村上宗隆と廣岡大志の違いとは――ヤクルト・小川淳司前監督の若手選手論

村上宗隆と廣岡大志の違いとは――ヤクルト・小川淳司前監督の若手選手論

  • 文春オンライン
  • 更新日:2019/10/13

村上は「頑固さ」、廣岡は「素直さ」が長所

「実は村上(宗隆)の武器は《考えること》なんです。18歳という若さで、自分なりにいろいろ感じて、それを練習に取り込んでいくということは誰にでもできるものじゃない。彼に関しては、《考える力》が長けているというのは間違いないです」

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昨年のオフ、小川淳司監督が口にした「18歳の村上評」である。あるいは、2018(平成30)年開幕当初、廣岡大志に対してはこんな発言を残している。

「彼の場合は、見ていて楽しいんですよ。打ったとか、打たないとか、エラーしたとか、エラーしないとか、そんなこと以前に、彼がグラウンドにいるだけで楽しいんです。そういう選手はなかなかいませんよ」

あるいは、村上と廣岡を対比して、こんなことも言っている。

「村上にはいい意味での頑固さがあります。でも、廣岡にはすべてを受け入れようとする素直さがあります。どちらがいいとか悪いという意味ではなく、廣岡にあった指導法を我々がきちんと見つけなければいけない。そんな思いで彼には接しています」

温厚な人柄で知られる小川監督だが、ときには厳しい口調で選手を叱咤することもある。そのターゲットとなったのは梅野雄吾だった。小川さんは言う。

「二軍では試合に出ない投手が、試合中にチャートをつけることがあるんです。そういうときに、梅野の場合はその役目を軽く考えている様子が見られました。練習に関しても、そういう態度が目につくこともありました。これではやっぱり、プロでの成長が遅くなると思うんです。そういうこともあって、去年、一軍でなかなか結果が出なくて二軍に落とすときに、“お前、プロの世界をなめるんじゃないよ”と叱りました」

そして、小川さんは諭すように梅野に言ったという。

「いいか、謙虚さだけは忘れてはいけないぞ……」

ここに挙げた小川さんの言葉の数々は、いずれもアルファポリスのサイトで今でも見ることのできる、いわば「小川監督語録」の一部である。改めて振り返ってみると、小川さんがどのように選手たちを見ていて、どんな考えの下に若手選手たちと接してきたのかが透けて見えてくる。「対話重視」――それが、小川流の指導法なのである。

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今季限りで退任した小川淳司監督 ©文藝春秋

心がけていたのは、「直接、本人に言う」ということ

小川淳司監督が今シーズン限りでユニフォームを脱ぐことになった。17年オフ、二度目の監督に就任してから2シーズン目を終え、今季限りでチームを去ることが決まった。昨年は2位に浮上したものの、今季はセ・リーグワーストタイ記録となる16連敗を記録するなど、いいところのないまま最下位に沈んだ責任を取ることとなったのだ。

監督就任が決まってすぐ、「小川監督のインタビュー連載を始めます」と編集者から連絡があった。17年シーズンに真中満前監督のインタビュー連載を行っていたのだが、そのスタッフがそのまま「小川監督連載」に移行することとなった。ここで行われたインタビューは、18年は「小川流2018燕改革!」、19年は「小川ヤクルト躍進へのマネジメント」と銘打たれ、アルファポリスのサイトで定期的に掲載されることになった。

僕はインタビュアーとして毎月神宮球場に行き、定期的に小川監督に話を聞いた。ペナントレースと同時進行であるため、臨場感あふれる話題が展開される一方、シーズン中であるからこそ、「これは伏せておいてほしい」と要望されることもあった。話を聞いていて、いつも感じていたのは、「この記事を選手が読んだらどう思うだろうか?」という視点が小川さんには常にあったということだった。たとえば、こんな発言を残している。

「マスコミを使って選手に意思表示をすること? そんなことは考えたこともありません。僕自身が現役時代にマスコミを通じたコメントを読んで、その発言を気にして、その後に悪い影響が出てしまうタイプだったので(笑)。だから、僕の場合は基本的には“直接、本人に言う”ということを大切にしています。ただ、“どのタイミングで、どのような言葉をかけるか?”ということはすごく悩みます。その選手の性格やタイプによっても違うし、みんなが見ている場面で伝えるのはよくないと思うで、そのタイミングを計ることもいろいろ考えます」

