コスト競争時代に突入した「宇宙ロケットビジネス」のこれから

コスト競争時代に突入した「宇宙ロケットビジネス」のこれから

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2019/06/25
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世界で一斉に民間ロケットが飛び始めた

ここ数ヶ月で、ロケットにまつわるニュースが相次いだ。日本では、北海道大樹町のロケット・ベンチャーで、堀江貴文氏が出資するインターステラテクノロジズが5月4日に小型ロケット「MOMO(モモ)」3号機を発射。高度113.4kmの宇宙空間に飛ばすことに成功し、日本の民間ロケット宇宙到達第1号となったことが話題を呼んだ。

一方で、ロケット・ベンチャーとして世界的に注目されるイーロン・マスク氏率いる米スペースXが初の宇宙軌道到達を実現したのは、それより11年も早い2008年。さらにスペースXは2019年5月23日、通信衛星を60基も載せた「ファルコン9」を、アメリカのケープ・カナベラル空軍基地から打ち上げ、成功させた。

他方、アマゾン創業者ジェフ・ベゾス氏が率いるブルー・オリジンは、今後5年以内に月に居住ベースを確立するという大胆な構想を披露している。

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宇宙にはロマンが溢れている。子供の頃、宇宙というテーマでワクワクした思い出を多くの人がもっているだろう。しかし、宇宙ビジネスの当事者にとって宇宙は、費用や競争との熾烈な戦いの市場である。

そもそもロケットは、なぜ打ち上げられているのだろうか。答えはシンプルで、ロケットは「モノ」を宇宙空間に運ぶために打ち上げられている。アポロ計画が展開されていた1960年代には「ヒト」を運んでいたが、最近は「モノ」を打ち上げることが中心となっている。

ロケットビジネスのメインは「人工衛星輸送」

では、現在打ち上げている「モノ」は何かと言うと、第一に、人工衛星だ。人工衛星は、かつては研究者が打ち上げる学術的な観測衛星が中心だったが、今や通信衛星、気象衛星、地球観測衛星等、ビジネス目的で打ち上げられているものが多数を占めるようになった。

私たちの生活でも、衛星放送のBSやCS、スマートフォンや自動車のGPS、ウェザーニュースの天気予報、また最近便利になった航空機内でのWi-Fiなども通信衛星が用いられており、生活に非常に密接なものとなっている。

現在、約8000の人工衛星が現役で機能しており、今後5年間で新たに2,800の人工衛星が打ち上げられると予想されている。

そして第二の荷物は、今後増えていくことが確実な、月面探査機の打ち上げだ。私がインタビューを受けた嶺竜一氏の記事「1リットル1億円…!「月の水」発掘ビジネスに乗り遅れる日本」に詳しく書かれている。

今年は月開発元年と言えるほど、いよいよ世界中で一気に、民間企業による月面調査が本格化し、今後は民間ロケット会社による民間ローバー(月面探査機)の打ち上げが当たり前になってくる。

さらにその先には宇宙旅行、そして宇宙に人々が居住する時代がやってくると、スペース・コロニー(宇宙空間に作られた人工の居住地)の資材をはじめ、物資や食料、人の輸送が、ロケットビジネスの対象になってくる。

宇宙ロケットを、ロマンではなく、ビジネスという視点で見てみると、いろいろなことが見えてくる。

現在ロケット事業者にとって、主な顧客は人工衛星事業者だ。宇宙空間にロケットでモノを運んでもらう代金は、俗に「1kg、1億円」と言われてきたほど高価。どれだけ性能の良いロケットを打ち上げる技術があっても、コスト競争に勝てなければ、顧客に支持されず売上が立たない。最終的には倒産してしまう。

そのため、ロケット事業者には、製品戦略、コスト戦略、アライアンス等の判断が求められている。打ち上げに失敗すれば、ロケット生産にかかった費用とともに、クライアントが積荷に費やした資金と汗と努力も失われてしまう。

