帝高宗が密使を派遣し、日本が韓国の外交権を握った第2次日韓協約の不当性を各国に訴えた事件である。

各国は訴えに耳を貸さず、絶望の中で密使の一人の李儁(Yi Jun)はハーグで死亡した。事態を問題視した日本は、高宗を退位させ、1910年に韓国を併合する。

当時の日本の駐蘭大使は、「丹毒」が死因だと本省に電報した。日本の情報サイトには李儁はハーグで自殺したとするものもある。しかし韓国の情報ソースには李儁は暗殺されたと伝えるものもある。密使事件を伝えるハーグ市内のYi Jun Peace Museumを紹介するオランダの観光サイトは、李儁は「不思議な死を遂げた」と解説する。

ハーグ密使事件には、100年以上たってなお、謎がある。慰安婦や徴用工などと同じように、真相を語るには、慎重さが必要なようだ。

しかしいずれにせよ、この事件は、大きな歴史的文脈においても、現在まで続く日韓関係の構図を物語っている。

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〔PHOTO〕gettyimages

韓国は、各国に対して、日本の非を訴える。日本は、制度的な優位を強調する。各国政府は、静観しながら、制度を維持する側につく。しかし韓国は、制度論をこえた情緒を示す。各国のメディアや市民運動を通じた国際世論は、韓国に同情的になる。

これは現在、日本が国際法に訴えて、韓国が歴史認識に訴えて、それぞれの正当性を確保しようとしている構図と同じだ。

伊藤博文は、当初は日韓併合に消極的だったといわれる。しかしハーグ密使事件以降の動向をふまえて、最終的には併合もやむを得ないという意見に切り替わった。実際のところ、外交権の確保だけで済ませる政策が、日本の実利からすれば最善だっただろう。だが最終的には、併合しか、事態を管理する方法がないと判断された。

日本の側もむき出しの植民地主義で韓国を併合したわけではなく、いわば情況の囚人だった。列強が朝鮮半島を狙う帝国主義時代の国際政治の現実と、煮え切らない外交権取得による日韓関係の維持との板挟みの状況の中で、判断がなされた。

歴史に「もし(If)」は禁物だというが、日韓関係に違う歴史はありえたのか。
ハーグ密使事件を思い出して感じるのは、状況を冷静にふまえたうえで、長期的な利益をふまえた管理の方法を模索することの大切さである。

国際法vs.歴史認識

日韓関係の緊張度の度合いを見ると、抜本的で即効力のある解決策を見つけるのは難しそうだ。不安定性を引き受けながら、管理方法は見出さなければならない。事態は単純ではない(参照:ネトウヨ批判を存在証明とする「知識人」たち)。

日本は、元徴用工問題を、日韓請求権協定違反の問題として捉える。「ホワイト国」からの除外を、貿易ルールの運営の問題として説明する。

これに対して韓国は、元徴用工問題を、日韓請求権協定の対象外となる植民支配の問題だと主張する。

現在のところ、日本と韓国の対立は、国際法を主張する立場と、歴史認識を優先する立場との間の対立という構図になっている。1907年当時と同じである(参照:日韓対立は「国際法vs.歴史認識」日本国内の対立も)。

お互いの立場はかみ合っていない。相手への譲歩は、相手の土俵から発する追加的な問題への直面を意味するので、採用することができないからだろう。

日本からすれば、元徴用工をめぐる韓国大法院判決を認めてしまえば、日韓請求権協定に風穴があき、20万人とも言われる元労働者が日本企業数十社に損害賠償を求めることを許すことになる。

韓国からすれば、大法院判決は国家の威信をかけた歴史認識の問題となってしまったので、その考え方を修正することはできない。

双方が自らの立場を変更することができない以上、状況の管理には、双方が自らの立場を変えることができない、という認識を共有し合うことが、まずは必要である。

両国の間には破壊したくない共有する利益もある。端的には、安全保障問題である。両国ともに米国の同盟国であり、日韓関係の悪化が米国との関係の悪化に波及し、それぞれの同盟体制が危機に陥らせることは避けたかったはずだ。GSOMIA(軍事情報包括保護協定)破棄の余波は大きいだろう。

北朝鮮との関係は微妙だ。文在寅大統領は朝鮮半島統一の暁には、いよいよ本格的に統一朝鮮が日本を追い抜くと息巻いた。しかし北朝鮮は反発しかしていない。北朝鮮に対する防衛体制は外せない。

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中国もまた、重要要素であることは言うまでもない。中国は、「反日」政策で韓国に同調する地政学ゲームを自重している。「貿易戦争」問題、香港民主化運動への対処など、繊細な問題を抱えている。

政策オプションの裁量の幅を、韓国の反日運動に同調する精神論で狭めてしまうことを避けている。中国は、日韓関係の悪化を喜んでいない。中国を巻き込むことは、危険な火遊びになる。