今シーズン、一番・坂口智隆を故障で欠き、「一番を誰にするのか?」で頭を悩ませていた時期があった。首脳陣の間では「一番は山田哲人に任せよう」という思いがあったという。しかし、三番打者に定着し、本人の中でも「三番が適役だ」という思いがあることが感じられたからこそ、小川監督は山田に直々に「すまないが一番を打ってくれ」と頭を下げたという。もちろん、山田自身も「わかりました」と快諾し、事なきを得た。

――監督権限で、「今日からお前が一番だ。頼んだぞ」と言うようなことはしないのですか?

僕の質問に対して、小川さんはキッパリと言い切った。

「僕の場合はまったくないです。たとえば、野村さんのような偉大な監督であれば、“お前、今日は一番な”って言えるのかもしれないですけど、僕の場合はそうすることによって、選手が不信感を抱いたり、不満を抱いたりするようなマイナス要素を少しでも排除して試合に臨んでもらいたいと考えるタイプですから。不満を抱えながらプレーしても、決して結果は出ないと考えています」

常に気遣いの人だった。

負けて勝つ、そんな戦いもあるのではないか?

2年間の連載において、一番話題に出たのは廣岡大志だったように思う。取材ノートを見返してみても、廣岡に関する話題、発言がよく目立つ。たとえば、今年4月17日の対阪神戦。同点で迎えた9回、チャンスの場面でスクイズのサインを出したものの、廣岡は空振り。チャンスは潰えてしまった。そして19日に、廣岡はファーム行きを命じられている。

「もちろん、スクイズを失敗したから二軍降格を命じたわけではありません。彼の場合は一軍で出たり出なかったりするよりは、きちんとファームで調整した方がいいだろうという判断です。そもそも、あのスクイズは廣岡の責任ではなく、サインを出した僕の責任ですから。廣岡は自分のすべきことをしただけです。必死になってボールに食らいついた。でも、結果的に空振りとなった。これは結果であって、彼の責任ではない。空振りというリスクを覚悟した上でサインを出して、結果が出なかった。それも含めて、監督の責任です」

二軍降格を決めた際も、自ら本人に告げた。そのときにも、やはり言葉をかけている。

「廣岡には、“スクイズのサインを出して悪かったな”っていうことと、“お前を信用してあげられなくてすまなかった”と言いました。やっぱり、過去を引きずるのではなく、新しい気持ちで新しい試合に臨んでほしいというのが、監督としての率直な思いですから」

この発言を聞きながら、僕は考えていた。「もしも、僕が小川さんの立場なら?」ということと、「もしも、自分が廣岡の立場なら?」ということを。もしも、僕が小川監督の立場なら、少なくとも謝罪はしないだろう。自分ならば、「ファームでしっかり技術を磨き直して、もう一度上に上がってこい」と激励するのではないか? バント失敗はやはり廣岡のミスだ。後に映像で見てもバットに当てられないボールではなかった。僕ならば、ついそう考えてしまったことだろう。

一方、もしも廣岡の立場でこんな言葉をかけられたら、僕ならばどう感じるだろう。サインを出したのは確かに監督だけれど、バントを空振りしたのは紛れもなく自分のミスだ。それなのに、自分の目の前で監督が頭を下げている。ならば、「監督に頭を下げさせてしまった」という思いをエネルギーに変えて、さらなる努力をするのではないか?

このシーンこそ、小川監督の小川監督たるゆえんなのだと、僕は思う。優しすぎる監督。以前、本人が自身の性格を踏まえて、「勝負事には向かないのかもしれない」と自嘲気味に言ったことがある。確かに今季は最下位だった。勝負事は勝たねばならない。でも、負けて勝つ。そんな戦いもあるのではないか? いや、あってほしい。甘すぎる考えであることは重々承知の上で、そう思いたい自分がいる。そう思わせる監督がいた。ときには、負けて勝つこともある。来年の廣岡には、ぜひそれを結果で証明してもらいたい。それが、廣岡にできる恩師への恩返しとなるからだ。

◆ ◆ ◆

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(長谷川 晶一)

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