もちろん、ロケット生産は莫大な費用がかかるため、背後には資金の出し手となる投資家がいる。だから、ロケット事業者は、当然投資家からのプレッシャーも受けている。

ロケット運送事業でリードする「スペースX」

冒頭で紹介したロケット事業者たちも、当然それぞれ戦略を定め事業を進めている。今や知名度バツグンのスペースXは、2002年に創業した。

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通信衛星を60基も載せた「ファルコン9」

低軌道(高度2,000km以下の地球周回軌道。国際宇宙ステーションなどはこの軌道に存在する)に衛星を飛ばすために最適化し、徹底的にコストを切り詰めた「ファルコン1」は2008年に初の打ち上げに成功した。

ロケットビジネスでは積荷の積載量のことを「ペイロード」と呼ぶが、ファルコン1のペイロードは670kg。堀江貴文氏が出資するインターステラテクノロジズの「MOMO3号機」のペイロードが20kgなのに比べると、約38倍の積荷が運べ、大型ロケットに位置づけられる。

コスト面でもファルコン1は抜群に強かった。「MOMO3号機」の打ち上げコストが1億円を超えると言われる中、ファルコン1の打ち上げ費用は670万米ドル(約7.4億円)。

ファルコン1の方が7倍高いが、ペイロード1kg当たりに換算すると、MOMO3号機が1kg当たり500万円と比較的安価に抑えられている中、ファルコン1は1kg当たり1万米ドル(約110万円)と破格の価格だ。

ファルコン1のコスト削減の秘訣は、第1段ロケットをパラシュートを使って海上で回収し、再利用できるようにしたことにある。ロケットの世界でも、リサイクルや再利用がコスト削減に貢献している。

さらにスペースXが2010年から打ち上げている第2世代型の「ファルコン9」は、ペイロードが22,800kgでファルコン1の34 倍という超大型ロケットだ。それなのに打ち上げコストを6,200万米ドル(約68億円)に抑えている。1kg当たりのコストでは、2,700米ドル(約30万円)と驚異的なコスト競争力を誇る。

さらにスペースXは2018年2月、そのファルコン9を3機束ねて統合させた「ファルコンヘビー」の打ち上げにも成功した。ファルコンヘビーの第1段ロケットは、ロケットを逆噴射して地上に戻ってくるSFさながらの機能を備えていることでも有名だ。

ペイロードは63,800kgという超重量級でありながらも、打ち上げ費用はファルコン9の1.4倍強の9,000万米ドル(約99億円)にまで抑えることができ、1kg当たりのコストは1,400米ドル(約15.4万円)にまで下げることを可能にした。

また超大型ロケットのため、理論上、火星にもペイロードを届けることができるという。

ファルコンヘビーは2019年4月に、初の商業飛行にも成功。サウジアラビアの通信衛星「アラブサット6A」を低軌道よりも距離が離れている静止軌道(自身の公転周期=母性の自転周期で、赤道上の高度35,786キロメートルの円軌道。見かけ上は赤道上に静止する)と同期した軌道上に乗せた。

そして、同5月23日には、同社最大のペイロードとなるインターネット通信衛星60基を載せたファルコン9の打ち上げにも成功した。スペースXは今後も毎年1,000基から2,000基の衛星を打ち上げ、最終的には12,000基からなるインターネット通信網を築く「スターリンク計画」を描いている。

Amazon創業者の壮大な計画

ロケット・ビジネスと言えば、アマゾン創業者ジェフ・ベゾス氏の率いるブルーオリジンの名前を聞いたことがある人もいるだろう。

ブルーオリジンの事業戦略は、他社と一線を画しており、最初から「ヒト」を運ぶ有人宇宙飛行を狙っている。設立は2000年とスペースX社よりも2年早い。今や5拠点、従業員2,000人規模の大企業となり、ベゾス氏が年間10億ドルもの投資を行い、潤沢な予算によってその勢いは止まるところを知らない。

ブルーオリジンは、準軌道(宇宙空間に到達し無重力を体験することもでき、円周軌道に乗らずに地表に戻ってくる軌道)行きの短距離ロケット「ニューシェパード」と、長距離用の大型ロケット「ニューグレン」の2種類を、同時並行で開発中だ。ニューシェパードはすでに何度も打ち上げを成功させており、今後ニューグレンの打ち上げにも期待が集まっている。