日韓両国が、何か画期的な方法で相手の立場を変えさせることができるかもしれない、という願望を捨てるということ、それは状況管理のカギでもある。

理解し合えないなりに「状況を管理する」ということは、理解し合えないからといって「断行する」「報復戦争を辞さない」といったことまではしない、ということである。なぜなら状況管理の放棄は、両国にとって不利益が大きすぎるからである。

このことについて、「丁寧に無視する」、「距離を置く」、「合意できないことに合意する」、などの微妙な違いのある様々なニュアンスのある表現がある。ただし「分かり合えないとしても、状況を管理すべきだ」という出発点は、まず了解しておきたい。

韓国は、GSOMIAの再開は、日本の「ホワイト国」復帰とセットだと迫ってくるだろう。アメリカにもそう訴えていくのだろう。

日本としては、安易な貿易管理での妥協は、かえって安全保障の観点から危険だ、とアメリカに訴えることになる。貿易管理体制の整備を確証するための協議を提案するくらいはせざるをえないかもしれない。

現状では、対抗措置は無益だろう。長期的には、日本は、米韓同盟の弱体化の時代においても日米同盟を堅持していくための政策を考えなければならない。

国際法は「攻め」の態度で

この出発点をふまえて、日本がとるべき政策的態度について、考えてみたい。

日本は国際法を参照した主張を行い、歴史認識を参照した議論を警戒している。とすれば、日本は国際法に関して攻めの態度をとり、歴史認識に関しては守りの態度をとりながら、日韓関係の管理に努めるべきだ。

国際法については、攻めの態度がほしい。積極的にアイディアを出したい。

現在、日本政府関係者は、韓国大法院判決を「国際法違反だ」と言って反発している。それはいい。しかし「早く問題解決しろ」と冷たく言い放っているだけに見える態度は、韓国内世論だけでなく、国際世論も意識すれば、気を付けたほうがいい。

国際法と国内法は、二つの別個の法体系である。国際法の観点から見て納得できない国内裁判所の判決が出た場合でも、その判決が出たという事実自体から目をそらすわけにはいかない(参照:さらに深刻化した「徴用工問題」で日本は何を目指せばいいか)。

両者の関係を整備する「調整」には不断の努力が求められる(参照:日本の憲法学は本当に大丈夫か?韓国・徴用工判決から見えてきたこと)。

まずは説明が必要だ。

個人請求権の有無が論点であると誤解されている向きもだいぶある。日本が理解する韓国大法院判決の問題点を、国際法の観点から丁寧に説明することが必要だ。外務省でも、何らかのシンクタンク機能を持ったチャンネルでもいい。

しっかりと日本政府の国際法理解を説明することを通じて、韓国側に日本の立場の変更がありえないことを、伝えていかなければならない。

しっかりとした主張をすると、韓国人がさらに怒るのではないか、と考えるのは、間違っている。主張するのを避けていたら、いつまでたっても日本政府の態度を変更するための運動を過熱化させるだけだ。

日本政府の国際法上の立場をはっきりとさせた後で、韓国の司法府の判断が出てしまったという事実自体は受けとめるべきだ。繰り返しになるが、国際法と国内法が食い違うことがあると認めたうえで、「調整」の努力をするのは、仕方がないことだ。

日本は国際法を無視した憲法解釈の運用を数十年にわたって行っている。詳しくは拙著『憲法学の病』などを見てほしいが、これは主に日本の憲法学に内在するイデオロギー的事情による国際法無視・国際法軽視の傾向によって発生している事態である。憲法学通説に、最高裁判決などの裏付けはない。したがって憲法解釈の是正が望ましい。

しかし元徴用工問題に関しては、韓国司法府の判断が確定してしまった。したがって韓国政府を一方的に責め立てるのではなく、具体的な是正策を示唆したり、話し合ったりするのは仕方がない。

具体的には、将来の訴訟を防ぐための韓国国内の立法措置が必要だ。そのためには行政府の財政措置も必要だろう。

また、確定した判決に基づいた差し押さえが発生した場合に、日本がとるべきもっとも論理的な対応は、国家責任法の考え方にもとづいた損害賠償請求である。

民事事件への対応ではあるが、司法府の決定は、国家行為であり、国家責任を伴っているからである。

財団設立については、拒絶するのではなく、日本政府が関与しない韓国側の努力としては評価する、という言い方にしていってもよいのではないか。

差し押さえで発生した損害に対応してもらったり、韓国や日本の企業は民間人が参加したりすることに、日本側から見て問題があるとは思えない。

もちろん、韓国がこれらの措置を容易に導入するとは思えない。少なくとも、「心からのお詫び」のような条件を求めてくるだろう。交渉が成立するかどうかは具体策の内容による。だが、重要なのは、そこではない。

交渉が成立しない場合でも、日本が「調整」のための努力をしている、という態度を示すことが、韓国世論に対してだけでなく、国際世論に対して、重要なのである。

「国際法違反だ」とだけ呟くという態度は、世論対策の観点から、望ましくない。「調整」案を説明することは、国際法の観点からは日本の立場が正しい、ということをアピールする良い機会にもなるはずだ。

歴史認識は「守り」が必要

歴史認識については、守りの態度が必要だ。

慰安婦問題や徴用工問題は、残念な歴史である、という考え方を反映した態度が必要だ。居直りと見なされるような態度は、韓国世論に対してだけでなく、国際世論に対して、得策ではない。

民族の独立への思いに対する尊重や、苦難の人生を送った者への敬意の表明は、日本側も躊躇すべきではないと思う。そういう人間味のある言葉が、日本側からももう少しなされていい。

韓国人への敬意の表明は、日本が韓国に対して抱いている優越心なるものが歴史の遺物でしかないことを明らかにすることにもなる。

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21世紀の現代世界において、日本人が韓国人に対して抱く優越心などには根拠はない。そのことを普通の日本人はよく知っている。

韓国は、むしろ実力が拮抗するライバルである。だからこそ、譲歩による解決が、日本社会で説得力を失っているのである。そのことを、韓国及び世界に、知らしめていかなければならない。

元徴用工をめぐる具体的な史実をめぐる情報も、しっかりと欧米人なども簡易に参照可能な形で、提供していかなければならない。双方が納得し合うことが困難な問題であるからこそ、国際世論に影響を与える第三者が見る情報の提供が重要になる。

根源的な問題は、日韓併合の歴史認識である。韓国は、歴史認識の問題として、これを「植民地主義(colonization)」の問題として捉え、国際的なキャンペーン活動もしている。しかし実際には「併合(annexation)」である。

慰安婦問題を「性奴隷(sex slave)」とする言葉遣いが、国際的に広まってしまった(参照:日本はなぜ慰安婦問題で韓国に敗北したのか)。そのために、「強制的失踪委員会」が、日本政府の慰安婦問題に対する対応を遺憾とする見解を表明するなどの、あってはならない弊害が発生している(参照:「徴用工」問題を機に、日本は国際法対応の充実を急げ)。

日韓併合を「植民地主義」の問題とする言葉遣いの流通を黙認していれば、やはり広範な悪影響が及ぶことになるだろう。

韓国では、欧米の大学で学位をとった者が帰国し、高い社会的地位を得る確率が、日本の場合よりも、圧倒的に高い。アメリカの大学教員や大学院学位取得者らが好みそうな言葉遣いで「歴史認識」を表現していくことを、相当に政策的に行っている。

「植民地主義(colonialism)」は、欧米系の大学では「Colonial Studies」という近年に確立された分野との連動性を強調するという点で、含意のある言い方だ。こうした点に、日本の大学受験・司法試験・公務員試験だけで社会的地位を得ている日本のエリート層は無頓着なのだろうが、よく注意しておかなければならない。

日韓併合当時の国際社会では、強制的な条約による国家併合は違法ではなかった。

アメリカは19世紀を通じて独立国とみなしていたハワイを1998年に議会の議決を根拠にして併合し、真珠湾に軍事基地を建設した。日本は軍艦を送ってけん制したりしていたが、結局これを認めた。

アメリカは米西戦争を通じて、スペインにフィリピンを1898年に譲渡させた。フィリピン人の独立運動はアメリカによって軍事的に鎮圧された。1905年の桂・タフト協定は、大日本帝国がフィリピンに一切野心を持たないことと、アメリカが日本の大韓帝国の保護国化を認めることを、交換的に、確認したものだった。

ヨーロッパを見れば、例示の必要もない。少なくとも数百年の歴史を通じて、「勢力均衡」などを理由にした隣国の「併合」政策は、無数に行われていた。そのような行為のことを、「植民地主義」とは呼ばない。

日韓併合を美化すべきだ、ということではない。しかし「植民地主義」の結果だったという歴史認識が確定してしまえば、実態とは乖離した人種差別や排外政策および迫害のイメージが、史実とは関係なく、独り歩きしてしまうのである。

日韓併合の背景には、韓国には韓国なりの、日本には日本なりの事情があった。正面から向き合って一つだけの真実を探し出そう、などと呼び掛けても、絶対にまとまらない。ただ、冷静に歴史を語っていく機会を増やしたい。

戦前の日韓の歴史については、淡々と、事実を記述していく研究を、もっと推奨すべきだ。イデオロギー先行の歴史認識がはびこっている。守りの意識の程度で歴史検証の機会を増やすくらいがちょうどいい。

こうした時期にこそ、1907年ハーグ密使事件を思い出して、20世紀初頭の国際政治の厳しい現実を学ぶくらいの機会を、もう少し日本人も持つようにしよう、ということだ。

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