また、ジェフ・ベゾス氏は2019年5月9日、ワシントンで開かれたイベントで、新たに無人月着陸船「ブルームーン」の実物大モデルを発表した。ブルームーンは2階立てで、小型探査車を最大4機まで積み、月軌道への衛星の発射が可能となる。さらに2024年までに月への有人飛行を実現させると発表した。

宇宙大国のアメリカでは、マイク・ペンス副大統領がNASAに対し、今後5年以内に月軌道に宇宙ステーションを設立し、アメリカ人宇宙飛行士を再び月に着陸させることを要請しているが、ジェフ・ベゾス氏は「我々は3年前からその準備をしている」と、NASAを追い越す勢いだ。

同じ会場でベゾス氏は、将来的にスペース・コロニーの実現も目指すとも息巻いた。オニール・コロニーと呼ばれる技術では、相互に逆回転する2つのシリンダーが人工重力を生み出し、人類の居住、植生が可能になるという。ベゾス氏は2年前にアマゾン株を売却した10億ドル以上の資金を、2020年からついに有人飛行テストに投下する計画だ。

有人飛行では、スペースXも負けていない。ZOZOの前澤友作社長が搭乗予約したことで話題となった有人旅行宇宙船「スターシップ」は、かつてのスペースシャトルのように、何度でも再利用できるロケットだ。

2019年4月3日にテスト用の「スターホッパー」が約1分間のテスト飛行に成功。今年中に高度飛行や高速飛行のテストを繰り返し、実現への駒をさらに進める予定。マスク氏は、完成形の「スターシップ」で、月や火星に人を送ることを目標としている。

ついに飛んだ、ホリエモンロケットの戦略は?

これに対し、堀江氏のインターステラテクノロジズは、無人小型ロケット市場での地位確立を目指す戦略。そのため、100kgまでのペイロードを低軌道に運ぶための「ZERO」の開発を目下進めている。スペースXが再利用できる大型機でコスト削減を追求するのに対し、徹底的に安価で小型な使い捨てロケットを追求する戦い方だ。

また小型ロケットは燃料積載が少なく長距離は飛べないため、インターステラテクノロジズは準軌道や低軌道までの範囲のみを狙うとしている。ペイロードは、今後打ち上げが急増するとみられている超小型衛星だ。

中国、インドにも遅れをとる日本のロケット産業

現在、ロケットを宇宙に飛ばした実績のある現役企業は世界で10社弱。その大半が小型ロケット・プレーヤーで、現在ロケットを開発中の企業も合わせると、この領域はレッド・オーシャンとなり、コスト競争が激しくなることが予想できる。

実際、SpaceWorks Enterprises社が発表している超小型衛星専用ロケット企業(通称マイクロ・ローンチャー)の実力ランキング2019を見ると、上位はアメリカ、イギリス、中国、インドが独占しており、日本はかなり遅れをとっている。

ランキング1位の米エレクトロンは多種に渡る商用ロケット打ち上げに成功してきており、1億4,000万ドルの資金調達にも成功した。

3位と4位は中国企業で、3位の中国快舟1Aは2014年に人工衛星の軌道投入を成し遂げた。だがアメリカ政府は国際武器取引規則(ITAR)に基づき米国製衛星または米国製部品使用の衛星を中国に輸出することを禁じており、中国のロケットは米国衛星を顧客にすることができない。

他にもランキング5位で元スペースXのエンジニア、ジム・カントレルCEOが設立した米国企業Vector-Rは、ペイロードが28kgと、インターステラテクノロジズのZEROの100kgよりはるかに小さいが、実験・開発目的の衛星を顧客ターゲットとし、ニッチ市場を狙う戦略。

これ以外にも、日本のJAXAや欧州のESA等が打ち上げる官製ロケットもあるが、ペイロード側からすれば打ち上げられさえすれば、官製でも民間でも関係ない。ロケット市場は、すでに激しい国際競争が巻き起こっている。

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